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二雪目




月日が流れるのは早いもので、出産から1ヶ月の月日が経ち、赤ちゃんの名前も『カリアス』に決まった。

お腹の中にいる期間が長かったカリアスは、出てくるまでも長くて、1日半かけて生まれる難産。さらに私は軽く生死をさ迷い、カリアスは私以外が抱っこすると泣き止まなかった。

そして、ちらつく《配慮》という言葉に嘆息する。



「おはよう、パリシア」



「おはよう、ジュノット。カリアスもやっとジュノット達で泣き止むようになったね」



「ああ。ホント、良かったよ」



私以外で泣き止まなかったカリアスもここ数日は、やっと私以外でも泣き止んでくれている。



「うわぁああああん」



「あれ!?言ったさきから!?」



「ジュノット慌てないでよ!多分、お腹が減っただけだから!」



ジュノットからカリアスを渡してもらい、片胸をはだけさせれば、カリアスが吸い付いてくる。

やっぱりね!



「…ロザラオ!ジュノット!カリアス見てないで準備する!遅れるよ!」



はあ、すぐにカリアスにデレデレするんだから!

カリアスがお嫁に行けるか不安になるでしょうが!



「ああ~ん!パリシアのドケチ!」



「うっさい!飯食え!稼いでこい!」



「くっ!カリアスの為にも頑張ってくるからな!」



「いいから用意して食え!」




授乳中で、カリアスを抱っこしとかなければいけないので、ロザラオとジュノットに自分で盛り付けさせて、食べるように急かす。

一応、こんな連中でも優秀で、たった一年の間に商売で成功して、従業員も数人雇っている、今、波に乗ってる商人なのだ。



「う゛~!カリアス!パリシア!行ってきます!」



「行ってきます…」



「はいはい、行ってらっしゃい」



いつも以上に出るのを渋るジュノットとロザラオ。

普段は、朝食を食べれば普通に出勤するのにな。



「安静にしてろよ?最近、体調が良いからって無茶はするな」



「そうよ!まだ本調子じゃないんだからね!」



「分かってるー」



本当、何なんだろ?

こんな釘刺されるなんて、10歳の時以来の気がする。

あの時、何で釘刺されたんだっけ?



「ふぅ、行くか」



「そうね」



行ってきますのディープキスをロザラオとジュノットがするのをいつものように流す。

というか、職場一緒なのにする意味ってあるの?なんて疑問は無しだ。



「行ってきます」



「行ってくる」



ディープキスを終えたロザラオとジュノットにキスをされ、カリアスを持ち上げ、カリアスの両頬に二人はキスをして、やっと家を出た。



「行ってらっしゃ~い」



家を出たロザラオとジュノットに、カリアスの手を軽く振って見送れば、やっぱり顔がだらしなく緩んだ。

威厳ないから職場で見せるなよ!



「…ふぅ、さて、やりますか!」



ロザラオとジュノットを見送った後、カリアスを背中に背負い、紐で落ちないようにしっかりしっかり固定する。

それが出来たら、まずは食器を洗って、家の掃除、昼食を作って食べると、もう正午を回っていた。



「カリアス、お散歩行こっか!」



「あう」



時間の余った午後は、カリアスを抱っこして、夕食を考えながら村を散策するのが日課になってる。

国境近くの辺鄙な村は、それでも国境を越える人には大切な拠点とされ、辺鄙ながらに宿場と商売の村として不自由なく暮らしている。

なにより、私は、この田舎独特の村全体が家族のような雰囲気が、昔の仲間を思い出させてくれて好きだった。



「う~」



「あら、カリアスちゃん!これ欲しいの?」



「おばちゃん、一つ貰えます?」



「1ドアスよ」



青果屋のおばちゃんに1ドアスを渡す。

この世界の単位は、上からキアス、ギデス、オギセス、オデュス、ドアス、セクォスの6つがある。

価値は、1キアス=25ギデス、1ギデス=4オギセス、1オギセス=2オデュス、1オデュス=2ドアス、1ドアス=4セクォスになっている。



「はい、カリアス」



「う~…うぇっ、うぁああああああ!!!」



「あっ!泣いちゃった」



「当然でしょ!もう!」



カリアスが興味を示し、買い取った鮮やかな果物は皮が苦いことで有名な果物だったりするので、表面を舐めたカリアスは苦さのあまり泣き出してしまったのだ。

なので謝りながらあやす。



「ああ、そうだ!おばちゃん、少しカリアスを預かっててくれない?」



「ん?いいけど、また何で?」



「水の補充のために泉に行きたいんだ」



そう説明するば、おばちゃんは簡単に承諾してくれた。

実際、ロザラオかジュノットに頼もうとして忘れてたんだけど、晴天に久しぶりに一人で遠くまで散歩もしてみたかったりする。

まあ、今日の分すらない状況でさえなければ、やたら念を押して忠告された今日は避けた所だけど、水がないと夕食が作れないんだよね。



「ふ~ふふふ~ん」



村外れの森にある綺麗な泉。

だけど森を少し行けばあるから、獣の心配もない。


そのはずだった。



「一つ聞きたい」



「え…なんでしょうか?」



村の人しか知らないはずの泉に、最近見てない服を着た男達。

でも、その服は、ある意味見慣れた服。

ここで暮らすようになるまで、ジュノットとロザラオが着ていた服。



「お前がパリシア・エトルスか?」



国の軍服。

何で!何で!何で!

何で居るの!?



「無言は肯定と見なす」



逃げ出そうとして足がもつれ、軍服の男の一人に捕らえられる。



「何よりあの子供を抱いていたのが事実」



男の言葉に、怖れていた事態が起きたんだと理解する。

男同士の恋が蔓延する世界で、愛した者同士の子を代理出産したような子を産んだ私。

いつか狙われるのは覚悟してた。

でも、一人目は奇跡で片付けられると、早くても二人目以降だと油断してた。



「騒がれると面倒だ」



そう言って睡眠効果のある薬を染み込ませた布で口と鼻を覆われ、薄れる記憶の中で走馬灯のように思い出す。

そう言えば、前にロザラオとジュノットが過保護だったのは、二人と国の重鎮を助けて、目をかけられた時だったな。

こう二度も別れを予期するとか、あの二人の虫の報せ優秀過ぎるだろ…。








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