その9
「ほれ【凪助】、【紗奈】さん手ぇかせ」
桟橋から船に渡る時少し躊躇してたのを見ていたのか
先に船に乗っていた【小町】がすっと手を差し伸べてくれる。
(こういうとこは優しいのよね…)
「ありがと!」
【紗奈】がすっと【小町】の手を取るとひょいっと船に移動する。
続けて【小町】の手を取ろうとした時、背後から声がかかる。
「【凪】渡れないのか?」
声の主は【戎】
「え?そういうわけじゃないけど…」
少し尻窄みになった鈴子の声に【戎】がくすりと笑う。
「ほら」
鈴子の脇を通り、すっと船に乗った【戎】の手が伸びる。
(え?どうしよう【小町】は?)
と思い、さっと視線を巡らせると
【戎】に鈴子を任せることにしたのか
【紗奈】と船員さんから靴袋を受け取って船内に入っていくところだった。
「えっと、お願いします…」
手、汗かいてないかな…
そんな事を思い、【戎】の手に手を重ねる。
軽く引っ張られ船に渡った時、体の距離が近くなり、
ふっと【戎】から優しい香りがする。
「どうかしたか?」
「あ、ううん!大丈夫。ありがとう」
(ヤバヤバ!【戎】の香りが気になって危うく不審者になるとこだった!)
「気にすんな」
「靴袋!貰ってくる」
「【凪】急に動くな」
靴袋をもらいに行こうとした鈴子の肩を【戎】の手が軽く掴む。
「いくら船がそこそこデカイと言っても急に動くな 危ないだろ」
「あ、うん」
「わかればいい…あ、そうだ【凪】」
「何?」
「俺もBだよろしくな」
そう言って船内に向かう【戎」の後ろ姿。
(これって…【紗奈】さん本当に作為なし!?)
船内に入るところで固まっていた鈴子を
船員さんが心配そうに声をかけてくるまで
その場で思案の海に溺れかけていた。
*
「ではー本日は楽しみましょー!乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
【紗奈】の音頭でみんな一斉に手に持った缶を開けていく。
基本飲み終わった缶と次のを交換と言われており、男性陣の殆どは缶ビール。
「おし、片っ端から焼くぞ!!」と言いながら
もんじゃの容器からキャベツを焼き始めた【小町】に自然と笑みが浮かぶ。
「【小町】やる気満々!」
「こういうのはな、開き直って楽しんだもの勝ちなんだよ」
「はいはい、美味しいの作ってね~」
「【紗奈】さんは俺をなんだと思ってるわけ?」
「手下!」
【紗奈】の言葉にコテを握っていた【小町】ががっくり肩を落とす。
その様子に笑いながらソフトドリンクを口にしていた鈴子は
ふと前に座っている【戎】の飲み物に視線を落とす。
「あれ?【戎】もジュース?」
「あ?ああ、男どもが全員あのペースだと
素面の人間が多少いないと後々めんどくさいことになるだろ。
そういえば【紗奈】さん」
「はぁい?」
「関西組のホテルは聞き出してあるのか?」
「うん 勿論」
「なら最悪叩き込めるな」
「だねー」
他のテーブルを見てみるとたしかに早い勢いで缶ビールが開いてる気がする。
(さすが幹事、こういうトコまで気配りができるなんてすごいな)
後々のことまで考えている【紗奈】と【戎】に鈴子は尊敬の眼差しを送る。
「【凪助】何見てんだ腹減ったのか?」
空気を読まない【小町】の発言に鈴子はにっこりと作り笑顔を見せる
「お前さ、その顔怖えーよ…っと、できたな食うか!」
「【小町】ご苦労!いただきまーす!」
【小町】の発言を聞いた【紗奈】が小さなコテを早速もんじゃに。
「うん、美味しい♪【小町】やるじゃん!」
「お?そうか?」
この後、やる気を出した【小町】がもんじゃを大量に作り上げ
レインボーブリッジが見えるスポットに船が着いても
必死にもんじゃをお腹に片付けるという苦行が鈴子を待ち構えていた。