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裏切られた俺、ダンジョンの最深部で『無限召喚ガチャ』を引いた結果、神々と最強パーティを結成して世界にざまぁする件

 仲間を信じていた。

 それが間違いだったと気づいたのは、背中を剣で貫かれた瞬間だ。


「悪いな、レオン。お前の“ギフト”じゃ足を引っ張るだけだ」

 勇者カイルの声が冷たく響く。

 目の前で、仲間だったはずの魔導士エリナが笑った。

「最下位ギフト《無限召喚ガチャ》? そんなゴミ、誰も欲しがらないわよ」


 血を吐きながら倒れ込む俺を置き去りに、奴らは光に包まれて帰還の転移魔法を使った。

 ――置き去り、ではなく“処分”だ。

 ここはランクSSS、誰も生きて戻れないダンジョン最深部。


 意識が遠のく中、俺のギフトが勝手に起動した。

《――召喚ガチャ、発動――》


 音がした。

 光が弾け、空間が震えた。

 現れたのは、黄金の髪を揺らす女神だった。


「……召喚者よ、汝の絶望を見た。救済を望むか、復讐を望むか?」

 俺は迷わず答えた。

「復讐だ。あいつらを――地獄に叩き落とす」


 次の瞬間、七柱の神々が現れた。

 戦神、魔神、知神、死神、運命神、時間神、そして“無の神”。

 彼らは俺の契約に応じ、頭を垂れる。


「主よ、我らが剣を差し出す」


 その瞬間、俺のステータスが跳ね上がった。

 レベル9999。攻撃力、測定不能。

 絶望は終わった。

 ――ここからが、“ざまぁ”の始まりだ。


 光が消えると同時に、空気が変わった。

 冷たい風が、俺の頬を撫でる。

 ダンジョン最深部はもはや暗闇ではない。

 七柱の神々が放つ光が、闇を押し返していた。


「主よ、まずは身体を癒しましょう」

 聖神が指先をかざす。淡い光が俺を包み、裂けた肉も、焦げた皮膚も瞬時に修復された。

 そして、死神が静かに言う。

「貴様を殺しかけた者たちの“寿命の糸”、まだ我の掌の中にあります」

 手をかざすと、黒い糸が七本。

 全て、俺を裏切った勇者パーティの名が刻まれていた。


「……殺すのは簡単だ。しかし、それでは足りない」

 俺は糸を見下ろしながら呟いた。

「奴らには、“希望を見せた上で”叩き落とす」


 戦神が笑う。

「それでこそ我が主。復讐は一瞬より、永遠に続く方が美しい」


 俺は神々の力を統合する。

 魔神が渡した“虚界の鍵”を使い、地上への転移門を開いた。

 行き先は――あの日、俺を裏切った仲間たちが祝勝会を開いている、王都の大聖堂。


 門を抜けた瞬間、眩い光と歓声に包まれた。

「勇者カイル様! 魔王討伐おめでとうございます!」

 民が叫ぶ。神官が祈りを捧げる。

 その中心に、カイルとエリナ、そしてかつての仲間たちが立っていた。

 彼らの足元には、俺を“犠牲にした”と誇らしげに記された石碑。


 俺はゆっくりと歩み出た。

 人々が一斉に振り向く。

 ざわめき、悲鳴、そして恐怖が混ざり合った。


「な……なぜ……生きて……」

 カイルの顔が青ざめる。

「お前が死んだはずだ! 最深部で……!」


「そうだな。だが――“俺のギフト”は、まだ終わっていなかった」


 手をかざすと、天井が砕けた。

 そこから、神々が降臨する。

 戦神の大剣が空を裂き、聖神の光が街を照らし、死神の影が大聖堂を包む。


「な……なんだ、この光……!」

「神々だ……神々が、降りてくる……!?」


 人々が膝をつき、祈りの言葉を叫ぶ。

 だが、神々が向ける視線はただひとり――俺にのみ注がれていた。


「この男こそ、真なる契約者。我らの主である」

 聖神の声が響いた瞬間、世界が凍りついた。


「おい、やめろ……やめてくれ!」

 カイルが震える声をあげる。

 だが、俺は静かに告げた。

「やめる? あの日、お前が俺にそう言ったとき、聞いてもらえなかったよな」


 エリナが叫んだ。

「お願い! あれは間違いだったの! 償うから!」

 俺は笑う。

「償い? じゃあ――お前の“命”で払え」


 指先を弾く。

 死神の糸が弾け、エリナの体が霧のように消えた。

 カイルが膝をつく。

「……やめろ、頼む……」


「いいや、これで終わりじゃない」

 俺は宣言した。

「お前たちの“栄光”を、俺が塵に変えてやる」


 神々が同時に詠唱を始めた。

 天が裂け、大地が震える。

 王都を覆っていた聖光が、次第に“虚”へと変わり――

 城も神殿も、祈りの声さえ、光の粒となって消えていった。


 その中で俺だけが、静かに立っていた。


「主よ、これで終わりですか?」

 知神が問う。

 俺は首を横に振った。

「まだだ。世界は奴らに膝をつかされた。だから――次は、この世界そのものを作り直す」


 虚空の中、俺の背後に七柱が並ぶ。

 その瞬間、俺の中に新たな力が宿った。

 “創造”――神々が持つ唯一の力。


「この腐った世界は、裏切りで出来ている。なら、俺は――信頼で出来た新しい世界を作る」


 レオンの声に呼応して、虚無が形を変えた。

 崩れ落ちた大聖堂の跡地に、光の都が現れる。

 人は再び集い、互いを裏切らぬ誓いを立てた。

 新しい歴史が始まる。


 かつて勇者だった男の名を、誰も覚えていない。

 だが、世界は今も語り継ぐ。

 ――“裏切られた男が、神々と共に世界を救った”と。



 燃える王都の残骸を見下ろしながら、俺は息を吐いた。

 焦げた空気の中に、かつての仲間たちの声がかすかに響いている。

 泣き叫び、命乞いをし、許しを乞う声。

 だが、それらはもう届かない。

 神々の加護を受けた俺の足元で、世界は再構築されつつあった。


「主よ、勇者カイルがまだ息をしています」

 死神が報告した。

 瓦礫の下、片腕を失い、血に塗れたカイルが這い出してくる。

 それでも、あの傲慢な瞳だけは失われていなかった。


「……俺たちは、世界のために戦ったんだ。お前だって、仲間だったじゃないか」

 懺悔にも似たその声に、俺は鼻で笑った。

「仲間? それを言うなら、なぜ俺を捨てた?」

「違う、あれは……お前を守るために――」


 その言葉を聞き終える前に、俺は手を伸ばした。

 光の糸がカイルの胸を貫く。

 魂を掴み出し、目の前に引き寄せる。

 透明な炎がその魂を包み、ゆっくりと形を変えていく。

 やがて炎の中から一匹の小鳥が現れた。


「勇者カイル。お前は、今から永遠に“真実を語る鳥”としてこの世界を彷徨え」

 鳥が悲鳴のように鳴き、飛び立った。

 その声は人の言葉となり、世界中に響き渡る。

 ――勇者は偽りの英雄だった。

 ――裏切られた男こそが、真の救世主だった。


 世界の歴史が、音を立てて書き換わった。


 エリナのいない空席、カイルのいない玉座。

 勇者パーティの名は、永遠に“裏切り者たち”として記録された。

 そして代わりに、“神々の契約者レオン”の名が新たな聖典に刻まれる。


 だが、俺の心は静かだった。

 復讐を終えた後に訪れる虚無を、俺は最初から知っていた。


「主よ、世界の均衡は崩れました。どうなさいますか?」

 知神が問う。

「均衡なんて最初から存在しなかった。強者が奪い、弱者が従う――それがこの世界の真理だ」

「では、再びその“真理”を築かれますか?」

「いや……今回は違う」


 俺はゆっくりと手を掲げた。

 かつて滅びた王都の上に、光が立ち上がる。

 それは神々の力を通じて生まれた“新たな世界樹”だった。

 枝は天を貫き、根は地を包み、世界全体に命の循環をもたらす。


「この世界は裏切りで壊れた。ならば次は――信頼で築く」


 戦神が剣を突き立てた。

「我ら神々は、主の理に従おう。だが、主よ。お前は神ではない。人間だ。永遠は持たぬ」

 俺は笑った。

「それでいい。俺は“終わりある王”として生きる。神々よりも短く、だが人よりも長く」


 聖神が微笑んだ。

「では、我らはあなたの国を守りましょう。“レオンの光”として」

 神々の姿が一人、また一人と霧のように消える。

 彼らは世界の基盤に溶け込み、海や風や大地の法則そのものとなった。


 静寂の中、俺は一人、廃墟の中央に立つ。

 目を閉じると、ほんの一瞬――

 かつて共に笑った仲間たちの声がよみがえる。

 笑い合い、飯を食い、肩を並べて戦った日々。

 あれも、全部嘘だったのか?

 ……いや、あの瞬間だけは確かに“本物”だった。

 それだけで、十分だ。


「もういい。全部、終わった」


 俺は天を見上げ、最後の命令を告げた。

「世界よ、再誕せよ」


 瞬間、光が世界を包んだ。

 山が甦り、海が生まれ、星が瞬き、人々が再び息を吹き返す。

 ただし、裏切りを知らぬ新しい民として。

 かつての勇者たちの記憶も、戦いも、誰の心にも残らなかった。


 そして、最後に残ったのは――俺だけだった。


 風が吹く。

 空は青く澄み、鳥が鳴いた。

 その鳥は、小さな声でこう囁いた。


『ありがとう。あの時、仲間でいてくれて』


 俺は目を細め、空へと手を伸ばした。

 カイルの魂が宿る鳥が、光の中へと消えていく。

 その姿が完全に見えなくなったとき、俺はようやく微笑んだ。


「……これで、ようやく本当に終わりだ」


 世界樹の光が大地を包む。

 神々の声が風に溶け、誰も知らない新しい時代が始まる。


 そして人々は、語り継ぐ。

 ――かつて“神々の王”と呼ばれた男がいた。

 ――彼は世界を滅ぼし、同時に救った。


 その名はレオン。

 裏切られた冒険者にして、創世の王。

 彼の“ざまぁ”こそが、世界の再生だった――。


                      【完】

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