旅立ち
あれからダンジョンで少し休憩したウィルは村に帰ることにした。
明日はウィルの十五歳の誕生日だ。
誕生日と言ってもウィルが捨てられ、ランドルフが拾った日を誕生日としているだけなのだ。
明日は村人総出でウィルの誕生日と送別会を兼ねて盛大にお祝いをしてくれる予定だ。
そして明後日の早朝にはこの村を旅立つ予定になっているのだ。
「ただいま、じいちゃん!」
「おや、今日は帰りが早いね」
「ううん、またすぐ出ていくつもり。今日はあのダンジョンに一日籠ろうと思って…」
「なぜじゃ?あのダンジョンで今更…。それに明日はお前さんの誕生日じゃろ」
そう、ウィルは今日は泊りがけでダンジョンに籠ろうと思っていたのだ。
そのため一度帰宅して、ランドルフにダンジョンに籠ることを伝えに来たのと僅かな食料を採りに来たのだ。
ウィルは食料を背負っても邪魔にならない程度の小さなリュックサックに詰めながらランドルフの質問に答える。
「それは…ほら、あのダンジョンは今までお世話になったし…それにあれだよ、必殺技でも考えようと思ってね」
「…分かったわい、そういうことにしといてやるかの。ただし明日の昼までには必ず、必ずっ帰ってくるんじゃぞ」
ウィルの如何にも怪しい言い訳だが、ランドルフは嘘だと知りながらも黙って見送る。
「はい!」
「気を付けての」
「行ってきます!」
ウィルは食料を詰めたリュックサックを背負うとランドルフに手を振りながら駆け足でダンジョン“始まりの洞窟”に向かっていく。
ダンジョンに着いたウィルは腰にいつもの木剣を提げさっさと中に入っていく。
ステータスが元に戻ったウィルはスライムを一刀両断、真っ二つにするといつものようにスライムゼリーを拾うこともなくボス部屋へと向かっていく。
今回は普通にボススライムが待ち受けていたので、先程と同じくあっという間に真っ二つにするとさっさとダンジョンを後にする。
ダンジョンを出たウィルはダンジョンが復活するまでに取り損ねた遅めの昼食として干し肉を齧りながら自分の状態を確認する。
ウィル・レントナー
性別:男 年齢:15 種族:人間
Lv:13
HP:533(2・1066)
MP:208(2・416)
STR:147(2・294)
VIT:122(2・244)
INT:100(2・200)
MND:84(2・168)
AGI:130(2・260)
DEX:156(2・312)
スキル
・体術(1)・剣術(2)・短剣術(1)・槍術(1)・棒術(1)・双剣術(1)
・斧術(1)・弓術(1)・盾術(1)・投擲(1)
・火魔法(1)・雷魔法(1)・風魔法(1)・水魔法(1)・土魔法(1)
・探索(1)・暗視(1)・鑑定(1)・先読(1)
・料理(1)・木工(1)・調薬(1)・算術(1)
称号
・器用貧乏:スキルは取得しやすいが、スキルレベルは上がりにくくなる。
・一万回踏破:ダンジョンを一万回踏破した証。称号を手に入れてからのダンジョン踏破回数倍ステータスをアップさせる。
・孤独な探索者:ソロでダンジョンを一万回踏破した証。仲間ができた時、仲間のステータスを自分のステータスの10%アップさせる。
「やっぱりダンジョンを攻略する毎に強くなってる。力も漲ってくる感じもあるし…」
ウィルは今日、泊りがけでダンジョンを攻略しまくる予定なのだ。
「それにしてももう一つ手に入った称号、“孤独な探索者”の仲間ができた時って仲間ができないから一万回もソロなんですけどね。嫌がらせかコノヤロー」
干し肉を食べ終わり、少しウトウトしてきた時に漸くダンジョンが復活したようだ。
ダンジョンの復活までの時間は完全なランダムで、別にダンジョンが復活した時に音が鳴ったり、お知らせが来るわけではなく、なんとなく気配というか禍々しさというか…そんなあやふやな感覚がダンジョンから出てくるのだ。
「さて、やるか!」
ウィルはそのまま気合を入れ徹夜覚悟の長期戦に挑んだ。
「ふぁ~、眠っ」
あれから本当に徹夜でダンジョンに潜り続けてきたウィルは大きく欠伸をしながらダンジョンから出てくる。
空を見上げれば、朝日が既に差し込みここからでも微かに見える村では人が起きだし、ウィルの為の誕生会の準備を始めていた。
ウィルも皆が誕生会をやってくれるのを知っているので、ありがたいなと思いながら村の方を見続けている。
「よしっ、後一回攻略したら帰るか」
ウィル・レントナー
性別:男 年齢:15 種族:人間
Lv:13
HP:533(21・11613)
MP:208(21・4368)
STR:147(21・3087)
VIT:122(21・2562)
INT:100(21・2100)
MND:84(21・1764)
AGI:130(21・2730)
DEX:156(21・3276)
スキル
・体術(2)・剣術(2)・短剣術(1)・槍術(1)・棒術(1)・双剣術(1)
・斧術(1)・弓術(1)・盾術(1)・投擲(1)
・火魔法(1)・雷魔法(2)・風魔法(1)・水魔法(1)・土魔法(1)
・探索(1)・暗視(2)・鑑定(1)・先読(1)
・料理(1)・木工(1)・調薬(1)・算術(1)
称号
・器用貧乏:スキルは取得しやすいが、スキルレベルは上がりにくくなる。
・一万回踏破:ダンジョンを一万回踏破した証。称号を手に入れてからのダンジョン踏破回数倍ステータスをアップさせる。
・孤独な探索者:ソロでダンジョンを一万回踏破した証。仲間ができた時、仲間のステータスを自分のステータスの10%アップさせる。
『誕生日おめでとう、ウィル!!!』
「ありがとう皆」
真昼間から村の中心は酒を飲み交わす人達であふれている。
この村の最年少であるウィルも今日で十五歳、飲酒が大丈夫になる年齢だ。
ウィルは明日から旅に出るのでお酒は止めておこうと思ったのだが、酔っぱらったオジサン達に無理矢理飲まされてしまう。
もう飲まないという事はあきらめ、飲みすぎないということを注意しながらお酒を口にする。
「ウィル、明日にはもう出ちまうのか」
「うん、朝早くに出ようと思う」
「じゃあ皆で見送んなきゃな」
「い、いいよ別に」
「ハハッ、遠慮すんなって」
心優しい村人達に少し恥ずかしくもあるが、それ以上に感謝の気持ちでいっぱいになった。
そんな宴の様な誕生会も日が沈む頃にはお開きになった。
片付けは明日明るくなってからするから早く帰って寝ろと村の皆に言われてしまい渋々帰ることにした。
家に帰ったウィルは明日の旅の準備を始める。
元々持っていこうと思っているものはあまりなく、木工用の道具と少しの着替え、食料とランドルフに貰った鉄の剣だけだ。
大体の物はこの村よりは手に入りやすいと思っているので、取り敢えず都市に着くことを目的としているのだ。
少し大きめのリュックサックに詰めて準備完了だ。
「ウィルや、準備は終わったのかい?」
「うん、今終わったとこだよ」
そこでウィルは思い出してしまった。
ウィルがこの家を出てしまえばランドルフが一人になってしまうことを…。
「…じいちゃん」
「儂のことは心配いらんよ。村の者達もいるし後十年はくたばらんよ」
「そっか…年に一回くらいは帰るようにするよ」
「気にせんでも大丈夫じゃよ」
「違うよ。僕が帰りたいんだ」
「そうか…いつでも帰ってきなさい。ここはお前さんの家でもあるんじゃからな。今日はもう寝るんじゃよ」
「うん、おやすみ」
ランドルフが部屋を出ていくとウィルは最後に荷物の確認をしてベッドに横になる。
寝ながらグルッと自分の部屋を見回す。
灯りはついていないが窓から入ってくる月明かりが部屋の中を明るく照らしてくれる。
ウィルの部屋は相変わらず木でできた武器が至る所に立て掛けてある。
「この部屋とも今日でお別れか……いや、また絶対此処に帰ったこよう」
探索者というものはいつ死んでもおかしくない危険な職業だ。
危険と常に隣り合わせだが、その分見返りも大きい。
探索者は昔に冒険者と言われていたが、冒険者は冒険してはいけないのだ。
そのため呼び方も冒険者から探索者になったとも言われているのだ。
探索者になるものはその覚悟も出来ているのだ…もちろんウィルも…。
「…今日はもう寝よう」
ウィルは色んなことを思いながら眠りについた。
「じいちゃん、皆、行ってきます!」
「おぅ、気を付けろよ!」
「生水は飲んじゃ駄目よ」
「たまには帰ってこいよ!」
ウィルは昨日の宣言通り村の皆に見送られていた。
「ウィル、こっちに来なさい」
ランドルフに手招きされたウィルは大人しくランドルフの元に行く。
ランドルフから小袋を差し出され、それを受け取って開いてみると中には大量の硬貨が入っていた。
「じいちゃん、こんなの受け取れないよ」
「それはお前さんが稼いだものじゃよ」
これはウィルが十年間ほとんど毎日のように通い続けたダンジョンから持ち帰ってきたスライムゼリーで稼いだお金なのだ。
ランドルフは毎回持ち帰るスライムゼリーをたまに来る行商人に売っていたのだ。
スライムゼリーはポーションの材料になり一つ十シリンになるのだ。
そしてウィルが倒したスライムの数は約二万、つまり二十万シリン。
因みに都市での一食は大体五百シリンから。
「じゃから気にせず持っていきなさい。お金がなきゃ宿にも泊まれんからのぅ」
「…うん分かった」
「気を付けていってきなさい」
「うん!ありがとう、じいちゃん!行ってきます!」
『行ってらっしゃい!!!』
ウィルは手を振りながら村を出て、此処から一番近い主要なダンジョン都市“ファリズム帝都”を目指して歩き始めた。