その6(仮)
大変長らくお待たせいたしました。
その6(仮)アップさせていただきます。
お盆に予定が入ったからといって、鈴子の日常は変わらない。
毎日会社に行って、時々買い物をして帰り、眠る。
彼氏なしアラサーともなれば日常にそんなに変化はないものだ。
ボーナス様が無事降臨されて少しは楽になったものの、
今度はお盆休みに向かっていろいろな仕事が増えてきたのである。
そんな中、久しぶりに早く帰れることになったので
何も用事を言いつけられない間にそそくさと会社を後にする。
一瞬呑みに・・・とでも考えたが相手の美由紀が「今日はデート♪」と
ランチタイムに言っていたのを思い出し、冷蔵庫の中身も補充しないと
いけないこともあって今日は素直に家に帰ることを選ぶことにした。
いつものようにバスに揺られ、今夜の晩御飯の手順を考える。
(冷蔵庫何があったかなぁ・・・)
ぼーっとそんなことを考えてるとスーパー前の停留所の名前がアナウンスで告げられる。
(あ、やばやば乗り過ごすとこだった)
手近にあった降車ボタンを押し、バスから降りる。
季節はすっかり初夏に変わり、額にじんわりと汗が滲みだす。
(早く秋になんないかなぁ・・・)
そう思いながら左右を見て、車が来ないことを確認すると
スーパーへ向かって急いで道路を横断した。
スーパーに入ると冷房が効いており、軽くかいた汗が引いていく。
その心地よさにほっと一息つくと、入り口に積まれていたカゴを手にする。
ここのところ忙しくてコンビニのお弁当か外食だったので、
まともな食材が冷蔵庫にないことを思い出していたのである。
「茄子に人参、キャベツにしめじ・・・あ、厚揚げも買わなきゃ」
今日の夕食は茄子の甘辛味噌炒めにしようと決めていたので
必要な食材をカゴに入れていく。
長ネギ売り場で手にとって選んでいると、記憶に残る優しい香りが鼻に届いた。
(?)
ふと気になり、さりげなく周りを見回すと一人のスーツ姿の男性。
長ネギの横に陳列してあるじゃがいもを手にとっているところだった。
(あ、この人私とおなじ柔軟剤使ってるんだ・・・ってどこかでみたような・・・?)
周りから見たら長ネギ片手にうんうん唸ってるように見えるであろう。
しかし鈴子は脳内の記憶を何故か必死で漁っていた。
目の端にその男性が近寄ってきたのがわかる。
それを見るともなしに見て、記憶が鮮明になる。
(ああ!)
思い出した、以前から何度か見かけたことがあった人だ。
少し興味が出てさりげなくカゴの中に目を走らせる。
今日もその人のカゴにはスイーツが入っていた。
1つ記憶がよみがえると次々いろいろ思い出す。
(今日はプリンじゃないんだ・・・ケーキなのね)
このビジネスマンっぽい男性とは
スーパーに寄ったときに何度か遭遇したことがあるのだが
そのたびにこの人はスイーツコーナーにいた。
そして悩んでいた割にはそのカゴにはいつも同じプリンが入っていたのである。
(まぁ男性にだって甘いもの好きな人はいるからおかしくはないんだけど
ご家族へのお土産なのかな・・・)
毎回会うたびにプリンが入っている人。
なんだか微笑ましい気がして口元が緩みそうになるのを理性で抑える。
離れていく後ろ姿を見送って、自分も後でスイーツコーナーを覗いて
いつもこの人が買っているプリンを買ってみるかと鈴子は思った。
*
いよいよオフ会当日。
鈴子は先週末の日曜日、美由紀を誘って服を買いに行っていた。
もちろん今回のオフ会の為に。
最初は手持ちでもいいかなと思っていたのだけれど、初めて会う人ばかりである。
(やっぱり少しでも好印象持ってもらいたいよね)
なんて考え、センスが良いと自他共に認める美由紀に頼み込んで
今回の服をコーディネイトしてもらったのだった。
「鈴子は背があるからロングのスカートが似合うけど、この暑いのにそれは論外よね。
もんじゃ屋形船はお座敷タイプ?じゃあスカートよりパンツのほうがいいかな。
んじゃこれとこれ試着してきて」
と、美由紀に言われるがまま試着を繰り返し、ようやく当日の服が決まった。
身びいきもあるだろうけど第三者である美由紀に「似合ってる」と太鼓判を押された服だ。
たぶん他の人から見ても似合ってる・・・と思いたい。
服に袖を通し、姿見で全身をチェックする。
「お化粧よし!服も・・・おかしくないよね?お財布も携帯も持ったし・・・あ、おみやげ!」
関東以外から来るメンバーに小さな関東銘菓を鈴子は用意しておいた。
小さなものにしたのはお財布の事情ではなく、手荷物になってはいけないからである。
5cm四方のサイズならかばんの隅っこにでも入れてもらえるだろう・・・
そう考えたからで、断じてお財布の事情ではない!
それに蓋をあけてみたら関東以外から来るのは5人だけだったのである。
関東組も出席者は6人だった。
さすがにもんじゃ屋形船の貸し切りはこの人数だと
お値段がグッとあがってしまうので他の人達と相船になる。
と幹事の【紗奈】から聞いており、あんまりはしゃぎ過ぎないようにしないと。
なんて考えていたのである。
バスに揺られ、電車に揺られ、目的地である銀の鈴近くで携帯を鞄からとりだす。
電話帳から【紗奈】さん と、記載された項目を引っ張りだすと
辺りを見回しながらコールする。
1回、2回・・・5回鳴ったところで電話がつながった
『おはよう【凪】ちゃん!』
『おはようございます【紗奈】さん』
『後ろー、後ろにいるよー』
他にキョロキョロしてる人がいなかったのだろう。
【紗奈】にはすぐ【凪】がわかったらしく、言われるがまま後ろを振り返ると
ぶんぶんを手を振り上げている女性とそれを苦笑しながらみている男性達の姿。
鈴子も同じように笑うと、他の人の進路を邪魔しないように
【紗奈】達の近くに小走りで駆け寄った。
「はじめまして。【凪】です」
「はじめまして【紗奈】です」
ぺこっと二人同時に頭を下げるとお互いに笑みが溢れる。
そんな二人をみていた男性陣が空気を読んで、会話に参加してきた。
やれ最近のギルドがどうだとかいろいろ話していたのだが
男性陣からの名乗りは未だない。
どうやって聞いてみようか悩み始めた頃、
男性のうちの一人が会話が途切れたのを狙ったかのようにニッコリと微笑んだ。
「改めましてはじめまして【凪】さん、さて問題です。
この3人のうちの誰が誰でしょう?」
いきなり出された問題に少しポカンとなる。
失礼にならない程度に3人の男性を見比べる。
そして今までの会話の発言と本当になんとなくこの人かな?と思った人から
「えっと【くま2号】さんに【小町】さん【くま1号】さん?」
と、伺っていく。
「ちぇ一発で当てられるとは不覚!!【凪助】いつもありがとな!!」
そういって【凪】に手を出してきたのは【小町】。
ゲームの中では仲が良い相手の一人で、女性キャラを使い、
生産作業をするときは、悪い意味で必ず【凪】を巻き込む・・・
面倒見のいいキャラなので、今でも昔参加していたギルドとも交流がある。
「【凪】さん勘鋭いなぁ。なぁ【2号】」
「ああ、ちょっと驚いた」
「なんで僕が【1号】だってわかったの?」
「話し方とか雰囲気でなんとなくゲームの中の【1号】さんっぽいなぁって・・・」
「【紗奈】さんも最初僕らの事当ててたよね。そんなにわかりやすいかなぁ?」
「ふふふ~ナイショ♪」
この人が【くま】さん達かぁ・・・
しかし2人共細いなぁ・・・下手したら私より体重軽いかも。
ゲームの中の男性ってア◯バで映像紹介とかされている
男性のイメージがどこかにあったんだけどこの【くまさん達】は全く違う。
2人共後ろから後光がさしていそうな男前です。
そこら辺りを歩いてても絶対にゲーマーだなんて気が付かれないと思う。
それに・・・ほら待ち合わせしてるらしい女の人がチラチラ見てる。
(ありがとうございます。ごちそうさまです。)
【紗奈】さんは思ってたより背が小さいんだかわいい系ってこういう人の事かな。
私の背が高いほうだからこういうかわいい系の服は着られないんだよね。
甘すぎず、しかしかわいい・・・う、うらやましくなんかないんだもん!
【小町】さんは・・・うん、大きい。
背、何センチあるんだろう180は超えてるよね。
【くまさん達】が細めだから余計に大きくみえるなぁ。
【小町】さんはゲームの中でも「俺」と言ってるくらいで
中の人が男性だって隠してないけど・・・
それにしたってこの外見であの華奢なキャラはずるいでしょー。
なんてことを考えてるとは顔に出さないように表情筋を引き締める。
そしてふっと考える。
まだここにいない【戎】さんってどんな人なんだろう・・・
「ねぇ【凪】ちゃん何持ってきたの?」
「あ、えっと関西方面からの人達にちょっとしたお土産を・・・」
【凪】の言葉に4人がはっとした顔になる。
「しまった買うの忘れてた!」
「新幹線組後何分で着く?」
「えっとあと15分くらい?」
それぞれが急に慌ただしくなる。
(しまった。やっちゃったかな・・・)
と鈴子が考えてるといつの間にか【小町】が消えていた。
「あれ【小町】さんは?」
「みんなが一斉に消えるわけにもいかないから代表で買いにいってもらったよ」
「あー・・・私余計なことしちゃった?」
「いやいや元々駅で何か買おうかって言っててさ。それ忘れてただけだから」
「そうそう【凪】ちゃんのおかげで思い出せて助かったわ」
「そう言ってもらえると助かります・・・」
恥ずかしさのあまり、ちょっと小声になった鈴子に【紗奈】がニコっと笑う。
「【凪】ちゃん、今日は楽しもう!」
【紗奈】の言葉に【凪】は「はいっ!」と元気にうなずいていた。
はじめて「中の人」に出会った鈴子。
これからどうなっていくのでしょうか。
作者も楽しみです♪
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