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第7話 城に潜む影

カメロットの空は曇っていた。

 砦奪還の勝利から日が経ち、だが祝宴は喜びに満ちるどころか、暗い影を落としていた。

 ――あの夜、杯に毒が混じっていたのだ。

 幸い死者は出なかったが、数人の騎士が倒れ、今も床に伏している。


 「……盗賊の残党の仕業、そう言い切るには無理があるな」

 誠は城の石廊を歩きながら、低く呟いた。

 耳に入るのは、ひそひそ声。


 「異邦人が怪しい」

 「砦で戦わず勝ったのも、何か企んでいたのでは」


 冷たい視線が背に刺さる。

 だが、誠は振り返らなかった。


 その日、誠は王から密かに呼び出された。

 玉座の間の奥、扉を閉ざした小広間。

 アーサーは椅子に腰かけ、誠を真っ直ぐに見据えていた。


 「誠。……我が円卓の中に、影がある」


 短い言葉に、誠は息を呑んだ。


 「表向きには盗賊の報復と発表した。だが、毒は“城内”で混入された可能性が高い。

  お前の目で、探ってほしい。剣ではなく、知恵でな」


 誠は黙って頷いた。

 軍師の戦場は剣戟だけではない――初めてその事実を突きつけられた瞬間だった。


 調査は地味な一歩から始まった。

 給仕の動線を地図に描き、食卓に並んだ皿の順を確認する。

 倒れた騎士の席の配置を洗い出し、共通点を探す。


 「……なるほど。毒は一つの杯だけじゃない。運び手の順に合わせて、複数に混ぜられた」


 誠は思わず独り言を漏らす。

 背後でベディヴィアが腕を組み、低く言った。


 「宮廷での戦いは、戦場より難しいぞ。敵は顔を隠し、笑みを浮かべる」


 その言葉は警告であり、同時に励ましでもあった。


 だが、調査が進むにつれ、別の火種が生まれる。

 円卓の会議で、銀髪の騎士セドリック卿が突然声を張り上げた。


 「この異邦人こそ、毒の黒幕ではないのか!」


 場がざわめく。

 「そうだ、異界から来た者など信用できぬ」

 「砦での策も、もとは裏切り者との通じ合いでは」


 誠は一歩も退かず、静かに言った。


 「……ならば、事実を確かめましょう。僕に時間をください。

  城の影に潜む者を――僕が炙り出します」


 沈黙。

 そして、アーサーの低い声が広間に響いた。


 「……任せよう」


 会議が終わり、石廊を歩く誠の背に声がかかった。

 「……お前の言葉、信じるに値するか。試させてもらう」

 振り返ればランスロット。真剣な眼差し。


 さらに後ろから、ガウェインが小さく微笑みかけてくる。

 ケイは無言のまま、ただ鋭い視線を誠に残した。


 誠は胸の奥でつぶやいた。

 (今度の敵は剣じゃない。……“人の心”か)


 冷たい石畳を踏みしめながら、彼は静かに歩みを進めた。

 導かれし軍師の戦いは、いよいよ新たな局面へと移ろうとしていた。


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