寄り道
空は雲一つない快晴、まさに旅立ち日和といった気候の中、ウィルは木漏れ日が差す森の中をのんびり歩いていた。
ユグリス村を囲っていた森“グラム森林”はかなり広大で、ユグリス村から街道に出るまでに半日もかかると言われており、それでもユグリス村はまだ森の浅い所にあるらしい。
ウィルは順調に歩いていくと漸く森が開けてきて街道に出ることができた。
「はぁ~!漸く抜けた~。でもここから四日近く街道を歩き続けなきゃいけないんだよなぁ……あっ」
ウィルは思いついたように目的地を変える。
ユグリス村から一日歩いた所にあるダンジョン。
帝都までの街道の途中にあると言われているので、そこに寄ろうと考えたのである。
善は急げというばかりに走り出すウィルだが、ウィルの今のAGIは2700オーバー。
常人より圧倒的高いステータスのウィルが走れば一日の距離を半日まで縮めることができる。
既に半日歩き森を抜けた所から走り出したウィルは日が沈む前には、ウィルにとっての初めての本格的なダンジョンに到着してしまったのだ。
ダンジョンは街道の横に不自然に建つ石造りの建物。
大きさはそれほど大きくなく小屋ぐらいの大きさしかないが、建物の中に入るとどうやら地下に続いている様だ。
「さて、行きますか!」
ダンジョンの中は地下なのにも関わらず、何処から光源が来ているのか分からないが十メートルは見通せるほど明るくなっている。
階段を下りた先は小さな小部屋になっており階段の他に三つのルートが存在していた。
「おぉ、ダンジョンっぽい!取り敢えず正面のルートから!」
ウィルは迷わず正面の通路に入ると向こう側から黒い影が近づいてくる。
ウィルは警戒しながら腰に提げている鉄剣に手を掛ける。
徐々に近づいてくる黒い影をハッキリ視認でき、漸くその正体が分かった。
子供よりも明らかに大きい黒光りした巨大な蟻、キラーアントだ。
もちろんウィルはスライムとゴブリン以外の魔物を見たことがないので、この魔物がどんな魔物か分からないのだ。
キラーアントはウィルに気付くと口から黄色く濁った涎の様なものを漏らしながら先程よりも速いスピードで近づいてくる。
ウィルは近づいてくるキラーアントに合わせて鉄剣を振るおうとするが、此処は狭い通路。
振った鉄剣は横の壁に刺さって抜けなくなってしまう。
「ちょ、ちょっ待っ」
ウィルが動けないのもお構いなしにキラーアントはウィルに噛み付こうとするが、ウィルは咄嗟に左脚で蹴り上げた。
キラーアントの顎に蹴りが命中すると、ウィルの人外じみた蹴りの所為かキラーアントの頭がポーンと宙に舞い、ウィルの前にドシャリと落ちる。
「ひぃ…こ、これはトラウマになりかねないよ。力加減を覚えなきゃな…。その前に細い通路での戦い方も考えなくちゃだな」
頭と胴体が分離したキラーアントはそれぞれ光の粒となって消えていき、キラーアントの強靭そうな顎のみを残して消えてしまった。
ウィルは壁に刺さった鉄剣を抜き、腰に提げなおしてからキラーアントのドロップアイテムを拾ってリュックサックの中にしまう。
「うーん、やっぱりドロップアイテム用のバッグも買わなきゃ駄目かな?」
食料やら着替えやらでいっぱいになっていたリュックサックにドロップアイテムまで入れてパンパンになってきたリュックサックを撫でながら呟く。
その後も通路やフロアをウィルは自分の感を信じて適当に進んでいく。
その途中で出てくる魔物は全てキラーアントで同じ失敗をしないように鉄剣ではなく、魔法か体術で倒してきている。
因みにドロップアイテムはリュックサックがいっぱいな為、一つ目以外のアイテムはもったいないが放置してきている。
「流石に広いなぁ」
外では日が沈みきった頃だろうか。
ウィルは未だに第一階層をウロウロしていた。
此処に出現する魔物はウィルには脅威になり得ないのだが、何分ウィルは本格的なダンジョンは初めてとなる。
マッピングという知識もなく、ただがむしゃらに歩いているのだ。
運よく次の階層に進めたとしても戻ることもかなり困難になってくるだろう。
つまり何が言いたいかというと、ウィルは現在迷子なのだ。
「此処のフロアさっきも通らなかったか?…やっぱり帝都に先に行って準備してからにしようかな。ドロップアイテムももったいないし」
さて、と引き返そうと振り返ってみると、振り返った先の面には二つの通路があるのだ。
「あれ?僕今どっちから来たっけ?」
右か左。二択しかないがここは感で進むような場合ではなく、記憶を頼りに進むべきだが、がむしゃらに進んできたウィルに通ってきた順路なんてかなりあやふやになってしまっている。
右か左かまさに右往左往していたが、結局のところ感で来た道と反対の右を選んでしまう。
そこからも感で戻っているつもりで歩いていると、遂に下の階層に降りる階段を見付けてしまった。
「…あれ?もしかしてだけど僕迷子?」
漸く自分が置かれている状況に気が付いたウィルは階段の傍で座り込んでしまう。
これからどうするべきか…このまま攻略を目指すか、ひたすら歩きまくって外に出る階段を見付けるか。
この時点でウィルにはマッピングするという考えは全くない。
暫く考え込んでいると、奥の通路からコツコツと人の足音が聞こえてきた。
足音がする方へ注意を向けると、暗く先の見えない通路からウィルと同じくらいの年齢の少女が出てきた。
「…アンタこんな所で何やってんの?」
「えっと…迷子?」
「…は?」
ウィルは自分が先程認識した事実を正直に伝えると、少女から途轍もない不憫な目で見られてしまった。
それもそのはず。このダンジョンは帝都からもそれほど離れておらず、初心者向けの複雑な構造ではなく簡単なダンジョンで、探索者の心得がある者ならマッピングやルートの把握は真っ先に確認することだからだ。
こんなダンジョンで迷子になることはほとんど無いと言っても良いくらいなのだ。
「貴方、探索者よね?」
「ううん、これからなる予定」
「…マップは?」
「マップ?」
「……何でダンジョンに入ったの?」
「そこにダンジョンがあったから?」
はぁ、と溜め息を吐きながら額を押さえる彼女を改めて見ると、腰には金属で出来た細剣を提げ、革で出来た軽そうな胸当てとアームガード、レガースを装備している。
ウィルは自分と同年代の少女を見たことがないので、彼女の容姿が優れているのか比べることができないが、ウィルは純粋に彼女のことを綺麗だと思った。
「君は探索者なの?」
「えぇ、そうよ。…と言っても最近なった新米だけどね」
新米でも探索者は探索者。
ウィルは初めて見る探索者に次第に興奮し始める。
「ねぇ、このダンジョンは初めて潜るの?」
「さ、三回目だけど」
「じゃあ此処のボスは?」
「まだそこまで行けてないけど…今日はそこまで行くつもりよ」
それを聞いてさらに興奮し始めるウィルに少女は若干引きながらも、きちんと質問に答えてくれる。
「それより、迷子なら入口まで案内するけど…」
本来ならありがたいことだが、折角同年代の先輩探索者に出会えたのだ。
ウィルは彼女に聞きたいことが山ほどあるのだ。
それに彼女は今日ボスまで行くと言っている。
二人で攻略しても攻略数が一つ上がるのかも知りたいところだった。
「…あの、攻略の手伝いをしちゃ駄目?」
思ってもみない返答に少女は驚いたが、よくよくウィルを見てみる。
ウィルは迷子になりながら此処まで来たようだが、それなら此処に辿り着くまでに何度も魔物に遭遇したはず。
しかし、ウィルの装備は鉄剣一本で防具の類は一切なし。
それなのに無傷という異常な状態。
よっぽどの手練れか、ただ単に魔物除けのアイテムでも使ってるかだ。
「…まぁ、いいわよ。因みに貴方のレベルは?」
「14だけど…」
14。その数字を聞いた少女はウィルが魔物除けのアイテムを持っているのだと思い込んだ。
十五歳での平均的なレベルは大体12~15でウィルのレベルはまさに平均的。
そしてこのダンジョンの適正レベルは18と言われている。
ウィルのレベルだと少し苦しく、ましてや無傷で此処まで辿り着くなんてありえないことなのだ。
だからこそ少女はウィルが魔物除けのアイテムを持っていると考え、それならそれでボスまで体力を温存できると思い同行を許可したのだ。
「いいわ。私はリズベット・フェミナントよ。よろしく」
「僕はウィル・レントナー。こちらこそよろしく」
ウィルは少女、リズベットから差し出された右手をしっかりと握り返す。
だがリズベットはまだ知らない。
ウィルの異常さと魔物除けなんて便利なアイテムを持っていないということを…。
「じゃあさっさと行きましょうか!」
「おぉ!」
ウィル・レントナー
性別:男 年齢:15 種族:人間
Lv:14
HP:664(21・13944)
MP:250(21・5250)
STR:177(21・3717)
VIT:147(21・3087)
INT:120(21・2520)
MND:101(21・2121)
AGI:156(21・3276)
DEX:188(21・3948)
スキル
・体術(2)・剣術(2)・短剣術(1)・槍術(1)・棒術(1)・双剣術(1)
・斧術(1)・弓術(1)・盾術(1)・投擲(1)
・火魔法(1)・雷魔法(2)・風魔法(1)・水魔法(1)・土魔法(1)
・探索(1)・暗視(2)・鑑定(1)・先読(1)
・料理(1)・木工(1)・調薬(1)・算術(1)
称号
・器用貧乏:スキルは取得しやすいが、スキルレベルは上がりにくくなる。
・一万回踏破:ダンジョンを一万回踏破した証。称号を手に入れてからのダンジョン踏破回数倍ステータスをアップさせる。
・孤独な探索者:ソロでダンジョンを一万回踏破した証。仲間ができた時、仲間のステータスを自分のステータスの10%アップさせる。(発動中)