なにがなじょしてこうなった
北岸 玲は、自分が貪欲であることを知っていた。
人生を楽しむ――ということに、とても貪欲だ。
両親は健在だし、短命で世を去ったひとも、身近にはいないのに、この楽しみたい、謳歌したいという欲は、いったいどこから湧いて出るのか? と、ときに自問するほど強烈にある。
答えは簡単だ。持って生まれたものだ。拍車がかかっているのは、環境のせいだろう。
親の庇護のもと、衣食住の心配なく、学生生活を満喫している。
勉強に習い事に、趣味に遊びにと、忙しく充実した日々だ。そんな生活が、さらに忙しく、充実したものになったのは、高校二年に入ってからだった。
「神に感謝する」
クラス替えの掲示板を見て、玲の心は震えた。
しみじみいう玲に、親友の山野 良子は、「は?」頭大丈夫? という声と視線を寄こしたが……。
クラス替えは、奇跡としかいいようがなかった。なにせ、幼馴染であり、親友でもある山野 良子、沢田 瑠衣、二木 玲於奈を筆頭に、学年でも評判の、可愛い娘ちゃんと美人が顔をそろえたのだから。
美しいものが嫌いな人間がいるだろうか?
ことに玲は、美しく可愛いらしい女性が大好きだった。
一年間、彼女たちと同じ教室に集い、学ぶ。そのうれしさに、学業に熱も入る。
しかし、すぐに玲は首をかしげた。
彼女たちの可愛らしさを、ただ、にやにやと眺めているだけでいいのか?
「これはやらねばなるまいよ」
勝手な使命感に燃えた玲は、十月の文化祭に向けて猛進する。
それまでは、何をするにも、自分と友人たちだけの小規模だったものが、クラス全体を巻き込んでの取り組みとなった。
玲発案の文化祭の出し物は、手間も時間も金もかかるものだったが、苦労をした分喜びも大きく、クラスの結束も固くなっていった。
はじめは嫌々手伝っていた良子も、腹をくくってからの彼女の働きは目覚しいもので、クラスの仕切り、管理、実行委員との折衝など、あらゆることに走り回ってくれた。
妥協を許さぬ彼女の性格が、自身の首を絞めたようだった。
それはさておき、かなり大掛かりな出し物を計画してしまったがために、玲たちは、あちこちに借りを作ってしまった。なんといっても高校生である。校風は自由だが、進学校であるため、アルバイトは禁止されていた。友人知人を頼り、文化祭の出し物を作り上げてきた玲たちは、その借りを返しはじめた。
今は文化祭の時期だ。
協力してくれた友人知人たちの、文化祭の裏方仕事や、表仕事を積極的にお手伝いすることで、借りを返す。
今回は、結構な無理を聞き入れてくれた幼馴染への返済だ。
気弱な幼馴染は、
「玲ちゃんたちは忙しいんだから、いいよ」
と、遠慮していたが、
「何いってんの! あんたはそれでいいかもしんないけど、こっちの気が済まないっての」
借りは作りたくないのよ――という良子の剣幕に圧倒され、
「お願いします」
即座に前言をひるがえした。
彼のクラスの出し物は、お化け屋敷だった。
彼らは、古式ゆかしい、手作り感あふれるお化け屋敷を目指しているようだった。
無論、それを全否定するつもりはない。物足りない。それだけだ。
都合をつけて参加するのに、こんにゃく振りと、ラジカセのスイッチ押しでは、まったく楽しめない。
珍しく意見の一致をみた玲と良子は、別案を提供し、幼馴染にそれをのませた。
別案を出したのは、もちろん、玲だった。
同級生の数人を招集し、彼らに協力を要請した。文化祭で親しくなった彼らは、嬉々として手伝ってくれた。
彼らの腕は確かだった。
玲と良子、急遽参戦となった瑠衣と玲於奈は、彼らの手で、この世のものではない、禍々しい異形のそれへと姿を変えた。
何事も楽しみたい玲と、やるからには徹底的にやる良子、付き合いのいい瑠衣と玲於奈の四人は、入念な準備を終え、本番の日を迎えたのだった。




