1.魔法族と竜族、そして人間
太古の昔。
人類が誕生するよりもずっと遥か前のこと。
地球には魔法族と竜族が存在し、共生していた。
魔法族は、神の遣いとされる竜族の守護を一手に担い、竜族は満月から放出される《白聖線》と呼ばれる聖なるエネルギーを浴びることで、風や雲、雨などの自然の摂理を紡ぎ出し、大きな恵みと糧をあらゆる生命にもたらせてきた。
魔法族は極めて高度な思想と文明を唱えると共に、やがて、地球上の全ての種の共存と繁栄を目的とした魔法制定を敷くことによって、地球の摂理と平和を保ってきた。全ては竜族の創り出す大自然の均衡を護る為だ。
ある日のこと。
魔法族の一人の男が、それまで固く禁じられてきた黒魔法を唱え、一頭のドラゴンを悪しき魔物・黒竜へと変えてしまった。黒魔法とは、大自然の力を借りて唱える白魔法とは違い、悪魔の力を借りる魔法のことだ。それを唱えた者は、絶大なる力を得るだけでなく、呼び寄せた悪魔に心も支配されてしまう為、魔法制定によって、いかなる場合においても一切の使用が禁じられていた。
黒魔法を唱えたその魔法使いはナマルゴンといった。ナマルゴンは黒魔法によって手に入れた力でこの世の全てを支配しようと、神々がいる天界の果てへと導く《月への階段》を目指した。
当然魔法族と竜族は、それを阻止せんと、悪魔に魂を売ったナマルゴンと黒竜に挑んだが、悪魔の力が宿りし黒魔法の前には成す術がなかった。しかし、ある新しき生命種の出現により、ナマルゴンと黒竜は倒され、地球上のとある場所へと封印されることとなる。
ナマルゴンを倒したその新しき生命体――それは人間という種だった。
人類誕生説は、地球の危機に、新たに神々が創造した生命種とも言われていれば、ナマルゴンとの戦いで、黒魔法と白魔法が激しくぶつかり合い、それに巻き込まれた多くの生命種の遺伝子が混ざり合い、結果、新しき生命体となって生まれ変わり、誕生したものだとも言われている。
ナマルゴンが封印され、再び平和が訪れたこの地球で、人間は魔法族と竜族との共生を始めたが、人間は、竜族が創り出した様々な土地や気候に対し見事なまでに適応し、目を見張る程の繁栄を唱えた。また、魔法族の文明を基に独自の文明を築きあげると、更にその勢力を広げるかのように、地球の果てまで進出を果たすことになった。
いつしか魔法族と竜族は、あまりにも増え過ぎた人間たちに追いやられるように、それまで暮らしていた土地を離れ、人間が住めない過酷な土地へと移住し、ナマルゴンの封印を秘かに担い続けてきた。
そして時は流れ、人間は、かつて魔法族や竜族と共生していた歴史も忘れ去り、自らが創り出した文明のもとに地球を我がものとしていた。
西暦2014年。
人間の文明は、もはや狂気の炎と化し、地球上全ての存在に危機を投げかけんとしていた。