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私、主人公はじめました。  作者: れるの
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02「君になら出来る!」



カクカクした変な物体…ううん。アリシア。

アリシアは再び浮くと、また部屋をぐるりと回った。


「この部屋に1人でいるということ、そして私の記憶がほとんどないということは、おそらくゲームが始まったばかりの時点だな」

「記憶がほとんどないって?」

「あぁ。また新たな冒険を開始する際、いつも記憶がリセットされるんだ。プレーヤーである君のことを除いてな」

「どうして私のことは覚えているの?」

「君とは何回も何十回も…いや、99回も私と共に冒険したのだからね」

「99回…」


…そうだ。

私は大好きな『アリシアの冒険』を99回クリアした。

そして今日、100周目をしようとしていたんだ。

どうして今、そのことを思い出した感覚になったんだろう。


「……あれ?なんで?思い出せない……」


何回も何十回も…99回もクリアしたゲームだ。

ストーリーどころか台詞まで覚えていたはずなのに…全く思い出せない。


このことをアリシアに話すと「ふむ」と声を漏らした。


「君と私が入れ替わった際の影響で、もしかすると君も記憶をリセットされたのかもしれないな。他に思い出せないことはあるか?」

「ううん。あとは覚えてるよ」


自分自身のこと。家族のこと。学校のこと。

全てしっかりと覚えている。


「では、このゲームについての記憶だけが全てないということか」

「うーん…。全てっていうわけじゃないかな。覚えていることはあるよ」


覚えていることは、操作方法やスキル、魔法、職業などの基本的なゲームの用語や仕組み。

覚えていないことは、ストーリーやキャラクターや台詞。

つまり、私は今、取扱い説明書を読んで未プレイの状態みたいなものだ。


「でもどうしてアリシアのことは覚えているんだろう?」

「私も志乃のことはしっかりと覚えているよ。私のとても大切な…一番の仲間だからだろうか」


アリシアにそんな風に言われる日がくるなんて想像もしなかった。

まぁ、普通は絶対にありえないことだし。

だからとても嬉しい。

そうだよね。私も大好きなアリシアのことを忘れるわけがない。絶対に。


それにしても、どうしてこんなことになったんだろう。

そして、どうすれば私もアリシアも元の世界に戻れるんだろう。


「では、私の記憶していることを話そう。君からするとゲームを始めた際のプロローグのようなものだ」


この世界は一度、魔王の力により支配されつつあった。

だが、ある勇者とその仲間たちの手により、魔王は倒され、平和となった。


世界が平和になり、17年後。

魔王は密かに自分の血を継ぐ者を残していた。

その新たな魔王により、再び世界は支配されようとしていた。


支配されるのも時間の問題と考えた世界中のほとんどの国はまた魔王を倒し、平和をもたらすことを願い、勇者を魔王討伐へと向かわせた。

いや、平和をもたらすことを願う者もいたが、中には自らの国から伝説の勇者を出そうという考えを持つ者も少なからずいた。


他国と同様にヒルハ国の王様は、勇者を1人選び、魔王討伐へと向かわせた。

しかし、その勇者は魔王を倒すことが出来なかった。

それから2人、3人、4人…と魔王討伐が失敗する度に王様はたくさんの勇者を集った。

が、どれだけの人数を向かわせても、魔王を倒す勇者は現れなかった。


それから2年。

この様子をずっと見てきたヒルハ国の姫、アリーシャ・ファリッド・ヒルハは決意した。

自らの手で魔王を倒し、この世界に再び平和をもたらそう、と。


「つまり、私の目的は魔王を倒すことだ。だがな、私は一応姫という身分である故、そう簡単にこの城を1人で抜け出すことが出来ない」

「確かに」

「そこで、この部屋にある緊急時用の秘密の地下通路を使い、城を抜け出そうとしていた。ここまでが私にある記憶だ」

「なるほど。お城を抜け出す…地下通路…うっ……!?」

「どうした!?志乃!?」


突然、頭に痛みが走る。

すると、この部屋を出て、そして暗い地下のような場所を走るアリシアの姿が一瞬浮かんだ。

どれも一瞬な上に断片的だ。

唯一わかったのは、そのアリシアの姿は画面から見ていたものだったこと。

…そうだ。私がプレイしている時の映像だ。


「大丈夫か?志乃」

「う、うん。一瞬で断片的にだけど、今自分でプレイしていた時のことを思い出して…」

「本当か!」

「うん。アリシアの地下通路の話を聞いてたら」

「ふむ…もしかしたら、このゲームの話を進めれば何か思い出せるかもしれない。この状況に至った理由もな」


ゲームの話を進める…って待って。

話を進めるってことは私がアリシアとなって、冒険するってことだよね?

つまり、モンスターとかそんな敵とかと戦ったり?

無理むりムリ!!

だって私は普通の人間だもん!ただのゲーム好きの平凡な女子高生だもん!!


「無理だよ、アリシア!私、戦い方なんて知らないし、運動神経いいわけでもないし!っていうかモンスターなんて怖いよ!!」

「そう…だな。君の世界ではモンスターなどはいないのか。となると……」


黙り込むアリシア。

くるくるとその場で回ったり、逆さまになったり、ゆらゆらと揺れたり…。

しばらくすると、「うむ」と何か考えついたのか、私の方を向いた。


「大丈夫だ、志乃。君になら出来る!」

「えっ!?はっ!?」


どうやら考えついたのではなく、諦めたようだ。


アリシアは軽々と上へと浮き上がる。

手を伸ばしてジャンプをしても私では届かないであろう。


「志乃、私に触れてみろ」

「いやいや、届かないよ」

「ジャンプをしてみるんだ。きっと届くぞ」


あんな高さまで届くはずがない。

身長が170cm以上あれば軽くジャンプすれば届くかもしれないが、私は156cmだ。

その上、これといってスポーツをしてるわけでも、ジャンプ力に自信があるわけでもない。


誰がどう見ても届かないと思うのだが、どうしてアリシアは届くと思うのだろうか。

疑問に思いつつも、試しに軽くジャンプをしてみる。


……あれ?

軽い。身体が軽く感じた。

足も曲げずに飛んでみたのだが、想像していたより高く飛べた。


もしかして私、実は結構運動神経良くてジャンプ力あるの?

運動をする機会なんて学校の体育ぐらいで、即座に家に帰ってゲームをしているだけの人間なのに。

これは自分でも知らなかった隠された特技なのかもしれない。


「もっと思いっきり飛んでみるんだ」


そう言われ、次は足を曲げ、思いっきり飛んだ。

手はすっとアリシアを擦り抜ける。

届いた!

っていうか今、すり抜けた!?

何かに触れた感触なんて全くなかった。


「どうだ?届いただろう」

「う、うん。それより今、すり抜けたよね?」

「あぁ…私はそちらの世界にいるようでいないみたいなものだろうからな。では次だ。腰に下げている剣を抜いてみるんだ」


左側の腰から下げた剣の柄を掴み、そっと鞘から引き抜く。

見た目からは片手で持つには重いかと思ったが、案外軽々としたものだ。

これを現実世界で持っていたら捕まるな、私。


「よし。軽く振ってみてはどうだ?」

「こうっ?」

「うむ。ぎこちないが、まぁ扱えてるのであれば問題ないだろう。十分やっていける」

「そう?…って待って。十分やっていけるって何…?」

「先程、モンスターが出るから不安と言っていただろう。だから、大丈夫だとわかってもらおうと思ってだな」


確かに想像していたよりも遥かに動けるし、ちょっといけそうなんて思った自分も正直いた。

いたけど…やっぱり怖いものは怖い。


「それに、志乃の身体が傷つくわけではないぞ」

「え?」

「鏡を見てみろ」


そう言われ、近くにあった姿見の前に立つ。

自分で言うのもなんだが、アリシアにそっくりだ。

…ん?いや、待て。

そっくりというより本物のアリシアじゃない?

髪色は紫みのある桃色で、私はいつも左側に髪を束ねているはずなのに、今は右側に髪が束ねてある。

それに若干背も高くなっている気がする。

そしてなにより…


「…何をしているのだ?志乃」

「………」


私は黙って違和感のある重みに触れる。

おかしい。こんな重みがあったかな、私。

もう少しお手頃サイズじゃなかったかな、私。

いつの間にこんなに成長したんだ、私

…の胸は。


「アリシアだ…。私じゃない…アリシアだ!!」

「うむ。入れ替わってるからな、志乃は私。私は志乃の身体だ」


入れ替わってるって中身だけだったんだ。

てっきり身体ごと入れ替わっているのだと思っていた。

まぁそうだよね。身体ごと入れ替わるなんてありえないよね。

…いや、中身が入れ替わるのもありえないけど。


「だから攻撃されても安心しろ。志乃の身体ではない。まぁ、痛みは感じるだろうが」

「お、おおう…」


…それ、安心できないんですけど。




【ヒルハ国】

五大国と言われている内の一国。

火を司る神が祀られている。

特にヒルハ国の首都である『ファリッド』は武器や防具などが多く造られ、流通している。

商売の街としても有名。

【アリシア】

ヒルハ国の姫、アリーシャ・ファリッド・ヒルハとバレないよう、魔王討伐の旅の際に名乗っていた名前。

ちなみに志乃のHNの『アリア』はアリシアから取って付けたもの。

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