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第4話 歓迎

やっと学園らしく?なりました。


遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした。

 私立水縞高校 1年2組教室



「えーと、転校生の飯嶋アイラさんです・・・」

「「「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」」」

「「「「「可愛いぃぃぃ!!!」」」」」


 気弱そうな女性教師が、半狂乱の生徒たちに怖気づきながら、アイラを紹介していた。

 そう、今日アイラは正式にこの高校に転入、亜耶の護衛活動を始めたのだ。


「えぇ、自己紹介・・・どうぞ」


 担任が端の方に引っ込み、アイラが教卓の前まで進む。

 

「飯嶋アイラです、よろしくお願いします」


 キラッ☆

 と語尾に付きそうなぐらいの笑顔を、アイラはクラス中に振りまいた。


「「「ふおぉぉぉぉ!!!」」」


 男子生徒たちは、今にも沸騰しそうなほどに、顔を上気させた。


「「「キャアァァァ!!!」」」


 女子生徒たちも、卒倒してしまいそうなほど、歓声を上げた。

 それもそのはずだ、アイラの男女問わず『可愛い』と思われる容姿をしている。

 そこに転校生というアドバンテージがプラスされる事で、生徒たちにはより可愛く見えるのだろう。


「で、では、アイラさんは貴崎さんの隣に・・・」

「はい、先生」


 担任は「初めて教師だと認識された!」と別な意味で喜んだ。


「・・・良いわねぇ」


 亜耶はアイラにしか聞こえないほど小声で呟いた。


「何が?」


 アイラは小首を傾げながら、亜耶に聞き返した。

 その一つひとつの仕草が可愛らしい。


「・・・そうやって、すぐ人を虜にしちゃうところ」

「はぁ?」


 アイラは亜耶の言葉を深く考えないようにし、ホームルームを再会した担任の方を向いた。

 

 ホームルーム後


「アイラくんってハーフなの!?」


 アイラの机はクラスメートに囲まれていた。

 転校生が来た時にありがちな、質問攻めだ。


「一応、ね」

「「「すごーい!!」」」


 最初から予想していたので、アイラは難なくこれらに対応した。

 

「なぁ、本当に・・・男子なんだよな?女子みたいだけど・・・」


 男子がビクビクしながら聞いた。

 やはり初対面では、アイラを女子だと思うのも仕方ないだろう。

 だが、


「・・・男、だよ」

「・・・だ、だよなー。ハハ・・・」


 アイラは女子に思われることが大嫌いだ。

 なので、アイラに『女』『お嬢ちゃん』などと呼ぼう物なら、弾丸の豪雨を浴びることになる。


 だが、今日アイラは銃を携帯していなかったので、男子が蜂の巣になる事はなかった。


 それでもトーンの下がった声と雰囲気だけで、男子は怖気ついてしまった。

 まぁ、これ以降彼を含む男子たちが、気安くアイラに『女子』などと言うことはなくなっただろう。


「あ、そういえば俺たちの自己紹介はまだだったな」


 とある男子がそう言った。

 アイラは別に、他人の自己紹介なんて聞きたくもなかったが、ノリに合わせ、


「そうだね、僕も皆のこと知りたいな」


 なんて、笑いながら答えていた。

 亜耶からは「怪しまれないように」と言われているので、妥当な返しだ。


「じゃあじゃあ、私からね!」


 ショートカットの、パッと見陸上部に入っていそうな女子が手を挙げ、元気に身を乗り出してきた。

 周りは心なしか一歩引き、自己紹介の順番を譲る素振りを見せた。

 ・・・どうやら、こういった特別な事には日頃から積極的、というか率先する少女なのだろう。

 アイラは周りの反応と、少女を見比べそんな事を思った。

 

「私は坂崎梨乃、これからヨロシクね!」

「こちらこそ、よろしく」


 アイラは梨乃が差し出した手を握り、ニコっと答えた。

 それを見て、男子たちは、


「次俺!」「いいや俺だね!」「いや、俺だろ!」「ぼ、僕じゃないかな?」 「てめぇじゃねぇよ、この俺だ!」「俺だな、うん」「引っ込め、俺が殺る・・・!」「何をだよ!つーか俺だよ!」「ここは我だな・・・」「「「「「「「「「それだけはねぇえ!!」」」」」」」」」


 アイラの笑顔争奪戦を始めた。

 それは醜いもので、血で血を洗う大激戦を彷彿させた。

 そんな中、


「小鳥遊瑛斗、よろしくな」

「うん、よろしく」


 ニコっ。


 ・・・勝者、小鳥遊瑛斗。

 どさくさに紛れて長身の、バスケ部っぽい爽やかな男子が自己紹介していた。


「裏切ったな、イケメン!」


 残された男子たちは瑛斗に、限りなく不条理な殺意を向けた。

 勝手に揉め始めた自分たちが悪いというのに。

 因果応報、自業自得とはまさにこのことだ。


「ほらー、席付けー」


 そうこうしているうちに、非情にも1限目の始まりを告げるチャイムが教室内に鳴り響いた。


 放課後


「へぇ、アイラくんの家って、貴崎さん家の方なんだ」


 アイラは帰り、校門を出るところでクラスメートたちに見つかった。


「うん、『偶々』ね」


 実際、アイラと亜耶はあの事件後、約束を守る形でだが同棲をしている。

 しかし、そんな事をわざわざ言う必要は無いし、言ってもデメリットしか生まれない。

 なので、これは二人の秘密という事にしていた。


「・・・そうなんだ」


 女子たちがジト目で二人を見た。

 それは敵対心、憎悪心を集め、人間の汚いところを凝縮したような視線だった。

 空気が張り詰め、緊張状態が続いた。冷戦さながらだ。


「・・・そういえば、私って自己紹介まだよね?」


 そんな雰囲気を感じ取ってか、クラスメートの方にいた女子が一歩出てきた。

 アイラとしても、この空気を脱したかったので、この女子に合わせることにした。


「ん、そうだね」

「じゃあこの際しちゃうね。私、白崎咲菜、よろしくね。アイラくん」

「よろしく、白崎さん」


 このやり取りにより、多少空気はマシになった。

 それでも女子たちが亜耶に向ける視線は厳しく、かなり誤解を受けていそうだった。


「・・・そうだ。今度歓迎会でもしようよ」


 次は長身の・・・瑛斗がそう切り出した。

 アイラは心の中で「ナイス」と呟きながら、瑛斗に答えた。


「えぇ、いいよ。皆に迷惑でしょ?」

「そんな事ないよ、な?」


 瑛斗は先ほど亜耶に鋭い視線を向けていた女子たちに、笑顔でそう聞いた。


「そうね、いいわよ。やりましょうよ、歓迎会」

「そうそう、皆『仲良く』ね」


 咲菜もフォローしつつ、この場は丸く収まりそうだった。

 そう、だった。


「皆ありがとう。僕なんかのために・・・」

「・・・いらないわ」


 今の今まで黙っていた亜耶が口を開いた。

 次の言葉に、この場にいた全ての人物が凍りついた。


「歓迎会なんていらないわ。アイラは私だけのモノなんだから」


 亜耶はそう言うと、アイラの手を引き勢いよく駆け出した。


 しばらく走ったアイラと亜耶は、後ろを振り返ることもなく、アイラの部屋に戻ってきていた。


「はぁ・・・」


 クラスメートたちを裏切る形で帰宅してしまったアイラは、ソファに座りながら項垂れていた。

 きっと、皆怒ってるだろうな。せっかく歓迎会の話をしてくれたのに。 

 そんな事を考えると、より罪悪感に襲われた。


「良かったの?あれで」

「いいのよ」


 キッチンで明らかに不機嫌そうな顔をしている亜耶に、アイラは一応聞いた。

 アイラ自身、良くないのならあんな態度はとらない、と思ってはいたが。


「でも友達なんでしょ?」


 アイラはその言葉が地雷であったことに気づかなかった。

 

「友達なわけないでしょ・・・」

「え?」


 亜耶は不機嫌な顔から一変し、今度は悲しそうな顔をして言った。


「いいえ、友達なんて出来るわけないでしょ・・・」

「・・・」


 なんで?

 アイラはその言葉を押し留めた。


 亜耶の父、貴崎陽一郎は民間軍事会社を営んでいる。

 民間軍事会社とは、つまり戦争屋である。

 

 日本は世界で唯一不戦を誓った国だ。

 なので戦争=悪という考え方が他国よりも強い。

 そんな中で「戦争屋の娘が友達を作れ」と言っても、それは無茶な話だ。


「・・・ごめん」


 アイラは不思議と謝っていた。

 何に対して謝ったのか、それはアイラにも分からなかった。


「別に、気にしてないからいいわよ・・・」


 亜耶の言葉は重たく、冷たかった。

 


 翌日 水縞高校 1年2組教室



「昨日はごめんね」


 昼休み、アイラは亜耶から隠れしながら、昨日校門にいたクラスメートたちに謝罪し回っていた。

 隠れているのは、見つかったらまたヒステリックを起こすかもしれないからだ。


 彼らの半分は笑いながら受け流し、半分はアイラを無視した。

 転入二日目でクラスメートとの間に溝を作ってしまった。

 一応アイラもこの事を重く見ていた。


 バレないように、という護衛の前提が崩れ去ろうとしているからだ。


 少なくとも、無視をした半分の人たちはアイラと亜耶の関係を疑っている。

 その人たちが口伝いに何らかの噂を広げていけば、数日中にアイラたちはクラスから孤立してしまう。


 その後噂が事実化し始め、最終的には二人の関係がバレる、という最悪の事態が発生するだろう。


 アイラの仕事は亜耶の護衛、その他にも亜耶の命を狙う者の排除、駆逐を任されている。

 亜耶に警護者がいると暗殺者側に知られると、アイラは自身の命まで守らなくてはならなくなる。

 そうなれば護衛に支障をきたし、護衛の失敗に繋がってしまう。


 なので、アイラと亜耶の関係は文字通り、死んでも守らなければならないのだ。


「あぁ、それでさ。歓迎会の事なんだけど」


 最後にアイラが謝っていた相手は小鳥遊瑛斗だった。


 彼はかなりイケメンで友好的な人間だったので、アイラとしては失いたくなかった。

 だが、瑛斗は心もイケメンらしく、昨日の事は水に流すつもりなのだろう。


 では、こちらもそれを利用しよう。


「俺たちでやろうと思ってるんだけど、参加してくれる?」

「うん、ありがとう。ぜひ参加するよ」

「よし、決まりだな。じゃあ詳しい日時は・・・」


 この歓迎会が勝負だ。

 アイラの作戦では、歓迎会参加者を『悪い噂を否定してくれる人間』に仕立て上げる、というもの。


 作戦の成功率は人それぞれの心情や、流されやすさに上下されるが、やらないよりはマシだ。

 それくらいの気持ちで望んだほうがいいだろう。


「よし、俺がいい場所を提供してやる!」


 話は『どこで歓迎会をするのか?』という所まで進んでいた。


 皆は「カラオケ」だとか「喫茶店」だとか好き勝手な提案をしていた。

 そんな時、一人の男子が立ち上がった。


 ・・・確か、初日に「裏切ったな、イケメン!」とか叫んでいた奴だ。


「おぉ、武ちゃん。さすが!」

「へへ、俺はこれでもアクアシティのプレイボーイと呼ばれてる男だぜ?」


 女子に褒められたのが嬉しかったのか、武ちゃんと呼ばれた男子はベラベラと嘘を吐いた。

 ちなみに、そんな彼の本名は石原武史だ。


「初めて聞いたぞ、それ。・・・まぁいいや。それでどこなんだ、そのいい場所って?」

「俺ん家」

「・・・気持ち悪い」


 さっき褒めていた女子が汚物を見るような目でそう呟いた。

 それと彼女の名前は早見夏音だ。


「・・・ってのは冗談。まぁそれは当日のお楽しみって事で」

「なぁんだ。本気にしちゃった」


 鋭い視線で射抜かれた武史は、震えた声で皆に伝えた。

 

「じゃあ場所だけ伝えるわ」


 武史が伝えた場所は、この間アイラと洋司が銃撃戦を繰り広げたあのホテルと一致していた。



 『ヤマタノオロチ』本社ビル



「え?あのホテルで歓迎会?」


 アイラは一応その事を洋司に相談していた。

 別に関係ないと言えば関係ないのだが、それでも気になることがあったのだ。


「このタイミングであのホテル、何かあるとしか考えられません」

「でもなぁ・・・」


 あの銃撃戦の時、あのホテルには従業員が一人もいなかった。

 つまり、あのホテル自体武装集団の物だと思われた。


 そんなホテルに行くなど、自分から罠に掛かりに行くようなもの。

 危険だ、そうアイラは判断していた。


「アイラは、アイツ等に顔を見られてるよな」

「え?」


 そう言えばそうだな。

 アイラは今更思い出した。

 あの時は頭に血が上っていたし、まともに考える事ができる状態じゃなかったので、しょうがないかもしれないが。


「でもな、出回ってないんだよ」

「・・・何がです?」

「アイラの情報が、だよ」


 それが何を意味するか、それは今のアイラには予想もできなかった。

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