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異世界カルテット ~わがままに踊ります~  作者: たらいまわし
第七章 舞台にあらわれいでたるは
68/81

仕えるものたちの苦労と苦悩

「それで、式はいつですか? リグリエータさん」

「お祝いは何がいいですか?」

「リグリエータさんにはお世話になってますから、式は全力で盛り上げますよ。ど派手な感じがいいですか? 感動的にしましょうか? どちらにせよ、演出はわたしに任せてくださいね。一応、こちらのやり方を基本にしますが、それだけだと少々味気ないので、少しばかり手を加えさせていただきますね」

「大丈夫ですよ。玲ちゃんに任せておけば、忘れられない式にしてくれますよ」

「これでまた、忙しくなるわね」

「はっ」

「でもリグリエータさん、特別な方はいないとおっしゃってたはずですが、いつの間にそんなお相手を?」



 スライディール城の主たちは、リグリエータの姿を見るなりそういった。


 流暢なしゃべりと見事な連携で、他者に一語も挟ませずそう言い終えると、大広間の戸口に立つリグリエータを、生き生きとした目でじっと見つめてくる。




「……」



 リグリエータは相手がいないことを知りながら、とぼけた顔で訊いてくる黒髪の娘に、照準を合わせた。



「まったく、お人が悪い」


 

 ぼそりというその横で、ヤーヴェが小さくふきだした。





◇  ◇  ◇  ◇





「結婚したくても、残念ながら相手がいませんよ」



 ヤーヴェとともにソファに落ち着いたリグリエータは、にこりともせずそういった。



「そうですか。それは残念」



 言葉とは裏腹に、玲は楽しそうに応える。



「リグリエータさんが選ぶなら、さぞかし優秀な方でしょうから、こちらで一緒に住んでいただいこうかなと――」

「いえ、そもそも相手がいませんし、今のお話しで、結婚する気はまったくなくなりました」



 未来の妻は影も形も見えないが、夫婦でこき使われる未来がくっきりはっきり見えたリグリエータは、即座に夢を放棄した。


 その、嘘も遠慮もない答えにヤーヴェが笑い、笑いつつ、訊ねた。



「しかし玲様と瑠衣様は、どうしてあちらに? 以前からあの部屋をご利用でしたか?」



 玲と瑠衣が顔をのぞかせた階上の部屋は、大広間から離れた場所にある、誰も使用していない小部屋だった。だからこその、リグリエータの『結婚するか』発言だったのだが。



「いえ、資料置き場に使わせてもらおうかなと思って、腹ごなしがてら下見してたんですよ。わたしたちだけでなく、中尾さんと村瀬さんも今後利用しますから、お互いが使いやすい場所に置いておいた方がいいでしょう?」

「なるほど」



 ヤーヴェは頷いた。

 同じスライディール城内であるが、新しくやってきた二人の御使い様と、四人の居住区は分かれている。


 というのも、同じ世界から来たとはいえ、その暮らしぶりは異なるようで、もとの世界とこちらでの暮らしぶりの両方を照らし合わせたところ、どちらの過ごし方も、二人と四人とでは、ずいぶん違う(・・・・・・)ということが判明したからだ。


 まず、一日の開始時刻からして違う。

 結衣とみちるは四人の起床時間を聞いて目を見張り、一日の行動予定を見て、絶句していた。



 ヤーヴェは二人の反応を見て、


 やっぱりこの四人は、日々の生活からしてとんでもないんだな――


 と、改めて思った。



 もともとの生活が違う上、こちらに来てからの環境――土台も、二人と四人では、まったく違う。

 片やは初日からサルファ、グレン、キリザから情報を聞き出し、伴侶も決定し、こちらの世界を根こそぎ知り尽くそうかという勢いで学び、基盤を着々と広げ固めている。


 片や、結衣とみちるは閉鎖した空間に閉じ込められ、必要最低限と思われることでさえ、正しく教えられていなかった。途中からウードがついたことで、それは幾分改善されたが、到底満足できる域には達していない。


 すでに遥か先を行く駿馬を、徒歩で追うような形だ。

 いずれ将来合わせるにしても、今どちらかに合わせるのは、どちらにも相当の負担がかかる。そうした理由から、居住を分けていた。






「というわけですから、リグリエータさん」



 玲がリグリエータに顔を向けると、

 


「はい」



 リグリエータがそれに応じた。



「――資料を移す手配ですね。資料リストの作成と、管理は……はぁ、俺ですね。皆さんが自由に使われるんですから、部屋の鍵はかけない方がいいですね。閲覧は自由ですが持ち出しは……制限はしませんが、記録簿を作って、それに記入していただくようにしましょうか。対外秘の資料だけは、これまでどおり、別に管理させてもらいます。それで、よろしいですか?」



 うん、と満足そうに頷く玲を見て、リグリエータは最後に付け足した。



「ああ、あと、発言は慎重に、場所を選んでするようにしますよ」

「いえいえ、遠慮せずいってください、リグリエータさん。そんなことをしたら、ストレスが溜まりますよ? 鬱憤を溜め込んではいけません」

「……さっきそれをやったら、逆に大きくなって返ってきたんですがね。どうすればいいんですか?」

「それは仕事で発散させましょう。はい、どうぞ」



 と、玲がテーブル上に置いてあった紙束を、リグリエータに向かってそっと滑らせてきた。


 リグリエータは顔をしかめた。

 できるものなら押し返したかったが、相手を喜ばせるだけなのがわかっていたので、素直に手に取り、中味をあらためた。


「……」


 思ったとおり。差し出し方はたいへんつつましやかだったが、内容と量はつつましさの微塵もなかった。

 それを確認したリグリエータは頭を起こし、どっしり据わった目を前に向けた。



「玲様、俺の腕は二本で、身体はひとつしかないんですがね?」

「リグリエータさん? 自分がどこまでできるか――自分の限界を知りたくありませんか?」

「いえ、まったく思いませんし、知りたくもありませんね。できれば永遠に」



 率直な答えに、発言者と良子以外の全員が笑った。


 


 

◇  ◇  ◇  ◇





「玲様、今日の面談ことを聞きましたが、わたしは記録をとればよろしいですか?」



 茶器を片手に、ヤーヴェは訊ねた。


 勤勉な四人の御使い様は、今日の面談のために、かなり前から準備をしていた。

 大臣たちの身上書はもちろんのこと、過去一年間の会議録に目を通し、さらにはグレン、キリザ、サルファ、そして四人の伴侶たち――信頼している人間から、彼らに対する心象や外見の特徴など様々な情報を入手し、集積したそれらを頭に叩き込んでいる。



 ヤーヴェ自身も、


『まったくの私見で結構です。ヤーヴェさんの印象は?』


 と訊かれたし、会議録の下読みに始まって、収集した情報の「整理」から「まとめ」まで、すべてをやらされたリグリエータの、『あそこまでやる必要があるか? 俺ひとりにやらせるか?』という愚痴を、詳細付きで聞かされてもいたので、四人の準備が万全であることは知っている。



 先ほどの、『今は身上書と会議録をご覧だ』というリグリエータの声に濃い呆れの色があったのは、自分たちの常識に納まらない数々のことはもちろんだが、もうしっかり頭に刻みこんでいるに違いないのに、際の際まで何度もおさらいをする四人のしつこさ(・・・・)を見てのことだろう。



 準備は整っている。


 周到に、慎重に、そして必要なときには大胆に仕事を捌いていく同僚――リグリエータを感心させるどころか、それを越えて呆れさせる娘たちは、面談での話の組み立ても、すでにしているはずだ。


 ただ顔を合わせるだけではない。

 大臣たちの本音を聞くにしても、おそらく聞くだけではない。それだけのために、これだけの時間と手間はかけない。スライディールの主たちは、そんな可愛らしい人たちではない。


 狙うものがあるはずだ。



 四人の思惑や狙いの邪魔をしたくないヤーヴェは、己が求められる役割を訊ねたのだった。





◇  ◇  ◇  ◇




 

 どうお攻めになるのかな?――



 訊ねた裏でヤーヴェは考えていた。

 知と美貌――両者を兼ね備えたスライディールの主たちは、遊び心に威厳に、毒に棘にと、あらゆる武器を所持している。



 ま、俺の出る幕はないな――



 キリザとサルファが同席しないと聞いて、最初こそ驚いたヤーヴェだったが、今は供された茶に舌鼓をうちながら攻め方を想像していた。


 気楽なヤーヴェであった。



 が、リグリエータはそうはいかない。

 のんびり茶を飲む同僚の横で、リグリエータは渡されたばかりのほやほやの仕事を片付けるべく、動き出していた。


 湯気の立つ茶器をテーブル中央に押しやり、玲から渡された紙束とは別の用紙に、何やらぶつぶついいながら書き付けている。迷いなくペンを走らせ、時折顔をあげては、良子に確認をとっていた。

 


 その傍らで、玲が口を開く。



「いえ、記録は良子と玲於奈がとりますから結構です。ヤーヴェさんとリグリエータさんは、わたしたちの近くで控えていてください。そこで、今日お越しになる皆さんの様子を、よく見ていてください」

「わかりました」



 ヤーヴェは頷いた。聞くものの気分から、その場の空気まで陽気に染めてしまう朗らかな声に、自然とほほが緩む。



「場合によっては、個別に話しをするかもしれませんので、そのつもりでお願いします」

「はい。今日は特に急ぎの用事がありませんので――」



 にこやかにヤーヴェが答えていると、



「そいつはよかった」



 声の途中でリグリエータが仏頂面を上げた。


 玲の声を聞けば、ほほを緩めるものが大半だが、玲の声が朗らかになるほどに、顔を歪めるものもいる。


 それは良子であったり、アリアロスであったり、ときに複数同時であったり――と、玲の声の向く先と、その時々で、相手も表情も変わるのだが……。昨今、集中的、且つ甚大な被害をこうむるようになったリグリエータが、回数、歪み具合、ともに群を抜くようになっていた。



「ヤーヴェ、お前の分だ。割り振りはしたから、そいつらにいって用意させてくれ。回収してまとめるのはセリカたちにさせてもいいが、最終の精査はお前だからな。あと、面会する武官文官たちへの連絡は、お前が責任をもってやってくれ。ま、武官の方はお前がしなくても、将軍閣下が自主的にしてくださるだろうがな。文官連中と、他の細かいことは、お前に頼んだぞ」



 最後の文句と一緒に、紙をヤーヴェの胸に押し付ける。



「ああ、わかった」



 同僚を刺激しないよう笑みも控えめに頷いたヤーヴェは、半ば叩き付けられるようにして渡された紙を手で押さえつつ、目を上げた。



「玲様、急ぎの用ができましたので、わたしは一旦、向こうに戻ります」

「ふふ、そのようですね」

「それではこれで失礼しますが、伴侶の皆様に、ご伝言はよろしいですか?」

 




◇  ◇  ◇  ◇





「『いつも通りいらしてくださいね。お待ちしています』とのことです」


 

 ヤーヴェの声に、伴侶たちはそれぞれに反応した。


「ああ……わかった」


 ソルジェは自分の伴侶を思い浮かべているのか、穏やかに応え、レイヒは笑顔で、アリアロスも笑みこそなかったが、頷いた。

 とそこへ、


「わしには? ヤーヴェさん、わしには?」


 明るい声が飛んできて、


「あるわけねえだろ!」


 太い声が、すかさずそれを叩き落した。






「伴侶でもねえのに、何いってんだお前は」


 呆れるキリザの傍らで、


「いえ、ウルーバル将軍、エルーシル副将軍、両閣下にもご伝言が……」


 ヤーヴェがやや控えめに告げる。


「まじか?」

「はい。良子様から……今日は遠慮するようにと」

「ひどいだす!」

「ははは」


 エルーシルが仰のき、ウルーバルが眉尻を下げ、キリザが呵呵大笑するその横で、ルゼーがこめかみを押さえた。





◇  ◇  ◇  ◇





「……」

「……」


 軍議の場にいた五十人ほどの武官たちは、その様子に唖然とした。


 総大将の意向と性格が反映された軍の会議は、もとより、緊張感みなぎる場になることは、ほとんどといっていいほどなかったが、ソルジェやルゼーといった物堅い将軍たちのおかげで、それなりの格調と緊張感を保っている。


 ついさきほど、各所でささやかれていた軍の編成が現実に、大規模に行われると教えられたこともあり、出席している武官たちはそれぞれに身を引き締め、軍議の緊張も普段以上に高まっていた……のだが。

 キリザの側近ヤーヴェが軍議の席上にあらわれ、その口からスライディール城の御使い様たちの言葉が伝えられると、空気ががらりと変わった。

 

 押し固められた氷雪の如き第一王子ソルジェの、冷厳とした雰囲気が見る間に融け、穏やかになり、謹厳且つ下位者の前では表情を崩さない左将軍ルゼーが、苦い顔でこめかみを揉みはじめた。


 軍の重石である二大威厳が崩れた。

 その結果。



「何でだすか?」

「何でもクソもねえんだよ。今日は大臣連中と会うってお前も知ってんだろ。そればっかりじゃねえ。他にも人が来るし、やることだってあるしで、玲ちゃんたちは忙しいんだよ。お前らの相手してる暇なんかねえんだよ。お前だって山ほど仕事があんだろ」

「……」

「副将軍閣下、今日はご遠慮願いたいというだけで、明日はいつもどおり、お茶をご一緒しましょうねと、玲様と瑠衣様が――」

「ほんとだすか?」

「はい」

「おい、ヤーヴェ。あの二人はそうでも、あとの二人は違うだろ。良子ちゃんと玲於奈ちゃんは、なんていってたんだよ?」

「え、それは……閣下のご想像通りということで」

「二度と来んな、ってか?」

「ひどいだす!」

「ははは」



 キリザとエルーシル――格調、格式などにとらわれない彼らの奔放な口を許すことになり、軍議の間は和やかを通り越し、たいへんくだけた場になってしまった。


 



◇  ◇  ◇  ◇





「まあ……よかったな」

「ああ。何があっても、周りがどれほど騒いでも、軍が落ち着いていられるのは、あの方たちのおかげだ」

「しかし、大陸最強レナーテの軍議が、あんなだとは、誰も思わないだろうな」

「だな」



 散会した武官らは、廊下を歩いていた。

 いつもならきびきびと足を動かし、それぞれの持ち場に速やかに戻るのだが、今日は誰がいうともなく、足並みをゆるく揃えていた。


 彼らは、数いる武官の中でも高位に位置している。各将軍らの手足となって働く実動の要であり、軍の大編成を前にして、ぼんやりしている暇はないのだが、軍議の席で見聞きしたあれこれのせいで、ちょっとした虚脱状態に陥っていた。

 

 そうして三々五々歩いていると、ふいにひとりの男が口元を緩めた。



「しかし、よかった。殿下は今、お幸せでいらっしゃるのだな」


 しみじみという声に、他の男たちも頷いた。


「ああ」

「側近たちを見ててもわかるが、殿下ご本人を見ればな。疑いようがない」

「あのように穏やかなお顔をされるなんて、知らなかったな」

「……まったくな」

「このまま、お幸せになっていただきたいな」

「なられるさ。ずっと辛い思いをされてきた。その分を取り戻していただかないと」

「確かに。しかし、殿下が伴侶になられたのは、ホレイス卿の画策だとばかり思っていたが、違ったのか」

「さあな。副宰相閣下の企みだとも聞くが、今の殿下のご様子を見れば、どちらでもいい」

「そうだな。御使い様とのご関係が良好なのは間違いないんだし。気になるなら、卿が御使い様に直接お聞きすればいいだろう」

「俺ごときが聞けるか。余計なことをいって、御使い様がお怒りになられでもしたらどうする」

「キリザ将軍に張り倒されるか、ルゼー将軍に切り捨てられるか……どっちかだな」

「どっちも願い下げだ」

「はは。それはそれで面白そうだが、御使い様が俺たちともお会いになられるなんて、考えもしなかったな」

「ああ。それも、高位貴族の連中より先とはな」



 男たちの足を鈍らせていたのは、軍の編成に加え、スライディールの御使い様たちが自分たちとの面会を望んでおり、その顔合わせが実施される――と聞かされたことにもあった。


 武官といってもピンきりだ。役のつくものは何百人といる。ゆえに会うのは軍議に参加できる上級武官たちだけ、ということなのだが、それでも将軍の側近などを含めれば、その数は七十をゆうに超える。

 一度きには到底無理なので、各将軍――その旗下毎に分けて顔合わせを、それも明後日から開始するのだという。


『大臣たちより後だが、貴族連中より先にお前らに会う。どういうことかわかるな。気負う必要はないが、粗相だけはすんなよ』


 と、キリザは明るく男たちを脅した。

 総大将の声に、男たちはあごを引き、恭順の意を示したが、内心は驚きと困惑でひどくざわついていた。



「いいのかな? またうるさいことをいってくるぞ」

「身分と気位だけは、素晴らしくお高いからな」

「時間ももてあましていらっしゃるしな」

「まったくな」


 と、男たちはうんざり顔を見合わせる。


「放っておけ。御使い様がお望みで、大将閣下も了承しておられるんだ。俺たちが余計なことを考える必要はない。いいたい奴には、いわせとけばいいさ」

「そうだな。でも、緊張するな」

「お美しい方たちだったよな」

「お会いできるのは嬉しいが、何を話せばいいんだ? 気の利いた話なんかできないぞ」

「会うといっても人数が多いし、名乗るくらいで、しゃべる必要なんかないだろ」

「ああ。話は大将閣下や将軍にお任せすればいいさ。俺たちはかしこまってればいいだけだ。粗相のしようもない」

「確かに」

「そう考えると、気がラクだな」



 男たちは、和やかに笑い合う。

 しかし。



「皆さんはそれでいいかもしれませんが……」



 暗い声が、明るい空気に水を差した。

 陰鬱なその声に、男たちは歩みを止め、振り返った。

 そこには、広い背中を丸めている男たちがいた。面は気鬱さを映して、青白く見える。


 和やかに笑っていた男たちは、発言者と、その周辺が漂わせている一様の気配に、顔を曇らせた。



「ああ……」

「北の……」



 うつむいているのはいずれも、すでに何かやらかしていることが確実な北の兄弟たちの部下だった。



「うん……まあ、あれだ」

「大丈夫。取り返しのつかない失態はなさってないはずだ……多分」

「ああ」



 同情心から顔を曇らせた男たちは、沈んでいる同僚らを励まそうと、それぞれに口を開いた。



「何か失言か、失礼なことをなさっただけだろ」

「それは結構駄目じゃないか?」

「いやだって、北のご兄弟だぞ?」

「あのお二人なら、許される範疇だ」

「そうだな。でも、何したんだろうな?」

「御使い様の前で、いきなり鹿でも捌いたか?」

「それはないだろ。失神者を出して以降、上から固く禁じられてるはずだぞ」

「そうだな。はは、なつかしいな」

「あー、貴族のご令嬢たちを失神させたっていう、あれな」

「祝いだっていって、いきなり目の前で羊なんか捌かれたら、俺でも驚くぞ」

「ましてや貴族のご令嬢だったらな……察するに余りある」

「あれ、どこのご令嬢だったかな?」

「覚えてないな。ま、特別な日が、忘れられない日になったのは間違いないよな」

「ああ」

「ははは」

「……」



 男たちは昔をなつかしみ、笑い合う。が、兄弟の部下たちは、具体的な失態を想起させられて、いっそう顔色を悪くした。



「おい」

「ん?」

「ええっ?!」



 励ますどころか、さらに落ち込ませることになった男たちは、大いにあわてた。



「違うっ、俺はだな、ご兄弟もわかっておられるから、そんなことはなさらないと、いいたかっただけだ」

「そうだ。こちらにこられて何年になられる? 十年だぞ。もうすっかりレナーテのお人だ」

「ああ。たいがいのことはやらかし尽くされて、そこから学んでおられるし、今はレナーテのやり方や文化だって十分ご存知だ。おぬしらだってそうじゃないか」

「そうそう。ご兄弟は、ただ色々と飛び抜けていらっしゃるだけだ。特に、ご性格がな」

「そうだ。それも悪いほうにじゃない。御使い様たちだって、いずれわかってくださるさ」

「そうでしょうか? 二度とくるなと――」

「それは、大将閣下がおっしゃっただけだろ」

「ヤーヴェさんは否定されませんでした」

「……そうだな」

「いや、でも、お茶にだって誘ってくださってるし、お目見えされたときも、壇上からお二人に手をお振りになられてたじゃないか」

「そうそう」

「でも、別のおひと方は、ご兄弟を睨んでらしたぞ」

「ああ、良子様な」

「お前ら、それをいうなよ!」

「いや、現実逃避はよくないだろ。実際、ご兄弟を忌避されている御使い様がいらっしゃるんだ。しかし……全員じゃない」

「そうだ。半々だよな?」

「そう。差し引きすれば、ゼロだ」

「なんだ、気にすることなんかないじゃないか」 

「そうだ。気にするな」



 いいながら、丸まった逞しい背中を『ばんばん』とほこりが舞い上がりそうなほどに叩く。



「どうしても気になるなら、失礼をお詫びすればいいさ。そのための機会を与えられたと考えろ」

「そうだ、心配するな。いくら御使い様の勘気をお買いでも、両閣下が軍から遠ざけられることはない。なあ?」

「ああ、これからますます重きを増されるというのに」

「はあ……」

「おいおい、北の精鋭がそんなことでどうする。エルーシル閣下が将軍になられ、ご兄弟で二軍を構えられるんだぞ。卿らがしっかり支えてくれないと困るじゃないか」

「実をいえば、そちらの方がわたしは心配でして……」

「そうか……」

「まあ、気持ちはわからんでもないな」

「うん、あれだ。そっちは、ルゼー将軍に相談しろ」

「はい。そうします」

「御使い様の方は、お詫びすればいいだろ。キリザ将軍と懇意にされてるようだから、そううるさい方ではないさ」

「ああ」

「よし、これで解決だ」

「だな」



 明快に答えを導き出し、気持ちに決着をつけた男たちは、面も晴れ晴れと歩き出した。



「いやあ、ここのところ何かと騒がしかったが、これで落ち着くな」

「しかし気持ち方は落ち着いても、移動やら何やらで忙しくなるぞ。何しろ大編成だ」

「望むところだ」

「はは。頭を使うより、身体を使う方がラクというわけか」

「お前もだろうが」

「卿ほどではない」

「言っとけ」

「ははは」

「……」

 


 男たちは、憂いのない笑声を辺りに響かせた。

 

 彼らが頂く総大将は、すべてにおいて突き抜けた存在であり、その存在にほど近く、長く身を置いている男たちは、自由闊達な総大将の気風にすっかり染まっていた。



 キリザの色に染められた男たちは先の虚脱もどこへやら、意気を高めながら、

 染まりつつも別口の憂いを抱える男たちは冴えない顔色のまま、


 それぞれの場所に帰っていった。

 


 


◇  ◇  ◇  ◇





 軍本部はそうした明るさの中にあったが、王城のとある一室は、重苦しい沈黙に支配されていた。



「……」

「……」


 部屋にいる男たちは皆、口を閉ざしている。が、その様子はそれぞれに違う。

 眠るように目を閉じているものがいれば、ただ一点を睨み続けるもの、眼差しを落とし考えにふけるもの、居心地が悪いのか身じろぎを繰り返すもの、それを睨みつけるもの、我関せずとお茶を飲んでいるもの――


 壮年から老年の男たちは、スライディールの御使い様との面会を控えた大臣たちで、城からの迎えを待っているのだった。




 男たちは静かに訪れを待っている。が、黙っているだけで、その胸中は騒がしい。


 スライディールの御使い様たちが異形でなかったことに、男たちは安堵した。

 真実を知らされるまで、男たちは、寄越されたのは救いではなく災厄だとばかり思っていた。何故かはわからないが神の怒りを買い、これまでレナーテを守護してきたラドナ神自身が、レナーテを罰するために災厄となるものを自分たちに寄越したのだと。


 何が神の怒りに触れたのか、レナーテはどうなるのか――


 理由を知りえず、なすすべもなく、男たちはただ恐れた。

 何も出来ないまま時だけが過ぎ、そうしている間に、突如として真実を教えられた。

 真綿でぎりぎりと締め上げられるような恐怖から、解放された。四人の姿を見たときは安堵以外、何もなかった。

 


 その時はそれでよかったが、基となるものが根底から覆されたことで、彼らは新たな悩みをいくつも抱えることになった。

 なにしろ彼らが知る事は少ない。

 何が起こり、何が起きようとしているのか。レナーテはどうなるのか、自分たちはどうすればいいのか。

 思案想像しようにも、限られた情報では懊悩が深まるばかりだった。 


 そうして男たちが、もどかしくも静かに思いをめぐらしていると、



「皆様、少しよろしいですか」



 気鬱さのカケラもない声がした。

 突然の断りに、男たちは目を上げた。

 口を開いた男は、茶器をテーブルの上に戻していた。


 これから御使い様に会うというのに、優雅にお茶を飲んでいた男だ。

 貴族としての品と所作はかなりのものだが、大臣としての資質に大いに疑いを持たれている人物だった。

 閲歴が浅く、空気も読まない。そのくせ自己評価だけは高いという、ホレイスの次に厄介な男で、ホレイスとも懇意の間柄だ。彼の一族ではないが、近い場所にいて、何かとホレイスを後押ししている。


 ホレイスを前面に押し立てて、自分は楽におこぼれを預かろうという、ホレイスとはまた違った形の私欲を見せる男だった。

 


「……何か?」



 静けさを破った壮年の男に、老齢の男が冷ややかな声と眼差しを向ける。

 老人は、大臣席を長く暖めている人物だった。篤実な人柄で、忠実な勤めぶりは、他大臣たちが手本とするところで、彼らのまとめ役にもなっている。


 恰幅もよく、顔の作りも尖ったところがないため、全体に柔らかな印象だ。が、今日は違う。

 御使い様との面談を控えた老人は固く、神経を尖らせていた。常にない様子だ。

 というのに、いつもの印象だけを引きずっているのか、閲歴の短い男は老人に微笑みを返した。



「いえね。御使い様とお会いするのですから、失礼のないように努めるのは当然のことと思いますが、皆様、いささか気を張りすぎていらっしゃるのではないかと思いましてね」



 もう少し、余裕をもたれてはいかがでしょう――という男の声に、他の男たちは黙したまま、それぞれに反応した。



「我らは、そういうことで気を張っているのではないのだがな」


 老人がため息とともにいえば、


「では、どういったことで?」


 男は歌うように応える。


「聞かねばわからぬか……」

「閣下のお考えはわかりかねます」

「お顔を拝見するだけではないのだ」

「それはわかっておりますよ」



 そのやり取りに業を煮やしたのか、他の大臣たちも口を開いた。



「卿は、御使い様たちが我らにお会いになるのは、何ゆえだと考える」

「それは……我らは国の支柱でありますから、お顔を会わせるのは当然かと」

「当然、か」

「ええ。そうではありませんか?」

「はっ、馬鹿につける薬はないというが、本当だな」

「はて、どなたに向かっておっしゃられているのですかな?」

「やめないか」


 仲裁が入ったことで、両者は開きかけた口を閉じた。

 

「プラーク卿」

 

 老人が重たげに口を開いた。


「卿は御使い様との面談を、ずいぶん気楽に考えているようだが、そう単純ではない。降臨されてから今日までのことを思い返してみよ。さすればわかる。スライディールの御使い様たちは、お怒りであろう。お怒りでなければ、我らに失望されておられることだろう」

「それは……考え過ぎではありませんか?」

「では訊くが、おぬしはいったい何をした?」

「何をとは? わたしは何もしておりませんが」


 迷いなく答える男に、視線が集中する。


「そうだ、何もしていない。それはおぬしばかりではない。わたしも、ここにいる全員、皆がそうだ」

「ええ。ですから、そうご心配にならずともよろしいのでは? 御使い様のご不興を買うようなことは、我らは何もしていないのですから」

「おぬし、本気でそれをいっているのか?」

「もちろん」


 屈託のない声に、数人が呆れたように首を振る。

 中には相手にするのも馬鹿馬鹿しい――と態度に出すものもいたが、老人は辛抱強く口を開いた。


「よいか、我らは大臣という国の要職に就きながら、御使い様が降臨されて以降、恐れるばかりで何もせずにいたのだ。まったく、何、ひとつだ」

「そのことを、御使い様に責められるとお考えで? しかしそれは、仕方なかったのではありませんか?」


 あっさり答える男に、別の男が険しい顔を向けた。


「仕方ない? 我らはスライディール城の御使い様たちに会おうとも、知ろうともしなかったのだぞ?」

「そればかりではありません。王城の御使い様に対しても、わたしたちは何もしませんでした。ホレイス卿の独断をわかっていながら、陛下や宰相閣下がお咎めにならないからと、意見すらせず目を背けた。そして結局は、御使い様ご自身が動かれた。仕方ないでは済まされないんですよ?」

「只人ならそれでもいい。だが我らは大臣だ。逃げてはいけなかった」

「……」

「……」



 男たちははっきり口にしたことで、自らの愚かさをあらためて思い知り、自省に気持ちを沈めた。が、効いて欲しい人間にはまったく届かなかったようで、男は軽やかに舌を動かした。



「皆様は、ひどくご自分をお責めになっていらっしゃいますが、責められるべきは、副宰相閣下と総大将閣下ではありませんか?」

「は?」

「何?」


 ぬけぬけという男に、誰もが呆気に取られる。


「卿は、何をいっているのだ」

「何をとは、こちらがいいたいですね。両閣下は、スライディールの御使い様が人であるとご存知でした。それを我らに伝えず、隠していらっしゃった。あのお二人こそ、責められてしかるべきだと申し上げているのです。お側にいらっしゃったのですから、お二人はかなり早い段階で、真実をご存知だったはずです。それを速やかに伝えてさえいれば、数々の騒ぎも無用であったはず。……確かに、我らは何もしませんでした。それは反省すべきでしょう。ですが、悔いてばかりもいられません。我らは国を担う大臣です。過去を云々するより、これから先を考え、行動に移すことこそが、大事なのではありませんか?」


 男は最後の言葉を意味ありげにいい、それを聞いた男たちは眉をひそめた。


「何がいいたい」

「考えがあるならもったいぶらず、はっきりいわれたがよろしいでしょう」


 詰問調の声に、「皆様もおわかりでしょうに」と、男は小声でそういうと、


「副宰相と総大将は、御使い様を使い、好き勝手をなさっています」


 強い口調で言い切った。


「……何をいいだすのかと思ったら」

「プラーク卿、断じるのは、早計ではないか?」

「いったい何をもってそういうのか」


 大臣たちは男の決め付けにうんざりしながらも、反応した。

 そして男は、同意の気配はどこにもないというのに、怯むことなく口を開く。


「お二人は事実を隠していらっしゃいました。何故でしょう? 御使い様と他の者を、接触させたくなかったのではありませんか? それは何故? ご自分たちの有利にことを進めていたからではありませんか? 何も知らない御使い様を言葉巧みに誘導し、ご自分を後見役にさせ、伴侶も同様に決めてしまった。すぐに真実を公にしなかったのは、それらが露見するのを恐れたためでしょう。頼れるのは自分たちしかいないという状況を作り上げ、御使い様を完全に自分たちのものにしてから、真実を公にした。公表の前日に起こった、御使い様による御使い様の連れ去り事件は、自分たちの影響力のほど――御使い様が思い通りに動くかどうかを確かめるために、なされたのではありませんか?」


 声には、信じ難いほどの熱がこもっていた。 


「……」

「……」


 男に熱が入る一方で、それを聞かされる大臣たちは、聞くほどに引いていた。

 もう、反論する気力も無くなり、ただ聞くばかりとなっている。


「まったく恐ろしい方々です。御使い様を支配下に置き、御使い様を使ってホレイス卿を落としいれ、さらには二人の御使い様まで手中にされました。このような勝手を許してよろしいのですか? このままでは、あのお二人に、レナーテをいいようにされてしまいますぞ。サルファ、キリザ――両人の専横を許してはなりません。今こそ、立ち上がりましょう。今こそ、大臣である我らが結束し、立ち向かうときなのです。国を乱す輩の手から、今度は我らがお救いしましょう。御使い様も、それをお望みのはずです」

「……」

「……」


 熱く語った男は、無言の男たちを前に、満足げに微笑んだ。

 自分の主張の正しさに、声もでないのだろう――と。

 そうしてひとり悦に入り、優美に微笑んでいた男は、何を思ったかふいに立ち上がると、


「それでは皆様、わたしは少しばかり席を外させていただきます。失礼」


 唐突に部屋から出て行った。





◇  ◇  ◇  ◇





「……なんだ? あやつは」

「いきなりどうしたのだ」

「身形を整えにいったのでしょう。完璧な姿を、御使い様にお見せしたいのではないですか? 美意識と自意識は高いお方ですから」

「身形より、中味をどうにかしてもらいたいな」

「あそこまでいったら、もうどうにもならんでしょう」

「お粗末すぎて、話にならん」

「しかし、何をどう見聞きしたら、ああいう結論に至るのか……」

「考え方が、我らとはだいぶ違いますな」

「ご自身を基準に考えていらっしゃるんでしょうね」

「あんなものは考えではない。ただの妄想だ」

「まったくもって同感だ」



 残された大臣たちは、姿が見えなくなるや否や、口々にいった。



「それにしても、プラーク卿は、サルファ、キリザ両閣下が共謀して御使い様を操っているという噂を信じておられるようですね」

「愚かな……」

「まったくです――といいたいところですが、実のところ、どうなんでしょう。皆様は、どのようにお考えでいらっしゃるのですか?」

「他人に聞く前に、まず自分の考えをいうべきではないか?」

「失礼しました」



 指摘された男は、ためらいを見せてから答えた。



「恥ずかしながら迷いしかなく、考えというほどのものがありません。噂の通りであるような気もしますし、サルファ副宰相がそのようなことをなさるだろうか――とも思います。ホレイス卿がなりを潜めているのを見れば、騒ぎとなっている話は真実に近いのかと思ったり。ですが、どれをとっても、信じ難い話ですので……」

「皆そうだ。卿と変わらん」

「我らは何も知らんのだからな。だからといって、あやつのように、両閣下になすり付けるつもりはないがな」

「ああ、さすがにな。これ幸いとお二人に押し付けておいて、異形でないとわかれば、それも忘れて『事実を隠蔽した』などと、どの口がいうのか」

「まったく。恥というものを知らんな」

「ものの道理を知らんのでしょう」

「ですが、噂がまことであったら、どうなさいますか?」

「……」



 その問いに、男たちは沈黙した。

 黙っているが、互いの思惑を探るように視線を交錯させている。と、重鎮であり、まとめ役でもある老人が口を開いた。



「仮に、そうだとして……何か問題が?」



 それをよしとする発言に、男たちは顔を上げた。



「わたしも、よくよく考えた」



 いいながら、老人は椅子に深く座りなおす。



「それで思ったのだ。それのどこに問題があるのだろう? とな。ソルジェ殿下が伴侶に選ばれた。宣言され、殿下立太に向けての準備だろう、軍と政府が動きはじめている。陛下と宰相閣下も、それを容認されているということだ。となれば、何もいうことはない。そうではないか? ソルジェ殿下が王太子――次代の王になられるは順当であり最善だ――そう、我らも考えていたはずだ」

「それはそうだが……」



 渋る声に、老人が顔を向けた。



「頭ごしに話しを進められては、面白くないか?」

「そういうことではない」



 いわれた男は、それこそ面白くないという顔をした。



「伴侶を御使い様ご自身がお決めになられたというのなら、何の否やもない。しかし、御使い様のご意志をまげて決められたのであれば、わたしは賛同できない」

「ふむ」



 男の強い声に、老人は小さく頷いた。



「それだがな。考えてみて欲しい。サルファ副宰相が、そのような危険をなさるだろうか? 副宰相閣下は、ソルジェ殿下が次代の王になられることを、望んでおられない。自身の栄達も望んでおられない。あの方が副宰相の地位にあるのは、殿下の御為だ。欲しているのは、殿下の幸せ――殿下がお幸せになられること、それだけだ。そうではないか?」

「……」

「……確かに」

「そうですね」



 男たちはそれぞれに頷き、老人もまた、頷いた。



「副宰相閣下は、殿下が傷つくのを、誰より何より恐れていらっしゃる。そのような方が、一歩間違えればひっくり返りそうな、危ない賭けをなさるはずがない。そもそも、欲しておられない。欲してもいない王座を、わざわざ危険を冒して手に入れるなど、ありえない」

「……そうだな」

「副宰相閣下は、どちらかといえば、殿下を王座から遠ざけたいとお考えでしょうからね」

「ああ。国を思えば、殿下にお立ちいただくのが最善だが、殿下にとって、王座は、御身を削るものでしかないからな」

「そうでした」



 と頷いていた男たちは突如、何かにぶつかりでもしたように表情を変えた。



「ということは――」

「そうか」

「そういうことか……」



 霧が晴れたような顔をする男たちに、老人が微笑を向ける。



「わかってもらえたようだな」


 

 微笑と同じく柔らかな声に、男たちは深く頷いた。






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