07「ようこそ、ギルドへ」
がやがやと声の飛び交う店内。
目の前にはとてもいい匂いのする美味しそうな料理が並べられている。
「食べていい?」
「どうぞ」
「いただきますっ!」
まずは目の前にあるお肉料理から。
私には見た目だけじゃ、なんのお肉なのかはじゃさっぱりわからないけど、この店内の灯りに照らされて輝く肉汁…美味しいに違いない。
一口、口に入れ、すぐに一口、またすぐに一口…と次々に口の中へと入れる。
何これ美味しい…!!
回復ボトルには味がなかった為、料理はどんなものかと思っていたが、ちゃんと味があり、見た目通りとても美味しい。
「マヤは食べないの?」
「俺はこれで十分」
そう言って、樽型のジョッキを掲げる。
ファンタジーものでよく見るお酒の入っているジョッキだ。
「そういえばマヤっていくつなの?」
「19」
「19!?駄目だよ未成年がお酒なんて飲んじゃ!!捕まるよ!?」
「誰が未成年だ。19って言ってんだろ」
どうやら、この世界では20歳からではなく、18歳から成人らしい。
現実と違うことが多々あってこの環境に慣れるのが大変だ。
「ずっと思ってたけど、お前ってなんか常識ねぇよな。あんな森で村人が一人で何やってたんだよ」
「何ってマヤと同じで魔王討伐の旅だよ」
マヤは口につけようとしたジョッキを少し下に下げ、固まる。
「…今、なんて?」
「だから魔王を倒すための旅」
そう答えた瞬間、ジョッキを机の上に戻し、私の頬をつねる。
「おいおいおい。まじで言ってんのかこの口は。村人な上に能力値はくそ、魔物やモンスターすら倒すどころかまともに戦えねぇ。そのくせに魔王討伐?お前、魔王なめてんのか」
「ひたいひたいひたい!」
言い終わると、私の頬は解放された。
ひりひりする…痛い……。
そんなに言わなくてもいいじゃない。
私だって好きで村人になったわけではない。
勝手に、強制的に村人になっていたんだ。
能力値が低すぎるのも、勝手に決まっていたんだ。
そもそも魔王討伐なんてしたくてしているわけではない。
入れ替わってしまって、手かがりがなく、仕方なくストーリーを進めるためにやっているだけ。
「…私なんてどうせ能力値なんてくそだし」
「……………」
「まともにモンスターとも戦えないし」
「…………」
「おまけにただの村人だし」
「……っ…」
「こんなく」
「あーっ!悪かった!俺が言いすぎた!ほっほら、転職すれば今より能力値もあがるし、あとは鍛えればいいだけだ。な?」
「てん…しょく…?」
「そう、転職。明日ギルドに連れて行ってやるから。とりあえずその顔はやめて飯を食え。ほらほら」
お皿をぐいぐい私の方へと寄せる。
転職…ギルド…できる……。
ギルドに行けば転職ができる…。
転職すれば村人じゃなくなり、能力値も上がる。
そうだ。転職をしにギルドへ行こう。
* * * * * *
次の日の朝。
マヤは約束通り、ギルドへと連れて行ってくれた。
ギルドの中に入ると、体の大きな人から小さな人。
マヤよりも耳が大きく、尖っている人や頭から角や耳が生えている人。
派手な人や怪しい人、強そうな人やthe一般人という感じの人や…とにかく様々なたくさんの人がいた。
受付のカウンターのような所へ行くと、お姉さんが優しい笑顔を見せてくれる。
「ようこそ、ギルドへ。クエストの依頼ですか?それとも受けられますか?」
「いえ。あの…転職ってできますか?」
「転職ですね。可能ですよ。では、メニューカードを少しお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
メニューカードを渡すと、お姉さんは小さな機械にかざす。
ピッという音が鳴ると、薄いモニターのようなものがキーボードの上に表示され、お姉さんはそこに目を向けていた。
「初めてのご利用のようですね。どの職業にお就きになるかはお決まりでしょうか?」
「いえ、まだです」
「かしこまりました。それではまずは、冒険業か職人業、どちらを希望されますか?」
職業は『冒険業』と『職人業』の2つに大きく分けられているらしい。
冒険業は剣士や魔法使い、武闘家などの主にモンスターを倒したり、クエストという人々の依頼を受けたり、その名の通り冒険をして生計を立てる職種。
一方、職人業は鍛冶屋や商人などで、云わば冒険業の人々のサポートとして、生計を立てる職種。
ちなみに、村人は一応、職人業の分類だそうだ。
私は魔王を討伐するのが目的なのだから、勿論、選ぶのは冒険業だ。
「冒険業ですとスカーレでは、剣士、魔法使い、弓使い、銃士、踊り子が転職可能となっております。ちなみに踊り子は職人業としても活躍できますよ」
そして街のギルドによって、転職できる職種が異なる。
ここ『スカーレ』の街では冒険業だと、剣士、魔法使い、弓使い、銃士、踊り子の中から選べるようだ。
この中から選ぶとなると、魔法使いがいいかな。
前衛ではないし、なにより魔法を使ってみたい。
あ、でもアリシアは剣を使って戦うんだよね。
となると、剣士になったほうがいいのかな…あぁっでも、魔法を使ってみたい気持ちが大きい。
魔法を使えるなんてことは現実世界では絶対にできないものだ。
「決まったのか?」
「ううん。剣士か魔法使いで悩んでるの」
「剣士にしとけ。仲間ができるまで一人なんだから魔法使いなんてお前にはきついだろ」
そっか…。
マヤは今仕方なくの流れで付き合ってくれているだけで、ずっと一緒にいてくれる仲間になったわけじゃないんだ。
魔法を使いたいのは山々だけど、ここはマヤの言う通り、剣士にしておこう。
「剣士でお願いします」
「かしこまりました。では……っと、あなたは17歳のようですね。保護者の方はいらっしゃいますか?」
「え?」
どうやら転職するには、未成年である私は成人の保護者の許可と監督がいるらしい。
私の保護者……ゲームの外にいるんですけど。
「お前、17だったのかよ。親は?」
「いない」
かっこ、この世界には。
マヤはしばらく黙ると、頭を掻いて、溜め息をついた。
「しょうがねぇな…俺が保護者になってやる」
「えっいいの?」
「あぁ。もうここまで付き合ってやったからには転職する最後まで付き合ってやるよ」
「マヤ…!ありがとう!」
「では、保護者の方もメニューカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ……」
「…どうしたの?」
マヤはポケットに手を入れたまま、止まる。
お姉さんも私も首を傾げて、マヤを見た。
ポケットから手を出したが、メニューカードどころか何も握っていない。
「どうかされましたか?」
「…メニューカードを失くしたみたいだ。悪いな」
「えぇっ!?それじゃ私、転職できないってこと…」
「まぁ、あと1年待てばできるって」
そんな…。
折角、転職できるチャンスだったのに。
1年もゲームの中で待てるわけがない。
今すぐにでも転職して、強くなって、魔王を倒して、現実世界に戻る方法を見つけたいのに。
お姉さんは困った表情をしたあと、微笑んで手招きをした。
耳を傾けると、小さな声で話し出す。
「保護者の方は成人に見えますし、今回だけ特別にメニューカードなしで受付致しますね」
そして離れると、カチャカチャとキーボードに何かを打ち込み、私のメニューカードを返す。
「では、審査長に連絡をいれておきますので、お二人は街の門の前でお待ちください」
「は、はい!お姉さん、ありがとうございます!」
「いえいえ。審査に受かるように頑張ってくださいね。応援しています」
「はい!」
お姉さん、マジ女神。
……ん?待て。審査?
「早く行くぞ」
「あ、うん」
私とマヤは街の門へと向かった。
【酒場】
主に夕方~深夜にかけて営業をしている飲食店。
情報交換をするための交流の場としてよく利用される。
料金は割高だが、毎晩たくさんの人々で賑わう。
【スカーレ】
広い森を抜けた場所にあるヒルハ国内の街。
【ギルド】
規模は様々だが、各街や村に必ずある、なくてはならない施設。
クエストの依頼をしたり、またそれを受けたりすることができる。
転職の手続き等もここで行える。
受付は綺麗なお姉さんの確率が圧倒的に高い。