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第8話 再会

タイトル=ネタバレな気がする。

 アクアシティ 動植物公園



 クラスメート達との遭遇から、およそ30分が経った。

 アイラ一行は中央通りから離れ、アクアシティの端にある、いわゆる動物園に来ていた。

 

 この動植物公園は、アクアシティ開発終了後に開園した、まだ出来て間もない場所だった。

 しかし、立地のせいか閑散とした園内は、不気味な静けさを保っていた。


「誰もいないし、何もない・・・」


 美春が寂しそうに呟いた。 

 別にイベントをやっているわけでもなく、入園料も高めなので致し方ない気もするが・・・。

 アイラはそう思いつつ、美春と美夏を連れ園内を回った。


 園内には動物達までいなかった。 

 いたとしても、モルモットやうさぎ等の小動物が数匹か数羽。

 もはや名ばかりの動物園と化していた。


「つまんない」


 美夏が率直に感想を言った。 

 アイラも美春も同意する他なかった。


「・・・なんか食べようか?」

「お店、全部閉まってた」


 アイラもそれは知っている。

 だが、この気まずい雰囲気をなんとかしようと努力しているのだ。


「もう少し探してもよ?ね?」

「そ、そうだよ、美夏」


 美春も半分諦めたようにアイラに同意した。

 しかし、美夏は、


「もう帰ろう」


 誰よりも沈んだ声で、そう言った。


 そもそも、ここに来た理由は美夏が行きたがっていたからだ。

 開園当初、およそ半年前の広告を見かけた事がきっかけだ。


 その広告ではライオンや像、キリンなどの動物の写真がふんだんに散りばめられていた。

 きっと経営がうまくいっていた頃の広告なのだろう。

 そこから経営が悪化し、この半年でそれらの動物は売られてしまいったらしい。


「・・・帰ろっか」

「・・・うん」


 この状況で居座るのもマズイ。

 

 アイラはそう思ったのか、美夏の手を取り正面ゲートへ向かった。

 美春もアイラに従うようで、アイラの美夏と反対側の手を握った。


 その時だった。


「・・・なに、あれ」


 美春がどこかを指差した。

 ゲート前駐車場の奥、ここから100mほど離れた所。


 そこには、黒服で大柄な男と、同じく黒服で小柄な女が並んで立っていた。

 二人は立っているだけなのだが、どこか違和感があった。


 体の線がゴツゴツしているような・・・。


「・・・危ない!!」


 アイラは美春と美夏を抱き、横に転がった。

 瞬間、音速で飛来したいくつもの銃弾が、アイラの右肩から腕にかけて掠めた。


「っくぅ・・・」


 買ったばかりにワンピースは裂け、流れ出る血に染められた。

 

「さすが貴方の娘・・・いえ、息子ですね・・・」

「だろ?」


 男女の話し声がアイラたちに聞こえた。

 

 貴方の、息子・・・?


「ま、まさ・・か」


 アイラは肩を支え、男を睨むように見た。

 男は笑顔でアイラに手を振った。


「久しぶりだな、アイラ」


 同時に、女も美春と美夏に言った。


「お久しぶりね、美春と美夏」


 男、アイラ、女、美春、美夏。

 不幸にも、こんな場所での親子再会だった。



 3年前 ヤマタノオロチ本社ビル前



「捨て子?」


 洋司は頭を掻きながら、恵里に聞き返した。


「えぇ、二人いますけど?」

「いや、それはいいんだけど・・・」


 普通、民間軍事会社の前に子供を捨てるのか?

 洋司は考えつつ、昼食である牛丼の肉をを箸で掬っては落とし、掬っては落としを繰り返した。


「遊ばないで食べませんか?ていうか良いんですか?捨て子」


 当時の恵里は、今では考えられないくらい落ち着いた女性のようだ。


 そんな恵里の目は、とっとと決めろと言っているようだった。

 洋司は箸を置き、答えた。


「俺は箸が嫌いなんだ」

「じゃあ食べさせてあげましょうか?」

「そう怒るなって・・・まって、ごめん、許して、謝るから、ナイフで食べれないから。いで!!」


 ナイフを唇を切った洋司は、一つ咳払いをして、真剣な顔をした。


「捨て子だよな?今どこにいる?」

「保護しましたから、ロビーでジュースでも飲んでいると思いますよ」

「ふぅん、で、男?女?」

「可愛らしい姉妹です」

「よし、見に行こう、今すぐ行こう」


 牛丼をゴミ箱にぶち込んだ洋司は、ドアを折らんばかりの勢いで開け、廊下に飛び出していった。

 そんな姿を恵里はジト目で見送った。




「小野笠、美春、です」

「美夏・・・」


 二人の少女は、肩を寄せ合い、抱きしめ合うように座っていた。

 囲んでいる大勢の大人に怯え、涙すら浮かべながら。

 

 きっと、二人の異常な姉妹愛はここから始まったのだろう。


「パパとママのお名前は?」

「わかんない・・・」

「何も?」

「・・・」


 恵里の優しげな問いかけにも、まともな受けごたえは難しそうだった。

 

「おうちの場所はわかるかな?」

「わかんない・・・」


 洋司は腕を組み、何事かを考えていた。

 

 恵里と美春、美夏の問答は行き詰まり、ただ時間だけが過ぎていった。

 そんな時、洋司がぽんと手をうった。


「普通に警察行けばよくね?」

「「「あぁ・・・」」」


 誰も思い浮かばなかった事だったようで、隊員たちはお互いに頷きあった。

 それで良いじゃん。

 そんな空気がロビーにあふれた。

 

 ただ、三人を除いて。


「それはダメだ」

「おまわりさんは、だめ!」

「・・・」


 ヤマタノオロチ社長貴崎陽一郎と美春と美夏だ。


「なんでだよ、親父!」

「まったく、お前は勉強ができる馬鹿だな!」


 親子ゲンカが勃発しそうな予感がした恵里が、洋一郎に聞いた。


「一体、なぜですか?」

「・・・警察に行くとこの事が表立って報道される。そうなればマスコミの民間軍事会社叩きに拍車をかけてしまう。子供の捨て場としてな」


 隊員は一斉に息を飲んだ。

 陽一郎の言うことが正しいからだ。


 マスコミは民間軍事会社を快く思っていない。 

 単なる戦争屋、戦争狂のイカれた集団。

 彼らは常にそう考えている。


 叩くためならなんだってするだろう。

 初期の自衛隊の時と一緒だ。


 報道でこんな事を明るみにさせられたら、国民の差別意識にも影響するだろう。

 プロパガンダは戦略の要、ということだ。


「それに、彼女達も嫌だと言っている」


 それは・・・。

 洋司は必死に警察を拒否する美春たちを見て、言葉を押し込んだ。



「じゃあどうするんだよ・・・」

「・・・無かったことにするしかないだろう」

「まさか、殺しちまうのか?」

「・・・俺が養う」

「「「「・・・はあぁ!!?」」」」


 陽一郎の一言に、社員全員が一斉に叫んだ。

 いや、叫ばざるを得なかった。


 かくして、美春と美夏はあのマンションで暮らすことになったのだ。


 事後処理や戸籍の手続き等は役所の同志が手を回し、隠密に事が進んだ。

 そんな中で、二人の両親のことや、アイラとの関係も浮き彫りになるのだが、それはこのあとの話だ。


 ちなみに、この頃から社内では『陽一郎ロリコン説』が囁かれるようになった。

 

 

 動植物公園 ゲート前駐車場



「っはぁ・・・」

「アイラー、大丈夫かー?」


 肩の傷は致命傷では無いが、かなり深いらしく、アイラの呼吸はかなり乱れていた。

 それを見た飯嶋大吾は呑気そうに声を掛けた。

 この程度では死なない、ということを理解しているのだろう。


「とどめを刺しますか?」


 服と同じ黒で統一されたアサルトライフルHK416を構えた女が大吾に聞いた。

 

「いや、アイラは我々に必要な人間だ。生け捕りにするぞ」

「了解」


 タン、タン、タン

 

 三拍子のリズムで、女のHK416が火を噴いた。

 もちろん、狙いはアイラだ。


「あぐっうぅ・・・」


 女はアイラの左肩と左右の太股に狂いなく命中させた。

 バランスを崩したアイラは倒れかけたが、


「「お姉ちゃん!」」


 美春と美夏が左右から支え、なんとか立ち留まった。


「二人共、その子から離れなさい」


 女は冷酷に、鋭く美春と美夏に言った


「いいさ、二人共連れていけばいいさ、なぁ香菜」

「・・・了解」


 香菜と呼ばれた女はHK416を下ろすと、三人にゆっくりと近づいた。

 もはや警戒する必要も無い、ということだろう。


「・・・ごめんね。こんなことになっちゃって」


 アイラは二人に聞こえるくらいの声で謝った。

 美春も美夏も首を振った。


「大丈夫だよ」

「うん、楽しかった」


 さっきまで不機嫌だった美夏も、アイラには精一杯の笑顔を見せた。

 そして、二人は息を合わせて言った。


「「待たせたな(わね)!!」」


 駐車場に一台の軽装甲機動車が突入してきた。

 そう、洋司と亜耶だ。


 ババババババ!!!


 ハッチに取り付けてあるM2重機関銃が唸った。

 香菜はそれを体を捻ることにより回避し、HK416を再度構えた。

 しかし、リロード無しで連射するM2には不利だと判断したようで、即座に筒状の何かを投げた。


「スモーク!」


 瞬時に何かを察知した洋司が叫んだ。

 だが、少し遅かった。


 辺りは一瞬で煙に包まれ、大吾と香菜の姿は見えなくなった。

 

「くそ!」


 洋司はハンドルを強く叩いた。

 余程悔しかったのだろう。


「アイラ!大丈夫!」


 亜耶はすぐにアイラへ駆け寄った。

 アイラはそれを黙って迎えた。


「「・・・」」


 美春と美夏がアイラの腕をしっかりと握ったからだ。


「・・・怖がらないで、なんておかしいかしら?」


 亜耶もそれを察し、バツが悪いような顔をした。


「それより病院だ!」


 亜耶、それに美春と美夏を押しのけ洋司が飛び込んできた。

 これには四人ともドン引きだった。


「え、ちょ・・・と。恥ずかしいよ・・・」


 そして、アイラを軽々とお姫様抱っこをして、軽装甲機動車へ運んだ。

 これには乙女たち(一人男)は顔を赤くした。

 洋司は気にしないようで、すぐに車を発進させた。


「「「あ、私たちは!?」」」


 残された三人の虚しい叫びが無人となった駐車場に響いた。



 アクアシティ 某所



「いあぁ、まさかあそこで出てくるとはな」


 大吾は瓶に入った日本酒を煽りながら笑った。

 香菜もそれに合わせ、笑みを浮かべた。

 

「厄介ですよ、あいつらは」


 今まで散々な結果を残しているタケザキが忠告した。 


「それはお前が無能だからだろ?」 

「「「ハハハハハ」」」

 

 大吾の言葉に部屋にいた男たちが汚らしい笑いを上げた。

 一方タケザキは冷や汗を体中に浮かべせ、ガタガタと体を震わせた。


「無能は、どうするんだったかな?」

「死ぬんじゃなかったですか?」

「そうだな」


 大吾は大型の拳銃デザートイーグルを片手で構え、タケザキへ向けた。


「最後に言い残すことは?」

「お、俺はわ・・・!!」


 バス―――――――――


「てめぇには話す権利なんて最初からねぇんだよ」


 部屋の壁には、一輪の大きな花が咲いた。

タケザキを小物にし過ぎましたw


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