第10話 正体
また一ヶ月も空けてしまいましたね・・・。
マンション『aqua』
「お姉ちゃん・・・」
「美夏・・・」
この日も美春と美夏は、絡み合っていた。
しかし、いつもと違っている所がひとつある。
それは、二人共銃を手にしている事だ。
美春の手にはレミントンM870が、美夏の手にはラインメタルMG3が。
その小さな体に似合わない巨大な銃器だったが、これらが彼女達の獲物だった。
「さ、行こう。お姉ちゃん」
「うん、今度は私達の番だよ」
「ね!」
最後にキスをしてから、二人は『窓』から消えた。
「ねえねえ」
「なぁに?」
「ちゃんとできるかな?」
「大丈夫。二人でいれば・・・」
美春は言い切る直前に、M870を放った。
散弾はビルの方を向いていた兵士の脳天を貫き、赤い花火となって散った。
二人が(アイラや亜耶も)住むマンションは、本社ビルの目と鼻の先にある。
先ほどの爆発音も、全て二人は聞いていたのだ。
そして、アイラが駆けていくのも見た。
そこで、二人は先日の名誉挽回を決め、ビルを襲撃していた部隊を横から攻撃し始めたのだ。
ババババババババ!!
MG3が火を噴いた。
美夏は反動をもろともせず、的確に敵兵士や車両を打ち抜いていく。
戦闘慣れしているのがすぐわかったらしく、兵士達も姉妹を攻撃し始めた。
「ふ、二人共!?」
アイラの絶叫が聞こえた。
それに笑顔で答えつつ、美夏は射撃を続行した。
「大丈夫!私たちも戦える!」
代わりに美春が答え、圧倒的不利な中、単身で部隊中央へ突撃した。
「な、なんなんだこのガキ!?」
「知るか!でも・・・ぎゃ!?」
「くそ、くそおぉ!!」
兵士達は恐慌状態に陥り、戦いどころではなくなった。
跳ねるようにステップを踏み、踊るように引き金を引く美春。
その姿は何処か可憐で、神聖なもののような気すらしてくる。
「し、司令!目標チャーリーとデルタに奇襲を仕掛けられました!支援を要請します!」
敵兵の一人が無線に叫んだ。
美夏は「ッチ・・・」と舌打ちをした。
そして、今まで身を隠していた自動車から飛び出し、美春の元まで駆けた。
美夏は一斉射撃を加えらえ、一旦電柱のところで立ち止まった。
電柱が削られていく。
そんなことを思いながら、美夏は敵兵に向けてMG3を撃ち続けた。
「美夏!伏せて!」
突然、美春の声が響いた。
伏せて、その意味を美夏はすぐに理解した。
「コブラ・・・」
上空には西側初の戦闘ヘリAH―1コブラが飛来していた。
「・・・」
美夏は無言でコブラを睨んだ。
まるで、何かを訴えるかのように。
「撃て!!」
直後、何者かの声が轟いた。
そして、どこからか一本の光が飛来し、コブラに迫った。
「スティンガー!?」
美夏は驚き目を丸くしたが、すぐに正気に戻り、美春の元へと駆けた。
そして小さく呟いた。
「お姉ちゃん、ありがと・・・」
「ふぅ」
亜耶は一つ溜息をついた。
そして、スティンガーの発射管を投げ捨てた。
そう、美夏を助けたのは彼女だったのだ。
「亜耶ちゃんも無茶言うわよね」
亜耶の傍に控えていた、ひとりの女性が呟いた。
「でも、叶えてくれるのが貴方なのよ、芽衣」
「はいはい」
浅上芽衣、普段は喫茶店の店主を勤めている彼女だが、実は『ヤマタノオロチ』の諜報員だったのだ。
「大体ね、あの子が最初に来た時だって・・・」
「アレは仕方ないでしょ?頼れる人があなたくらいだったのだし」
アイラが来日直後に襲撃されたとき、彼女は間接的にアイラを警護するよう命じられていた。
しかし、顔合わせの時に襲撃され、今の今まで打ち明けられずにいたのだ。
「まったく、大変だったんだよ?逃げるの」
「そこで逃げてしまうのが、貴方の欠点よね」
「でもね、スティンガーをここに運べ、だとか、私を送れ、だとか・・・」
挙げればキリがない、と芽衣は首をふった。
「こんな事ばっかりさせてるんだから、多少逃げてもいいんじゃない?」
「あー、そうねー。はい次は・・・」
「聞き流した?いま普通に聞き流したよね?」
「次はあの子達の援護よ、ほら、銃を持って」
「人使いが荒い」
そう言いながら、芽衣は傍らに置いてあったM16A4を持ち、立ち上がった。
「あ、一ついい?」
芽衣は亜耶に振り返り、声色を鋭くし、聞いた。
「なんで、争いごとが嫌いな貴方がここまでするの?」
亜耶はフッと笑って答えた。
「人は変わりやすいものよ?」
それを聞いて、芽衣もニヤッと笑った。
「あの子のおかげ、かな?」
「さぁね」
二人は大きく笑った。
「・・・」
「・・・」
アイラと咲奈は、既にビル一階を掌握していた。
しかし、そこには洋司達の姿はなく、数人の敵兵が居ただけだった。
おそらく、洋司達は一階・・・少なくも人気がないこの二階までを放棄し、その上の階まで後退したのだろう。
いや、そうであってくれ。
アイラはそう願いながら歩を進めた。
「実はもうみんな逃げちゃったんじゃないの?」
咲奈がそんな事を言ってきたが、アイラには構ってやる余裕がなかった。
心のどこかで、自分もそう思っていたから・・・。
「・・・」
口にはしないが、アイラの顔には不安の色が強く浮かんでいた。
そんな時だった。
タン、タタン
銃声がビル内に轟いた。
アイラと咲奈は顔を見合わせ、音の元へ急いだ。
「急げ!この奥にまだ残っているぞ!」
銃声がしたのは4階の会議室方面だった。
そこには十数人の兵士が、今まさに会議室へ突入しようとしているところだった。
「させない・・・」
アイラは9mm拳銃を構え、引き金に掛ける指に力を入れた。
瞬間、射線上にいた兵士の側頭部が吹き飛び、鮮血があふれた。
「ちょ、いきなりすぎない?」
咲奈も慌てたように9mm機関拳銃を構えた。
「くそ、伏兵か!?」
バババ、ババババ
兵士達のAK47が火を噴いた。
しかし、牽制程度のつもりだったのか、壁や柱に弾痕をつけるだけだった。
「一気に片付けるわよ」
「・・・」
アイラはコクりと頷いた。
それを合図にしたかのように、二人は壁から飛び出し、兵士達に肉薄した。
「な・・・?」
敵の指揮官は、愕然としたように目を見開いた。
「がっは・・・」
指揮官は対応するまもなく、接近したアイラのナイフにより刺殺された。
それを見届けると、咲奈もフルオートで機関拳銃を放った。
無数の9mm弾は兵士達を引き裂き、制圧した。
「誰かいる!?」
咲奈は扉に向かって叫んだ。
『いるから、ちょっと離れてなさいよ!』
「え?」
咲奈がキョトンと、戦闘の真っ最中だというのに首を傾げたのと同時に、扉が跡形もなく吹き飛んだ。
「って、きゃ!?」
爆風は咲奈に直撃した。
その勢いで、咲奈は廊下の端まで吹き飛ばされてしまった。
「あー、だから離れてって言ったのに」
煙の中、颯爽と出てきたのは、
「凛さん?」
ロリっ子のくせに戦術家、その名も秋雨凛だった。
「あれ、アイラじゃない?なにしてるの?」
「こっちのセリフですよ・・・」
アイラは引き金を引きつつ、苦笑した。
その拳銃は、最後に残った若い兵士に向けられていた。
「まぁ、それは後々聞くとして」
不意に、凛の顔つきが厳しくなった。
「私達は結構厳しい状況なのよね」
凛が言うには、現在、洋司率いる本社防衛部隊は5階よりも上に後退しており、圧倒的物量を誇る敵に圧迫されているらしい。
さらに、救援に向かっていた富士の戦車隊や、習志野のレンジャー部隊も敵の奇襲を受け、足止めをくらっているそうだ。
「厳しいですね」
アイラが率直な感想をいうと、凛はふんっと鼻を鳴らした。
「まぁ、もって5分ってところかしらね」
「・・・」
起き上がった咲奈が不可解そうな顔をした。
「そんな簡単にやられちゃうモノなの?」
「・・・気になっていたけど、貴方はだれ?」
そう言えば、とアイラも呟いた。
陸自の隊員という事しか聞いていなかったからだ。
「なんて言ったらいいかな?」
咲奈は言葉を選ぶように間を開けた。
「私は昔風に言ったら、忍者ってところかしら?」
「頭下げて!!!」
「「!!?」」
突然、亜耶の声が廊下に響いた。
そして、無数の銃弾が三人を掠めた。
「っち」
咲奈は舌打ちをし、亜耶とは反対側の廊下へ駆け出した。
「逃しちゃったか・・・」
「い、一体なんだったの?」
アイラは聞くしかなかった。
なぜ、亜耶は咲奈を撃ったのか。
「・・・あいつはね、政府が差し向けた工作員なのよ」
「・・・は?」
まるで状況が読み込めなかった。
「つ、つまり・・・?」
「今回の襲撃には政府が関わってるってこと」
亜耶の声は震えていた。
あと少しなんだ、あと・・・少し・・・。




