人の想像には限りがある
「お帰りなさい」
スライディール城には、リグリエータがいた。
懐かしい顔の出迎えに、ハシュバルとゾーイはほほを緩めた。
どの将軍もそうだが、総大将キリザの側近であるリグリエータとヤーヴェとは、仕事柄関わる機会が多く、中でも、守護将軍である彼らには、どちらかといえば、リグリエータの方が馴染みが深い。
微細なことから大事まで、総大将の意志命令を過不足なく各諸将に伝え、繋げているのが、この二人だ。
軍上層部が疎漏も遅滞もなく情報共有できているのは、この二人の側近のおかげだろう。
在京していればヤーヴェが顔を見せることもある。が、ヤーヴェは主に外向きの仕事をしているため、頻度としては低い。将軍たちへの連絡は基本、リグリエータが担っており、遠隔地にいるハシュバルたちに文を寄越すのは、決まって、リグリエータだった。
なにせ、彼らが頂く大将は面倒なことが嫌いだ。自ら連絡をくれることなど、まずない。御使い様の降臨の際は、さすがにキリザ自身がペンを取り、書いたものを送ってきたが、大雑把な大将が寄越したのは『心配ない』という一文にすらなっていない、短いものだった。
ハシュバルたちは全容を、リグリエータのもので知った。
必要なときに必要なだけの情報を、きちんきちんと寄越してくる総大将の側近を信頼し、親しみを覚えるのは当然だろう。
以降もリグリエータは小まめに連絡を寄越したが、それが、あるときからヤーヴェに代わった。
多忙のため交代したという。
王都の状況を考えれば、そうだろうな――
と、そのときは納得し、特に心配もしていなかったハシュバルとゾーイだったが、
「久しいな、リグリエータ」
「元気にしてたか?」
「はい……おかげさまで」
リグリエータのどこか投げやりで、ほのかにやさぐれた気配まで漂う笑みを見て、急に心配になった。
城内の警備にあたっているのだろう、随所に立つ騎士たちは皆、普通の笑顔を向けているため、尚更だ。
「……」
「……」
無言になったハシュバルとゾーイを見て、キリザが笑った。
「こいつ、玲ちゃんたちにえらく気に入られちまってな。傍から離してもらえないんだよ。おかげで元から良くない人相が、さらに悪くなっちまって……なあ?」
「……」
笑みと睨みを交差させる主従の傍らで、エルーシルが大きくうなずいた。
「そうなんだすよ。すごいんだすよ? リグリエータさんは。良子様にも信頼されてるだす。あの良子様にだすよ? わしなんか会うたび怒られてるというのに……。ほんにすごいだす。良子様に叱られていないのは、リグリエータさんとゼクトさん、あとは、レイヒ将軍とルゼー将軍くらいだすよ? 尊敬するだす」
「……」
「……」
感嘆の声に、ハシュバルとゾーイは思わず視線を動かしてしまった。
彼らが目を向けたのは、すごいと称された人物たち――ではなく、そこから漏れてしまった人物だ。
しかしウルーバルの上は素通りする。
なにせ、姿も気質も似通った兄弟だ。その弟が、毎度のように叱られているというのだから、兄のウルーバルだけが免れる――ということはないだろう。
剣でも馬でもなんでも器用に操るが、そういった器用さは、この兄弟にはない。ゆえに納得できる。
が、謹厳実直の鏡である第一王子――その性情はもちろん、畏怖の権化ともいえるソルジェの名が挙がらないのは、彼らには意外にすぎた。
叱ることはあっても、その逆はない。
いい忘れか?――
二人がソルジェからエルーシルに視線を移し、目顔で問う。と、
エルーシルが「ふふふ」と笑った。
「殿下はわしの、叱られ仲間だすよ? もちろん、軍師殿も仲間だす」
「……良子は厳しいのだ」
やや悄然としたソルジェの声を聞いて、
「ははは」
「ふふ」
「んだ」
キリザばかりか、レイヒとウルーバルまでが笑い声を上げる。
「……」
「……」
「ははは」「ふふふ」と笑う総大将たちの陽気の影で、ハシュバルとゾーイは密かに頷きあった。
(……俺たちには、少々荷が重そうだな)
(ああ。お側近くは遠慮したほうがよさそうだ)
そうして二人が心の準備をしている間に、大広間の開け放たれた扉が見えてきた。
目的地を間近にして、緊張する――その前で、新将軍が気炎を上げた。
「皆、いくだすよー! たのもー!!」
しかし気炎は、放たれた瞬間、怒りの声に払われた。
「うるせえ! 真後ろで吠えるんじゃねえよ!!」
「へへ、すんませんだす。ついうっかりだす」
「ったく、うるさくしやがって……また良子ちゃんに叱られるぜ」
顔をしかめながら、キリザは広間に入っていく。
ハシュバルとゾーイは、総大将までがその対象になっていることを悟って、唖然とする。
その間に、ソルジェとレイヒが「すまんな」「がんばってください」と個々に言い置いて、
ルゼーは一瞥すらくれず、
ウルーバルは微笑みながら、
側近たちも、次々に大広間に入っていく。
そして、三人の守護将軍と新将軍のエルーシルの四人だけが、本当に、扉の外に残された。
◇ ◇ ◇ ◇
「がんばるだすよぉ」
「……そうか」
「そんな気負わなくていいぞ、エルーシル」
「そうだ。明日もある」
ひとりは意気も盛んだが、いまひとりは、すでに諦めの境地に片足を突っ込んでいるようで、残る二人も積極性を失っている。
そんな、目に見えて温度差が出はじめた将軍たちの前に、美しい娘たちが近付いてきた。
四人の娘たちの姿を目にした瞬間、ハシュバルとゾーイは目を見張った。
圧倒的な存在に、思わず身を固めた二人だったが、即座に頭を垂れる。
アルラバートも、二人ほど深くはないが、礼の姿勢をとる。
「皆さん、どうぞ、お顔を上げてください」
三人が面を上げる。と、かがやく瞳がこちらを見つめていた。
「ハシュバルさん、ゾーイさん、はじめまして。遠路をご苦労様でした。長旅でお疲れでしょうが、もう少しだけ、お付き合いくださいね。アルラバートさんも」
黒髪の美しい娘は凛としながら親しみを感じさせる声でそういうと、女王然とした雰囲気を一変させた。
「さあ、エルーシルさん、準備はいいですか?」
「いつでもいいだすよ!」
「それではいきますよ?! そもさんっ!!」
「せっぱだすー!!」
「……」
「……」
なにやら、驚く間もなくはじまった。
◇ ◇ ◇ ◇
同じ頃、同じスライディール城内だが別の場所では、守護将軍の部下たちが驚き、戸惑っていた。
ハシュバル、ゾーイ配下の武官である彼らは、スライディールの城に入るなり、主たちと引き離された。
待っていたのは、アルラバート配下の武官たちだった。
『お前らは、俺たちと、こっちだ』
会うのは久しぶりだが、よく知った同僚だ。先着していた彼らの言を、拒否するいわれはない。
何の不思議も思わず、いわれるがまま付いていった男たちがたどり着いたのは、主たちが向かったのとはまた別の、御使い様たちの居室だった。
まさか、主たちより先に引き合わされるなど思いもしていなかった男たちは驚き、中に通されて、さらに驚いた。
「皆さん、お疲れでしょう。まあ、座ってくださいよ。どうぞどうぞ」
大柄に陽気をまとった男が、男たちを招き入れた。
主のような言動に、別の男が顔をしかめる。
「お前が言うなよ、ガウバルト」
「いいじゃないですか。老先生は今いないし、カーマベルクさんは、ほら、歓待するとか柄じゃないし、ね? ……あれ? カーマベルクさん、怒ってます?」
「いや」
「良かった。怒ってるのかと思いましたよ。怖いっすよ? 顔」
「……」
「いい加減にしろ、ガウバルト。ああ、皆さんどうぞ、座って、召し上がってください。たくさんありますからね。遠慮なく、つまんでください」
「お茶が足りなかったら言ってくださいね。スルーエさん、そっち、カップ足りてます?」
「ああ、足りている。ありがとう」
「おい、シャルナーゼ。見てないで、ちょっとくらいお前も手伝えよ」
「いや、自分、護衛なんで」
「俺たちは殿下の側近なんだがな?」
「いえ、なんでもできるバルキウスさんとジリアンさんに、お任せしますよ。俺、主に似て不器用なんで……」
「武器ならなんでもござれが、何言ってる」
「武器と茶器は違います」
「ははは」
「バルキウス、いいさ。俺たちが手伝おう」
「そんな――」
「向こうじゃ、皆、当たり前にやってる。心配するな」
「いや、そうじゃなくてですね」
「わかってる。でもな、三日もいれば、もう客じゃない。だろう?」
「そうだな」
「することもないしな。ああ、お前らはいいから、そのままそこで座ってろ」
「戻ってきたばかりだ。遠慮するな」
「……」
「……」
久方ぶりに会う同僚たちはいってくれる。
が、遠慮も何も――今来たばかりの男たちは、驚きで動けない。
御使い様の居室だというのに、ここは、男だらけだった。しかも軍人――武官の中でも、高位のものたちばかりだ。それがてんでに、自由にやっているのだ。
さすがに遊興にふけるものはいないようだが、スルーエら――北の兄弟の部下たちは、奥まった場所で書類を広げており、今はこちらに移ってきたシャルナーゼは、先まで前室で、悠々と剣を磨いていた。
ガウバルトとカーマベルクは、それぞれ個掛けのソファに座り、ジリアンとバルキウス――第一王子の側近たちは、侍従のように動き回り、それをアルラバート配下の武官たちが手伝っている。
軍の一室にいるのか――と、錯覚を起こすような光景だ。
が、ここは間違い無く、御使い様の居室だった。
小柄な御使い様たちは、部屋の中央――大柄な男たちに囲まれながら、ソファの真ん中でちんまりと座っていた。
「どうぞ、みちる様。はい、結衣様も」
「これ、ちょっと盛りすぎちゃいましたかね?」
と、第一王子の側近たちが、かいがしくやっている。
いないも同然――の扱いではなく、とても大事にされているようだ。が、黒服の男たちに占拠されている感は拭えない。
御使い様の居室が、なぜ高位武官たちのサロンのようになっているのか――
何がどうなればこうなるのか――
来たばかりの男たちは理解に苦しんだ。
しかも、目の前に座る御使い様たちも、よくわからない。
ひとりは普通に微笑んでいるのだが、もうひとりの御使い様の面が、たいそう険しいのだ。
二人の御使い様の表情があまりにも違いすぎて、こちらはこちらでわけがわからない。
体調が悪いのか、機嫌が悪いのか、人と馴染まない性格なのか――
男たちが険しい顔の理由を推し量っていると、険しい顔をした御使い様が、口を開いた。
「どうぞ……」
山形の唇からでてきた声は、当然のことながら、低く、重かった。
「……」
「……」
表情まんまの声に、男たちが声も手も出せずにいると、
「みちる様――」
しかめっ面の御使い様の横隣を陣取っている男――ガウバルトが、同じようなしかめっ面を御使い様に向けた。
「お茶を勧めるのに、そんな栗の渋皮みたいな顔されちゃ、皆さんも手が出せませんよ」
「渋、皮?」
「すいませんねえ、皆さん。ウチの御使い様ときたら最近機嫌が悪くって。ほーら、みちる様。みちる様の好きな菓子ですよー。俺のもあげますからね、いい加減、その、栗みたいな顔は止めてください。まあまあ可愛い顔が台無しですよ?」
「まあまあ?」
「すいません、俺、嘘がつけないんで。大丈夫ですよ。それなりに可愛い――」
「それなり?! なんですかそれ? そんなだったら言ってくれないほうがマシですよ!!」
「まあまあ、いいじゃないですか。はい、これあげますから、機嫌直してくださいよ。みちる様、好きでしょ? これ」
「食べ物なんかでごまかされませんよ。だいたいそれ、ガウバルトさんの好物じゃないですか、わたしが好きなのはコレですー」
「……」
「……」
険しい顔の御使い様は、口を開けばとても元気で、たいそう馴染んでいた。
不機嫌の理由もなんとなくわかったが、どうにも反応しにくいやりとりに、男たちが相槌すら打てず困っていると、もうひとりのにこにこしていた御使い様が、口を開いた。
「どうぞ、皆さんも召し上がってください。食べ物も飲み物もたくさんありますから、遠慮しないでくださいね。カーマベルクさんも、いただきましょう」
「あ、はい」
「いただきまーす」
「いただきます」
二人が手を伸ばすのを見て、男たちも手を伸ばした。
◇ ◇ ◇ ◇
「皆さん、今日はありがとうございます」
お茶を一口、お菓子をひとつ食べた結衣が、初顔合わせとなる男たちに笑顔を向けた。
「いえ、こちらこそ」
「突然申し訳ありません」
いいながら、男たちは茶器を置き、揃って頭を垂れる。
固くかしこまる男たちに、
「とんでもない」
結衣が慌てて手を振れば、
「いいんですよ。ほんと気にしないでください」
みちるも、笑顔ではないものの、首を縦にする。
「しかし、お邪魔でしょうに……」
「ぜんぜんです。それにわたしたち、こういうの、慣れてますから。ね? ちるちゃん」
「そーなんですよー。誰かさんのおかげでねっ」
「それ、俺にいってます?」
「どうしよう? 結衣ちゃん。嫌味も通じないよ?」
「だって、ガウバルトさんだから……仕方ないよ?」
というのを聞いて、アルラバートの部下たちが笑い声を上げた。
「良くおわかりですね、結衣様。その男はまあ、無礼無頼の無神経で名が通ってますからね」
「あー、わかります」
男の声は結衣に向いていたが、応えたのはみちるだ。
深く頷くみちるに、別の武官が笑顔を向ける。
「そっちの一見、神経細やかそうな男も、そうですよ、みちる様」
「納得です。というか、知ってます」
「二人とも、恐ろしく腕は立つんですがね」
「それは知りません。食べてるか、何か磨いてるところしか見たことないんで、わたしたち」
「なんなんすか、みちる様」
一々すべてに反応するみちるに、ガウバルトは言う。が、その顔は嬉しげだ。
「だって、本当に護衛らしいとこ、見たこと無いもんねー? 結衣ちゃん」
「うん」
「結衣様まで、なんです?」
「ガウバルト……お前らいったい何やってるんだ!」
ハシュバル配下の武官が、ガウバルトを睨みつける。
みちるの態度と言葉が急激に軟化するに従って、男たちの緊張も急速にほぐれていき、常の武官の顔に戻っていた。
「いや、俺らはお二人をお守りするためにですね――」
「嘘ですよー! ここには休憩しにきてるって、この間聞きました! 丁度いいとか言ってましたよ! この人」
ここぞとばかりにみちるが言う。
「ちょっ、みちる様、何――」
「お前……」
「いや、違うんすよ」
「何が違うんだ?」
「言ってみろ」
終にはハシュバル、ゾーイ配下の武官全員に、ガウバルトは睨みつけられた。
◇ ◇ ◇ ◇
「みちる様……後で覚えといてくださいよ」
「御使い様に覚えてろとは、また偉くなったもんだな、ガウバルト」
「それにまだ、答えてないぞ、お前」
「勘弁してくださいよ」
ガウバルトは白旗を上げた。
いくら肝の太いガウバルトでも、自分より高位の武官――それも五人全員に、真正面から睨まれては、さすがにどうしようもないようだった。
逃げも隠れもできないガウバルトの一方で、シャルナーゼは姿を消していた。
雲行きを読んだ護衛はひっそりと、元いた前室に退いていたのだった。
しかも、ひとり、強面の武官たちから睨まれるガウバルトの横では、
「もっと言ってやってください、もっと言ってやってください」
みちるが元気良く音頭をとっている。
それはそれで、とてもおもしろい光景だったが、さすがにこれ以上はガウバルトが気の毒なので、結衣が間に入った。
「皆さん、ガウバルトさんを怒らないでください」
「え? 結衣ちゃん?」
「だって、ちるちゃん、ここには変な人は入ってこれないんだから、守るも何も無いよ? それに、ガウバルトさんたちは、アリアロスさんの護衛でしょ?」
「そうだけど……休憩に来てるんだよ?」
「ちるちゃん? ガウバルトさんや、他の皆さんが来てくれなくなったら、どうする? すごく寂しくなっちゃうよ? 勉強ばっかりになっちゃうよ? いいの?」
「……」
やっぱりそれは嫌なのか、ガウバルトのドヤ顔が視界に入ったのか、みちるがふたたびしかめっ面になる。
それを見届けてから、結衣は男たちに笑顔を向けた。
「わたしたち、ガウバルトさんとは仲良しなんです。ガウバルトさん、ちるちゃんを構いすぎて、いっつもちるちゃんを怒らせてますけど、わたしはそれを見るのが大好きなので、お願いですからガウバルトさんを怒らないでください」
「……そうですか」
「御使い様がそうおっしゃるのなら、仕方ありませんな」
やりとりの気安さから、だいたいの見当は付いていたのだろう。男たちは、表では渋々という風を見せながら、すぐに引き下がってくれた。
「ありがとうございます」
「いえ」
と結衣に向かって首を振った男は、次に、とてもわかりやすくがっかりしているみちるに顔を向けた。
「みちる様、こいつらが目に余るときは、遠慮なく俺たちに言ってください。いつでも叱りつけてやりますから」
「……ありがとうございます!」
みちるの面がかがやいた。
先のがっかりが嘘のような笑顔に、隣に座る結衣はもちろん、男たちもほほを緩めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「これ、すっごくおいしいんですよ。わたしのお勧めです」
「ほんとにたくさんあるんで、いっぱい食べて帰ってくださいね」
「なんなら、持って帰ってもらってもいいですよ?」
「お土産にどうぞ」
あらためて、互いに名を名乗ると、小さな御使い様たちは、たいへん気前よく、男たちをもてなしてくれた。
結衣はずっと笑顔のまま。
山の天気のようにころころ表情を変えていたみちるも、憂いの無くなった今は、良い笑顔で菓子を頬張っている。
みちるの面が険しかったのには、やはり理由があった。
なにかと絡んでくる面倒くさい護衛に、初顔合わせの緊張。それともうひとつ。
『あの、せっかく名乗っていただいたんですけど……』
『わたしたち、皆さんの、顔は多分大丈夫だと思うんですけど、名前の方は、はっきりいって、覚えられる自信がありません!』
『すいません』
『本当ただのいい訳なんですけど……毎日色々、もう、いっぱいいっぱいなんです、わたしたち』
『すいません』
引き合わされる相手の顔と名前が覚えられないまま、どんどんその数だけが増えていく――その辛さと、己のふがいなさと、相手への申し訳なさに、面を曇らせていたのだった。
それを隠すことなくぶちまけ、潔く頭を下げる御使い様たちに、男たちは笑ってしまった。
『お二人とも、どうぞお顔を上げてください』
『もとよりそのつもりはありません』
『左様。一人二人ならいざ知らず、武官だけでも何十という人間の顔と名前を一度に覚えるのは、至難の技でしょう』
『我々のことは、見たことがあるな――程度に記憶にとどめてくだされば、それで十分ですよ?』
『そもそもこのような顔合わせは、我らがお二人のお顔とお名前を覚えるためのものですから、どうぞお気になさらないでください』
『ありがとうございます』
『みんないい人だ……』
結衣とみちるは満面の笑みになった。
それから二人はすっかり打ち解け、男たちも、飾らない御使い様たちに、構えを解いた。
どうぞどうぞと勧められるまま茶を飲みながら、
「ありがとうございます。しかし、結衣様、みちる様、こちらはお二人の居室ですのに、これだけの人間がいたら、落ち着いてお過ごしになれないのではありませんか?」
男たちは先からずっと気になっていたことを訊いた。
「普段からこうなんですか?」
「そうですよ。でも、いいんですよ? 今ここは、皆さんに使ってもらってますんで」
憂いのなくなったみちるが、あっけらかんと答える。
「は?」
「お二人は?」
「勉強は、別室でしてるんです。前はここだったんですけど……」
「毎日たくさん人が来るし、勉強してるんだか、何してるんだかわからなくなってきて……。きちんと分けた方が良いって、先生にも言われたんで、移ることにしたんです。他にも部屋はたくさんあるんで、ぜんぜん大丈夫ですよ?」
「ここよりは狭いですけど、わたしたちはそっちの方が落ち着くんです。寝室だって、ちゃんと別にあるんですよ?」
「最低限のプライベート空間は死守してますから、ご心配なく」
「いや、そういうことではなくてですね……」
「人を制限すればよろしいのでは?」
「左様、なにもお二人が移られることはないでしょう」
男たちの声に、結衣とみちるは顔を見合わせて笑った。
「制限できない人もいるんで……」
聞くなり、男たちが視線を動かした。
「ガウバルト……」
「お前……」
「いや、まあ、そうなんですけどね。でも、今お二人がおっしゃってるのは、俺じゃなくて、北のご兄弟のことですよ?」
その名を聞いて、男たちは、スルーエら――北の男たちがここにいる理由を悟った。
主二人を回収するために待機しているのだとわかれば、北の中でも精鋭中の精鋭といわれる面子が顔を揃えているのも頷ける。
「その、北のご兄弟をここに連れてきたのは、どこのどなたでしたっけ?」
「みちる様――」
いいかけたガウバルトだったが、武官たちに睨まれ、みちるへの言葉は飲み込んだ。
「ええ、確かに、北のご兄弟をここにお連れしたのは俺ですよ。でもあのときはそうするしかなかったんですよ。お二人も、仕方ないっておっしゃってたじゃないですか。あのまま放っておいたら、ご兄弟のことですから、絶対広間に行ってましたよ? 俺は、あのとき俺ができる範囲の中での最善を取ったんです」
「それはそうですけど……わたしたちはその日だけだと思ってたんですよ」
「俺だってそうですよ。まさか、ご兄弟がこっちにも毎日いらっしゃるようになるなんて、俺だって思いもしませんでしたよ」
「やっぱりお前か、ガウバルト」
「いや、それに関しては言い訳できませんけどね。でも、俺ばっかりじゃないんですよ? バルキウスさんたちだって、勝手に人は連れてくるし、骨休みの場所にしてるんですよ?」
「お前らと一緒にするな、ガウバルト」
「そうだ。俺たちは、こちらの皆様のお手を煩わせないよう努力してる」
同じ穴の狢扱いされた第一王子の側近たちが、抗議する。
努力していると言うだけあって、高位貴族の若様であるにも関わらず、バルキウスは食べ物の載った大皿を、ジリアンはポットを手に、動き回っている。
そんな彼らを、
「何いってんすか、同じですよ」
何の努力もしてなさそうな護衛――ガウバルトが一言で片付ける。
「お前……」
再び気色ばむ男たちを、
「ああ、いいんです」
結衣がなだめた。
「本当にいいんです。使ってくださいっていったのは、わたしたちなんですから」
「しかし……」
「それに、皆さんが来てくれないと、逆にわたしたちが困るんです」
「……」
男たちはわけがわからず、眉根を寄せた。
「こちらの皆さん、よくしてくれる人がほんと多くて。この間、大臣のロメルさんたちが、わたしたちの後見人になってくれたんですけど……」
「ああ、帰り道で聞きました。ロメル卿とリムナクス卿、アビア卿のお三方が、お二人の後見になられたそうですね」
「確かな方たちですから、安心ですね」
「そうなんです。それはとっても嬉しいんですけど……皆さん、すごくたくさん贈り物をくれて」
「……それは別に、よろしいのでは?」
男たちが不思議そうな顔を並べる前で、
「それがよろしくないんですよ――」
みちるがまなじりを下げた。
「贈り物をくれるのが、ひとりとか、ちょっとずつだったらいいんですけどね」
「後見人じゃない他の大臣さんたちも、色々たくさん届けてくれて……」
「着るものとか、食べ物に困ってるように見えたのかな? ぜんぜん困ってないのに……」
「やっぱり見た目が貧相なのかな? わたしたち」
「いや、そいうことじゃないでしょう?」
ガウバルトが笑う。
「老先生も言ってたじゃないですか。あれは、大臣の皆さんの、結衣様とみちる様への謝罪と感謝の気持ちですよ、き、も、ち」
「謝ってもらうことなんか無いのに……」
「あんなの、ちょこっと励ましただけですよ?」
「だからそれが、大臣の皆さんには嬉しかったんでしょう。ありがたくもらっとけばいいんですよ。断る方が失礼です。それより問題は、ミレアさんの方でしょう」
「ああ……ミレアさん」
「やっぱ、そっちだよね」
名前を聞いた途端、結衣とみちるの顔が曇った。
「ミレア?」
「ユリアノスさんの奥方ですよ」
怪訝を浮かべる武官たちに、ガウバルトが答えた。
「ユリアノスの?」
「ああ……そういえば、結婚したと聞いたな」
「コルト領主のご息女だったか?」
「そうです。そのミレアさんが、礼儀作法の師ということで、こちらに来てくださってるんですよ。玲様たちのところへも顔をだしていらっしゃるんですが、今じゃ、ほとんど結衣様とみちる様のお相手というか、勉強から何から、お二人に関わるほとんどを面倒見てくださってる状態でしてね」
「ほお」
「よく存じ上げないが、良いお方のようだな」
「良い方ですよ。高貴な生まれの方々にありがちな、高慢なところがまったくないんですから。誰にも優しいですしね。それでウチのお二人もすっかり懐いちゃって」
「いいじゃないですか」
口を尖らせるみちるに、ガウバルトが笑顔を向ける。
「そりゃいいですよ。お二人には心の支えですし、ミレアさんも、お二人に頼られることで、やりがいと自信をもたれたでしょう。とても良い関係だと思いますよ?」
「……それでどうして」
怪訝の声に、ガウバルトは目を移した。
「ミレアさん本人はいいんですよ。問題は、ミレアさんのお父上なんです」
「オーレン卿か?」
「そうなんです」
と、頷いたガルバルトは視線を落とし、
「俺はよく知らなかったんですが――」
らしくない調子で続けた。
「ミレアさん、こっちに嫁いで来てからずっと、寂しい暮らしだったようで……。まあ、それはしょうがないですよね? 相手はユリアノスさんだし、あの人も、殿下のことしか頭にありませんでしたからね。ユリアノスさんにしてみれば、殿下をおいて、自分だけが幸せになる――なんて、到底考えられなかったんでしょう。けど、ミレアさんにしてみれば、辛いですよね? 相手にされないってのは」
「……」
「……」
第一王子ソルジェや、その周辺のことをよく知る男たちは、どちらがどうとも言えなかった。
「それと理由がわかってても、若いお嬢さんですし、寂しいものは寂しいでしょう。こっちには親しい友人もいない。慣れない王都の慣れない家で、ひっそりしてたのが、御使い様がいらっしゃって変わったんですよ。ミレアさん本人が、御使い様の話し相手に抜擢されたのも、もちろんそうですが、最大の理由は、ソルジェ殿下が伴侶に選ばれたことでしょうね。あれで、ユリアノスさんたちが変わりましたからね。今じゃ、毎日ミレアさんを自分で送り迎えですよ? これまで寂しい思いをさせた埋め合わせか何だか知りませんけどね」
「ふふ」
「そうか……」
呆れたように言うそれに、男たちは顔をほころばせた。
「それに、ミレアさん自身も変わられましたからね。結衣様とみちる様のこともそうですが、玲様からの依頼なんかもあるそうで、家でもゆっくりできないくらい忙しくされてるみたいですよ。こっちで生き生きと動き回ってるミレアさんを見て、お父上のオーレン卿には、それがよほど嬉しかったんでしょうね。まあすごい量の贈り物を、こちらに届けてくださるようになりましてね。いやあ、金持ちは違いますよ」
「そんなにか?」
「すごいですよ? 初回はお引取り願ったそうですよ。中を検めるだけでもたいへんですからね。しかもミレアさんのご実家だけじゃなく、嫁ぎ先――ユリアノスさんのご実家からの届け物も、どんどん増えてましてね。若夫婦の仲が好転したのが、そちらも相当嬉しかったんでしょう」
「そうか……」
「悪い話ではないが……」
「何事も、ほどほどがいいということだな」
「そうなんですよ。気持ちは無下にできませんし、ウチの御使い様はそういうのに慣れてませんから、せめて高価なものだけでも止めて欲しいと言ったら、今度は食い物が山ほど届くようになりましてね。珍しい果物とか、菓子とか……まあ、どちらの家も、うなるほど金を持ってますからね」
「ああ」
「それでか……」
所狭しと並ぶ大皿に、山と盛られたそれらを見ながら、男たちは納得した。
「お二人も食べるのはお好きですけど、さすがに全部は無理ですからね。それで俺たちが消費に一役買ってるってわけです」
「そうなんです。だから皆さんも、空いてる時間があったら、ここに来てくださいね。もちろん無理にとはいいませんけど……」
「食べていってもらえると、ほんと助かるんですよ」
請うようにいわれれば、男たちも頷くしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「まあ、だいたいのところはわかりましたが……」
「え? 邪魔とか、ぜんぜん思ってませんから、ほんと気にしないでくださいね?」
「そうですよ。うるさいのはガウバルトさんだけですよ? 他の皆さんは、ほんと紳士なんで、邪魔だなんて思ったこと、一度もありませんよ? やっぱり武官になるような皆さんは、違いますよね」
「いや、エルーシル将軍はうるさいでしょう」
「エルーシルさんは面白いからいいんですよ」
可愛くない口調でガウバルトに言い返したみちるは、
「楽しくって、時間があれば、ずっと聞いてたい話ばっかりなんですよ?」
目をかがやかせて男たちに訴え、
結衣は結衣で、
「それに、長くなりそうになったら、スルーエさんたちが切り上げてくれますから」
言いながら、奥の席にいる男たちに笑顔を向ける。
すると、同室にいながらどのやりとりにも関知せず――だった男たちが反応した。
ピタリと仕事の手を止め、結衣とみちるに向かって小さく頷きを返した――と思うと、すぐさま仕事に戻る。
「……」
「……」
エルーシルの訪問が歓迎されているのは予想外だったが、スルーエたちは、思った通り、回収要員だった。
男たちはそのまま、勤勉寡黙な同僚たちを見つめた。
産地は同じだというのに、銀髪の北の兄弟と、彼らに仕える男たちの性情は、真逆といっていいほどに違っていた。
生真面目なのは、もともとの、持って生まれた気質だろう。身分や環境、属していた国の気風――そうした後天的な要因もある。しかし彼らが一様にそうなってしまった最大の原因は、彼らが仕えている二人の主だろう。
能力は人外。気質も人並みから大きく外れている。
そんな主を二人も持ってしまった男たちの苦労は、並大抵のものではない。
しかし、厳寒の地に生まれ、厳しい規律の中で育った男たちは、幸か不幸か――忠誠心厚く、たいへん辛抱強かった。
彼らは主たちが何をしでかしても、決して恨まず見放さず、自身は捨て鉢にもならず、周囲に頭を下げながら、ただひたすら兄弟に仕え、支え続けている。
今も黙々と――その最終目的は主の回収だが――待ち時間も無駄にせず、主たちの分まで働いている。
喜怒哀楽を見せず淡々と働く姿は、どこか人間味がなく、他者の目には不気味にも映る。
だがそれも、何年も続けば見る側の気持ちが変わってくる。
今はもう、尊敬の念しかない。
いつ会っても変わらない。同僚たちの姿に、男たちがつくづく感心していると、
「だから、遠慮なくここを使ってくださいね」
柔らかな声に、意識を引き戻された。
前を見れば、微笑む結衣の隣で、みちるがこくこくと首を縦にしている。
見かけは素朴ながら、愛嬌と優しさを、惜しむことなく、てんこ盛りにされた菓子のようにどかどかと積み上げていく二人の御使い様に、男たちがほほを緩めていると、出しゃばりの護衛がまた口を挟んできた。
「なに、お二人が言われるまでもなく、皆さんこちらにいらっしゃいますよ」
聞くなり、男たちのまなじりできていた皺が、眉間に瞬間移動した。
しかし目の前の剣呑もなんのその――
「皆さん、まだ向こうの御使い様に会ってないでしょ?」
ガウバルトはニヤリと笑う。
「どういう方たちかは、聞きました?」
男たちの剣呑が、警戒心と好奇心に取って変わられた。
「いや、詳しいことは聞いていないが……」
「諧謔がお好きなようなことは、さきほどちらっと聞いたな?」
「ああ」
美しく聡明である――ということは、王都からの連絡で、男たちも知っていた。だがそれ以上のことは、何も知らない。
帰京の途でも、耳に入ってくるのは伴侶や後見人の再選の話ばかりで、御使い様といえば、女神のように美しい――という容姿に関することのみだ。
まさか、諧謔を好み、その相手を将軍たちにさせているなど、今日ここにやってくるまで思いもしなかった。
「お好き――なんてもんじゃありませんよ? それしか考えてないんじゃないか――って思うくらい、人で遊ぶのがお好きですよ。見た目だけは、そりゃもう女神様みたいに綺麗なお嬢さんたちですけどね」
「……」
「……」
「ガウバルトさん、なんてこというんですか」
「そうですよ」
武官たちが黙り込み、結衣とみちるが憤慨する。しかしガウバルトが遠慮することはなかった。
「だってそうじゃないですか。見た目は女神ですけど、中身はとんでもないでしょう?」
「それは……」
「……玲さんたちは、ちょっといろいろ凄すぎますから、しょうがないと思います」
「ふふ……それって、肯定してますよね?」
結衣とみちるを黙らせたガウバルトは、男たちに視線を戻した。
「向こうの御使い様は、悪人ってわけじゃないんですが、善人でもありません。慈悲深いとか、お優しいとか、過去の御使い様にいわれたようなものは、あちらの皆様にはありません。その点だけで言えば、こっちのお二人の方がよっぽど御使い様らしいですよ? しかしあちらの皆様は、とてつもない力をお持ちでしてね。お心清らかでもない、俗で欲の固まりだというのに、とにかく人を惹きつけます。なんていうんでしょうね……太陽みたいですよ。それも、南方の太陽みたくギラギラしてらっしゃいますから、弱い者はその熱にやられます。将軍の皆様くらいに心も身体もお強ければ、それにも耐えられるでしょうけどね」
「……」
「……」
「大丈夫ですよ。武官の皆さんには、たぶんお上品な姿しかお見せになりませんから。将軍の皆様は、それ以外も、色々とご覧にならないといけないでしょうけどね……」
「……」
「……」
「いやあ、将軍とか、なれるもんなら一度はなってみたいとか思ってましたけど、今生でなるのはごめんですね。下手に力なんか持ってると、とんでもない目に合わされるのが、わかりましたからね。大将閣下くらいの力をお持ちじゃないと、太刀打ちなんかできません。なんせ玲様っていうのがですね……この方がソルジェ殿下を選ばれた方なんですけど――」
「ああ」
「それは、俺たちも知っている」
「そうですか。この方がまあ、すごいお方でしてね。他の皆様も色々と厄介なんですが、この方が一番厄介なんですよ。なんせ、大将閣下と副宰相閣下と軍師殿をたして、三で割らないようなお方ですからね」
「は?!」
「何っ?!」
「なんだそれ? 化け物だろ」
「想像つかないぞ」
「御使い様は女性だよな?」
ここまで平静を保っていた男たちの口調が、一気に乱れた。
「ええ、女性ですよ」
ガウバルトは笑い声で応える。
「若いお嬢さんなんですが、信じられないほど肝が据わってらっしゃいましてね。ウチのおぼこい御使い様たちと違って、床ずれしそうなほどに世間擦れしてらっしゃいますし、力もお持ちで、その振るい方まで熟知されてます。相手の度肝を抜くとか、朝飯前みたいにやってますよ? しかもたいへんご陽気でいらっしゃって……それがまた、俺がいうのもなんですが、タチの悪いご陽気でしてね。その陽気の洗礼を、ハシュバル将軍とゾーイ将軍は、今、受けてらっしゃると思いますよ。俺もタチが悪いとか言われますけどね? 玲様に比べりゃ、俺なんか可愛いもんすよ? 俺は軍師殿とみちる様がせいぜいですが、玲様は全方位――その気になれば誰でも……ですからね」
「……」
「……」
「そんな方ですからね、気が抜けません。しかもそのお側にいらっしゃるのは、大将閣下に副宰相閣下、殿下にルゼー将軍とか、気兼ねどころか常に気を張ってないといけないような方たちばっかりですよ? そんなとこ、行きたいと思います?」
男たちは納得した。
「こっちに足が向くのは、高みから下に水が流れ落ちてくくらいに自然です。そういうわけですから、遠慮せず、こちらにいらしてください。食い物は売るほどありますし、うるさくいうお方もここにはいらっしゃいません。お呼びがかかるまで、話に花を咲かせましょうよ。王都も久しぶりでしょう? こっちは色々面白いことになってますよ。まあ、それもこれも、全部玲様のせいっていうか、おかげなんですけどね。ほんと、とんでもないお方ですよ。それで、どれから話します? 御使い様とスルーエさんたちの会見の模様ですかね? 将軍の皆様が、伴侶候補をお断りされた話もありますね。でも、今一番話題になってるのは、エルーシル将軍とアルラバート将軍の話ですから、やっぱそっちのがいいですかね?」
「……」
「……」
陽気な護衛騎士の大口が、動きを止めることはなかった。




