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私、主人公はじめました。  作者: れるの
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00「ついにこの日が……!!」




私、加藤(かとう) 志乃(しの)はゲーマー歴7年目。

その内、2年以上は『アリシアの冒険』というRPGをやっている。

365日、平均1日7時間以上だ。


ちなみに『アリシアの冒険』というゲームはシリーズ物ではない。

つまり、全く同じゲームを2年以上やっているわけだ。

傍からすれば、変だの異常だの思うかもしれないが、そんなことは気にも留めない。

だって、何度も何周もやりたい大好きなゲームなのだから。


発売から5年は経っているのだが、現在発売されているゲームにもまだ劣らないグラフィック。

広めのフィールド内で何通りもの戦い方ができ、敵の倒し方や使用した技・アイテム等によってバトル終了後の報酬やキャラクター達の会話が変わったりと、色々と試せて楽しめる戦闘システム。

細かい所まで作り込まれているかつ、膨大なストーリー。

それに加え、サブストーリー等もたくさんある。


私が特にこのゲームの好きなところは登場キャラクターが皆、魅力的なところ。

特に主人公のアリシアはパッケージを見た瞬間に一目惚れした。

ほんわかとした可愛らしい女の子の外見なのだが、いざプレイしてみると冷静沈着で芯の強い姉御肌。

だが、少し天然なところがあり、そこがまた可愛い。

私はそんなアリシアが大好きで、リスペクトし、実際に髪型や髪飾りなど真似ている。

アリシアは髪を右サイドに束ねているのだが、私は左サイドに束ね、双子的気分を満喫していたりする。


発売当時「唯一無二の神ゲー」や「死ぬまでに絶対やるべき」などと話題になり、また、大ヒットしているにも関わらず、販売して数ヶ月後に生産・販売中止となり、各地で売り切れ続出となった。


私はというと、この発売当時は違うゲームにハマっており、購入してすらいなかった。

現在プレイしているソフトは探し回ってようやく手に入れた中古品だ。

こんなにハマるのであれば、きっちり予約して初回限定盤を購入したかったものだ。

…今となればとても後悔している。


そんな大人気ゲームとなった『アリシアの冒険』に、3つの噂が広まった。


それはプロデューサー兼ディレクターであった木戸口きどぐち まことさんが、ネット上に

「このゲームは100周目が本番だ」

と書き込みを残し、その数ヶ月後、行方不明となったという噂が1つだ。

これが生産・販売中止になった理由とも言われている。


それから何人、何十人…いや何百人もの購入者が100周目を目指し、プレイをした。

新しいゲームは次々に発売される。

同じゲームを何度も何度もプレイする者は相当な物好きである。

100周目を目指し、プレイをした者達は途中でやめた。


だが、全員がやめたわけではない。100周目を突破した者もいた。

突破した彼らは言った。

「100周目を突破したが、なんの変化もない」と。

それからは「話題作りのための自演だ」や「ただの宣伝だった」などとその2つ目の噂もまたすぐに広がった。


そんな中、とある購入者のブログがささやかながら噂になっていた。

これが3つ目の噂だ。

そのブログは、『アリシアの冒険』を毎日プレイし、記録した内容。

ここまではどこにでもあるブログである。

だが、このブログは『99周目終了。明日からついに100周目』というタイトルを最後に更新が止まった。

このブログの主は行方不明になったのか、不幸にも死んでしまったのか、それとも別の理由があるのか。

2年以上経った今もその理由はわからず、ブログの更新は止まったままだ。


「………日が昇ってきてしまった」


カーテンの隙間から光が漏れている。

わくわくを抑えきれず、遠足が楽しみすぎて眠れなかった子供のように私も眠れず、いつの間にか朝を迎えてしまったようだ。


なぜなら今日は、私にとって大切な日だからである。


ふと、枕元に置いていた携帯を見ると、チカチカと点滅しているのが見えた。

時刻は5時前。

今から寝たとしても2時間弱程しか眠れない。

これはこのまま起きていたほうがいいのか、それとも少しでも睡眠を取ったほうがいいのか。

そんなことを考えながら、チカチカと点滅していた原因の通知を開く。


「ふおおおええええ……!!!」


つい変な声が出てしまうほど興奮してしまった。

画面に映し出されたのは1枚のイラストの画像。

端には『 Happy Birthday アリア 』と文字が書かれている。

ちなみに『アリア』とは私のこと。

ネットでの名前はアリアを使っている。


そして変な声を出してしまった理由は、このイラストだ。

私の大好きなアリシアが描かれているからである。

可愛い。可愛すぎる。

しかも描いてそれを送ってくれたのはネットでの友人のシトさん。

凄く絵が上手くて、ネット上では有名な人だ。


そんな人と私が会話をしてもらっているだけでも嬉しいことなのだが、こうして誕生日にお祝いのイラストを送ってくれたのは嬉しすぎる。

変な声が出てしまうのは無理もない。


「こんなの見ちゃったらもう寝れないよ…」


画像を早速保存した後、ベッドから降りる。

とりあえず、顔を洗って歯磨きをして髪を整えて…まぁ着替えるのはまだあとでいいか。





* * * * * *





一通り準備が終わり、部屋にあるテレビの前に座った。

そして黒い機械を睨み続ける。

やりたい。今すぐにやりたい。

でも、今からやると中途半端なところで終わらせて学校に行き、きっと1日中もやもやすることが目に見えている。

そうなることは目に見えているのだが…

やはり、やりたいという欲は強い。


私の手は震えながらもゆっくりと黒い機械の電源へと向かっていく。

ピッと音が鳴り、テレビを付けるともう何百回…いや何千回も見慣れた映像と音楽が流れ始める。

欲に負けた私はコントローラーを手に取った。


「ついに…ついにこの日が……!!」


そう。本日6月9日は私の誕生日だ。

17歳となり、私の大好きなアリシアと同じ歳となる。


そしてもう1つ。楽しみ過ぎて眠れなかった原因。

ついに『アリシアの冒険』が100周目に突破するのだ。


思い起こせば、2周目が一番時間がかかったなぁ。

そしてなんといっても中学3年生の頃。

受験真っ只中…それはもう辛かった。

ゲームをしたいのに勉強もしなければならないという過酷すぎる事態…。

何度、泣きながら必死で勉強をし、ゲームをするための時間を作り上げたものか。


そんな思い出に浸りつつ、矢印を『 New next adventure 』と書かれたところへと動かす。

アリシアと同じ17歳になった今日、念願の100周目。

ドキドキと高鳴る心臓の音を感じながら、決定ボタンをゆっくりと押した。




【加藤 志乃】

17歳。ゲーマーであること以外は、ただの平凡な女子高生。

「学校にちゃんと行く代わりにゲームをどれだけしても文句を言わない」

という約束を両親としている為、真面目に学校に通っている。

1日平均7時間以上、1周の平均総プレイ時間は約50時間。

約2年をかけて99周目をクリアした。

たとえ同じストーリーでもスキップせずに流し読みする派。

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