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前話で書いたかもしれないけどもう一度。


・飛魂は人間に触れられない。

・非生物には触れられる。

・被弾しても肉体的な痛みはない。

・撃墜しても死なない。

※人の記憶から消える、存在を忘れられると死ぬ(というよりも消える)。

 零は「零式艦上戦闘機」という存在を認識している人間が居るため、自我を保っている。


複雑ですみません。


マリアナ沖海戦から70年後のお話です。

それではどうぞ。













「なあ、私はいつまでお前を待っていればいいんだろうな」




青い空。

穏やかな波。


人ひとりいない、海の真ん中。

少女はたったひとり、海を眺める。


前時代の遺物、今ではそう言われる存在が。

ひっそりと、海の底で、眠っている。


「お前はいつになったら、もう一度私の前に現れてくれる?」


潮風を受けて煽られた髪は、もう長く伸びきっている。

ただそこに立ち、その景色を眺め、誰ともなくしゃべることが、世界から忘れられた少女の日課となっていた。


「もう、70年だぞ……」


そっと目を閉じ、思いを馳せる。

古く懐かしい彼の、記憶。

愛しい彼と過ごした、最期の記憶を。



 *


  *


   *





そう。

あの時。

あの時まで私は、生きていた(・・・・・)


攻撃を受けて痛む機体。

身体の痛みはない。

けれど。

衝撃に顔を(しか)め、しかし耐え、尚飛び、向かっていく彼を見ると。


(痛い……)






深く深く沈んでいく、身体。

重い脚。

動けない、動かない。

頭が、はたらかない。


(ああ、もっと、)


……もっと、何?


―――もっと、



少女の胸が脈打つ。

どくどくと血液が流れる音が、やけに耳に響く。

そして心中で、しかし懸命に、叫ぶ。


(もっと、生きていたい―――――!)


碧空に浮かぶ雲をすり抜け、失速し落ちていく機体とともに落下する少女。

中には、目を閉じて倒れている飛行士が、ひとり。


(ああ、―――――)


目を見開き、涙を零す。

声にならない叫びを上げたのも束の間、


(起きて、生きて、生きて、生きて!!)


機体を小さな腕で抱きしめ、懸命に声をかけ続ける。泣くような、叫ぶような声で。

しかし開かない彼の瞼と、物凄い速さで水に近づく己の視界で。



―――沈む!



少女は直感した。







 *


   *


  *



  *



 *









暫くして、彼女は目を開けた。


口元には諦めたような笑み。

膝もとできつく握り締めた手はうっすらと透明になりかかっている。

それを見て、海を見て、そして空を仰ぐ。

それからまた、手を見て、顔を歪ませる。


「…………っ」


嗚咽が聞こえてきそうなくらいの悲壮な表情、しかし少女の口元は弧を描いている。

ふと力を抜いて、握っていた手を解いて息を小さく吐くと、また海を眺め始めた。

その背中は痛いほどに小さく、儚く見えた。







(あの時(・・・)、手を伸ばしていたら)


空と海の青に溶ける自らの手、腕。


(この身が、お前に触れられていたなら)


水から離れることができない自らの脚。

そして、聞こえなくなった、一番傍にいた彼の、声。


(――――――――――っ)



堪えきれなくなったかのようにがくりと脚を水に沈ませ、水中で膝を抱える。

その目はきつく閉じられ眉は寄せられ、組んだ腕は、絡めた指は微かに震えていた。







(行かないで………………!)








お前と離れ離れになるなんて、考えたくもなかった。

お前にそう言えていたら、何か変わっていたんだろうか。










ここまで読んでくださってありがとうございます。

矛盾点などがあればご指摘ください。


次話に続く。


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