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1 婚約者が浮気しているというお決まりの展開ですわ

私、ルシエル王国のレーヌ公爵エレオノーラは、国内有数の大領主であり、ルシエル王国の王太子ジョフロワの婚約者である。


王宮の大広間の窓に映る私は、控えめに言って圧倒的な美人。


恥ずかしげもなく客観的にそう言えるのは、転生者である私にとって、エレオノーラの身体が「入れ物」に過ぎないからでもある。


銀髪に夜空のような深い青の瞳。女性らしいボディラインを、嫌らしくない程度に露出する最新流行のドレスで強調している。


少し露出が過ぎるような気もするが、服飾関係をすべて任せている侍女のララが「イチオシ」と言っていたので、間違いはないのだろう。


実際に私はパーティーの出席者たちから、羨望や憧れの眼差しで見つめられている。


そんな私は今、婚約者ジョフロワの浮気に気づいた。というか、気づかざるを得ない。


ジョフロワは婚約者である私のエスコートもほどほどに、イボンヌとかいう平民あがりの男爵令嬢のもとへ向かってしまったのだから。


それもスキップでもしそうな足取りで。


しかし私は冷静だ。


前世で数えきれないほどの異世界転生モノを読んできた私にとって、これはお決まりの展開だから。


おそらく数週間か数カ月後には、何らかの理由をつけて婚約破棄されることになるのだろう。


「なぜ浮気されるに至ったのか?」と考えることもしない。


理由は明白だ。ジョフロワがとにかく馬鹿なのだ。


私ことエレオノーラは国内有数の大領主、レーヌ公爵の当代。


レーヌ公領は広く豊かで人口も多く、資産も人口も領地面積も、ルシエル王国全体の約1/4程度を占める。


対するジョフロワはまだ王太子に過ぎない。


王太子というと聞こえはいいが、何をするにも父親である国王にお伺いを立てるしかなく、これといった権限ももたないただの子どもなのだ。


さらに今の王家は首都を中心とする狭い範囲にしか直轄領がなく、王権は脆弱。


国王軍も弱く、正直レーヌ公爵軍なら小指一本でひねりつぶせるくらいのレベルである。


その状況で「自分がエレオノーラと婚約してやったのではなく、エレオノーラが自分と婚約してくれたのだ」と考えられないジョフロワは、とんでもない馬鹿なのだ。


この世界での父…前レーヌ公爵は、一人娘である私の将来を案じ、従兄にあたるジョフロワとの婚約をまとめてきた。


ジョフロワと私が結婚すれば私は将来的に王妃となり、ルシエル王国は安定し、レーヌ公爵領も安泰だと思ったのだろう。


しかしレーヌ公爵領から王宮に連れてこられ、いかにも甘やかされて育った馬鹿っぽいジョフロワを見たときの落胆は、今でも覚えている。


あれこれ教え込んだらマシになるかと思い、手取り足取り自分なりに心を砕いて接してきたつもりだが、ジョフロワはいまだに馬鹿のままだ。


これ見よがしにキャッキャッ騒ぎながら踊るジョフロワとイボンヌを見ながら、私は何度目かわからない落胆を覚えた。


金髪碧眼でいかにもおつむが軽そうな、まるで砂糖菓子のような王子様ジョフロワ。


そしてピンクの髪に赤い目をして、フリル満載の少女趣味なドレスで飛び跳ねながら、不自然なほど高い声で笑うイボンヌ。


イボンヌは私をチラチラと見ては、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


(あんな男を手に入れて、なにがそんなに嬉しいんだか)


イボンヌがジョフロワの公式な愛人になれば、彼女がジョフロワを通じて政治に影響力をもつことも、大いに考えられる。


だから周囲も彼女をおだてているのだろう。


ジョフロワとダンスを終えた彼女は、他の男性貴族たちとも踊り始めた。


またチラチラと自慢げに私を見ながら。


視線から「私、愛されてるでしょ?だって可愛いから」と聞こえるようでうるさくて、私はふっとため息をつく。


前世で読んだ異世界転生モノでは、婚約破棄される令嬢たちは、「婚約者による浮気や言葉の暴力」「ライバルによるいじめのでっちあげ」など、ひどい仕打ちに耐えて耐えて耐えた挙句、婚約破棄されるのが常だった。


私には、なぜそこまで我慢する必要があるのかわからない。


「やり返せばいいのに、なぜしないの?」といつも思っていた。


「王権というものが絶対で、貴族は王族より立場が下」という大前提があったのかもしれない。


あるいは女性は圧倒的に立場が弱く、男性にやり返すことなんて考えられなかったのかも。


あるいはヒロインが優しすぎたのかもしれない。


(でも私は違う)


王家をしのぐほどの権力も軍事力もある。


女公爵として、家臣や領民たちを率いてきたという自負も。


それに大して優しくもない。自分をないがしろにする相手に優しくする意味を見出せない。


だから…


(しっぺ返しってご存じ?私はやられたらやり返すわよ)


そんな決意を新たにしていると、背後から「二人とも(ころ)しますか?」と低い声がした。


幼馴染み兼護衛騎士のセヴランのつぶやきは、繰り広げられている華やかなパーティーとはあまりに不釣り合いで、私はぷっと噴き出してしまう。


「浮気程度で殺すのはやりすぎよ。仕返しするなら、相手の罪の重さに見合う内容にしないと。パンひとつ盗んだだけで死罪にはならないでしょう」

「我が主君への侮辱は、万死に値します」

「あなたのそういうところは大好きよ。でも私は、簡単に殺すよりもじっくりいたぶるほうが好きなの。主君の好みも考慮してちょうだい」

「わかりました」

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