第6話「嫉妬が怖すぎます」
その後。
私は、人混みと視線と緊張にすっかり疲れ果てていた。
ダンスとみんなからの注目。
修羅場未遂と独占宣言。
精神消耗イベント連続。
……そりゃ疲れる。
「ちょっと……休憩しよ……」
私は、そっと会場を抜け出し、飲み物を取りがてらテラスへ向かった。
夜の空気はひんやりしていて、昼間の熱気が嘘のように静かだった。
星がきらきら瞬く夜空。
遠くから聞こえる音楽。
ガラス越しに漏れる笑い声。
――少しだけ、現実に戻れる場所。
「はぁ……疲れた……」
思わず、ため息がこぼれる。
手すりにもたれ、夜風を頬に感じる。
気持ちいい。
頭が冷えてくる。
(今日……濃すぎた……)
舞踏会、恐るべし。
……と。
「どうして、他の男を見るの?」
背後に低音で静かな声。
なのに、ぞくっとする。
……来た。
私は、ゆっくり振り向いた。
そこには――
月明かりに照らされた、エドワード様。
正装のまま。
静かに立っている。
表情は穏やか。
……なのに、目が真剣すぎる。
「え、み、見てませんよ!?」
反射的に否定。
全力否定。
「嘘」
即断。
迷いゼロ。
信用ゼロ。
……悲しい。
彼は、一歩近づく。
そして、そっと私の手首を掴んだ。
力は弱いし優しい。
でも――
逃げ道は、ない。
「……っ」
思わず息を呑む。
近い。
距離が近い。
心拍数、急上昇。
「……怖かった」
不意に、彼が呟いた。
予想外の言葉。
「え……?」
思わず聞き返してしまう。
彼は視線を逸らしながら、続けた。
「君が……奪われる気がして」
低く、静かな声。
でも、震えている。
私は、言葉を失った。
(え……そんな……)
まさか。
王太子が。
私ごときに。
こんな不安を抱いてるなんて。
「だから……少し、嫌だった」
ぽつり。
拗ねたみたいな言い方。
……え。
……ちょっと。
……可愛くない?
いや、重いけど。
めちゃくちゃ重いけど。
可愛くない?
「殿下……」
どう返していいか分からず、名前を呼ぶ。
すると彼は、少しだけ眉を下げた。
「……でも、束縛しすぎたかな」
不安そうな目。
迷い。
揺らぎ。
自己反省。
……反則。
そんな顔されたら、全部許しそうになる。
私は慌てて首を振った。
「い、いえ! そんなこと……ありません!」
即答。
全力否定。
生存本能。
彼は、ほっとしたように微笑んだ。
「よかった」
安心したような声。
その表情に、胸がきゅっとなる。
……ずるい。
こんなの。
そして――
彼は、そっと額に自分の額を寄せてきた。
距離、ゼロ。
呼吸、混ざる。
近すぎる。
「……誰にも、渡さないけど」
囁くように優しく。
穏やかに甘く。
……なのに。
内容、完全アウト。
(こわい!!)
(優しい声で言う台詞じゃない!!)
(完全にヤンデレ宣言!!)
私は、笑顔を保ちながら、心の中で絶叫した。
(やっぱりヤンデレだーーー!!)
(しかも進化してるーーー!!)
その夜。
部屋に戻った私は、即座に日記を開いた。
そして、震える手で書き殴る。
【作戦③:舞踏会で存在感消す → 大失敗】
【殿下の嫉妬、可愛いけど危険】
【独占欲、想定の三倍】
【逃亡計画、真剣に考える】
ペンを置き、ベッドに倒れ込む。
「……明日から、本気で考えよう……」
自由への道。
生存ルート。
逃亡フラグ。
すべてをかけた戦いは――
まだ、始まったばかりだった。




