第2話 救出
三話目ながらもまだ学園要素はありません。
もうちっと待ってください
※注意 今回は一段と読みづらいかもです
所在地不明 倉庫
どこかの倉庫の中でアイラは目覚めた。
どうやらあの後すぐに運び込まれたらしい。
ご丁寧に体は椅子に固定されており、ピクリとも動かないようだ。
「ん・・・」
口にも猿轡がされており、まともに声を出すこともできない。
しかも唾液が口内たまってきており、アイラは不快感に顔を歪ませた。
誘拐か・・・。
アイラは意気消沈したようにうなだれた。
初日から大失態を犯してしまった。
その事がアイラを苦しめた。
・・・しかし、いくつか『普通』の誘拐とは違った点があったように思える。
例えば・・・。
ただの誘拐に閃光手榴弾なんて使うだろうか?
なんならナイフで脅すだけでも誘拐できるはずだ。
それに、「突入!」の掛け声。
誘拐犯がわざわざそんな事を叫ぶだろうか?
あとは、未だに頭部に残る痛み。
あれは銃床での打撃だったのではないだろうか?
鈍器の感触や経験からいって、ツルツルしたバットでもないし、灰皿のような陶器でもない。
だとしたら・・・。
「!?」
俯いていたアイラの顔がいきなり持ち上がった。
否、自分から顔を上げたわけではない。
「おはよう、気がついたかい?」
この男に顎を持ち上げられているのだ。
少女漫画などでイケメンがする行動に似ている。
たぶんこの男がイケメンでアイラが女の子だったら、胸がトキメク行動なのかもしれないが・・・。
あいにく男の見た目は最悪。
伸ばしっぱなしの髭。だらしのない服装。手入れを怠った髪。
ホームレスかなにかかと誤解を生みそうな見た目だった。
それにアイラは男だ。
「それにしても災難だったなぁ」
男は独り言のように話始めた。
「あんな組織関わらなければ、こんな目に合わなかったのになぁ」
あんな組織とは、『ヤマタノオロチ』のことだろう。
「俺たちはね、何もアンタを傷付けたいわけじゃあない」
男は倉庫に転がっていた椅子を立て直し、それにどっかりと腰を下ろした。
そして両手を前で組み、真剣そうな目でアイラを見た。
「アンタは、あの組織の実態を知っていて入ったのかい?」
男の問いに、アイラは首を振った。
ただ、亜耶の護衛を依頼され、それを受けただけの関係。
そう考えているアイラは、詳しい組織の実態になど興味もわかないし、知りたくもない。
「あれは、確か10年ほど前の話だ」
そんなアイラを考えは伝わっておらず、男は過去・・・組織の実態を話し始めた。
それは、耳を疑うようなものだった。
「俺はな・・・あの時、米帝色に染まった反イスラム原理主義者どもと戦っていた」
宗教紛争関連の話には滅法弱いアイラだったが、男の震えた声に耳を傾けざるを得なかった。
アイラの父、飯嶋大吾も反米テログループの一員だったからだ。
「俺たちは戦い、女子供も関係なく殺した。全ては大義のため、国のために!」
「・・・」
いつしか男の目には、涙が薄ら浮かんでいた。
「殺して、殺して、殺して。ついには敵を皆殺しにしてしまった!」
そこまで言うと、男の声のトーンが著しく下がった。
「そこに奴が来たんだ。奴は言った・・・。お互い手と手を取って平和的に解決しようとな・・・」
奴・・・。それは『ヤマタノオロチ』隊員のことだろうか?
「俺は奴に感動した。殺しに手を染め、多くの人間を殺した俺に、握手を求めてきた」
男は再び高まってきた感情を抑えられず、勢いよく立ち上がった。
「その直後だ!アイツ等が襲撃してきたのは!」
拳を上げ、割れんばかりの大声で男は言った。
「会談現場に奇襲を掛けてきたんだ!しかもアイツ等はそれを同士討ちなんて言いやがった!」
アイラは「そういうことか」と納得し、溜息をついた。
元々はイスラム主義者と反イスラム主義者の戦いだった。
この時反イスラム主義側のバックにアメリカが付いていた。
『反米組織を快く思っていない』から。
だが、反イスラム派はほぼ全滅してしまい、反米組織壊滅はできなくなってしまった。
それでも諦められないアメリカは次の手をうった。
反イスラム主義者との和平だと思わせイスラム主義者たちを呼び、一気に殲滅するという作戦だ。
でも、これを直接アメリカがやろうとすると、中東のアメリカ叩きが激しさを増してしまう。
そこで使われたのが『ヤマタノオロチ』なのだろう。
どこの国にも属していない、便利な戦争屋が・・・。
反イスラム勢力に戦う力はなく、男の国にはイスラム勢力しか軍事組織はいない。
つまり、この状況で戦闘が行われても、それは同士討ちとして処理できるのだ。
男はその騙し討ちに激怒しているのだろう。
そして、その騙し討ちは『ヤマタノオロチ』が自分からやってきた事だと誤解しているのだろう。
アメリカというバックの存在に気付かず。
アイラは男を哀れだと思った。
倉庫上空 UH60ブラックホーク内
「あの倉庫だな?」
「えぇ、そうみたいよ」
洋司と恵里、それと『ヤマタノオロチ』隊員数名を乗せたブラックホークは、アイラが拘束されている倉庫上空まで来ていた。
彼らは「亜耶のバックに入っているGPSがここを動かない、何かあったのでは?」と心配した陽一郎の命令で、倉庫に向かっていたのだ。
「まさかとは思ったが・・・」
洋司は溜息をついた。
それもそうだ、陽一郎の勘が当たってしまったのだから。
倉庫の正面入口には武装した集団がたむろっており、ただの貸し倉庫には到底見えなかった。
「それじゃ、行きますか」
「よろしく頼む・・・」
パイロットが言い、洋司は力なく頷いた。
これから銃撃戦になるのだ。気が滅入るのも仕方ない。
だが、俺にとって可愛い『2人』の妹を救出しなければならない。
洋司は自分に言い聞かせ、最後の装備点検を行った。
「俺を含む10人がここから降下し亜耶たちを救出する。敵は『あの国』の特殊部隊だ。各員、気を引き締めろ」
「「「「「了解!」」」」」
あの国・・・。
『ヤマタノオロチ』史上最大の失態を犯した国。
それは今までタブーとされてきた。この組織の負の面だ。
「降下ポイント到着!」
パイロットの声に洋司は素早く反応し、機内に設置されたロープを地面に垂らす。
それに気付いた武装集団が叫び声を上げた。
「降下!降下!」
ファストロープ降下の要領で、左右のドアから一人ずつ、しかし短時間に降下していく。
洋司も「さすがだ」と感心しながら、ロープに身を委ねた。
倉庫内
「敵襲!」
突然の叫び声に、アイラと男は入口の方を向いた。
天窓からは八つの首を持った竜が描かれた汎用ヘリUH‐60が、低空でホバリングしているのが見えた。
「あいつは!」
ヤマタノオロチの部隊章・・・。救出!
ヘリからは市街地専用の戦闘服に身を包んだ兵士が降下してきているところだった。
きっとあの中に洋司もいることだろう。
アイラは大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
高鳴る鼓動を抑えるためだった。
それは初めて洋司の戦闘が見られることへの喜びから来るものだった。
「くそ、予想以上に早い行動だな・・・」
男は下唇を噛んだ。
一方アイラは「さすがは娘を溺愛する陽一郎だ」と少し笑みが溢れた。
凄まじい銃声が聞こえた。
それはヘリのドアガンによる援護射撃の音だった。
「逃げるな!この腰抜けが!」
武装集団のリーダーらしい男の叫びが聞こえた。
実戦経験は浅いのかもしれない。
という事は『ヤマタノオロチ』が有利なのではないだろうか。
「一旦後退だ!」
正面入口にいたのであろう武装集団が倉庫内に逃げ込んできた。
やはり戦いは『ヤマタノオロチ』の方が有利だった。
さすが実戦慣れした部隊だ。
「GO、GO、GO!」
扉を蹴破り、隊員数名が突入してきた。
先頭で叫ぶ男の声には聞き覚えがあった。
洋司!
アイラは子供のように目を輝かせた。
「うおぉ!?」
「・・・」
AKを振り上げ、洋司に近接格闘を仕掛けた一人の男が、足払いされ、顔から地面にひれ伏す。
そこに洋司は、89式小銃の折り込みストックで男の後頭部に打撃を加える。
この戦いは銃撃戦というよりも、白兵戦と言った方がいいかもしれない。
敵味方入り乱れての乱戦だった。
「アンタは一緒に来てもらう」
「んん!?」
戦闘をまじまじと見つめていたアイラは縄を解かれ、椅子から立たされる。
先ほどの男が人質に取ろうとしているのだ。
「アイラ!」
ナイフを持った男の腕を捻り上げ、土手っ腹に蹴りを叩き込んでいた洋司が叫んだ。
すぐさま小銃を構え、アイラを掴む男を狙うが、
「おっと、動くなよ。この子の頭を吹き飛ばされたくなかったらな」
男はアイラの頭にマカロフを押し当て、そう威嚇する。
「よし、お前はもう1人の方を連れてこい!」
男は後ろに佇んでいた、生きているのか死んでいるのかよく分からないスーツ姿の男に叫んだ。
スーツの男は無言で亜耶を引き摺って来る。
「くそ!」
成す術がない、そう言いたげに、洋司は吐き捨てた。
それを見た男は調子に乗ったようで、
「追ってくるなよ!追ってきたらこいつらを殺す!」
「・・・」
男が言い終わると、スーツの男が発炎筒を数個足元に落とし、煙を炊いた。
煙の中逃げるつもりなのだろう。
洋司たちには煙の中の男たちをピンポイントに狙撃するスキルはなく、そいつらが逃げていくのを見届けるしかない。
『逃がしちゃいましたねぇ』
少しして、恵里の声がイヤホン越しに洋司の耳へ流れこんできた。
「あぁ」
洋司が呟くように答えると、恵里はクスクスと笑った。
まるで洋司を馬鹿にしたように。
『でも安心してください。私たちが追跡していますから』
恵里はもしもの為にヘリで待機していた。
洋司の突入作戦が失敗し、その『もしも』の事態になってしまったため、恵里は楽しくて仕方ないのだろう。
「はぁ・・・。あとは任せた」
『お任せあれ!』
溜息をついた洋司は、倒れている男たちの尋問をするよう部下に伝え、1人倉庫を後にした。
ブラックホーク内
「さぁて、今度は私たちの出番よ!」
恵里はノリノリでパイロットたちに叫んだ。
洋司の失敗を笑ったり、あってはならない出番を喜んだり・・・。
パイロットたちはその恵里の性格にうなだれていた。
「ほんと、いい性格してますよね・・・」
「えへ、そうでしょ?」
副パイロットが皮肉のつもりで言ったセリフでさえ、笑顔で返せてしまうのだ。
「あれですかね?」
パイロットがアクアシティ内の大通りを走るワンボックスカーを指差した。
「確かに、あれっぽいわね。よーし」
「え・・・。何をするつもりですか?」
副パイロットは、恵里が大きなバックを引っ張り出しているのを見てそう聞いた。
恵里の妙なやる気の高さを感じ取ったようだ。
「じゃじゃーん!」
「って・・・」
恵里が取り出したのはバレットM82対物ライフルだった。
バレットM82は圧倒的な破壊力を誇り、自動車を破壊できるほどの大型ライフルだ。
「そんなものを撃ったら亜耶ちゃんたちが・・・!」
「大丈夫大丈夫。タイヤを狙うからさ」
副パイロットは呑気な恵里を止めようとするが、
「まぁ、大丈夫だ。落ち着いて」
「えぇ・・・。でも・・・」
冷静に物事を判断できるパイロットに諭され、不満げにだが黙った。
それを見て恵里はニヤリと笑い。
「さぁ、行きましょうか!」
ハイテンションでヘリから身を乗り出した。
「・・・ホントに大丈夫なんですか?」
「あぁ、信用してやれ」
副パイロットの心配をよそに、恵里は引き金を引いた。
「あ、やば・・・」
ワンボックスカー車外
「っち、どこからの狙撃だ?」
男は焦ったように外を見回した。
先ほどの狙撃で、燃料タンク付近が被弾し、大量の燃料が漏れ出していた。
どっちみち乗り捨てるつもりだったようで、男たちはアイラと亜耶を連れ、車外に降りていた。
「燃えなかったのが不幸中の幸いですね・・・」
「まったくだ」
スーツの男が呟くと、それに男も同調した。
もちろんアイラも同じことを思っていた。
「でも、車がないんじゃあどうしようもありませんよ?」
「仕方ねぇさ」
男はそう言うと、アイラの縄をほどいた。
「ほら、どこにでも行け。二度と関わるんじゃねぇぞ」
「・・・逃がしてくれるの?」
「あぁ」
アイラは不思議でならなかった。
連れて行けなくなった捕虜は殺されて当然だと思っていたからだ。しかもアイラにはベラベラと色んな話をしてしまっている。戦争なら既に殺されていてもおかしくない。
それぐらい軍人じゃなかったアイラでも分かる。
でも男たちはしなかった。
一体何故?
「・・・実を言うとな。アンタは想定外だったんだよ」
「え?」
「俺たちの本命はこいつ一人だけなんだ」
あんたは最初から逃がすつもりだった―――――――――
「それじゃあな・・・」
男たちは亜耶を連れると、住宅地の方角へ消えていった。
突然得た自由にアイラは戸惑いを隠せなかった。
だが、これで挽回できる。
「亜耶・・・うぅん。あーちゃん、待ってて」
アイラは走り出した。
囚われた過去を振りほどくように。
商業ビル『アクアモール』前
「アイラ!」
「洋司!」
待ち合わせしていたカップルの如く、お互いを見つけた二人は名前を呼び合った。
「ほら、グロックとP226、それとボウイナイフだ」
アイラは洋司から装備を受け取り、ホルスターへと収める。
久々に愛銃に触れ、アイラの顔に笑顔が戻った。
「さて、どうしようか?」
洋司は笑いながらアイラに聞いた。
答えは決まっているだろ、と言いたげに。
「亜耶を見つけて救い出す!」
「よぉし、いいぜその粋だ。俺はどこまでも付いていってやる。絶対に亜耶を連れて帰るぞ!」
二人は互いに頷きあい、ニッと笑った。
アイラたちの反撃が始まる。
ご意見、ご感想お待ちしております。