くまさんのものがたり(その2)
去年のゴールデンウィーク。
ギルマスの送別会で開かれたオフで従兄は【紗奈】さんにひと目で恋をした。
気がついたのは俺だけだろう。
いつもとテンポの違う従兄。
【紗奈】さんに対して挙動不審にならないようにフォローにまわり
その時のオフ会は無事に終わった。
解散して各自自宅へと戻る。
従兄と俺は同じ駅なので当然一緒に電車に揺られる。
押し黙ったままの従兄をたまに横目で眺めつつ
今日アドレス交換した連中にメールを送る作業。
【紗奈】さんは俺に対してもメアドを教えてくれなかった。
いや、今日彼女は誰ともメアド交換はしてなかった。
その代わりなのかスカイプIDは教えていたけれど。
電車のアナウンスが最寄り駅まであと3駅だということを告げる。
いつまでも腑抜けなままじゃ家まで帰りつけるんだろうかと
少し不安になった俺は従兄の身体を軽く突く。
「んだよ・・・」
「もうすぐだぜ」
「・・・ああ・・・って俺なにやってたっけ?」
「はぁ?」
「記憶が所々飛んでる・・・」
マジか・・・
たしかに【紗奈】さんは可愛いとは思った。
けれど俺としてはもうちょっとこう・・・いやなんでもない。
ピコン
軽い音が車内に響いてスカイプにメッセージが送られてきた。
誰だろう?
そう思って画面を切り替えると、噂の本人からだった。
「お、【紗奈】さんからスカ飛んできた」
「!?」
面白いくらいに反応する従兄を尻目に送られてきた文章を読む。
今日のお礼と感想、そしてまた機会があれば遊びましょう。
たった数十文字の文章にさっきまでの顔を思い出して顔が自然とほころぶ。
「・・・おい」
「んぁ?」
「俺のとこ来てないぞ」
「は?個々人に送ってるっぽいしほっとけば来るんじゃね?」
「なんで、お前のほうが、先になんだよ!!」
「知るか!【紗奈】さんに聞けよ」
電車が最寄り駅のホームに滑りこみ、俺は従兄を促す。
なんかこいつたったの数時間で変わりすぎじゃん。
いつもと違う従兄に。
そして従兄を変えた【紗奈】さんに。
俺は少しだけ興味を持った。