表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/81

なにがなじょしてこうなった

 



 北岸 あきらは、自分が貪欲であることを知っていた。

 人生を楽しむ――ということに、とても貪欲だ。


 両親は健在だし、短命で世を去ったひとも、身近にはいないのに、この楽しみたい、謳歌したいという欲は、いったいどこから湧いて出るのか? と、ときに自問するほど強烈にある。

 答えは簡単だ。持って生まれたものだ。拍車がかかっているのは、環境のせいだろう。


 親の庇護のもと、衣食住の心配なく、学生生活を満喫している。

 勉強に習い事に、趣味に遊びにと、忙しく充実した日々だ。そんな生活が、さらに忙しく、充実したものになったのは、高校二年に入ってからだった。




「神に感謝する」


 クラス替えの掲示板を見て、玲の心は震えた。

 しみじみいう玲に、親友の山野やまの 良子りょうこは、「は?」頭大丈夫? という声と視線を寄こしたが……。


 クラス替えは、奇跡としかいいようがなかった。なにせ、幼馴染であり、親友でもある山野やまの 良子りょうこ沢田さわだ 瑠衣るい二木にき 玲於奈れおなを筆頭に、学年でも評判の、可愛い娘ちゃんと美人が顔をそろえたのだから。


 美しいものが嫌いな人間がいるだろうか?


 ことに玲は、美しく可愛いらしい女性が大好きだった。

 一年間、彼女たちと同じ教室に集い、学ぶ。そのうれしさに、学業に熱も入る。


 しかし、すぐに玲は首をかしげた。

 彼女たちの可愛らしさを、ただ、にやにやと眺めているだけでいいのか?


「これはやらねばなるまいよ」


 勝手な使命感に燃えた玲は、十月の文化祭に向けて猛進する。

 それまでは、何をするにも、自分と友人たちだけの小規模だったものが、クラス全体を巻き込んでの取り組みとなった。


 玲発案の文化祭の出し物は、手間も時間も金もかかるものだったが、苦労をした分喜びも大きく、クラスの結束も固くなっていった。


 はじめは嫌々手伝っていた良子も、腹をくくってからの彼女の働きは目覚しいもので、クラスの仕切り、管理、実行委員との折衝など、あらゆることに走り回ってくれた。

 妥協を許さぬ彼女の性格が、自身の首を絞めたようだった。


 それはさておき、かなり大掛かりな出し物を計画してしまったがために、玲たちは、あちこちに借りを作ってしまった。なんといっても高校生である。校風は自由だが、進学校であるため、アルバイトは禁止されていた。友人知人を頼り、文化祭の出し物を作り上げてきた玲たちは、その借りを返しはじめた。


 


 今は文化祭の時期だ。

 協力してくれた友人知人たちの、文化祭の裏方仕事や、表仕事を積極的にお手伝いすることで、借りを返す。

 今回は、結構な無理を聞き入れてくれた幼馴染への返済だ。

 気弱な幼馴染は、


「玲ちゃんたちは忙しいんだから、いいよ」


 と、遠慮していたが、


「何いってんの! あんたはそれでいいかもしんないけど、こっちの気が済まないっての」


 借りは作りたくないのよ――という良子の剣幕に圧倒され、


「お願いします」


 即座に前言をひるがえした。



 彼のクラスの出し物は、お化け屋敷だった。




 

 彼らは、古式ゆかしい、手作り感あふれるお化け屋敷を目指しているようだった。

 無論、それを全否定するつもりはない。物足りない。それだけだ。

 都合をつけて参加するのに、こんにゃく振りと、ラジカセのスイッチ押しでは、まったく楽しめない。

 珍しく意見の一致をみた玲と良子は、別案を提供し、幼馴染にそれをのませた。


 別案を出したのは、もちろん、玲だった。

 同級生の数人を招集し、彼らに協力を要請した。文化祭で親しくなった彼らは、嬉々として手伝ってくれた。

 彼らの腕は確かだった。

 玲と良子、急遽きゅうきょ参戦となった瑠衣と玲於奈は、彼らの手で、この世のものではない、禍々しい異形のそれへと姿を変えた。



 何事も楽しみたい玲と、やるからには徹底的にやる良子、付き合いのいい瑠衣と玲於奈の四人は、入念な準備を終え、本番の日を迎えたのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ