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姫崎さんはさらわれたくない!

作者: 万十朗

 春は出会いの季節。

 桜舞う学び舎に、風が新鮮なときめきを運ぶ……なんて、ガラにもなく少し浮ついていた理由は、今日からうちのクラスにひとり、女の子が転入してくるという噂を耳にしたからだ。


「えー、今日からこのクラスの仲間になるー……」


 しかし、先生の言葉が途中から耳に入らなくなった。


 何故なら目の前に現れた少女は……


「……気軽に羅王美(ラオミ)と呼んでくださいまし」


 真新しい制服がパッツンパッツンに弾けそうな立派な肩や腕。

 俺みたいなヒョロい男子なんて指先ひとつでダウンできそうな、世紀末で伝説とか遺してそうな……


 ていうかなんだよラオミって!?


「席は吉田の隣が空いてるな」

「よろしくお願いいたします」


 あ、こっち来た。終わった。


「よ、よろしく」

「……貴方は」

「え?」


 小首を傾げる仕草と共に、艷やかな長い黒髪がサラリと垂れる。

 よく見ればぷっくりした唇といい、ほんのり香るいいにおいといい、身嗜みにとても気を使っているようだ。


「吉田様……貴方の前世はもしや、勇者様……?」

「はい?」


 あれ、今ちょっとまた思考がどっかに飛んでたか?


 このひと前世とか勇者とか言った?


「ずっと探しておりました、勇者様……」

「いやいやいや勇者とか何言ってんの。じゃあラオミちゃんは魔王の生まれ変わりとか言わないよね?」

「そんな、まさか!」


 まあ、魔王とか言うなら勇者に様はつけないか……なんて思った矢先。


「わたくしの前世は……その魔王にさらわれた姫でございます」

「ひ……め?」


 ラオミちゃんが投下した爆弾によって、本日何度目の思考家出タイムとなった。


「ああ、このような姿では信じてはもらえませぬね。わたくしは魔王に呆気なく連れ去られ、勇者様の助けを待つだけとなった情けない己を恥じて、来世こそは強く逞しく美しい乙女であろうと誓ったのです」

「なん……だと……」


 転生の仕方が斜め上すぎません?


「ああ、それと吉田様。わたくしと貴方のこれまでの会話は全てテレパシーとなっております。前世での繋がりが深い者同士、心が繋がっているのですよ」


 な、なんだってー!?


 言われてみれば目を伏せて僅かに頬を赤らめるラオミちゃんがちょっと可愛く見える……ような気がする!


 い、いや、信じないぞ、俺は!


「こーら吉田、転入初日の姫崎さんをあんまじろじろ見つめんな。好みのタイプだったかー?」

「んなっ……!」


 まるでお決まりのような先生の言葉に、どっとわく教室内。

 くそう定番の流れにしやがって!


「ていうか姫崎さんっていうんだ……」

「姫ですゆえ」


 じゃあここでもうひとつ定番を。


 俺の学園生活、一体これからどうなっちゃうのー!?




『姫崎さんはさらわれたくない!』


 おしまい。

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