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異世界カルテット ~わがままに踊ります~  作者: たらいまわし
第四章 勢力は次第に強まり、各所に被害をもたらすでしょう
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ちょっと危険なおもてなし

 ソルジェはまったく反応できなかった。






 向けられた黒の瞳を――

 自分の目だけをまっすぐに見つめる、生気に満ちたその瞳を――

 

 ソルジェは見つめ返すしかできないでいた。



 五日前に見た。

 自分に向けられた、意志ある強い瞳。それが今、目の前にある。

 しかし、あのときの、射抜くような鋭さはない。あるのはかがやきだ。強い光だけが、そのままにある。その瞳が、自分を見つめている。


 ソルジェは不思議で仕方なかった。



 なぜ、微笑みながら自分を見つめるのか? この距離で見つめることができるのか? どうして、自分を見てそんなことがいえるのか? 


 

「殿下?」


 その声に、ソルジェの口が勝手に反応した。


「あなたは――」



 俺が、恐ろしくないのか?――



 滑り出そうになった言葉を、ソルジェは押しとどめた。

『愚かな問いを続けるのか?』と自問する。そのわずかな隙に、入られた。


「玲です、ソルジェ殿下。わたしのことは、玲とお呼びくださいね」


 微笑みは美しく、瞳は驚くほど綺麗だった。濁りがない。

 ソルジェはかがやきを放つ黒の瞳に見入りながら、唇を動かした。 


「玲は……」

「はい、何でしょう? 殿下」


 明るくも優しい声が、ふたたび、わずかな隙に入り込む。


「……」


 口元が、相手の微笑につられるように緩んだ。唇の間から、言葉がするりと出た。今度はなんの抵抗もなかった。

 

「玲は、俺が恐ろしくないのだな」






◇  ◇  ◇  ◇






 ソルジェの言葉に、男たちの心は沈んだ。

 己が恐怖を与える存在であることを、ソルジェは強く自覚している。

 発せられた声は暗くなかった。穏やかだった。だからこそ、痛い。



 すでに、諦めの境地にいるのだ――



 そう感じずには、いられなかった。

 

 



 レナーテの第一王子ソルジェは、すべてに恵まれていた。


 国王と正妃の間に生まれた。

 幼いころから利発だった。文武に優れ、今では、個人の才能と中身を重視するキリザから、一軍も任されている。


 体躯にも恵まれていた。鍛え上げた長身中肉の身体は、『剣を持つものが理想とするものだ』――と絶賛されている。美しい生母に似た面は、端正でありながら精悍だ。そして、王族としての強い責任感と矜持を持つ。幼いころから培ったそれらは、大国の第一王子にふさわしい威厳となって表にあらわれていた。


 しかし、それらすべてを、あざが帳消しにした。

 

 レナーテの第一王子に生まれながら、優れた資質と体躯に恵まれながら、恐怖される。

 そこには畏怖も含まれていた。


 大国の王子としての並みならぬ威厳――それを備えていたことが、ソルジェには不幸だった。あざがなくとも、その威に打たれるだろうことは必至だった。その威厳が、あざの不気味さと相まって、見るものに強い恐怖心を植えつけてしまう。近付けるものは、ほとんど――といっていいほど、いなかった。



 自身の過失でもなんでもない。生まれ持った禍々しいあざのために、ソルジェは多くのものを持ちながら、その利に預からず、逆にそれらがあったがために、様々なつらさに耐えなければならなかった。


 


 神に試されているのだ――



 そんな声もあった。しかし、



 神がこのような試練をお与えになるか? 地位も、資質も、どれかひとつでもなければ、まだ救われただろうに――と思わせるような過酷な試練を、神がお与えになるか? 

 呪われているのだ――



 いつ、どこで、だれがいったのか――



 それは野火のように大陸に広がり、消えることがなかった。





 ソルジェをよく知るものは、不安を抱いていた。

 ソルジェは捻じ曲がることなく、理不尽に耐え、それを乗り越えてきた。そして、二十六年という歳月をかけて、諦観の境地にまでたどり着いた。


 第一王子の強靭な精神に驚き、それを誇りに思いつつも、彼らは不安だった。


 英邁な王子は、この境地にとどまるのか、それともさらなる境地へ向かうのか? 次の境地とは? それはあるのだろうか。あるとすれば――


 これ以上先は、考えたくなかった。知りたくもなかった。





◇  ◇  ◇  ◇


 

 


 男たちが心の内で密かに沈んでいるその間に、玲は自分のペースでことを進めていた。


「ええ、恐ろしくはありませんね」


 そう答えてから、


「殿下、ひとまず、あちらに場所を移していただいてもよろしいですか? 今日はお話しすることが多いんです。殿下とはまた後で、個別にお話しをさせていただきます。殿下も、お訊ねになりたいことがおありでしょうし、わたしも殿下にお話ししたいことやお訊ねしたいことがあります。その時間もとってあるんですが、まずは、あちらにいらしていただけますか?」


 振り返って、キリザたちの座る方向に目を向ける。


「ああ、わかった」


 短く答え、ソルジェが歩き出そうとする――と、その腕を、玲が一歩踏み込み、つかんだ。


「でーんーかー?」

「あ……なんだろう?」


 動きを制されたソルジェは、自分の腕をつかむ玲を見下ろした。声にも表情にも驚いた様子は見せなかったが、内心では酷く動揺していた。

 相手から触れられたことにも驚いたが、至近にある玲の美しい面に――その面にある形の良い眉がひそめられていることに、その口調に、動揺した。


「わたしは伴侶ですよ。ほっぽって、先にいかないでください。庇護欲をそそるような人間でないのは承知していますが、ほったらかしは困ります」

「ああ、すまない」

「いえいえ、でも、ちょっとだけ待ってくださいね」


 玲は腕をつかんだまま、すっかりくだけた調子でソルジェにそういうと、彼の背後にいる男たちに声をかけた。


「皆さんも、あちらに移動してくださいね。皆さんにもお話ししておきたいことがあるんです。向こうに並べてある椅子から、ご自分で好きなものを持ってきて座ってくださいね。ふふふ」


 目で壁際を示し、最後に何やら心騒がせる笑みと声を残すと、玲は男たちからくるりと背を向け、隣に立つソルジェを見上げた。


「殿下、これからお茶とお菓子をお出しするんですが、お菓子の方は気をつけて召し上がってくださいね」

「……それは、どういうことだろう?」

「そのままです。わたしたちのお手製なんですが、ちょっと危険なんです。味はまあまあなんですよ。でも、冷めると恐ろしく硬くなりまして……。知らずに勢いよくかじると――そんなことは、まずなさらないと思いますが、歯を持っていかれるかもしれません」

「そのような危険なものを?」

「味はまあまあなんですよ?」

「……気をつけよう」

「そうしてください」


 恐ろしい会話をしながら、ソルジェとともにキリザたちのもとに向かうのだった。




「……」

「……」


 目と耳の両方を疑いながら、男たちはふたりの後姿を見送った。

 言葉なくたたずむ彼らの胸には、二つの異なる感情がすさまじい勢いで広がっていた。


『もしかしたら……』

『いったい何を?』


 期待と不安――二つの異なる感情に、男たちは内心を大いに騒がせていた。その度合いと比重は個々によりまちまちだった。が、先にあった暗い不安は、心の端に追いやられていた。





◇  ◇  ◇  ◇





「……」


 男たちは、目の前に並べられた茶と茶菓子を見つめていた。



 これか――



 のっぺりとした茶色の物体を、まじまじと見つめる。危険物と教えられなければ、かぶりついてしまいそうな焼き色と、手ごろな大きさだった。余計なかざりも一切ない。





「どうぞ」


 玲たちは四人がかりで、男たちに茶を供すると、それぞれの伴侶の隣に座った。


「でも、お菓子はびっくりするほど硬いですから、気をつけてくださいね」


 すすめられた男たちが、無言のまま手を伸ばす。

 あるものは怖々と、あるものは果敢に菓子を口にした。その様子を、玲たちが楽しそうに見つめる。


「どうです?」


 と、訊ねる声に、シャルナーゼが応えた。


「食えないことはありませんね」

「ぶふっ」


 アリアロスがむせた。


「大丈夫ですか? 軍師殿。おい、シャル、失礼だろう。正直にもほどがあるぞ」

「お前もだ、ガウバルト」

「ああ……はは」


 笑ってごまかすガウバルトを、リグリエータが睨みつける。


「ああ、構いませんよ、えーと」

「リグリエータです、玲様」

「ああ、リグリエータさんですか。キリザさんの側近の方ですね。先日は資料をありがとうございます。大変なご苦労をなさったと、聞いてます」

「ああ、いえ」

「では、そちらがヤーヴェさんですね」


 リグリエータの隣に座るヤーヴェに、玲が視線を移す。


「はい。ヤーヴェです。どうぞよろしくお願いします」


 菓子を置き、礼をするヤーヴェに玲は訊ねた。 


「こちらこそ、よろしくお願いします。で、ヤーヴェさん、どうでしたか? お味の方は?」


 問われたヤーヴェは困った。

 気をつければ食べられるし、味もそこそこだが、硬いのと、もさもさとした食感の悪さがすべてをぶち壊していた。すすんで食べたいと思わせる代物ではなかった。

 どう答えるべきか、ヤーヴェが言葉をさがしている間に、玲の目は金髪の青年――バルキウスに移った。


「そちらは、バルキウスさんですよね? あの時、殿下の隣にいらっしゃいましたよね?」


 声をかけられたバルキウスは驚いた。驚きつつ頷いた。

 驚くバルキウスが口を開く前に、玲は続ける。


「隣はジリアンさん――サルファさんの甥御さんですね? よく似てらっしゃいますね」

 

 と、サルファを見る。


「不祥の甥です」

「そうなんですか?」


 玲に視線を向けられたジリアンは、身体を縮めながら頷いた。


「わたしのように『違います』とはいえませんよね。ふふ。で、そのお隣がユリアノスさんですね」


 ユリアノスは姿勢を正し、黙って礼を返した。


「皆さん、どうぞよろしくお願いします。で、お味の方はどうでした?」


 と、玲はにこやかに最初の質問をぶつける。

 応えるものはいなかった。シャルナーゼはリグリエータに、『口を開くなよ』脅すように睨みつけられている。

 玲は笑った。


「すみません。答えにくい質問でしたね。それを承知で皆さんにお出ししたので、それ以上召し上がっていただかなくて結構ですよ」

「そう悪くないぜ、玲ちゃん」

「そうですか?」

「味はいい。が、硬いな」

「そうなんです。出来上がりは柔らかかったんですが、冷めるとびっくりするくらい硬くなりまして。味の方も、時間がたつと、どうしても落ちてきますからね」


 キリザにそういうと、玲はサルファを見た。


「サルファさん……」


 察してくれと目でいった。

 瑠衣も、すがるような目をサルファに向けている。

 サルファはくすくす笑うと、応えた。


「すぐに料理人を手配しますね」

「ありがとうございます。サルファさん」

「やったー」


 瑠衣が身体を跳ねさせる。


「ちょっと、危ないでしょうが」


 同じ長椅子にかける良子が怒る。


「へへ、ごめんね。嬉しくて」

「そんなに?」


 といいながら、玲於奈が菓子を口にした。




◇  ◇  ◇  ◇





「しかし、玲ちゃんたちでも、できないことがあるんだな」

「買いかぶってもらっては困ります、キリザさん。できないことの方が多いですよ」


 キリザの笑声に、見かけも中味も優等生の良子が答えた。揺るぎのない、それは毅然とした態度だったが、


「良子、謙遜は良くないと思うけど……」


 玲於奈の声を前に、もろくも崩れた。


「ちょっとはしとかないと、可愛げなさすぎでしょうが。『ま、だいたいなんでもできるんですけどね』とか、いえるわけないでしょ」


 玲の声真似をしていう良子に、瑠衣が「似てるー、良子ちゃん」と笑い、「よかったぁ。いわなくて」と、玲が出てもいない額の汗をぬぐう。


「あんた、いう気だったの?」

「いや、だって、最初にあれだけいってたら、皆さんもそうそう驚かないでしょ、ねえ?」

「うん、いまさら何いってるの? って感じ?」

「それにもう、これって、いったも同然でしょ」

「……」


 玲於奈の指摘に、良子は眉をひそめた。


「ははは」


 キリザが笑った。


「玲ちゃんたちは面白いな。こうしてわいわいしてると、普通の娘なんだよなぁ」

「ええ、そうですよ」

「でも、普通じゃねえ」

「まあ、そうですね」


 どっちだ――


 キリザと玲の会話に、男たちが心の中で突っ込みを入れていると、キリザが玲の顔をじっと見つめた。


「なんでしょう? キリザさん」

「普通だけど、やっぱり普通じゃねえよな」

「キリザさん、わたしも、その続きを延々とやってみたいという気持ちはあるんですが、今日は――」

「おう、そうだった。すまん、玲ちゃん、俺に構わずやってくれ」

「ありがとうございます」


 というと、玲は視線を水平に半周させた。




◇  ◇  ◇  ◇




「すでにお聞きだとは思うんですが、わたしの方からも、少し皆さんにお話しさせていただきますね」


 玲はこれまでのくだけた様子を、少しだけ控えた。


「急なことで、皆さんには本当にご迷惑をおかけしました。実は、伴侶の公表は、まず皆さんにお会いして、その旨をお伝えしてからにするつもりでした。順序を変えたのは、ホレイスさんの提案を知ったからです。会議録に、わたしたちが伴侶と決めた方々のお名前が書いてあったので、びっくりしました」


 微笑む玲に、瑠衣と玲於奈も同じように微笑み、


「びっくりしたよね」

「ほんと」


 言葉を交わす。


「最初はどういった偶然か――と驚きましたが、考えてみれば、さほど驚くことでもありませんでしたね。ホレイスさんという方は、すごい人です。己を隠そうとなさらないんですから。わたしと同じで我欲に忠実でいらっしゃる」


 玲は笑う。


「すごいとは思いますが、なにもかも、まったく好みではありませんね。見ない聞かない考えない。あのような人と関わるとたいへんです。実際たいへんでした。五日前、ホレイスさんはわたしたちを見て、『殺せ』『捕らえろ』と、馬鹿のひとつ覚えのように傲岸にわめくだけでした。はっきりいって、邪魔なだけでした。あのような人とは、関わりたくありません」


 断言する玲に、他の三人が深く頷く。


「友人たちも同じ気持ちです。で、そんな傲岸愚直の人間がどうするか? 身を挺して、心を鬼にして、自分に近しい人間を伴侶に推薦するでしょうか? ありえませんよね? 人生経験は少ないですが、それくらいのことは、わたしたちにもわかります。逆ですよね。ホレイスさんの中では不要な人間、邪魔な人間を選んだはずです。好ましくない人物の好ましくない人物――ということは、それはわたしたちにとって、好ましい人物です。わたしたちが決めた伴侶が間違っていない。そのことを、ホレイスさんは証明してくださいました。証明してくださった上、伴侶を公表する絶好の機会と、表立った理由もくれました。その点だけは、ホレイスさんに感謝しています」


 玲は微笑んだ。


「伴侶は決めていました。その理由は、後でそれぞれ、ご自分の伴侶に聞いてくださいね。わたしたちは血を分けた姉妹のように親しいですが、選んだ理由までは聞いていません。ですが、それぞれの伴侶がふさわしいかどうかは互いに確認しました。大事な友人の一生に関わることですから、ひとりでも反対があれば、伴侶は考えなおすつもりでした。ね?」


 友人たちに微笑みを向ける。

 友人たちがそれぞれに頷くのを見てから、玲は続けた。


「いずれの方も、反対はありませんでした。伴侶の皆さんは、わたしたちが個人で決め、なお且つ友人たち全員の賛同を得た方々です。まあ、それはわたしたち側のことで、知らないところで勝手に伴侶にされた皆さん側には、迷惑以外のなにものでもないかもしれません。皆さんにもお好みがあるでしょうし、事情もあるかもしれません。が、それは、あの日あの場所で、わたしたちに目を付けられてしまったご自身の不運を恨んでくださいね」


 玲は後半部分を、アリアロスを見つめながらいった。

 呆然とするアリアロスに微笑みかけ、そのまま、隣に座るソルジェに向ける。


「というわけですので、殿下、観念してくださいね」


 ソルジェは、不思議な生物でも見るように玲を見つめながら、「……ああ」と声を落とした。

 

「では、これからわたしたちは、伴侶の方々と、別室で個別に話しをさせていただきます。それで……」


 今度は男たちに微笑みを向けた。


「お待ちいただく間、皆さんも手持ち無沙汰でしょうから、どうでしょう? ちょっと、お手伝いしていだけませんか?」

「……何の、お手伝いでしょう?」


 リグリエータが答えた。答えたくはなかったが、玲の目が自分に据えられていた。

 

「ちょっとした力仕事です」

「それくらいでした――」

「ありがとうございます」


『ら』は、いわせてもらえなかった。


「とても助かります。こちらが望んだことですので、できる限りのことは自分たちでしようと思っていたんですが、先ほどもいいましたように、昨日今日で、いろいろと予定が狂いまして、そちらまで手が回らないんです。ああ、お願いしたいことは皆さんが腰掛けてる椅子の座面の裏に張ってありますので、そちらを見てくださいね。多少、あたりはずれがありますが、それは今日の運勢とでも思ってください。それでは、皆さん、よろしくお願いしますね。グレンさん、キリザさん、サルファさんは、申し訳ありませんが、そちらでしばらくお待ちくださいね」

「なんだ? 玲ちゃん、俺たちはいいのか?」


 キリザの問う声に、玲は首を振った。


「昨日は無理を聞いていただきましたし、さすがに位人臣の最高峰にいらっしゃるお三方にはさせられません。キリザさんたちには、これからもいろいろと無理をお願いすることになるでしょうから、休めるときに、心と体を休めておいてください」



 そういいおいて、玲は立ち上がった。

 同様に、瑠衣、良子、玲於奈の三人が立ち上がり、それにつられるように伴侶の四人も動き出す。

 男たちも動いた。身体を折り曲げ、気になる座面の裏をのぞく。


まき……運び?」

「水汲みって書いてある」

「掃除、ですか」


 男たちが声を上げた。


「そうなんです。本来の仕事でないことをお願いして申し訳ないんですが……」


 上半身をひねり、男たちを見返りながらいう玲の姿は、見とれるほどに美しかったが、申し訳なさは微塵も感じられなかった。そんな玲の声に、サルファが微笑んだ。


「玲様、そちらの人間も、早急に手配いたしますね」

「お願いします、サルファさん。毎日はやっぱりたいへんで」


 答える玲の傍らで、瑠衣が男たちに正対した――と思うと、


「皆さん、よろしくお願いします」


 ひとり、男たちに向かって、深々と頭を下げる。


「……」

「……」


 可憐な美少女に頭を下げられれば、『喜んで』の笑みを返すしかない。

 しかし笑みながら、男たちは小さく唇を動かしていた。


「ほんとだったな」

「ああ」


 ささやき頷く男たちの視線は、それぞれの伴侶をともなって出て行こうとする四人の娘たちにそそがれていた。 

  







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