死後の世界はおっぱい
憂鬱が重なるとふと天井を見上げ、何を吊るそうかと手綱を探すものです。
ある夕のことでした。
今日も今日とてマスメディアはあるかないかとよくわからないことを広めています。
まるで宇宙人や幽霊がいるのかとか、的外れなことを自信なさげに。
つまりは真偽不明。疑惑。ただ数字を取りたいからと人を煽るのです。
相応にして人は煽られるのを好み、不安がるのです。
馬鹿馬鹿しいことでしょう。
こう書いて読んでみれば本当にそうでしょう。
こういった根本はほとんど地獄は存在するのか、死後の世界はあるのか。
などといった馬鹿な話でしかありません。
しかし今日も誰かは自殺するのです。きっとそこはマシなところなのでしょう。
そう文句を頭に語るうちにすっかり時計の針が夜に勃ちました。
なぜ針はあるのに穴は無いのか。
私は物理学と工学を恨みました。
神を憎みました。
神のゲイめ。これがポリコレということか。
いいえ、そういった話ではありません。
死後の世界の有無などで不安がるのはアホのすることです。
きっと低学歴依然の馬鹿でしょう。
いいえこれも違います。どこぞの高学歴らは秘密結社とか言って変な死生観を持っていますから。
そんなのも嘘だとわからないほどに陶酔しなさって。
何を崇める必要があるのでしょう。彼らも神も馬鹿ではありませんか。
つまりはこういうことです。
死後の世界など話しても無駄なのです。不安がっても無意味なのです。
あるのかないのかなど観なければわかりません。死んでみなければわかりません。
転生などなろうにしか存在しません。現実を見てください。
それと結局、幽霊が現れない限りはわかるはずがありません。
その上で学問として証明できなければいけません。
ようは生きながら死んだ世界を観測するという矛盾したことをするのです。
さて、それは死ぬという定義にあてはまるのか疑問です。いいえ、あてはまらないでしょう。定義と矛盾しています。
ゆえに無理があるのです。死後の世界があるとして、幽霊が現れたとして、それを死ではなく別の生きた状態でしょう。
ええそうです。だから私のような人はこういうことを考えたくありません。
死後の世界など無い方がいいのです。跡形もなく消えてしまいたいのですから。
そう上を向いた夜でした。
垂れるベルトを白水が伝って私の首を冷やしました。
それが喉に入ると、不思議と甘く、もう一滴と欲しくなったのです。
しかしこの白水は、まるで乳牛の乳を搾るように、ベルトを締め付けないと垂れ落ちてきません。
こうなると死んでしまいます。死んでは味わえません。
だからもどかしくも締めては緩め、悶えていました。
そこに幽霊が現れたのです。皴だらけのお爺さんでした。頭に三角のやつを巻いて、ゆらゆらと浮かんでいます。
目が合いました。私は必死だったので、そういう姿を見られ、恥ずかしくなりました。
幽霊など信じていませんでした。
だから驚き、怖がる。
のも忘れ、私は恥ずかしさのあまりすぐに幽霊を信じました。この羞恥心が幽霊の実存を何よりも証明していました。
「どうぞ、続けなされ。どうぞどうぞ」
爺霊がにやにやと面白くしていました。
気に入りません。私はすぐ首を緩めました。
「お爺さん。呼んでいないよ。すぐ帰ってくれ。勝手に人の部屋に入るとか常識がないのか」
爺霊はなおも怪しげでした。
「お主は死ぬかえ? 死ぬのかえ? だとしたらもっと面白い。どうだ。悶えなさい。それが最後の試練です。虚無の炎熱に焼かれ苦しむこの地獄からさぁ天国へ」
この爺、呆けているのか。
こうなればと力任せに押し出そうとしたものの、当たり判定が無く、爺霊は悠々と漂っていました。
私はいつも思うのです。貞子とか言うが、こっちから攻撃できないならどうしようもない。私、無双系の敵キャラかよ。
つまらないものですね。
なのでしばらく黙りました。とにかくの沈黙。
爺霊が居たたまれなくなるまで、何かちょっかいを掛けてきても睨みつけ黙る。
すると爺霊が溜息をつきました。
真面目な顔つきに変わりました。
「自殺したまえよ。是非したまえ。今、現世は死に溢れている。生きる勇気が無いから死を渇望する。死ぬ勇気さえないというのに。だがそもそもそれも死に期待し過ぎなのだ。だからもっとした方がいい。だから教えて進ぜよう。死後の世界のことを」
爺霊の皴には年相応の説得力が滲み出ていました。だから私にも興味が出てきました。
私の眉がそう柔らかくなったのに気づいて、爺霊は元気になりました。
一転、神妙になりました。
そっと私の耳に声をあててきました。
「死後の世界には”最高のおっぱい”がある。完璧なおっぱいがある。現世のおっぱいの物足りなさとは違う、頭の中に存在した、想像していた本物があの世にはある。あるんだぞぉ~い!」
あるわけないだろ!! ばーか!!




