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第1話 襲撃

学園物です。一応。

 アクアシティ 『ヤマタノオロチ』本社ビル


 民間軍事会社である『ヤマタノオロチ』は、世界各国に支社を持つ巨大な企業だ。本社は東京湾に浮かぶアクアシティにあり、その土地の大半を保有している。

 そんな企業だが・・・いや、そんな企業ゆえに困った事態が発生していた。


 『ヤマタノオロチ』社長貴崎陽一郎の一人娘、貴崎亜耶が襲撃されたのだ。

 まぁ、戦争をするという事は誰かの恨みを買うという事。恨みを持った人間に襲われても、それは仕方のないことだ。


 しかし、陽一郎の亜耶に対する溺愛っぷりは異常で、襲撃を知ったその翌日には、ソ連製歩兵戦闘車BMP‐3を亜耶の登校用に一両購入したほどだ。

 

 そこで、亜耶の兄貴崎洋司が『ある提案』をする。

 そう、それが・・・。


「君が飯嶋アイラ、『君』か」

「・・・はい」

 ロサンゼルスが誇る暗殺者、飯嶋アイラだった。


 アイラは初めて『ヤマタノオロチ』社長貴崎陽一郎と貴崎亜耶に会った。

 陽一郎の方は、強面の顔に無精ひげを生やした厳つい男だった。

 だが、亜耶の方はアイラの予想を遥かに超えた美少女だった。


 一言で言うと大和撫子。

 そんなイメージがピッタリ当てはまる少女だった。


「君の強さは知っている、何時かスカウトするつもりだった」

「・・・それは光栄です」

「それで、受けてくれのかね?」

「・・・はい、もちろんです」


 アイラの答え方がたどたどしいのは、緊張のせいではなく、模範解答を思い出しているからだ。


 陽一郎は基本短気で、すぐに銃を抜く性格だそうだ。

 それで、洋司はあらかじめ「こう聞かれたらこう答えろ」とアイラに教えていたのだ。

 アイラを守るためでもあり、結果的に亜耶を守るためでもあった。

 

「ハッハッハ、それは良かった」


 陽一郎は大きく笑いながら、机に隠していたフルオートショットガンAA-12を置いた。


「・・・」

 

 アイラは冷や汗を隠せなかった。

 陽一郎を怒らせていたらアレで蜂の巣どころかミンチ肉にされていただろうからだ。


「そうだ、君を指名手配していたロス市警だが・・・」


 アイラはゴクリとつばを飲んだ。

 そういえばそうだった。あの時バッチリ顔を見られていた・・・。

 もしかしたら国際指名手配でもされているかも。


「なんでも、担当刑事が変死してしまったらしい」

「え?」


 予想外の答えだった、が、その言葉の意味も読み解けた。


「それで捜査打ち切り、良かったじゃないか」


 ・・・貸し一つ、だな。

 アイラは溜息をついた。


「それじゃあ亜耶、挨拶をしておいで」

「はい、お父様」


 今まで沈黙を保っていた亜耶が前に出た。

 その足取りは優雅で、やはりお嬢様なのだとアイラは再確認させられた。

 

 亜耶は背が高く、見下ろすようにアイラを見た。

 それでも、その眼差しは優しく、温かいものだった。

 しかし、アイラは感じていた。

 この目は子供が欲しいおもちゃを見つけた時の目だ、と。


「うふふ、では行きましょうか」

「え・・・」

 

 亜耶はアイラの手を取り、ゆっくりと社長室から廊下に出た。

 アイラはこの日、地獄のような思いをさせられる――――――――――

 

「貴崎亜耶、あーちゃんとお呼びください」

「・・・あーちゃん?」


 アイラは忌々しそうに目を細めた。


『あーちゃん、ごめんね・・・』

『ママ!何処に行くの?置いていかないで!』


 ふと、アイラの脳内に過去の記憶がフラッシュバックしてきた。

 頭の中に忌まわしい記憶がなだれ込み、アイラの小さな体を押しつぶそうとしてきた。


「大丈夫ですか?」


 頭を抱え、廊下にしゃがみこんだアイラに、亜耶は心配そうに聞いた。

 そして、自らもしゃがみ、アイラの顔を覗き込んだ。


「あ・・・あぁ・・・」

「大丈夫、心配しないで」


 亜耶は唐突に錯乱したアイラに動じず、優しく包み込むように肩を抱いた。

 

「・・・大丈夫、です」


 アイラはなんとか声を搾り出し、そう答えた。


「そうですか?それでは、気分転換に外に行きません?」


 亜耶は深く追求することもなく、笑顔でアイラに聞いた。

 それに対し、アイラは申し訳なく思った。


「・・・すいません、取り乱しました」

「いいえ、大丈夫ですよ」


 亜耶は再びアイラの手を取り、


「ご一緒にランチでも行きましょう」

「えぇっと」

 

 アイラは唸った。

 僕は金がない・・・。

 日本に来てまもなく、手持ちの金などなかった。

 まさか護衛対象に奢ってもらうなど、殺し屋だったアイラでも気が引けた。


「あ、気にしないでくださいね。これでもお金持ちですから」


 確かに、財布の中身は一般人よりも豊かそうだ。

 でも・・・。


「・・・それじゃあ」


 亜耶は、それでも渋るアイラにこう提案した。


「今日一日、なんでも言うことを聞いてくださいね!」


 アイラには、イヤだ・・・とは言えなかった。



 中東 内戦勃発地



 この国の首都では「30人のサムライ達が政府軍を粉砕している」との噂が立っていた。

 派遣された『ヤマタノオロチ』部隊の事だ。


 宗教的対立を大国に煽られ拡大したこの内戦では、すでに多くの血が流れていた。

 そもそも何のために、誰のために戦っているのか、人々はそれすらもわからなくなっていた。

 政府の毒ガス攻撃、散発的な爆弾テロ、ゲリラ攻撃、大国の武器提供。

 終わらない内戦に国内外の人々は嘆き、悲しんだ。


 そんな中、平和を謳歌していた極東の国が立ち上がった。


 それが日本だ。

 しかし、法整備も終わっておらず、単独での海外派兵は厳しい。

 だけど、平和を求めて生きようとする人がいる。


 そこで、実戦経験のある自衛隊、米軍OB、フランス外人部隊出身者が多数を占める民間軍事会社『ヤマタノオロチ』に白羽の矢がたった。


「隊長!秋雨凛隊長!」


 一人の若い男が小隊本部に転がりこんできた。

 秋雨凛、そう呼ばれた少女は眠たげに顔を上げた。


「なぁに・・・。ふあぁぁ・・・」


 凛は小柄・・・というか幼児のような体型・・・いや、幼女だった。

 桃色をバックに多数の動物が描かれたパジャマを着て、傍らには世界的に有名なクマのぬいぐるみも置いてある。


 この小隊本部自体子供部屋のようで、BGMにオルゴールが奏でられている。

 何故戦場にいるのか不思議なまでに幼女だった。


「北東の敵山岳ゲリラ部隊に動きが!」

「ほんとぉ?絶対ぃ?」


 言い終えると、凛は「水」と一言付け足した。

 若い男がペットボトルの水を差し出すと、幼女はコクコクと少しずつ飲み始めた。


「ふあぁぁぁ」


 大きく欠伸ををすると、凛の表情が一変。


「それで、どっちの方角に?」

「こちら側、です」


 凛と男はニヤリと笑った。


「罠に引っかかったのね」

「はい、その通りです!やりました!」


 凛は近くにあったUZIを手に取り、構えてみせる。


「これじゃない・・・」


 凛はUZIを気に入らなかったようだ。

 ぽいっとUZIを投げ捨てる(男がちゃんとキャッチした)と、今度はMP‐5を手に取り構える。


「バーン」


 口で発射音を呟きながら、男に銃口を向けた。

 どうやら今度はお気に召したようで、鼻歌混じりに弾倉を取り替えた。


「今回は隠密戦よ。貴方もそんなAK74なんて持ってないで、もっと小さいのにしなさい」

「えー。これが一番いいんですよ」

「だから、お・ん・み・つ・せ・んって言ってるでしょ」


 男は渋々AKを手放し、UZIを代わりに持った。


「それ使うの?」

「えぇ、そうですけど?」

「はい」


 凛は弾倉をいくつか手に取ると、男に向けて投げつけた。


「ちょ・・・。痛いですって」


 額に直撃した男はそう言いつつも、何故かニヤニヤしていた。


「さ、皆に招集をかけて」

「はいはい」


 男は面倒くさそうに小隊本部を後にした。

 凛もそれを見送ると、面倒くさそうに窓から外の景色を眺めた。


「いつになったら帰れるのかなぁ」


 独り言を呟きながらカーテンを閉めた。


 2分後――――――――――


「皆揃ったわね?」

 

 凛がそう言うと約30人の『異様』な男達が「おう!」と声を合わせた。


「ブリーフィングを始めるわ。今回は敵山岳ゲリラの拘束、及び殲滅が目的よ。敵はさっきまでアンタ達がここで開いていたドンチャン騒ぎを見ていたはず、だから必ずここに来る」


 男達はここで『サーカスの真似事』を行っていたのだ。

 ちなみに、異様と表したのはサーカスのピエロや着ぐるみが銃を持って整列していたからだ。


「私達をただのサーカス団と思って襲撃してきたら、あとは各自の判断でやっちゃって」


 とんでもなく無責任に思えるこの指示だが、それは部下を信用しているからこそ出せる指示。

 彼女らは固い絆で結ばれているのだろう。


「死んでもそれは自己責任ね」

「「「「えぇぇぇぇ」」」」


 ・・・無責任な。


「来ます!」

「よし。皆、最初は投降する感じで出てきて。油断したところを・・・」

「隊長、隠れて」


 なんとか工業とロゴの入った日本のトラックが一台、野営地・・・サーカスの中に入ってきた。


「おら!いるのは分かってんだ出てこい!」


 荷台の大柄な男が叫んだ。

 手にはAK47・・・おそらく中国のコピー品が握られている。

 純正よりも精度が低く、まともに撃てる代物ではないだろう。


「こ、殺さないで」

「お願いします・・・」


 迫真の演技で部隊員が一人、また一人と出て行く。


「チッ、女はいねぇのか!?」

「い、いません!」


 男は舌打ちをし、ズカズカとテント内を調べていく。

 もちろん武器類は隠してあり、テント内は動物やら大道具やらのダミーでごまかしている。


「もう用はねぇ」


 サーカス内を一巡したゲリラ隊員達は、一固まりに集められていたピエロ達に銃を向けた。

 そして、一斉射撃を開始した。

 ここまで計画通り。

 凛は自然と笑みが溢れた。


「そろそろね」

「えぇ」


 ピエロ達が『赤い液』を流し、倒れていくのを見ながら、凛と若い男は頷きあう。

 それが反撃の合図だった。


「・・・!?」

 

 鋭い音と共にリーダー風だった男の胸に大きな穴があく。

 遅れて、ダアァァァンと間延びした銃声が聞こえた。対物ライフルによる狙撃だった。

 距離数十mの狙撃だったが、相手を怯ませるのにはちょうど良かったようだ。


「今よ!」

「オオォォォ!!」


 狙撃に呼応して、『ヤマタノオロチ』の隊員達が一斉にゲリラへ飛びかかる。

 その中には先程撃たれたはずのピエロ達もいた。


 リーダーの吹き上がる鮮血を見て、呆気にとられたゲリラ部隊は何の抵抗もできなかった。


 唐突な狙撃、死角からの奇襲。全てが作戦通りの結果となった。

 ゲリラ部隊の敗因は、目先の戦果ばかりに気を取られすぎたからだろう。

 索敵はもっと細かく、蟻一匹逃さぬつもりでやらなければ。


 およそ5分で全てのゲリラ隊員が無力化された。

 ろくな訓練も受けてないただの雇われ民兵だった。


「しかし、よくこんなもの調達してきましたね」

「ふふん」

 

 ピエロになりすましていた隊員の一人が、着ぐるみを手に取り訝しげに眺める。


 このピエロや着ぐるみなどの衣装は、防爆スーツを手本に作られた、防弾性能が高いものだった。

 どこから入手したのかはわからないが、AKに装甲を破られる事はなかったようだ。

 本当に何物なんだ、この幼女は。


「隊長」

「ん?」


 UZIを持った若い隊員が凛に話しかけた。

 

「先程のゲリラ隊員への尋問が終わりました」

「・・・それで?」

「政府軍特殊部隊が日本に向かったそうです」

「・・・」

「それともう一つ報告が・・・」


 凛はこれ以上頭痛の種が増えないことを祈った。



 アクアシティ 中央通り



 文字通りアクアシティの中央に敷かれたこの通りには、女の子趣味な喫茶店や雑貨店などが多く立ち並んでいた。


「ここです、ここ!」


 亜耶に手を引かれやってきたのは、とある個人経営のカフェだった。

 一見老舗のような佇まいだが、よく見ると装飾は女性好みなものばかりで、アイラ的には苦手な雰囲気だった。


「いらっしゃい、亜耶ちゃん・・・と?」


 中には一人の女性がいた。おそらく店長だろう。


「えっとね、お友達のアイラちゃん」

「ちゃん?」


 その紹介に真っ先に食いついたのはアイラだった。

 ちゃんではなく君だろう、そう主張したかったようだが、亜耶は笑顔でそれを封じた。

 女の子として通せ、そういうことだな。


 アイラは「言うことはなんでも聞く」と約束してる手前、反論せず従うことにした。


「へぇ、もしかしてハーフ?」

「はい、日本人とフィンランド人の」


 アイラは飛びきりの作り笑いでそう答えた。


「すごいねぇ」

 

 店長は感心したように何度も頷いた。

 作り笑いには気づいていなさそうだ。


「私は浅上芽衣、一応この店の店長だよ」

「えっと、これからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそー」


 亜耶はカウンターの一番端・・・店の奥の方に座り、アイラもその隣・・・入口の方に座った。

 入口から襲撃された時、即座に対応できるようにだ。


「今すぐだったらなにが作れる?」

「んー、卵サンドぐらいなら」

「じゃあそれと、アイラちゃんは何飲む?」

「え?」


 いきなり聞かれアイラは少々戸惑ったが、なんとか「コーヒー、ミルク付きで」と答えた。

 

 ここは日本、いきなり襲撃されることはない。

 そう自分に言い聞かせ、落ち着かせた。


「はい、お待たせ」

「おぉ!」


 アイラは久々の食事に目を輝かせた。

 日本に来てからバタバタしていたし、暇もなかったのでまともに食事をしていなかったのだ。


「いただきます」


 そう言い、アイラが卵サンドを口へ運ぼうとした時だった。


キイィィィィィン!!!!


 劈くような音が三半規管を揺らし、眩い光が視界を遮った。

 

「と…にゅ…!!全…生け…り…にし…!!」


 微かに聞こえる声を捉えた。

 ・・・穏やかではなさそうだ。

 アイラは不確かな感覚の中、頭部に衝撃が与えられるのを感じた。


 食事はまた遠のいてしまった。

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