第2章:到着
再会とは、単なる帰還ではない。それは過去と現在が静かに交差する瞬間でもある。何気ない到着の中で、ホセは気づいていく――時間は人を変えるだけでなく、その人を見る自分自身の感覚までも変えてしまうのだと。
四月二日、木曜日。サンティアゴの空は曇り、ひんやりとした空気に包まれていた。チリの秋らしい朝だった。
ホセはかなり早めにアルトゥーロ・メリノ・ベニテス空港に到着していた。地下駐車場に車を停め、歩いて国際線到着ロビーへと向かう。
自動ドアの近くに立ち、ジャケットのポケットに手を入れたまま、彼は周囲を見渡していた。風船や手作りの看板を持って誰かを待つ人々の姿が、あちこちに見える。
掲示板に表示された「到着済み」の文字を見つめながら、胸の中に奇妙な感情が混ざり合っているのを感じていた。緊張と、そして確かな愛情。
ナナミが戻ってくる。
ほぼ二年ぶりの再会だった。
今回は短い休暇ではない。
一年間、ここに滞在する。そして――自分と一緒に暮らす。
その事実は、どこか心地よくもあり、同時に少しだけ奇妙でもあった。
再びドアが開いた瞬間――彼女が現れた。
ナナミは、大きな黒いスーツケースを乗せたカートを押しながら、淡いピンク色のリュックを背負って歩いてきた。
ホセは一瞬、動きを止めた。
――彼女だ。
けれど、まったく同じではない。
小さかった従妹は、もう成長していた。
今では彼の肩近くまで背が伸びている。黒く真っ直ぐな髪は、肩の下まで艶やかに流れていた。薄い色のジーンズに、白いオーバーサイズのスウェット。その片方の肩から少しだけ滑り落ちている。
顔立ちはもう丸くはなく、頬骨がはっきりとし、微笑みには自信と大人びた雰囲気が宿っていた。
繊細さはそのままに――もう、子どもではなかった。
人混みの中でホセを見つけた瞬間、ナナミの表情がぱっと明るくなる。
「ホセお兄!」
甘く柔らかな声。日本語とチリの響きが混ざった、あの独特のイントネーション。
最後の数メートルを駆け寄り、彼女は勢いよく抱きついた。いつものように、強く。
ホセは彼女の体温と、ほのかに香る髪の匂いを感じた。
思っていたよりも、抱擁は長く続いた。
一瞬、手をどうしていいかわからなくなる。
「いとこ…やっと会えた」
彼女は少し体を離しながら、下から彼を見上げた。疲れと喜びが混ざった、きらきらとした瞳。
「飛行機、すごく長かった…永遠に着かないかと思ったよ」
ホセは穏やかに微笑む。
いつも彼女に向ける、あの守るような笑顔で。
「おかえり、ナナミ。元気?疲れてるだろ」
彼女は頷いたが、すぐに言葉が止まらなくなる。
「ちょっとね。でもすごく嬉しい!チリがどれだけ恋しかったか、わかる?飛行機ではほとんど眠れなくて、ずっと考えてたの。今年は何をするかって。海にも行くよね?カホン・デル・マイポも!あ、それとコンプレートも食べたい!アボカドたっぷりのやつ!日本では全然違うんだよ…」
ホセはカートを引き取り、駐車場へと歩き出した。
ナナミの話は止まらない。息継ぎもせず、話題が次々と飛び移る。授業のこと、大学への不安、久しぶりのチリに感じる違和感、それでも「今は前よりチリ人っぽい気がする」と笑う姿。
彼は静かに聞いていた。
短く相槌を打ち、時折微笑む。
そして、時々――横目で彼女を見る。
何かが違う。
話すときの手の動き。笑ったときに顔にかかる髪。目に宿る光。
もう、あの小さな従妹ではない。
綺麗になった――いや、とても綺麗だ。
その考えが一瞬頭をよぎり、彼はすぐにそれを振り払った。
どこか罪悪感に似た感覚とともに。
ニョニョアへ向かう車の中でも、ナナミは助手席で話し続けていた。窓の外を眺めるその姿は、まるで初めてサンティアゴを見るかのようだった。
「いとこ、家族みんなに会いたい…特におじいちゃんとおばあちゃん」
「わかった」
彼は前を見たまま答える。
「明日の午後、祖父母の家で待っててもらうようにするよ。いつものように盛大な歓迎になるはずだ。家族全員集まる。アサードもあるし、質問攻めにされるぞ」
「いいね!」
彼女は小さく手を叩いた。
「家族の集まり、本当に恋しかった。日本はもっと静かだから。ここはみんな大きな声で話して、たくさん笑うでしょ。それが好き」
少しの沈黙。
彼女は窓の外を見つめていたが、やがて興味深そうな表情で彼の方を向く。
「ホセ…彼女は?私が一年一緒に住んだら、怒らない?」
ホセは軽く笑い、首を振った。
「もう何ヶ月もいないよ。だから問題ない」
彼女は安心したように微笑み、再び外へ視線を戻した。
その笑顔が、なぜか彼の中に残り続けた。
アパートに着いた頃には、空はすでに薄暗くなっていた。
ホセは荷物を運び入れ、部屋を案内する。
その日の朝に整えた客室。
きちんと整えられたベッド、片付いた机、小さなランプの置かれたナイトテーブル。
「ここが君の部屋だ。何か必要なものがあったら言ってくれ。タオルはバスルームにあるし、クローゼットも使っていい」
ナナミはしばらく部屋を見つめ、それから彼の方へ振り返った。
その表情には、まだ子どもの頃の面影が残っている。
「ホセ…今夜、一緒に寝てもいい?」
少し遠慮がちに言う。
「昔みたいに。今日だけ。明日からはここで寝るから…約束する。飛行機のあとで、一人はちょっと寂しいの」
ホセは一瞬黙った。
断るべきだと思った。もう子どもではないのだから、と。
けれど――疲れた顔と、その柔らかな表情を見て、言葉は出てこなかった。
「…いいよ」
結局、そう答えていた。
「今日だけな」
その夜。
ナナミはシャワーを浴び、ゆったりしたパジャマに着替えると、ホセのベッドに入った。
昔と同じように、すぐ隣に寄り添い、彼の腕に体を預ける。
「おやすみ、ホセお兄」
目を閉じながら、囁くように言った。
「一緒にいられて、すごく嬉しい」
ホセは明かりを消した。
部屋は静まり返り、ナナミの規則正しい寝息だけが聞こえる。
彼は眠れなかった。
しばらく天井を見つめたあと、ゆっくりと顔を横に向ける。
隣で眠る彼女を見つめた。
窓から差し込むわずかな光が、その顔を淡く照らしている。
安らかな表情。疲れの中にある静かな美しさ。
枕に広がる黒い髪。長いまつげ。わずかに開いた唇。
もう、あの頃の少女ではない。
けれど同時に――彼の小さな従妹でもある。
胸の奥に、言葉にできない何かが広がった。
温かさ。確かにそれはある。
だが同時に、微かで新しい違和感。
それが、少しだけ彼を落ち着かなくさせた。
――疲れているだけだ。心配しているだけ。
そう自分に言い聞かせる。
だが、隣で無防備に眠る彼女を見つめながら――
この一年が、思っていたよりもずっと複雑なものになる予感を、振り払うことはできなかった。
理由はわからない。
――まだ。
到着は、必ずしも答えをもたらすものではない。形すら持たない問いを運んでくることもある。この再会の瞬間に、確かに何かが変わり始めていた。ホセはこれまでの関係にしがみつこうとするが、時間はすでに、別の方向へと流れ始めている。




