2.ごめん
零戦・零の特徴
・艦内にある無機物・無生物に触れることはできる
・人間を含む生物には触れられない
・口が悪い←ここ重要
「はぁぁぁ!? お前、舐めてんのか?」
船室から少女の怒号。
「パラシュートは持って行け。自殺用の拳銃は持っていくな。何度も言ってるだろ!」
むっとした表情で壁に寄り掛かる男性――龍太郎は、
「自殺用じゃない、護身用だ。……それに、乗るのは俺だろ。お前には関係がない」
ぐっと顔を近づけて言う。
少女――、零は不愉快そうに眉をぎゅうっと寄せる。
「どうやって護身するんだよ? それが必要になるくらい私がボロボロになるとでも思ってんのか。それとも風貌開けて慣れない銃器持って撃つか? ああそうですか」
「何怒ってるんだよ、零」
壁から体を離し、零に一歩近づく龍太郎。
零はぐっと見上げ、怒っていないと呟く。
「……お前はまた、靖国に行くことが使命とか考えてんだろ」
「それは、……」
言葉を濁した龍太郎を睨みつけ、零は、どうしてこの男はそうなのかと、怒鳴りたい衝動を辛うじて抑えつけた。
代わりに、一歩下がって地面から少し浮き上がる。
「お前は、死んじゃ駄目だ」
そっと、触れられはしないけれど、零は龍太郎の頬のそばに手をやる。
慈しむかのように。
「何度も言うけど、それはお前が決めることじゃない」
龍太郎はそれを撥ね退ける。
零は穏やかに、けれど決して柔らかくはない口調で、
「……お前が死のうとしないと誓うなら、お前の生き方はお前が決めればいい」
龍太郎と同じ目線の高さで、零から目を逸らすことを忘れてしまうような目つきで。
真っ直ぐ、文字通り真摯に、見つめる。
「だけどお前が死に急ぐなら、私は何度でも止める」
「れ、い……?」
(お前が死ぬ瞬間だけは、一番近くで見たくない、から)
我が儘にも似た気持ちを押し殺して、
「お前は、生きることだけ考えればいい。私とは違って……、生きているんだからな」
人間のように、生き物に触れられない自身を自嘲するように、言う。
その気持ちを、龍太郎は推し量る。
しかし冷酷に、事実のみを伝える。
「それでも――、俺達は死ぬことも、立派な任務の一つだから」
「そんなのは、……詭弁だろ」
零はそれを認めない。
龍太郎に、それを認めて欲しくない。
だが彼は零の心情を知らない。
「……勝利も敗北にも、犠牲は必要だ―――
「それ以上言うと、…………殺す」
瞳孔を開きかけた目で、射殺すように睨む。
「いきなり何を言うんだ? 俺に触ることもできないお前に出来るわけ無いだろ」
「……出来なくは、ない。この艦内にある物体であれば触ったり動かしたりできる」
「初耳だ。無機物には触れるんだな。…………悲しく、ないのか?」
「全く」
綺麗な笑みとはいかないまでも、演技のそれだと気づかれないレベルの笑顔で言う。
「……まぁ、俺から見れば、お前の方が死に急いでいるような気がしてならないんだが」
「私が死に急いでいるように見えるお前には、眼科をお勧めする。紹介状も書いてやるよ」
龍太郎ははぁ、とため息をつく。
そのため息の理由を知ってか知らずか。
零はふと目を逸らし、
「私は、大丈夫だ。今もこうやって、普通に戦える」
戦うことしかできないなんて酷だと、心中では思っているがそれを顔には出さない。
「だから……お前は――、死ぬな」
「いや、だから俺は、――――」
発した言葉はまるで子供の駄々のようで。
零は小さく首を振って目を閉じた。
(兵士だから、死ぬこともある。死ななきゃ、いけない、のかもしれない。でもそんなの、分かってる、けど、)
そして彼女も心の奥では、半ば諦めている。
(こいつには、何を言っても)
と。
「あのなぁ、零。俺は」
「もう、口にしなくていい」
ふっと浮き上がり、口の端で笑みを作る。
ひどく暗い笑みだった。
零は唇を薄く開いて言う。
「所詮私はお前の所有物だからな。お前の決定に従う」
「そんなこと、……」
(そんな顔をさせたかった訳じゃ、)
躊躇して伸ばした龍太郎の手が空を舞った。
零はふわふわと宙を漂う。
「龍、私はね」
自分の掌を見つめ、そして眉を下げて龍太郎を見下ろした。
「私はお前に不満はないし、むしろ感謝している」
(そんなの嘘だけど、)
「この仕事だって、慣れれば楽しいもんだし」
(こんなのしんどくって堪らなくて)
(全て投げ出せるんなら投げ出したいけど)
(死ねるんなら死んでしまいたいけど)
「だからな、」
(それを言ったらお前は今よりもっと悲しい顔をするだろう?)
「わたしはこれの魂で良かったと思っているよ」
(ごめん、龍太郎、本当のことは言えない)
ずっと謝りたかったこと。
3話に続きます。
感想、歴史考証、そのた色々、指摘ご指導ください。




