表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、主人公はじめました。  作者: れるの
4/18

03「入れ替わったことは絶対に秘密」




私はアリシアと中身だけが入れ替わっている。

つまり、ジャンプをして届いたのも、武器を軽々と持てるのも、もしかしてアリシアの身体だからだろうか。

そうなると、先程まで隠された特技だとか思って喜んでいたのがとても恥ずかしい。


「最後に鞄の中だ。硬めのカードのような物があるはずだから、それを想像しながら取り出してみるんだ」

「想像しながら…?」

「そうだ。想像しながらだ」


よく意味がわからないまま、とりあえず、想像しながら鞄の中に手を入れる。

小さめの鞄で手を入れればすぐに底に触れそうなのだが、全く触れない。

むしろ、どこまでも中に手を入れられそうだ。

隙間から覗くと、鞄の中は真っ暗で底なんてみえない。

今までゲームだからと突っ込まなかったが、主人公たちがたくさんアイテムを持てているのは、この四次元ポ●ットみたいな鞄のおかげなんだろうか。

そう思うと、底に手がつかないのも、主人公たちが手ぶらなくせにたくさんのアイテムを持って旅ができるのも、とても納得できる。


指を動かしていると、硬めのカードのような形をした物に触れた。

そして、それを取り出す。


「これは?」

「それはステータスやスキル、魔法、所持アイテム等その他諸々の詳細が記録されているメニューカードだ。カードの上で指をスライドすればカードに表示される項目も切り替わるぞ」

「あ、本当だ」


スマホみたい。

ゲームでメニューを開いた時に確認できる項目だからメニューカードっていうのかな。


まずはやはり一番気になる私のステータスからだ。

えーっと…


【名前】シノ

【職業】村人

【レベル】Lv.1

【HP】10/10

【МP】5/5

【能力値】

攻撃力:5 防御力:5 魔攻力:5 魔防力:5

体力:3 精神力:3 集中力:3 敏捷力:3 運:3

【装備品】

武器:護身用の剣 防具:なし

特殊装飾:なし


と事細かに私のステータスが記されていた。


名前…アリシアじゃなくて、ちゃんと「シノ」って私の名前なんだ。

一瞬、そのことに驚いたのだが、やはり驚くところはそこではない。

一番驚いたのは能力値の部分だ。

…低い。低すぎる。

レベル1の初期状態とはいえ、あまりにも低すぎないだろうか。


攻撃力5って、モンスター倒せる?日が暮れない?

防御力5って、防御できてる?瞬殺されない?


「もう私…駄目だ……」

「どれどれ?攻撃力5、防御力5…」

「えっ。アリシアも見えてるの?」

「あぁ。今、ステータスの画面が開いている。おそらく志乃が見ているからだろう」


どうやら私がこのメニューカードを見ると勝手にステータス画面が開くようだ。

そういえば、ステータス画面を開く時に、主人公のアリシアがカードを見る様子が一瞬映るもんなぁ。


「ふむ…おかしいな。こんなに低いものだったかな」

「いや、アリシアはもっとあった気がするよ。100以上は確実に」


それに比べて私は一桁。

HP・МPを除けば、基本能力値はオール5。

その他の能力値はオール3。

主人公と入れ替わったはずなのに、どうしてなんだ。


「あ…。わかったぞ、志乃。職業を見てみろ」

「職業……はっ!?村人!?」


えっ。え、何、村人って。

アリシアと入れ替わったんだから普通、姫とかじゃないの?

せめて勇者とか剣士とか魔法使いとかそんな王道職業じゃなくて村人?

通りでステータスが全体的にこんなにお粗末なわけだ。


っていうか村人って職業なの?あれ職業だったの?

だからたまにアイテムをくれたり、ストーリーのヒントをくれたりするわけ?


こんな状態でストーリーを進めるなんてあまりにも無謀だ。

一番初めに出会う低レベルなモンスターにさえ瞬殺されてしまいそうだ。


「どうして村人なの私…」

「んー…。志乃も記憶がリセットされていたこともあるから…もしかしたら色々なことにバグの影響が出ているのかもしれないな。名も私の名ではなく、志乃の名になっているし」

「くっ…」


もし私をゲームの世界に転移をさせた神様でもいるのであれば訴えたい。

バグってなんですか。酷過ぎやしませんか。


アリシアは私から離れ、暖炉の側へと行った。


「志乃。ここにある暖炉の裏を見てくれ。スイッチのようなものがないか?」

「えっ?あ、うん。ちょっと待って」


暖炉の裏…暖炉の裏……あった。

暖炉の裏にあった小さなスイッチを押すと、ゴゴゴゴゴッという音と共に、暖炉は横へとスライドした。

元々暖炉があった場所には地下へと続くであろう階段が現れた。

この階段を下りれば、アリシアの言っていた『秘密の地下通路』へと行くのであろう。


そして一瞬、私の脳裏を過ったあの映像はこの地下通路での出来事。

つまり、この地下通路へ行けばストーリーが進む。

アリシアが地下通路へ行くための場所を教えたということは、きっと進めということだ。


「あ、あの…アリシア?私、もう無理だと思うんだけど…」

「何がだ?」

「ストーリーを進めること。だって私、ただの村人だよ!?ステータスめちゃくちゃ低いんだよ!?それに戦い方だって全然わからないし!!」


そうだ。

職業が村人よりも、ステータスが低すぎることよりも大事なこと。

どうやってモンスターと戦えばいいのかがわからない。


今まではコントローラーを使って、指先だけで「キャラクターを動かして」戦っていたのだ。

それが今は「自分自身が生身の身体で動いて」戦わなければならない。


もう一度言おう。

私はただのゲーマーだ。ただの平凡な女子高校生だ。

運動神経が抜群で、事の状況に適応できる力があるわけでもない。


そんな私にどうしろと?


「志乃。心配するな、大丈夫だ。君になら出来る。私と数えきれないほどの回数と時間、共に旅をしてきたではないか」

「アリシア……」

「私は志乃を信じている。志乃は私が信じられないか?」

「ううん。信じられるよ」

「そうであればだいっ」

「でも!!それとこれとは話は全く別問題!!」


…ん?あれ?そもそもおかしくない?

今まで引き継ぎをして、能力値はともかく、武器とか所持金とかアイテムはほとんど万全な状態だったはずなんだけど?

確認したところ武器は初期、所持金は100(ギアル)(初期)、アイテムはHP小回復ボトルが2つとМP小回復ボトルが1つ(初期)。

全て初期状態である。


そういえば、『 New next adventure 』を押した後に引き継ぎ設定に入るわけだが、その操作をした記憶がない。

ということは引き継ぎなしのまま入れ替わったということだ。


チート能力もなし、スキルもなし、武器もなし、アイテムもなし。

唯一、幸福なことといえばアリシアの身体になれたことぐらいだ。可愛い。

だけど、それは戦闘には役に立たないわけで…。


無理だよ。無理ゲーだよ。酷過ぎるよ。


『志乃ー?起きてるのー?今日は休日じゃないから学校はあるわよー』


私が絶望に浸っていると、微かに声が聞こえてきた。

とても聞き覚えのある声だ。


「お母さんの声だ…」


朝からゲームをしているせいで、いつもこんな挨拶をするのはお母さんしかいない。


「志乃の母上か。どうやら私が聞いた音もゲーム内に届けられるようだな。どれ、挨拶をして来ようか」

「いってら…え、待って!!」

「ん?どうした?」


アリシアがお母さんに挨拶?

「私はアリーシャ・ファリッド・ヒルハ。君の娘の志乃はゲームの中にいて、私と入れ替わったのだ」

きっとアリシアはそうお母さんに挨拶をするだろう。大体想像がつく。

運が良ければ

「何バカなことを言ってんのよ。いいから早く学校に行きなさい」

と冗談と思われて済む。

だが、運が悪ければ

「ゲームのし過ぎで頭がおかしくなったの?ゲームは没収。病院に行きましょう」

となるだろう。


アリシアは真面目な性格だ。

そんな状況になっても

「いや、本当のことなんだ。信じてくれ」

と言うだろう。絶対。


そんなことを言い続けたらどうなる?

アリシアは病院送りで戻ってこれなくなる。

ゲームは没収され、私は一生このゲームの中に閉じ込められる。


そんな未来しか見えない。


「アリシア。1つお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「私とアリシアが入れ替わったことは絶対に秘密。だから、アリシアは私、志乃として振る舞ってほしい」


今回の不幸中の幸いは、中身だけの入れ替わりだったこと。

外見でバレる可能性はゼロ。

あとはアリシアの振る舞い次第だ。


「…ふむ。わかった。秘密は必ず守る。そして出来る限り志乃として振る舞うよう、努力しよう」

「ありがとう、アリシア!」

「ふふっ。志乃のためであれば私はなんでもするよ」

「アリシア…!」

「だから、志乃も私のために話を進めてくれるな?」

「えっ…」

「進めてくれるな?」

「うっ……」

「す、す、め、て、く、れ、る、な?」

「は…はい…頑張ります…」


言葉の圧と流れに上手く乗せられてしまった気がする。

まぁでもそうだよね…。

今はストーリーを進めること以外、元の世界に戻る手がかりも何もないんだし…。


「あ。私もアリシアとしてやったほうがいいのかな?」

「うーん……いや、君は志乃のままで大丈夫だろう。私は姫とバレぬようにしていたわけだ。だから志乃の方が都合が良いだろう」

「そっか」

「それに目的は話を進め、魔王を倒すことだ。君が魔王を倒しさえすれば問題はなかろう」


私が魔王を倒す、か。

魔王…魔王ねぇ……。

今まで99回倒したはずの相手なのだが全く姿かたちも思い出せない。不思議なものだ。


「では、私は先程、母上の言っていた学校に行ってこよう」

「へ?」

「任せておけ。私のいた世界でも学校はあったからな。私は行ったことはないが、仕組みは理解している」


学校をずっと休むわけにはいかないし、っていうかずっとは休めないし。

アリシアが代わりに学校に行くことになるのは流れからして妥当だ。

…でも、不安しかない。


「あの、アリシア…本当に大丈夫?」

「あぁ。勿論、大丈夫だ。まずは…学校用の制服を着るのであったな。それはどこにある?」

「ドアの所にハンガーで掛けてるけど…」

「おおっ見つけた。で、次は教科書、というものは?」

「ベッドの近くに鞄があって、全部その中にあるけど…」

「これだな。では、この鞄ごと持っていけばいいということだな」

「う、うん。そうだけど…」


アリシアは凄く行く気満々だ。

ありがたい…ありがたいんだけど、不安感が強すぎる。心配だ。

出来るだけ私として振る舞うって言ってくれていたけど、本当に大丈夫かな…。

初めて小学校に子供を行かせる親というのはこういう気持ちになるんだろうか。


そうだ。

とりあえず、朝陽あさひちゃんのことだけでも教えておかないと。


「ねぇ、アリ」

『しーのー?起きてるなら早く下りてきなさーい。ご飯よー』

「おお…母上が呼んでいるようだ。…よし。こちらの事は任せておけ。互いに幸運を祈るぞ、志乃」

「えっちょっまっ…アリシア!?」


カクカクした物体だったアリシアはすっと消えた。

何度も呼びかけてみても、一向に返事はない。

…まじか。



━ アリシアがパーティから抜けました。 ▼




【職業】

剣士、魔法使い、武闘家…などの王道なものから

鍛冶屋、商人…などの職人業まで様々な職業がある。

基本的に転職可能。だが、貴族など転職が不可能なものもある。

【村人】

アイテムをくれたり、案内をしてくれたり、物語のヒントをくれたりと様々な人がいる。

勝手に家に入られても、引き出しを開けられても、壺を割られても怒らず何も言わない善人な人が多い。

モンスターに襲われやすいが、大体の確率で助けられるという特殊な力を持つ。

【G(ギアル)】

読み方は「ゴールド」ではなく、「ギアル」。

世界共通の通貨。伝説の勇者の名前から付けられたらしい。

【HP・МP小回復ボトル】

HP・МPを全体の20%回復することができる。

飲むもよし、浴びるもよし、吸うもよし。

【朝陽ちゃん】

志乃の中学時代からの友達。

一見、おしとやかながらも割と毒を吐くらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ