その3
大変おまたせいたしました(滝汗
その3 UPさせていただきます。
あの戦闘の一件から【凪】の視線は【戒】に向けられるようになった。
週に1回、土曜日の夜にあるギルドの集会。
今までは参加したり、しなかったりしていたのを、
時間があるかぎり出来るだけ参加するようにした。
集会でも【戒】はめったに喋らない。
喋ったとしても新しく導入されたスキルの話や、効率のいい狩り場の話。
その話はもちろん【凪】のレベルUPに役にたつ。
聞き漏らさないように、チャットの流れが速いときはスクリーンショットを撮って
後でそれを読み返してみたり。
「紗奈:凪ちゃん最近ちょっと強くなってきたねー」
「凪:集会で教えてもらった方法とか参考にしてるのー」
「紗奈:ほうほう。じゃあ後で2号と戒を褒めてあげなきゃね」
ルミックスオンラインは某ゲームのようにキャラ間で子供を作ることはできないが
結婚というシステムがある。
【紗奈】はゲーム内挙式を試したいと言って、
その場に偶然居合わせた【くまおじさん2号】に
「ちょっと結婚してみよう」と言った強者である。
当然【くまおじさん2号】は「は?」と言ったらしいが、
【紗奈】の勢いに押されて結婚したものの、『○○(嫁の名前が入る)の旦那』という
結婚したらもらえる称号をたまにつけているのでまんざらでもないらしい。
というのがギルドの総意である。
【凪達】は最初結婚式に呼んでもらえなかったのを散々ブーイングしたのだが
思いつきで結婚式を挙げたのが何せ夜中の2時過ぎである。
たいていのギルドメンバーは夢の中・・・
翌日にタイトルを付けてる【紗奈】を見て、
「「「はぁぁぁぁ!?」」」と散々言った記憶があった。
【凪】は最初、今のギルドとは違うギルドに【流華】と所属していた。
しかし現実生活が忙しくなったのか、一人減り、二人減りで
いつの間にか【流華】と二人だけの小さなギルドになっていた。
二人っきりだと出来ることも限られてくる。
二人で困ったねぇと言ってるところに【紗奈】から今のギルドへの勧誘があったのだ。
最初は躊躇していた二人も【紗奈達】の事は良く知っていたし、
このままじゃ行き詰まることは見えていたので
勧誘からしばらくして今のギルドの門を叩いた。
その時、所属していたギルドが消えてしまうのが忍びなく、
また誰かがもどってくるかもしれないとの一縷の希望を託して
【凪】のサブキャラにギルドマスターの権限を委譲してある。
たまにサブキャラでギルドメンバーがログインしていないか確認しているが
今のところ、【凪】と【流華】の希望は報われていない・・・
*
「鈴子~ 今日呑みにいかない?」
終業間近に美由紀から飛んできたSNS。
今日は特になにも予定はなかったなぁとパパパと脳内で予定をチェックすると
「OK~ 場所は決めておいてね」
と返事を返す。
終業後の予定が決まってしまった。
残業なんかになって美由紀を待たせてしまったら奢らされるのは確実なので、
鈴子は気合いを入れると、PCのモニターに視線を戻した。
根性で仕事を終わらせ、更衣室に向かう。
きょろきょろと室内を見回してみても、美由紀の姿は見えない。
(よかった・・・先に来れたみたい)
とりあえず制服から私服に着替えると、部屋の隅においてあるソファーに腰掛ける。
(そーいや今日メンテナンスの日だっけ、何かアップデート来てるかな)
バックからスマホを取り出すと、webページを開いてルミックスオンラインのページへ。
今日はなにもアップデートは無かったものの、来週新しいイベントが来るらしい。
戦闘中心のイベントじゃないといいな・・・と思いながらスマホを鞄に戻すと
美由紀がせっぱ詰まった感で更衣室に飛び込んできた。
「あー!なんで鈴子いるのよー!!」
「なんでって・・・仕事終わったからだけど・・・」
「今日は鈴子にたかろうかと思ってたのにー!」
「甘い!!てかとっとと着替えなさいよ~」
あうあう言いながら私服に袖を通す美由紀に、鈴子は小さく笑みをこぼした。
「で、今日はどこに行くの?」
「じゃっじゃーん くまくま亭予約とれましたー!」
「おお、がんばった!」
くまくま亭は会社から割と近くにある居酒屋で
知る人ぞ知るといった感じの小さな隠れ家のような店である。
美由紀と鈴子は今の会社に入社したときに先輩からこっそり教えてもらい
たまに通っている。
ので、ルミックスオンラインで初めて『くまおじさん1号・2号』の名前を見たときには
画面の前で関係者なんだろうか?と訝しんだのを覚えている。
しかし、幾度となく話しているうちに『くまおじさん達』はそれぞれ社会人で、
くまくま亭とは何も関係がないらしいと思ったときは、少しだけほっとしたものである。
「じゃ まずは乾杯~」
お行儀が悪いとはわかっていてもこれだけはやめられない。
お互いのグラスを軽くふれあわせるとチンと涼しげな音色が耳に届く。
まずは一口。
冷たいビールが喉を滑り落ちると、おじさんが「プハー」って言うのが
何か最近わかってきてしまったような気がする。
(いやいや、それはまだまだ早い。)
グラスをテーブルに置くと、もう呑みきってしまったのか
美由紀が次のビールを注文していた。
「相変わらず呑むの早いよね」
「何言ってるのー鈴子が遅いだけよ」
お互い顔を見合わせると同時にプっと笑い出す。
(ゲームの時間も楽しいけれど、こんな時間もいいな)
次々と運ばれてくる料理に舌鼓をうちつつ、しばし会社の話題でもりあがる。
「ねぇ鈴子、最近ちょっと変わったよね」
「ん?なにが?」
からあげを口に運びながら何かあったっけ?と考える。
「ここんとこギルドの集まりにちゃんと参加してるしさー」
「そうかな?」
「少なくとも以前より参加してるでしょうよ」
「まぁそれは・・・ね」
「それに?最近【戒】さんと仲良しみたいじゃん?」
「たまたまそう見えるだけじゃない?」
「そうかなぁ?」
(美由紀、意外にスルドイ!)
内心汗をかきながら、鈴子は手近にあったビールを喉に流し込んだ。