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第6話 血塗られた祝宴

砦を奪還して数日。

 誠たちは勝利の凱旋を果たし、カメロットの街は久々の歓声に沸き立っていた。


「軍師様だ!」

「剣を振らずに砦を取り戻したって……」


 民の視線には敬意と驚きが入り混じっていた。

 だがその影で、兵士の一人が小さく呟いた。


「……仲間が死んだのは事実だ。知略だか何だか知らんが、俺は認めん」


 耳に入ったその声に、誠はわずかに眉をひそめた。

 勝利の代償を、誰よりも理解しているのは自分だからだ。


 その夜。

 城の大広間では戦勝の宴が催され、円卓の騎士たちと家臣たちが一堂に会していた。


「皆の労に報いるため、杯を掲げよ!」


 アーサー王の声に、場が一斉にどよめく。

 豪奢な料理、煌めく杯、音楽と笑い声。

 しかし誠は、どこか落ち着かず、周囲の視線を意識していた。


「お前が……“異邦の軍師”か」


 鋭い視線を向けてきたのはケイ卿。

 重鎧に包まれた大柄の騎士で、王に仕えて最も長い古参だ。


「外様の口先一つで戦が動かせるものか。俺は信じん」


 その言葉に場が一瞬静まった。

 誠は反論せず、ただ頭を下げた。


 そのとき、澄んだ声が割り込んだ。


「彼は僕の命を救った恩人です」


 振り返ると、そこに立っていたのは――

 まだ包帯姿ながら、立ち上がったガウェインだった。


「この場で彼を侮ることは、僕を侮ることと同じだ」


 若き騎士の言葉に、空気が揺らぎ、ケイは黙り込むしかなかった。


 だが――その直後だった。


 「ぐっ……!」


 杯を口にした兵士の一人が、喉を押さえて崩れ落ちた。

 場が騒然となり、すぐに医師が駆け寄る。


「毒だ!」


 杯を確かめた兵の声に、広間の空気が凍り付いた。


「捕らえろ!」

 即座に一人の給仕が縛り上げられ、震える声で叫んだ。


「……わ、私はただ命じられただけです! “モルガン様”に……!」


 その名が出た瞬間、円卓の騎士たちがざわめいた。


「モルガン……!」

 アーサーの異母姉にして、最大の脅威。


 だが誠は胸の奥で違和感を覚えていた。

 (……早すぎる。露骨すぎる。これではまるで“誰かを庇っている”ようじゃないか……?)


 宴の後。

 静まり返った王の執務室に、誠は呼び出された。


「誠。……今宵の件、どう見た」

 アーサーは真っ直ぐに問いかける。


 誠は迷わず答えた。

「――あれは囮です。本当の狙いは別にある」


「やはりそうか」

 王の蒼き瞳が揺らいだ。


「モルガンが動いたのか……それとも、この城の中に裏切り者がいるのか」


 アーサーは誠に歩み寄り、低く囁く。


「軍師よ。真実を暴け。剣ではなく、“知”で」


 その言葉を胸に受け、誠は拳を握りしめた。


(……これが、俺の次の戦いか)


 ――敵は、外か。

 ――それとも、すぐ傍に潜む影か。


 静かな決意が、誠の胸に芽生えていた。


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