―魅惑のコろコろ―
「ジョンタロウ、お散歩行こっか」
僕がカリカリごはんを食べ終わるのを待って、ご主人様が笑った。
「わぅん!――タロウじゃないけど行くよ!」
美味しいカリカリの後は、楽しいお散歩。
僕の白いふわふわ尻尾も自然と揺れる。
赤い首輪の僕にリードを付けたご主人様は、低い植垣が続く遊歩道をゆっくりとした歩調で進む。
遊びたくて、走りたくて先走る僕を怒ることも引っ張ることもしないで、ゆらり、ゆらりと歩く。
チチチ、ピチチ。チュチュン、ピチュ。
低い植垣の中。小さな鳴き声が聴こえる。――!! 楽しいヤツらだ!
小さくて、ちょんちょん歩いて、可愛い。
「中にスズメが居るね」
小鳥たちを驚かさないように、ご主人様は視線だけを植垣に向けて微笑んだ。
でもね、ご主人様。あいつら最近、僕たちにちっとも驚かないんだよ。それどころか、餌を食べるのに必死で、側を歩いていても逃げもしないんだ。
完全に甘く見られてるんだよ。
――チチチ。
ごはんに夢中になって、ふわりと3羽のスズメが植垣から出て来た。
ほらね、ご主人様。犬の僕にさえ警戒もしてないよ。
「????」
こいつたち、なんだか丸くなってない??
つい先週まではカリカリで、食っても美味くなさそうな姿だったのに。
「ふふふ、春先だもんねぇコロコロになってる。可愛いね? ジョンタロウ」
“可愛い”? コレが?? コレは“美味そう”なんじゃないかな? ご主人様。
そう思った時には。
構え、ヨシ。
姿勢を低くした僕に気付いたご主人様が、クイっとリードを引っ張った。
「ダメだよ。ジョンタロウ」
え?……ダメ? でも、僕のカウントダウンは止まらない。
――さん。
――にぃ。
――いちっ!
「待てっ!!」
――待て――?! 何で――?! ココは「ヨシ!」じゃない――?!
その瞬間に、ころころとした小雀たちが一斉に植垣へとかくれんぼ。
あぁあ――。
がっくりする僕に、ご主人様は再び「ふふ」っと微笑んで、大好きな優しい手でわふわふと額から耳先へと何度も撫でてくれた。
「ジョンタロウ、エライね」
そうして僕を分かって受け止めてくれる優しさに、僕は嬉しくなるんだ。
――だから、ねぇご主人様。ずっと傍に居るよ。
姿形が無くなっても、ずっと傍に居る――。