第五話 ノーハートたちの体育祭
10月9日火曜日、約一週間後に体育祭がある。
当然生徒なので、俺も出なくちゃならない。えっと俺が出るのは・・・
「2000mリレー?」
「ああ、これに出てくれ。」
まあ、特に断る理由もないし別にいいか。俺はクラスの連中とそこまで仲は悪くない(金本を除いて)。だから、こうやって話ぐらいはできる。ただ友達は一人しかいない。
「黒田君、リレーに出るの?」
「ああ、面倒くさいだろ。」
話しかけてきたのは佐竹。おれの唯一の友達だ。
「がんばれー。」
「なんて心のこもってない応援なんだろうな。」
「心無いもん。」
「説得力がない。」
はぁ、いまだに佐竹がノーハートとは思わない。むしろ思うことができない。こんな俺なんかよりよっぽど人間らしいし。クラスの女子が佐竹に声をかけてきた。
「佐竹さんはどうするの?」
「じゃあ綱引きで。」
「怪力女。」ボソッ
その瞬間、俺の顔面に鉄槌が飛んできた。これでノーハートとかウソだろ、おい。クラスの連中はその光景を笑ってみていた。
昼休み、俺はいつも通り、屋上へ行く。そして柵をよじ登り、目の前に広がる光景を見ていた。
「あ~いてえ。」
「自業自得。」
「うるせえよ。」
いつもと変わらない日常。それがこんなに素晴らしいものだとは思ってもいなかった。佐竹といることで、俺自身ずいぶんと変わったなあと思う。佐竹はもともとがわからないから知らん。
キーン コーン カーン コーン
「あ~あ、終わっちゃった。」
「次の授業何?」
「体育。」
「めんどくせえな。」
急いで、運動場にある更衣室に向かう。クッソ!なんで屋上からこんなに遠いんだよ!!(当たり前)
何とか間に合った。けどこっから2000mリレーの練習。言うまでもなくしんどいなこれ。50分間ほとんど走り続け、4時間目が終了した。
5、6時間目も終わり、佐竹と一緒に帰る。そういえば、佐竹には悩みがないのだろうか、一度も悲しそうにしてたり、落ち込んでたりするところを見たことがない。ノーハートなら当然なのだが、俺は佐竹をノーハートとして見ていない。
(そういう面ではある意味、ノーハートなのかな?)
今日も佐竹は笑顔で家に帰る。そんな佐竹を見ているとなぜか笑みがこぼれる。
「じゃあな。」
「うん。また明日。」
家に帰っても時々だが、佐竹の顔が思い浮かぶ。休憩しているときに、「あいつと明日は何を話すのかなあ」とか考えたりする。
10月15日月曜日、今日は体育祭。別段張り切るわけではないが、まあやるからには全力で取り組むか。クラスの男子が妙に張り切って見えるのは・・・うん。気のせいじゃない。
「絶対優勝するぞーーーー!!!」
「「「「「オオーーーー!!」」」」」
まあ、一番を狙うのは悪くないからいいだろう。
「活躍して女の子にもてもてじゃあーーーー!!!!!」
「「「「「オオーーーー!!」」」」」
病院行って来い。クラスの女子が全員ひいてるし。例外なく、佐竹もひいてた。
「お前は心がないんだからひく要素ないだろ。」
「それはそれ、これはこれよ。」
ああ、もうどうでもいいや。とりあえず、競技に集中しよう。
―2000mリレーに出る人は入場門前に来てください。
「さて行くか。」
「がんばってね。」
佐竹の心こもった(?)応援を受けながらついに始まった。俺の番は4番目。
「よーい、スタート!!」
バン!!とピストルの音が鳴り響き、一斉にスタートした。
ワーワー!!!
俺のクラスは現在8クラス中3位、悪くない順位だ。そして、2番にバトンが渡された。俺たちの二番手はクラスで一番早い奴だ。どんどん追い抜き1位に、しかし、
「あーっと!!!バトンが落ちてしまった!!!」
痛恨のバトンミス。一気に4位まで落ちた。3番手の奴も早いんだがおれほどではない。それでも順位を一つ上げ、俺にバトンタッチだ。俺は懸命に走る。少し前を走っていた奴を抜いたが、1位にはなれずアンカーの金本にバトンを渡した。
(あいつ、1位になれなかったらぶっ殺す・・・)
そう思っていると本当に一人抜いて1位でゴール。体育祭の結果は優勝で終わった。
10月16日火曜日
「ああ~めんどくせえ。」
体育祭が終わった次の日からテスト1週間前に入る。まったく、少しは生徒のことを考えてくれ。
「勉強もしなきゃダメでしょ。」
はいはい、わかりましたよ。俺の母親みたいで、綱引きでは異常な筋力を見せた佐竹さん。とか言ったら殴られそうだったので何とか思いとどまった。
「ちぇっ、しょうがねえな。」
俺は頭をかきながら、また勉強に取り組むのだった。
今回は短いですね。あと、黒田君が徐々にですが人間ぽくなってきてます。ノーハートはどうした?と言われると返答に困りますが温かい目で見守ってやってください。