第15話:涙を流す女の子の為に戦う理由はいりますか?
「……がっ…ぐ…ッ」
瓦礫が当たった部分から鈍い痛みが波紋状に広がっていく。
鋭く尖った瓦礫に至っては容赦なく体にめり込んでは肌を貫き血管を傷つけにかかってくる。
防御というよりも単なる先延ばしにしか過ぎない光景を見ながらメゾックは声高らかに笑い声をあげた。
「おいおいどうした!?それがお前の答えか?口だけ達者で実力はそこらの武人以下。ちょっとばかり特殊な武具を持ってはいるが所有者の腕がその程度なら正に宝の持ち腐れだな!!」
「…………ちっ……!」
メゾックの意地の悪い言葉に反発するように勇矢はクルージーン・カサド・ヒャンの『否定武具』を生みだし、それを持って前へと駆け出そうとする。
しかしちょうどそのタイミングで無数に投げつけられている破片の中で鋭く尖ったものが勇矢の瞼を切りつけた。
ザシュッ!!という水っぽい音が聞こえた後、訪れるのは鋭く激しい痛みだ。
「がっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」
反射的に切りつけられた瞼を『否定武具』を持っていない方の手でおさえつける勇矢だがメゾックがそれをただ黙って見ているわけもない。
「胴体の守りががら空きだぞゴミクズ野郎!!」
そういってメゾックはコンクリートやアスファルトの破片ではなくクルージーン・カサド・ヒャンの刃を一気に伸張させ勇矢の腹部を貫こうとする。
出血と激痛に身を強ばらせながらも、片手を振るいそれを相殺する。
しかしそこからの行動が繋がらない。勇矢はクルージーン・カサド・ヒャンの突きの勢いに圧されたように弾き飛ばされる。
「がっ……はぁ…はぁ………ッ」
瞼の傷口はそこまで深くはない。あと少しでも深くはいっていれば恐らく失明は免れなかっただろう。
とはいえ瞼の筋肉を傷つけたのか、目を開けることはできなかった。
ただでさえ厳しい状況なのに片目を失ったのはかなりの痛手だ。
終わりの見えない暴力に歯をくいしばり勇矢はそれにあらがうように、ゆっくりとだが徐々に前へと這いずっていく。
激しい戦闘によりボロボロに荒れ狂った整地されていない硬い地面に体を擦りつるような格好はなんとも無様なものだが、そうでもしなければこの状況を打破できる気がしなかった。
とはいえズブの素人である神代勇矢に、この圧倒的な状況を軽々とひっくり返せるような策は当然ながら浮かぶわけもない。
「(それでも絶対にあるはずなんだ……あいつが確定しつつある勝利に余裕を感じれば感じるほど、そこには大きな隙ができる!!)」
チェックメイトをかけた人間が負けると思うだろうか?
王手をかけられた人間が敗北をかき消して勝てると思うだろうか?
普通であれば無理だろう。むしろそう思うことこそが当然である。
だが逆をいえばそれだからこそ勝利を確信した人間には通常よりも遙かに大きな余裕が生まれるのだ。
もしチェックメイトを無効化できる究極の駒があったとしたらどうだろう。
もし王手が完成された盤面を丸ごとひっくり返されたらどうだろう。
勝利を確信した人間はさぞや驚き、思考に大きな空白が生じることだろう。
「(なにかないか……あいつの動きを一瞬でも止めることが出来るなにか……)」
勇矢の手札はクルージーン・カサド・ヒャン単体の攻撃を一度だけ相殺することができる『否定武具』のみ。
周りにある山札の中身は大小無数の瓦礫やガードレール、通路に植えられた樹木など攻撃に転換できそうなものは一つもない。
前方から襲い来るコンクリートの塊に怯えながらも、その恐怖に抗い山札の補充をするために目を細める。
メゾック=マヤノフのクルージーン・カサド・ヒャンは伸縮自在の刃をもった遠距離にも近距離にも対応可能な武具だ。
闇夜に紛れての攻撃であれば回避することは難しいが、その刃は蝋燭のように微かな光を放っており速度もあくまで人間が振るえるレベルのものなので身を屈めたり飛んだりして避けることは可能だ。
問題は今メゾックが行っている二次的な攻撃だ。
あれに関しては勇矢の持っている『否定武具』では対応できず、どうしても追いやられる形になってしまう。
それに対抗する方法はいくつかある。
一つ目はコンクリートやらアスファルトの破片がなくなるまで耐えること。
二つ目は攻撃に耐えながら猪突猛進とばかりにバカ正直に突き進むこと。
三つ目は攻撃を防げる壁を用意すること。
浮かぶには浮かぶがそのどれもがお利口な考え方とは思えなかった。
「(……根性だけでどうにか出来るもんでもない…………そもそもそんなものでどうにかできるわけがない)」
ならばどうすれば良いのだろうか?
そう思ってつい目を伏せてしまう勇矢。それに伴ってメゾックにあわせていた視点も下へ下へとさがっていく。
だが、そこで勇矢は見つけた。
この状況を打破する可能性を唯一持った切り札を。
「………………………」
暫し脳内で沈黙があった。
自信がないというのもあったが、心を落ち着かせるための手順として無意識のうちに行っていた。
イメージは完璧に出来ている。
であれば完璧にそれをこなすことが出来たのなら、この敗北当然の盤面を叩き割ることが可能となる。
瞳に手に足に体に力が宿っていく。
チェックメイトでさえ否定する最後の一手を握りしめ、神代勇矢の最後の反撃が行われる。
神代勇矢がとった行動はいたって単純。
その場から立ち上がり敵であるメゾックに背を向けて走り去ること。
ようするに逃亡であった。
「………あ?」
メゾック=マヤノフの口から漏れ出たのは疑問というよりは誹謗中傷にも似た声。
今すぐにでも笑いが爆発しそうなのを耐えるように全身をひくつかせながら、それでもなにかしらの限界を突破したのか腹部に両手をあてながら大いに笑い転げた。
「かっははははははははははははははははははははははははははははははっ!!おいおいなんだそりゃ!?散々人に説教たれてたくせして負けると分かった瞬間逃げるとかお前どんだけクソ野郎なんだよ!?」
「………………」
どれだけの罵声を浴びせられようと勇矢は振り返らなかった。
ただひたすらにメゾックから離れるようにダメージが残るボロボロの体で、いつ転んでもおかしくないくらいのぎこちなさで足を動かし続けた。
愚者よりも哀れなその姿に目尻に涙を浮かべながらメゾックは笑った。
「結局はお前も他の奴らと一緒だったってわけだ!どれだけ甘ったるい言葉や体が痒くなるような性善説を言ったって所詮は赤の他人!命をかけてまでどうにかしようなんて考える方が馬鹿らしい!」
「…………」
勇矢はメゾックの言葉を無視しながらなおも走り続ける。
だが、そこで勇矢を見ている者はもう一人いた。それは倒れているアリスだった。
彼女は朦朧とする意識の中で必死に目を開き勇矢を見守っていたのだ。そんな彼女の横を勇矢は何も言わず通り過ぎる。
今までの過程を知る者がいればそれがどれだけ無情すぎる事かを理解できるはずだ。
助けるといって差し出した手を掴むすんでのところで引き下げられるような残酷さは精神に大きな傷を生み出す。
普通であれば激昂するだろう。出来もしないことを出来るとほざいて変に期待をもたせるな。最初から逃げるくらいなら自分なんかに構わなければよかったじゃないか。
簡単に予想しただけでも芋づる式に出てくる怒りや憎しみの声。きっとアリスもその中のどれか、もしくはその全てを口にすることだろう。
しかしアリス=ウィル=ホープの口からそんな言葉を聞くことはなかった。
「ゆ、うや……」
消え入るような声で少女は呟いた。
少しつついただけで腐った寒天のようにズブズブと崩れ落ちていきそうな弱々しい声と姿で、それでも最後に彼女は走り去る勇矢にむかってこう言った。
「…………ありが、と」
その言葉に勇矢の肩がビクンッ!と大きく揺れる。だが、そんな言葉でさえ勇矢の足を止めることは出来ず非情なまでにすんなりと勇矢はアリスの真横を突き抜けた。
その光景を見ていたメゾックはクルージーン・カサド・ヒャンを片手で持ちながら、さながらなにかしらの劇を演じる役者のように威勢の良い声をあげた。
「恋人でも友達でも兄弟でもない。もっといえば今日知り合ったばかりの素性の知らない殺戮兵器に命なんてかけられるわけがないよな!?はははっ!!こいつは傑作だ!どうやらあいつも良い意味で人間だったってわけだ!」
目をやれば既に神代勇矢の姿はそこにはなく、あるのは先程自分が力任せに投げつけたコンクリートやアスファルトの瓦礫とボロボロの格好をしたアリスのみであった。
最後の最後まで逃げ足だけは相変わらず一級品だなと小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「なあ、今どんな気持ちだ?助けてもらえると散々期待させるだけさせておいて裏切られた気分はどんなもんだ?」
「…………」
「痛いか?苦しいか?そんなもんお前にあるわけないよなぁ!?紛い物の体に紛い物の心。そんなもんが人並みに何かを感じるなんてことあるわけないよなぁ!?そうだろう!?」
「……たしかに……辛くもなければ苦しくもない…」
アリスは震える声でメゾックの問いかけに答える。しかしそこには打ち負かされたという弱々しい印象は見受けられなかった。
むしろその逆。
未だに現実を受け入れようとしない強い心が気持ちがアリスの瞳や声色にはこめられていた。
でも、と区切りをつけたアリスは伏せていた顔をあげて精一杯に自分の思いをメゾックにぶつける。
「それはあの人が私に救いをさしのべてくれたから!たったそれだけのことが私の胸を心を暖かく包み込んでくれた………だから、後悔なんてしていないの。恨みもしない。憎みもしない。だって勇矢はもう精一杯私のためにがんばってくれたんだから!!」
「結果が全てだろうがよこのアホが。お前どんなに悲惨な状況になってもいつまでたってもおめでたい頭してんだなこの平和ボケ野郎が」
「それでもいいの。あなたにとってはそうでも私にとっては結果よりもそこに至るまでの心や気持ち、色んなものがつまった過程こそが大事なんだから」
「………そんなもので満足できるんなら、お前は本当に人間じゃねぇよ」
低い声で呟いた後、メゾックはクルージーン・カサド・ヒャンの刃先を逃走した少年から倒れている“神造兵器”にむける。
彼自身も、もうこれ以上の面倒事はごめんなのだろう。
迅速にストレートに物事を解決するためにやるべきことは既に頭の中で組み立てられている。
逃走出来ないように足を切断し、逆らわないように腕を切断する。あとは衰弱させるために腹部に何発か刃を突き刺しておけばそれで良い。
文字通り無抵抗の状態を作り上げてしまえば、これ以上のトラブルを誘発させる必要はないからだ。
メゾックがいるこの辺りも戦闘でかなり荒れているが、そこらへんは下の連中が後処理に駆り出されるだけで自分には支障はないだろう。
口だけ達者な偽善者を殺し損ねたのは癇に障るが変に追求することもない。
さっさと帰りたいと面倒そうに首をならしながらメゾックはアリスの四肢を切断するためにゆっくりと武具を上へと振り上げる。
振り下ろした刃は迷うことなく一直線にアリスの四肢を切断しにかかった。
料理下手が抑えの片手を使わずに無理矢理食材を切るような初歩的な動作に、真後ろから何者かが介入した。
それは正確に投げられた同じ形状の剣。
ガッキィンッ!!!と。
刃同士をぶつけたにしてはやや甲高い音が周囲に鳴り渡った。
「よぉ、なに勝手やってんだよ腐れ野郎」
その一言を合図にしたかのようにメゾックのクルージーン・カサド・ヒャンは問答無用に四散した。
その現象を目の当たりにしたメゾックのこめかみ辺りから再び血管が浮かび上がる。
それまでメゾックを見ていたアリスの瞳はその奥にいる別の者を見ていた。
全身血塗れでところどころにコンクリートの破片が深く刺さっている、そこらへんにいる普通の高校生の姿を。
「……逃げたんじゃなかったのか偽善者?」
「逃げた?おいおい、俺はわざわざ遠回りしてお前の背後にまわっただけだぞ?言いがかりも程々にしてくれよサド野郎」
エリア4にあまり出入りしないメゾックにとってここ周辺の地形情報だけは勇矢に大きく出遅れている。
よってプロの殺し屋が、ただの少年に背後をとられるなどという奇妙な現象がおこってしまったわけだが、そんなことなどメゾックにとってはどうでもよかった。
それくらいのことならば少し頭をひねれば誰でも出来ることだろう。
ただメゾックが疑問に思ったことは唯一出来たその一瞬のチャンスをこんな形で犠牲にする必要があったのだろうかということだ。
単純な戦略ミスといわれればそれまでだが、どうにもこの特殊な少年は掴み所がない。
適当に素人の戦略ミスとしてながしても良いものか……。少し頭の冷えたメゾックの危機管理能力はそれをかたくなに否定していた。
なにかある。
だが、そのなにかがメゾックにはわからない。
ギリッ……と歯ぎしりにも似た音を口内から発する。
「(ただの素人に…ただの学生風情にこの俺様が恐れているだと?そんなことがあるはずがない!少しばかり特殊な力をもっているだけで思考回路はそこらのガキと一緒だ……なのになにを恐れる必要がある!?)」
たしかに実力や戦略でいえば勇矢よりメゾックの方が数倍も上だろう。
だがしかしそのただの学生風情に何度か攻撃をくらっているのもまた確かなのである。
「俺が怖いか?」
神代勇矢は余裕しゃくしゃくといった調子でそういった。
しかしその視線はメゾックではなくその後ろにいる守りたい少女にへと向けられていた。
「ゆ、うや……どうして…?」
「言っただろ?必ず助けるって」
勇矢はいたって簡単に答えた。まるでそれが当たり前だとでもいうように。
「たしかに俺はアリスのことを何も知らない。でも泣いてる女の子を助けるのに理由がいるか?薄っぺらい雑誌のヒーローになるのに許可がいるのか?ふざけんな。ただ目の前に助けを求める人がいる。それだけで拳を握れることが人としておかしいわけがない」
「……だっ…まれ……ッ!」
「今から見せてやるよ。お前がバカにした偽善者がどこまでその正義をこなすことができるのかを」
「黙れぇえぇぇぇええぇっ!!」
叫び手に持っていたクルージーン・カサド・ヒャンを振り回す。
しかし狙いは勇矢ではない。彼を狙ったところで『否定武具』とやらに相殺されてしまうのがオチだからである。
だとすれば戦術は変えない。
メゾックは再び地面や壁を割り砕いて出来たコンクリートの破片を砲弾さながらに投げつけていく。
これで先程同様、神代勇矢の動きは制限されるはずだ。そう考えていたメゾックの予想は大きくはずれる。
「ォ、ォォォォオオオオオオオオオオッ!!」
原住民族のような荒い叫び声をあげながら勇矢は向かってくる大小無数の破片の海へと駆け出していく。
「『製造開始』…!」
いって片手にメゾックの持つクルージーン・カサド・ヒャンの『否定武具』を生み出した勇矢。
彼はそれを剣として使うのではなく即興の盾として使うことで投げつけられる破片の海をかいくぐっていく。
といってもただがむしゃらに直進しているわけではない。いくら剣を盾代わりに使っていたとしても大きな破片にはとてもじゃないが対応できない。
だからこそ勇矢はただ防ぐだけではなく、向かってきた破片を剣の側面ではじき返すようにして防いでいた。
テニスのラケットでボールをうつように、向かってくる破片を弾き返しているわけだがどこにむけて弾き返しているのかといえば避けることも防ぐことも難しい大きな破片。
砕いたり切り裂くことは出来なくとも細かな衝撃を与えることで、運動量に多少の変化を与えそれがまわりまわって人が一人通れる程度の隙間を作り出すことが出来る。
その原理を知ってか知らずかは定かではないが勇矢はどうにか次々と放たれる攻撃の波からそうやって身を守っていた。
「ちっ……なら!!」
忌々しげに舌打ちを放った後メゾックは瓦礫を放つ手を一度止めクルージーン・カサド・ヒャン単体を真横になぎ払う攻撃へと変える。
勇矢のもつ『否定武具』であれば簡単に対応できるだろうが、もし今この段階でそを行ってしまえば盾として使っていた剣は失われ勇矢が新たに『否定武具』を生み出すより早く放たれた破片をもろにくらうことになる。
逆に盾として使い続ければクルージーン・カサド・ヒャンの容赦ない切れ味で上半身と下半身が丸ごと切り分かれてしまう。
かといって下手に避けたりすればタイミングがずれて防御がおろそかになってしまう。
どのみち詰みで終わってしまうその攻撃に、しかし勇矢は笑みをこぼしていた。
まるで待ちかねていたとでも言いたげな表情にメゾックの背筋になにやら冷たいものが通り過ぎる。
「お前がわざわざこいつをもってきてくれて助かったよ。そうじゃなきゃ、この作戦は使えなかった」
何を…?と呟きかけたメゾックは直後に勇矢がズボンのベルト部分にひっかけていたあるものを取り出すのを目にした。
それは対して珍しくもなんともないありきたりなもの。もっといえば、この状況に絶対に必要のない物品。
勇矢が取り出した袋にはでかでかとこう記されてあった。
“お徳用小麦粉”と。
メゾックは勇矢の少し背後にあるものにここで気づいた。たしかあれは自分がわざわざこの場に運んできた買い物袋ではなかっただろうか?
「わざわざ大量に買っておいて良かった……なんせこれでお前をぶっ倒せるんだからなっ!!」
勇矢は取り出した小麦粉を数袋メゾックが放ったクルージーン・カサド・ヒャンめがけて投げつけた。
岩をも容易に切り裂く剣は小麦粉の入っていた袋を簡単に切り裂いた。しかし直後にそこから大量の小麦粉が飛散し煙幕のごとく辺りに広がっていった。
「____なっ!?」
突然のことにメゾックは驚愕の声をあげる。
突如発生した小麦粉による目くらましの中をクルージーン・カサド・ヒャンは何かを切り裂く感触もなく綺麗に通り過ぎた。
それが更にメゾックの不安をかりたてた。
「ど、どこだ?どこに行きやがった!?」
「普通に考えればそりゃ敵の目の前に行くだろ」
思ったより早くかえってきた返答にメゾックは驚きながらも、声のした方へとすぐさまクルージーン・カサド・ヒャンを振り下ろす。
だが瓦礫を使ったり地面を使ったりした二次的攻撃ではなく武具を使った純粋な攻撃であれば『否定武具』の敵ではない。
真上から振り下ろされる攻撃とは反対に勇矢は下からアッパーカットのように手に持っていた『否定武具』を振り上げてぶつける。
ビシィッ!!という亀裂の入る音と共に互いの武具は完璧に粉々に破壊される。
くわえて下からの勢いあるアッパーカットに体勢を崩したメゾックに僅かではあるが大きな隙が生まれる。
一瞬時が止まったような感覚を得たメゾックは、そこでみた。
目の前にいるただの高校生が強く拳を握りしめ、それを大きく振りかぶるその瞬間を。
「……………覚悟しろよ」
どこまでも平坦な声だった。
しかしどこまでも耳に入ってくる嫌に澄んだ声でもあった。
「お前がアリスにしてきた事と同じ事を今からしてやる……」
ニヤリと笑った顔はヒーローというよりは悪党のそれに近いものがあった。
そんな極悪の笑みを浮かべながら勇矢は更に続けた。
「これからお前のいう人間って奴をその体に教え込んでやる」
ドンガンバキッグシャザシュッブチッバキッグシャアッ!!!
と、直後に原始的な暴力の音が鳴り響きそれは闇夜に渦を巻いて消えていった。