友と伴侶とおいしいお茶と
「何が、違うのかしらね?」
玲於奈がおもむろに口を開いた。
「……それ、どういう意味でいってんの?」
良子が反応する。
良子の手には茶器が。玲於奈の手には、まだ熱をもったクランツ特製の焼き菓子があり、玲於奈は自分の手の中にあるそれをじっと見つめている。
八人は、炊事場から隣接する配膳室に場所を移していた。
配膳室というだけあって、広さは十分だ。細長い作業台が何台か置いてあるものの、ごちゃごちゃしたものはない。さびしいほどに色がなく、すっきりしている。
使用するのは下働き、その目的は配膳を整える――だ。くつろぐのはもちろん、飲食にも適していない。
そんな場所で、八人はお茶を囲んでいた。
実用のみを重視した木目だらけの配膳台には、大きな敷布が掛けられ、白化粧したその上に、茶と菓子が美麗に並べ置かれている。一応の体裁は整えられていた。
孤高の家事職人、クランツの手によるものだ。
配膳室でお茶にする――
最初そう聞かされたクランツは、
『そんな……高貴な方々が使用される場所では』
異議を訴えたが、
『クランツ君、この、わ・た・し――』
ふたたび権威をかざされた。
小さな家事職人は抵抗を諦め、諦めてからは猛然と動き回り、わずかな時間で体裁を整えた。
その彼は今、気持ちを切り替え、隣室の炊事場で大広間へ向かう準備をしているはずだ。
『もう一回焼きませんと、向こうの皆様のお茶うけが足りません』と、彼にしては珍しく、焦りを見せていた。
『手伝おっか?』という瑠衣の申し出は、もちろん、笑顔で拒否された。
少年の奮戦を見届けた八人は、彼の残した成果を堪能していた。
しかし、静かに――とはいかない。
香り高いお茶を口に寄せながら、
「――味の違いがわからないってこと? それとも腕前?」
良子が続ける。
「失礼ね。おいしいのはわかるのよ。味覚がおかしいんじゃなくて、マズサに耐性があるんだと思うの、わたし」
「あーそう。そりゃよかったわ」
「ものはいいようですな、はっはっは」
玲が身体を揺らす。
「おっさんか!」
「おっさんね」
「ひどい」
「大丈夫。玲ちゃんは男前だから」
「え? それって、わたし、安心していいの? 男枠、外れてないよね?」
「あ、レイヒさん、お茶のおかわり、いれましょうか?」
「逃げた」
「誤魔化したわね」
「馬鹿じゃない?」
良子が切れ長の目を半眼に、お茶を飲む。
「……」
「……」
「……」
「……」
男性陣は無言で、差し挟む隙のない四人の会話に耳を傾けていた。
「……レイヒさん?」
「あ? ああ。ありがとう。いただくよ」
瞬間、虚を突かれたような顔をしたが、レイヒはすぐに反応した。
瑠衣が嬉しそうに頷く。
「殿下もいかがですか?」
「ああ、いただこう」
「ゼクトさんは?」
「いただきます」
そして瑠衣は、最後にアリアロスに笑みを向けた。
「アリアロスさんは……ふふ。もう、お腹たぷたぷですよね?」
悪戯な声に、一瞬でアリアロスが引きつり、男たちの間に気まずそうな雰囲気が漂った。
◇ ◇ ◇ ◇
「……」
アリアロスはひとり、針のむしろ状態だ。
気の毒な軍師を擁護しようか、するまいか、それが裏目にでないか――
男たちが逡巡している間に、玲が友人をたしなめた。
「こら、瑠衣。アリアロスさんをいじめちゃ駄目でしょ」
「えへへ」
悪戯が見つかったように、瑠衣が笑う。
「はっ、あんたがいう? そもそも、いじくりはじめたのはあんたでしょうが、玲。ったく、調子にのって」
「あー。やっぱり、わたしですか」
「ふふ。諸悪の根源」
つぶやいた玲於奈は、優雅に茶器を口に運ぶ。
「いっとくけど、玲於奈、あんたは一番ひどいから」
「そう?」
「え? 自覚ないの?」
「ふふ」
妖しく微笑む玲於奈の隣で、アリアロスが肩身を狭そうにしている。
良子が、どんどん身を縮こめていくアリアロスに目を移した。もちろん、観察のためではない。もとから上がっているまなじりは、さらにつり上がっている。
「アリアロスさん。だいたいアリアロスさんもよくありません。大の大人が、娘ほどの相手に怯えてどうするんです!」
説教がはじまった。
「そういう態度が、友人たちを増長させるんですよ。小娘のわたしに、こんな風に偉そうにいわれる羽目になるんです。付け入られることのないよう、毅然とした態度で接してください」
「でも、良子ちゃんはキリザさんにも偉そうに説教してましたから――」
「……」
明るい声を、良子はひと睨みで押さえ込んだ。
「アリアロスさん。毅然とした態度が無理なら、せめて動揺しないでください。友人たちは、態度や顔色から他人の心情を読むのが得意です。敏感に察知しますからね。それとわかれば、いじり倒してきます。かさにかかって攻めてきます。しかし、怯えることはありません。死にません。ちょっと寿命が縮むのは、やむをえないでしょう。なにせ、友人たちは普通じゃありません。ことに玲於奈は厄介な性格をしています。歪んでます。非情さは、わたしたちの中でも一番です。短気ですし、それもすぐ行動に移します。手加減もしませんから、まったく目が離せません。可愛げどころか愛想もクソもありませんし、毒舌な上、馬鹿舌です」
アリアロスを叱咤する口は、いつの間にやら友人の酷さを言及するものに変わっていった。
熱のこもった声に、玲於奈が眉をひそめる。
「ねえ、良子って、ほんとはわたしのこと、嫌いなのかしら?」
真顔で訊ねてくる玲於奈に、『死にません』のくだりで噴き出していた玲は、笑いのため声が出せず、首を横に振るしかできない。瑠衣も身体を折り曲げて笑っている。男たちは唖然、だ。
「まあ、そうなったのも、理由があるんです。玲於奈は小さいときからお人形のように可愛かったんです。クォーターで――」
いいかけて、良子は、「玲於奈には、異国の血が四分の一入ってるんです」と、伴侶たちにわかるようにいいなおした。
「わたしや玲と違って、レナーテの皆さんと似通った造形をしているのはそのためです。異国の血が彼女は顕著にでてまして……。わたしたちが住むところは――そこでは黒髪がほとんどなので、とても目立ってました。ただでさえ目立つ上、容姿がいいもんですから、玲於奈は物心つく前から、それこそ老若男女を問わず人にたかられてました」
良子の言葉に、ふたたび玲於奈が眉をひそめた。
「やだわ、人を道端のう――」
「ちょっ! ストップ!!」
危険な言葉をいいかけた玲於奈を、良子が遮った。
それまでの信実さをかなぐり捨てて止めた良子に、瑠衣と玲が賛辞を送る。
「良子ちゃん、ナイスブロック!」
「さすが良子」
「何いってんの! あんたたちもわかってるんだから、玲於奈がぽろっという前に止めなさいよ。玲於奈、あんたも思ったことをぽろっといわない! いい?」
友人たちを叱りつけた良子は、「ったく、集中して話しもできないわ」愚痴りながら続きに戻る。
「……純粋に、綺麗可愛いと寄ってくる人間がほとんどでしたが、そうでない人間もいました。見ず知らずの人間に、いきなり手をひっぱられて連れて行かれそうになったり、悪戯目的でさらわれかけたこともあります。大きくなってからも、人の関心から抜けられませんでした。異性の執拗なおっかけ、同性からの嫌がらせは、逆にどんどんひどくなりました。人間嫌いになるのに十分な経験をしています。ですから、玲於奈は異性に対して、とりわけ厳しい態度をとります。相手に微塵の希望も持たせないようにしています。それでも、馬鹿な連中は寄ってくるんです。それも、つぎつぎと新手があらわれます」
良子は顔を歪めていた。
「それを良子ちゃんは、四つだったか、五つだったか、小さいころからずっと間近で見てきたんです」
瑠衣がいい、その後を、玲が引き取った。
「良子は、玲於奈が一番つらいときに一緒にいたので、そのつらさをわかってます。恐怖だと思いませんか? 心も身体も未熟な、小さな女の子が、どうしたらふせぐことができます? どうしたら友人を守ることができます? 四六時中、親が監視することもできません。家に閉じ込めるなんてことも、もちろん。ですから、良子は考えました。ちっさな頭で精一杯。それで、良子は玲於奈を連れて、瑠衣の祖父がやっている道場に入りました。実践的な体術を教える場所です。そこで、わたしと瑠衣は、二人に出会いました。以来、ずっと一緒です」
玲は嬉しそうに友人たちを見る。
「力は必要です。玲於奈は自分を守ることができました。良子は玲於奈を守ることができました。ま、心も身体も、ちょっと強くなりすぎましたけどね。おかげで今は、こんな風になっちゃいました……」
「あんたがいう?」
自分のことを棚上げていう玲に、呆れ声を放ってから、良子はアリアロスに向き直った。
「玲がいうのも、まあ、間違いじゃありません。そういうわけで、玲於奈は普通じゃありません。人におびえることはなくなりましたが、人間嫌いは治るどころかひどくなる一方です。積極的に自分から、人間関係を築くことはありません。極上の美人ですが、玲と一緒で傲岸不遜ですし、嗜虐心もあります。嗜虐心といっても、復讐心からなるものじゃありません。相手は親しい人間に限られますし、肉体的苦痛は与えません。歪んだ愛情表現です。問題は……他人への容赦ない攻撃ですね。こちらは肉体的苦痛を、手加減なしで与えます。もう、反射です。やられる前にやる――その精神が身体に染み付いてます。人間に限らず、生き物全体に優しくありません」
「ねえ、やっぱり良子はわたしのこと――」
「それ以上いわないで、玲於奈ちゃん。お願い」
「うーん、おっかしいなあ。ちょっと良い話っぽかったのに、どうしてこうなるのかなあ?」
四人は伴侶たちに、四者四様の顔を見せるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「とにかく、アリアロスさんはもう少し、毅然としてください」
「はい」
「まあ、いきなりは無理でしょうから、頑張って慣れていってください。玲於奈の性格がこうなったのには理由があるというだけで、それを正当化しようとは思ってません。いまさら治りませんし、わたしも諦めてます。色々いいましたけど、玲於奈は嘘はいいません。正直です。ひとに媚びることはありませんし、機嫌をうかがうこともしません。それは、わたしたちに対してもそうです。その玲於奈が決めたんです。玲や瑠衣が認めたんです。もちろん、わたしも異存ありません。アリアロスさんはそれだけのひとなんです。だから、自信を持ってください」
「……はい」
「でも自信を持ちすぎると、それはそれで玲於奈にしばかれることになりますから、ほどほどでお願いします」
「はあ」
「その心配はないですよね? アリアロスさん」
横から、玲がアリアロスを援護する。
優しい笑みを向ける玲に、アリアロスが頼りない微笑み返す――と、玲の笑みが変化した。
「ところで、アリアロスさん。どうして大広間でなく、クランツ君のところでお茶を飲んでらしたんですか?」
悪戯な笑みに、アリアロスがふたたび引きつり、良子が般若の顔になる――その口が開く前に、玲は続けた。
「――ということを、ねちねちうかがいたかったんですが、良子に叱られますし、だいたいのところはわかってますから結構です。それに、面白いものも見せていただけましたので、今日は止めておきますね」
「面白い?……」
「どうしてわたしたちが、今、ここにいると思われます?」
「……」
◇ ◇ ◇ ◇
「詳しいことは、後で、ガウバルトさんとシャルナーゼさんに聞いてくださいね――といいたいところなんですが、今後のことを話すのに必要ですから、ざっとお話ししておきますね」
含みのある口振りを、玲は即座に変えた。
「このところ、ウルーバルさんとエルーシルさんが毎日いらっしゃるんです」
「え? 毎日?」
驚くアリアロスに、玲は笑いながら頷く。
「そうなんです。特にご用はないようで、良子の顔を見たら、すぐにお帰りになるんですけど……」
途端に険しくなった良子の顔を見て、玲ばかりでなく、瑠衣と玲於奈も笑う。
「お越しいただくのは結構なんですが、良子の機嫌がそれはもう悪くなるんです。納得のいく理由や、何か妙味があれば別ですが、それもなく、ご兄弟は、ただ、ほんとに顔を見るためだけなんでしょうね、毎日いらっしゃるんです。良子はそうした無駄なことに手をとられるのを、たいへん嫌います。しかも、自分ばかりでなく、ゼクトさんの時間もとられるので、良子の怒りはなおさらです。ガウバルトさんとシャルナーゼさんは運悪く、ご兄弟が良子の怒りに火をつけた直後にいらしたので、良子の怒りの制裁を、ご兄弟の分まで受けてしまわれました」
アリアロスの面に、驚きと納得と悲愴の色が広がった。三人の伴侶は、ここへの道すがらにそれらの事情を聞いているので、彼らの面には、アリアロスたちへの同情の色しかない。
「伴侶同伴でないと――と義理を通していただくのはありがたいんですが、そうなると、良子とゼクトさんばかりが応対することになりまして、こちらとしても、少々困ってるんです。良子はああいう押しかけに慣れてるんですが――」
「は?」
「失礼しました」
恐ろしい抗議の目に、玲は即座に対応する。
「正しくありませんでした。数だけはこなしています。良子には、ああいう方たちを惹きつける何かがあるんでしょうね。自分に自信がある、それも実力以上の自信を持つ強気な男性――わたしたちは彼らを“俺様”と呼んでます――そういう、ちょっと特殊な男性たちに、向こうにいるときから異様に付きまとわれてました。北のご兄弟は、ちょっと毛色が違うんですが……、癖があるという点では同じですね。難癖やら因縁やら、とにかくいろんな理由といいがかりをつけられて引っ張り出されては、その相手をさせられてました。もう、面白いほどそういう面倒くさい人ばかりが寄って来るので、良子は仲間内で『俺様ホイホイ』と呼ばれてます」
「そのあたし情報いる?!」
浅くなりかけていた良子の眉間の縦皺が、一気に深さを取り戻した。
「だいたいそれ、あんたがいい出したんでしょうが!」
「え? そうだっけ? 玲於奈じゃなかった?」
「ええ。いい出したのはわたしだけど、広めたのは玲と瑠衣よね?」
「うふ」
「瑠衣? 可愛くいっても同じよ?」
「同罪ですな。結構結構」
「よくないわ!」
不愉快な事実と、それによって付けられた、これまた不愉快なあだ名に、良子の怒りもひとしおのようだ。しかし玲は気にしない。
「とまあ、良子には自信過剰の男性が寄って来るんです。彼女の、簡単には落ちないという容姿と気概が彼らの征服欲を刺激するんでしょうか? とにかくそういう人たちが良子に寄ってきます。北のご兄弟は、少しそれとは違うようですが、自分本位に絡んでくるのはまったく彼らと同じです。まあ、わたしとしては実害が少ないですし、こうして面白いものも見られるのでいいんですが――」
「ちょっと?」
「ゼクトさんにはたいへん申し訳ないので――」
「いえ、伴侶として当然の務めです」
良子よろしく、ゼクトが玲の声を遮った。
それには、その場にいた全員が驚いた。
問われたことにも、必要最小限にしか返さない。自ら発信しないと思われていたゼクトが口を開いたことに、皆が驚いていた。
驚きの視線を集めながら、ゼクトは平坦な声で続けた。
「ですので、どうぞ、わたしのことはお気になさらず」
「ふふ。そうですか」
玲は応えた。その声は喜びをたたえている。
「――ですが、ゼクトさんにはお願いしていることがたくさんありますから、やはりこのままというわけにはいきません。そこで、決めました」
「は?! 何を!」
断言する玲に、瞬時に良子が噛み付いた。
間髪入れない良子の早さと勢いに、男たちが驚く。そして玲たちは、
「反応いいなあ」
「荒ぶってるし、高ぶってるしで、今日は余計反応がいいわね」
「もう反射だよね? 良子ちゃん」
と、笑う。
「何いってんの! ちょっと、玲於奈、瑠衣――」
「さあ? わたしたちも知らないわ」
問われる前に玲於奈は答えると、視線を瑠衣に移した。
「――何を決めたのかしらね?」
「ねー?」
他人事のように、瑠衣と顔を見合わせて笑う。
「玲!」
良子の剣幕とは大違いだった。
「はい、ついさっき決めました。いつもの独断です。でももう決めたので、そうします」
「何決めたの!」
「うん。まずは、将軍、副将軍の立ち入りの制限を解除します」
「はあ?」
「スライディール城、全棟への立ち入りを自由にします。ただし、いくつか制限はさせてもらいます。入城は、将軍、副将軍、本人に限る。時間帯も制限します。時間内は、わたしたちの個室以外、自由に出入りしてもらって構いません。細かいことは、サルファさんと相談して決めますが――」
「ちょっと待って。それって、こっちの棟にも出入りするってこと?」
「うん。でないと、意味ないでしょ?」
それには、良子同様、玲於奈も嫌悪の表情を浮かべた。
「どうしてそうなるのかしら? あんなのに出入りされても困るんだけど」
「玲於奈ちゃん、そうはっきりいっちゃいけません」
玲於奈をたしなめたその口で、
「皆さんの同僚を悪くいいたくはないんですが、本音をいわせてもらいますと、たいへん迷惑しています」
玲ははっきりいった。
「一度や二度でしたらいいんですが、こう毎日では困ります。ですが、ご兄弟はあの通りの方たちですから、下手に禁じると余計面倒なことになるでしょう。ですからあえて、制限を解除します。自由にしてもらいます。わたしたちを見たいということですから、好きなだけご覧いただきます。そして伴侶の皆さんには、明日から毎日こちらにいらしていただきます」
「え?」
と、驚きの声を上げたのはアリアロスだ。
「アリアロスさん、厄介ごとには、皆であたりませんと、ね?」
「はあ……」
「とまあ、さも、ご兄弟が原因であるかのようにいいましたが、最初から皆さんには、いずれ毎日こちらに通っていただくつもりでした。伴侶ですからね。サルファさんたちならいざしらず、伴侶以外の方たちが毎日で、当の伴侶の皆さんが二日おき――というのは、どう考えてもおかしいですし」
と、玲は笑う。
「ご兄弟は、きっかけにすぎません。予定より早くなりましたが、皆さん、明日からこちらに通ってくださいね」
念押しで、玲は隣に座る伴侶を見上げたのだが、ソルジェは頷かなかった。唇を真一文字に引き結び、難しい顔をしている。
「殿下?」
玲に呼びかけられて、ソルジェが唇を開いた。
「玲たちは今、学んでいる最中ではないのか? そう聞いている。俺としては、そちらを優先してもらいたい。ウルーバルたちが邪魔になるというなら、それは俺がなんとかする。ああ、いっておくが、ここに通うのが嫌なわけではない。玲たちはここに来て、まだいくらも日が経っていない。無理をせず、環境を整えることに専心して欲しい」
「殿下……」
伴侶の言葉に玲が感動していると、
「殿下には、玲がどう見えてるのかしら?」
「殿下、玲のこと、まだぜんっぜんわかってませんね? 自分は自己中だ、って玲が最初にいったの、あれ、謙遜とか一ミリたりとも入ってませんよ? 無理なんかしてません」
「ここは現実を知ってもらうためにも、毎日来てもらわないといけないわね」
友人たちから盛大に水を差された。
「うーん、感動が……」
心の空を仰ぎ見る玲の横で、ソルジェが「あ、ああ、そうか……」と、友人たちの勢いに押されたように答えている。
「そうなんですよ、殿下。仕方なしに予定を前倒しにするんじゃなくて、前倒しにできるくらい、予定が進んでるんです。ですから、気にしないでくださいね」
「瑠衣のいう通りです。わたしたちのことを思って、殿下はそうおしゃってくださってるんでしょうけど……。それよりも、ご自身の心配をなさったほうがいいですよ。でしょ? 玲」
玲於奈が微笑みを向ける。
応えるように玲が笑った。
「……」
「……」
玲於奈と玲――二人の微笑の交換は、伴侶たちを構えさせるのに十分だった。
浮かべた笑みをそのままに、玲は唇を開いた。
「皆さん、ダンスはお好きですか?」




