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第6話 事実2

後編です。

 アイラはタケザキが出ていったあと、しばらく事実について脳内で整理していた。


 タケザキたちの目的は『ヤマタノオロチ』への復讐ではない。

 だとしたら・・・?


 アイラが一人思案していると。


「アイラ!!」


 突然会場の扉が開かれ、若い男と女が入ってきた。

 洋司と亜耶だった。


「な、なんでここに居るの?」

「それはいいから、急ぐぞ」


 洋司はアイラの手を取り、ロビーに引き返した。

 

 ロビーでは、血を流し倒れている人や空薬莢等が散乱していた。

 会場はよほどの防音仕様だったのか、音がしなかったが、ロビーでは銃撃戦があったらしい。


「こいつに乗れ!」


 洋司は駐車場に停めてあった軽装甲機動車にアイラと亜耶を詰め込み、自身も運転席に収まった。

 そして、エンジンをかけると、勢いよく発車させた。


「・・・何があったんですか?」


 アイラがおずおずと聞いた。


「私ね、皆に謝りたかったの。それでホテルに行ったら・・・」

「あのざま、ってことさ」


 洋司は口を歪めながらうめいた。

 

 おそらく、ホテルはタケザキらと繋がりがあったのだろう。

 それでアイラか洋司、亜耶の誰かを拘束するために部隊を展開した。


 これがアイラの予想だった。

 

「追っ手が来ます!」


 亜耶が後ろを見ながら叫んだ。

 アイラも後ろへ振り返った。


 後方約100mほどの位置にBMP‐3歩兵戦闘車が一両付いてきていた。

 その機関砲も、こちらを狙っているようだった。


「アイラ、そこにバレットがある。そいつで牽制してくれ!」


 洋司が目線だけ動かし、アイラの足元に転がっていたケースを示した。

 アイラは頷くと、そのケースを開け、中からバレットM82対物ライフルを取り出した。


 そして初弾を装填し、ドアを開け、車外に身を乗り出した。


「狙撃の腕はありませんからね!」

「そもそも当てても無駄だ!安心して外せ!」

「あと、終わったら何があったのか、詳しく聞かせてください!」


 そんなやり取りをしながらアイラはバレットを構えた。


 


 あと少し、あと少しだ。


 洋司は焦りつつも、慎重に運転を続けていた。

 敵の砲撃はほとんど当たらずに済んでいる。

 これは洋司の運転あって成し遂げた事だ。


 それでも、サイドミラーは両方とも吹き飛ばされている。

 それだけ危なかったこともあったのだ。


 だが、この先の広場では『ヤマタノオロチ』最強の部隊が展開している。


 一つは第一騎兵連隊。

 ヘリ中心の部隊だが、アメリカ軍と同じく騎兵を名乗っているのが特長で。

 対戦車ヘリから輸送ヘリ、汎用ヘリも配備されている多目的部隊だ。


 もう一つは軽歩兵部隊『第四小隊』だ。

 中東での戦歴を持つ、『ヤマタノオロチ』で最も実戦経験のある部隊だ。

 この部隊は急遽日本に帰還してきていた。


 そして、タケザキが元々配属されていた部隊だ―――――――――


「ミサイルです!」

 

 アイラが叫んだ。


 回避できない・・・!


 ここまでか。

 洋司も歯を食いしばった。


 だが・・・。


ビスッ!ビスッ!ビスッ!


 三発の照明弾が打ち込まれ、ミサイルの追尾機能を欺瞞した。

 ミサイルは大きく逸れ、上空に舞い上がり、花火の如く爆発した。


「助かった、のか?」

「そうみたい、ね」


 アイラたちは味方の展開する広場までたどり着いたのだ。

 いつの間にか増えていたBMP‐3と共に。


『全機、ガンのみで攻撃開始!地上部隊もTOWで攻撃!』


 軽装甲機動車の外で、幼い少女の声が響いた。


 同時に、無数の光がBMPに降り注いだ。

 AH‐1Sコブラの20mm機関砲の曳光弾と、TOW対戦車ミサイルの物だ。


 これらBMPはろくな装甲も施されていないらしく、ミサイルや機関砲には耐えられないようで。

 乗員は慌てて外に飛び出してきた。


『いいわ、徹底的にやって!』

『『『『おぉぉぉ!!!』』』』


 士気と忠誠心はとても高い部隊らしい。

 無慈悲に、無尽蔵に攻撃の手を緩めなかった。

 

「いい加減、やりすぎだろ・・・」

「凛さんに限度なんて言葉、ないんですよ・・・」


 洋司と亜耶はぐったりしながら言った。

 凛の手を緩めない攻撃に、かなり参ったようだ。

 敵が可哀想すぎて。

 

「・・・」


 アイラはそんな凛の姿に惚れてしまったようで、凛の乗るブラックホークを見上げていた。

 その間も、ハンヴィーには凄まじい銃撃が与えられていた 


 戦いは武装集団の投降、という形で終わった。

 尋問のため、洋司は武装集団を拘束しに席を立った。


「秋雨凛よ、よろしく」

「飯嶋アイラ、です。よろしくお願いします」


 ヘリから降下してきた凛は、アイラと自己紹介しあっていた。


 アイラは純粋に凛の幼い姿に驚き、興味を持ったようだ。

 しかし、凛は別の意味で興味を持ってしまったようで、終始ニヤニヤしていた。


「ホントに男なんだよね?」

「?はい、そうですけ・・・。キャ!?」

「ふふん、反応は女の子っぽいわね」


 凛はアイラに濃密なセクハラをして遊び始めた。

 なお、詳しいことは割愛させていただく。


 その頃になると、洋司も尋問を終えたようで、二人の場所に亜耶を連れて戻ってきた。


「・・・そういうのは後でやってくれ」

「・・・全くです」


 洋司は呆れながら、亜耶は怒りながら凛を見た。

 

「それはそうと・・・」


 洋司は凛の腕を掴み、アイラと距離を取った。

 同時に、亜耶がアイラの腕にしがみつき、反対方向に歩き出した。


 どうやら、洋司はアイラに聞かれたくない話を凛にするようだった。


「あの特殊部隊についてだが」

「・・・目的が分かったの?」


 尋問の結果についてのようだ。

 瞬間的に凛の顔が変わった。


「どうやら、目的はアイラらしい」

「え?」


 凛は予想が外れたようで、驚きの声を上げた。


「私たちへの報復が目的なんじゃないの?」

「間接的には、それで合ってるだろうな」

「・・・あの子をどうする気だったのよ」

「俺の予想だが・・・。俺たちを背後から撃たせるつもり、だったんじゃないか?」


 まさか。


 凛の声が先ほどよりも強ばっていた。

 緊張や疲労から来るものではなく、強い怒りから来るものだろう。


「誰がそんな事を・・・」

「・・・この事件の裏には、一人の日本人が存在する」

「・・・」

「名前は、飯嶋大吾。アイラの実の父だ・・・」


 今度こそ、凛は怒りで言葉を発することができなくなった。


 実の親が子供にそんなひどいことをするのだろうか?

 いや、自分ならそんなことできない。


 偽善ではなく、凛は心からそう思った。


「実際、アイラはあの男に何か吹き込まれた可能性が高い」

「・・・あの男までいるの?」


 凛の震えた問いに、洋司は深く頷いた。


「言いたくないが、アイラが裏切る可能性も0ではない・・・。」

「・・・それは、そうかもしれないけど」


 洋司は俯き、ゆっくりと言った。


「俺だって疑いたくない。アイラは俺にとって妹みたいなもんだぞ?でも、組織を守るためなら・・・」


「あの!!」


 洋司の背後で、叫び声が響いた。


「僕は裏切りません、絶対に」


 そこに立っていたのは、何か決意をしたアイラだった。

 その目には、迷いなど無かった。



 水縞高校 1年2組教室



「結局、昨日はどうなったんだっけ?」

 

 瑛斗たちは教室で昨日、アイラ歓迎会の時の話をしていた。


 と言っても、全員眠りから起きる前に家に送り届けたので、最後の銃撃戦を知る者はいないはずだ。

 というか、睡眠薬を盛られた、ということさえも覚えていないだろう。


「うーん、気付いたら家の前にいたからねぇ」


 クラスメートたちは己の頭を使い、いろいろ考えたが、結論には至らなかった。


「アイラはどうなんだ?」

「僕も同じだよ」


 瑛斗に聞かれ、アイラはあらかじめ考えてあった答えを言った。

 思い出されても困るので、皆にあわせることにしたのだ。


「オーッス!皆、昨日は『大変』だったな!」


 教室に武史が入ってきた。

 そして、そう皆に言った。


「おはよう、っていうか何?大変って?」

「昨日何があったのか覚えてんのか?」


 皆そこに食いつき、武史に質問した。

 事実を知っているアイラも、そこには疑問を持った。


 クラスメートたちは全員眠っていて、その間の記憶はないはずだ。

 それなのに武史は『大変だった』と言った。


 これは昨日の事を覚えている、ということではないだろうか?


「んー、あぁ・・・。なんでもない」


 武史は何か思い出したかのように口を閉じた。


 一体彼はなんなのだろう。

 アイラは謎がますばかりだった。

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