その2
『凪:こんばんはー』
ゲームにログインするとまず行うのがギルドチャットでの挨拶。
ゲームにログインした時点で、友達登録した相手やギルドメンバーには
【凪】がログインしてきたことはわかっているのだが
最低限の礼儀は必要かなと思い、毎回挨拶をする。
中には挨拶すらしない、オンライン状態を隠して
ログインする人もいるのだが(通称忍者)
もうみんな慣れっこになったもので
気にする人は少なくとも今のギルドにはいない。
『くまおじさん1号:こんばんはー』
『くまおじさん2号:こんばんは』
『紗奈:こんこー』
それぞれ今ログインしているメンバーから挨拶が帰ってくる。
さて、今日は何をしようかな?と考えてると、
『くまおじさん1号:みんなちょっといい?手伝ってもらいたいんだけど』
『紗奈:なぁにー?』
『凪:?』
【くまおじさん1号】は脳筋と言っても差し支えないくらい強いキャラクターである。
その【くまおじさん1号】さんからの「お願い」に
鈴子は「ん?」と画面の前で考える。
【くまおじさん1号さん】からの「お願い」は、
鈴子が所属しているギルドと仲の良いギルドメンバーからの
手助け要求で(ゲーム内用語HELP)
鈴子自体数年前にクリアーしたクエストだった。
『紗奈:手伝うのはいいけどあのクエスト人数制限あったよね?』
『くまおじさん2号:8人だっけな』
『紗奈:私でしょ?くまさん’Sに凪ちゃん、その人。3人足りないね』
『くまおじさん1号:もう少ししたら・・・ってアルクさんが来たな』
会話をしてると画面に小さなポップアップが出て、
【アルク】と呼ばれている人物がログインしてきたのを知らせる。
『紗奈:よしアルクさんも拉致ろう』
『アルク:こんばんはーって一体何事ー!?拉致って何ー!?』
『沙奈:ふふふ♪よいではないかよいではないか♪」
『アルク:沙奈さんが怖いー!』
『くまおじさん2号:まぁまぁ沙奈さんもそれくらいにしてw
アルクさんHELP要請来てるんだけど行けるかな?』
『アルク:なんだHELPか びっくりしたー いいですよ~』
『くまおじさん1号:よし、向こうのギルマスも手伝うって言ってるから後一人だな。
誰かフレンド誘えない?』
『凪:ちょっと待ってもらえるなら流華召還できるかも?』
『くまおじさん1号:んじゃそれ待ってみるかー。
流華さん来る前に誰かきたらそいつを・・・って、
広場にて忍者発見!!戒、ギルチャ見てんだろ!!』
【くまおじさん1号】さんの発言の後にまた小さなポップアップ。
『戒:見つかった・・・不覚・・・』
『紗奈:戒さん聞いてたなら話早いよねー 盾役よろしく♪』
『戒:盾!?くま1号にやらせりゃ・・・』
『紗奈:よ・ろ・し・く』
『戒:了解・・・』
正直鈴子は【戒】という人をそんなには知らない。
同じギルドのメンバーとしての認識はあるものの
【くまおじさん’s】や【紗奈】のようにしょっちゅう絡んでるわけでもなく
【戒】自体、基本忍者が好きなようでギルチャにも滅多に顔をださない。
どんな外見だったっけなぁ・・・
そんな事を考えながら、鈴子は指定された集合場所に向かった。
*
「こんばんは。みんな今日はよろしくね」
集合場所に到着するとHELP先ギルドマスターの【ルエン】が声をかけてくる。
その横で少し緊張したように見えるキャラが今回のHELP主なのだろう。
「よ、よろしくお願いします」
「気にしなくて良いよ、私たちも手伝ってもらって攻略した身だし。
後進の手伝いをするのは当然なんだから」
【くまおじさん1号】さんが声をかける。
みんなが一斉に『うんうん』と行動エモーションを出すと
HELP主がちょっとほっとしたようなそんな空気が画面から流れてきた。
「紗奈さんから連絡もらったんだけど、戒さんが壁で私たちが攻撃。
トドメをこの子がするでOK?」
「それでいいよー。」
「そうだなーそれがいいなー。」
各々の発言が頭の上を飛びまくる。
「凪ちゃん凪ちゃん」
「ん?どうしたの紗奈さん」
「凪ちゃん戒さんの戦いみたことないでしょー?なかなか彼も強いのよ」
「ほえー、そうなんですか」
「うん。なかなかのものよ」
「沙奈さんハードル上げないでくれる?」
「ふふふ がんばるがよい♪」
【紗奈】の言葉に鈴子は画面の前で
自分がこの状況を少しワクワクしているのを感じていた。
圧巻・・・と言ってもいいと思う。
鈴子は画面の前で硬直していた。
今回のクエは大型のヘビを4体倒すというもので、
そのヘビの防御力の高さにこのクエストを行った当時の鈴子は
かなり苦戦した覚えがある。
まずは盾役。
これが一手にヘビの攻撃をうけ、その隙をねらって攻撃していくのだが
【戒】の受けているダメージはわずか「1」。
こっそりと戎の装備を見てみようとキャラクターを右クリックして画面を開き、
開かれた戎の装備に鈴子は軽く目を見開く。
このゲームは課金していると『装備』の他に
『アバター』といって別の衣装を表示させることもできる。
今鈴子が目にしているのはアバターの下に着ている装備である。
鈴子もアバターは可愛いしっぽの生えた衣装を着てはいるのだが
戦闘用装備は俊敏性を考えて軽鎧で固めてある。
軽鎧は俊敏性には特化してはいるのだが、
こういった盾役にはむいてない装備である。
盾役は重鎧を着こむが通常なのだが、
戎は重鎧どころか衣装すら身につけていなかった。
(え?ってことは今見えてるアバターだけで防御してるってこと?)
鈴子の頭の中はもうぐるぐるである。
自分がもし盾役なら100~200前後のダメージは覚悟しなければならない。
そう考えるとこの【戒】という人物がどれだけ自分より強いのか。
数年前に苦戦したとはいえ、あれから苦手な戦闘も少しずつも行うようになり、
今は多少強くなったかな?と思っていた鈴子の自尊心を砕くような【戒】の姿に
ヘビを遠距離攻撃しながらついついその姿を目で追っていた。
強いな・・・すごいな・・・どんなスキル持ってるんだろ。
鈴子の中に生まれた【戒】への興味。
それはまだ鈴子自体も気がついていない小さなものだった。
ヒーロー(?)出てきました。
これからどう動いてくれるのか、私も楽しみです♪
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