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降り注ぐ火炎! 突然出てくる魔術の階位設定はここだけ?!

 ジャルヴェ・リング。

 空に打ち上げた火炎に、落下の勢いを追加して攻撃する第三階位の火炎魔術。

 第三階位は個人が使用しうる最高階位だ。

 標的の魔力を自動追尾する術式を組み込んであるため、巨大な火炎を上空に打ち上げた後は、魔術師が自由に動けるという特徴がある。


 僕は空に浮かぶ魔術の脅威を、瞬時に悟った。

 第三階位なんて王国でも数人しか使い手がいない高等魔術だ。

 否定したい。

 しかし、巨大な炎の輪を上空に打ち上げるという予備動作がある魔術は他には無い。


「空に火の輪? まさか!」


 上空に浮かんだ炎の輪が弾け、火球となって地上へ降下し始める。


「サラさん! ヴォルフさん! 伏せて!」


 空の異変に気づいたサラさんが、ヴォルフさんに飛びついた。

 サラさんは押し倒すつもりだったのだろうが、体格差がありすぎて、ヴォルフさんは微動だにしていない。

 ヴォルフさんは上空から落下してきている魔術攻撃に気づいていないのだ。


「ヴォルフさん、足腰強すぎですよ!」


 サラさんが抱きついている腰の上から、僕もヴォルフさんの胴体に飛びかかった。

 ふたりの勢いが勝ったのか、ヴォルフさんが事態に気づいたのか、ようやく巨体が倒れた。

 直後に、三人の周囲に火球が次々と落下してくる。


「うわっ。なんだ。いったい何事だ。まるで戦争ではないか」


 周囲で爆発が相次ぐ様に、ヴォルフさんは大砲の直撃を思ったのだろう。

 爆風とともに、砕けた岩や土砂が飛んでくる。


「今のはジャルヴェ・リングです。近代魔術研究が生み出した攻城魔術です」


「ふたりとも私の下から出るなよ。大きくて頑丈な身体が役に立つようだな」


 ヴォルフさんが僕とサラさんの上にきて、暴風から護る盾になってくれた。

 力強い言葉だったが、ヴォルフさんは目を閉じ震えている。

 モンスターを平然と触ろうとしていた剛胆な男でも、周囲の爆音はさすがに怖いらしい。


「特に注意を払っていませんでしたが、我々が一角狼と戦っているとき、

 後方二キロメールトの街道上にキラキラな馬車がいました。

 魔術は射程範囲なんでしょうか?」


「サラさん、そいつで確定です。

 ジャルヴェ・リングの最大射程は二.五キロメールトです。

 事前に目標を補足するための探査魔術を使っていたはずです。

 気づけなくてすみません」


「ああ。最初の微弱な魔力で、我々をパッキリ捕捉していたのですか。

 なるほど。次からは気をつけますよ。魔術師ギルドですかね?

 いつの間にか新しい魔術を開発しているんですねえ」


 火炎弾の落下は止み、周囲には噴煙を残すのみとなった。


「むう……爆発は収まったが、モクモクのせいで何も見えないな」


「どうやら狙いは僕たちじゃなかったみたいですね。

 ヴォルフさん、退いてください。視界を確保します」


 僕はヴォルフさんの下から這い出ると、立ち上がって風の魔術を使用した。

 僕が使えるのは第八階位の非常に弱い魔法のみ。

 日常生活で暑い日にちょっと便利程度の威力だ。

 しかし、僕を中心にして生まれたそよ風が、周囲に巻き上がっていた砂埃を吹き飛ばしていく。

 周囲の九ヶ所にクレーターが出来ていた。


「周りが濡れている……。

 もしかしてサラさん水遁の術でも使ってくれました?」


「いいえ、これは水を出す呪術です」


「あ、そう。呪いでどうやって水を出すんでしょう」


「呪われた女神が悲しみの涙を零すのではないでしょうか」


「水遁の術のくせに……」


 地面がこげているのを見る限り、水の防御が無かったら僕達三人は大やけどを負っていた可能性がある。


「好意的に解釈するのなら、我々がモンスターを早く倒してしまったので、

 助けようとしてくれた魔術が、遅れてズドンしたということですかねえ?」


 サラさんが周囲を見渡しながら、不機嫌そうに眉をひそめた。

 魔術の炸裂した場所は確かに、モンスターが倒れていた場所だ。

 モンスターの魔力を正確にとらえて誘導術式を組み込んだのだから、術者は相当の力量だろう。


「アルネよ、馬車の連中の仕業だとしたら、どうするのだ?」


「私は戦うことに一票を入れます。

 ベロベロ舐めたことをしてくれた連中に、お仕置きしましょう。

 誰に喧嘩を売ったのか、泣いて謝るまで教えてやりますよ」


「いや、駄目です。無視して先を急ぎましょう。

 僕たちに気づいていなかったとは考えにくいけど、

 あくまでもモンスターを狙った攻撃でした。

 それに第三階位の魔法が使える魔術師がいるんだから、おそらく、

 AランクやBランクの冒険者達ですよ。相手は遥かに格上です」


「そうですかねえ。私やヴォルフさんより強いんですかあ?」


 確かに、サラさんやヴォルフさんはギルドに登録した直後だからFランクだけど、どう考えてもDランク以上の実力だ。

 一角狼の群を瞬殺した実力を見る限り、サラさんはCランクや、さらに上の可能性もある。


「この、ビビリ勇者がッ!」


「人の耳元にわざわざ近寄って言うことじゃないですよね?!」


「ふんだっ、女の子が近寄ってきて嬉しくない男の子なんて、いないんだぞっ!」


「なんですか、それ。先を行きましょう。

 王女の救出も、魔法復活の阻止も、早い者勝ちです。

 殺さなければ、他の冒険者への妨害ありなんですよ。

 王様が、切磋琢磨して実力を伸ばせって、妨害を推奨しているんですよ」


 僕は先に進むつもりだった。だが、ふたりは歩く様子がない。


「アルネよ。国王の言葉に従うなら、

 我々が、アイツらを妨害するのも、正当な行為ではないのか?」


「相手は馬車。我々はトボトボ徒歩。

 街道は一本道だから、すぐに追いつかれますよ。

 それとも、メソメソと道を譲って、草原を行きますか?」


「むう。道の外をこそこそ歩くのは、情けない気がするな」


「……分かりましたよ。

 馬車の連中に一言、文句を言ってやれば良いんでしょ」


「それでこそ勇者です」


「うむ。格好良いぞ、アルネ」


「いきなり攻撃魔術を叩き込んでくれた相手に、僕だって少しはムカついていますからね。

 あと、僕は勇者ではなく軽戦士です」


 クラスは自己申告だから別に勇者を名乗ってもいいんだけど、柄ではない。


 僕は汚れた服から埃を払い、爆発で紛失してしまった荷袋の中身を揃えるために、孤児院がどれだけ節約をしたのか計算しながら馬車を待った。


(シェリーを助けるためにみんなが用意してくれたお金で買ったのに……)


 確かに、これは、文句を言わなければならない。

 

 けど、この時の僕は、相手がまさか、王国最強のパーティーだとは思いもしないのだった……。

 

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