表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話「影、円卓に忍び寄る ― 砦奪回戦」

村を救った翌日。

カメロット城の石廊を歩く誠の耳に、ひそひそとした声が混じった。


「……あれが“剣を振らぬ軍師”か」

「村を守ったそうじゃないか」

「だが所詮は、偶然だろう」


声には敬意と猜疑が混じっていた。

誠は足を止めず、視線だけ前に向けた。


その日、彼は王の命で「円卓の間」に呼ばれていた。

円卓――アーサー王の臣下たる騎士だけが座を許される、王国の中枢。


「……異邦の軍師、誠。席に就け」

中央のアーサーが促す。


報告役の騎士が告げた。

「陛下、辺境の砦との連絡が三日途絶えております」


「即刻、討伐軍を派遣すべきだ!」

金髪の若き騎士、ランスロットが立ち上がる。


誠は口を開いた。

「……無策で向かえば、罠にかかります」


一瞬、円卓の空気が冷える。

ランスロットが睨みつける。

「臆しているのか?」

「臆してはいません。ただ――敵はそれを狙っているかもしれません」


アーサーは手を上げた。

「ならば誠に奪回の指揮を命ずる。ケイ卿、ランスロット、同行せよ」


砦は丘の上、三方を断崖に囲まれ、正面の南門のみが広い道で繋がっている。

だが南門は敵の主力が固めていた。


誠は地図を広げ、即座に策を描く。

「南門は陽動に使います。北側の断崖を登って奇襲し、門を内から開けます」


ケイ卿が眉をひそめる。

「北崖は切り立っている。騎士でも容易ではないぞ」


「俺が行く」

ランスロットが笑った。

「崖登りなら俺が最速だ」


陽動部隊が南門前で喚声を上げた瞬間、ランスロット隊は北崖へ。

岩肌は苔で滑り、上からは敵兵が石を落とし、矢を射かけてくる。


「道を空けろ!」

ランスロットは片手で岩を掴み、もう片方の手で投げナイフを放つ。

矢を射かけていた敵兵が悲鳴を上げ、姿を消す。


彼は崖の中腹で一度足場を蹴ると、信じられない高さを跳び、

上端に手を掛けると同時に敵兵の槍を奪い、逆に突き返した。

次の瞬間、鎧をきしませながら崖上へ躍り出る。


門番の二人を同時に切り伏せると、

閂を外すまで剣を鞘に納めないまま、一息の間に北門を開放した。


合図の狼煙が上がる。

誠は陽動部隊を一気に突入させ、南北から砦内の敵を挟撃する。

混乱した敵は統率を失い、戦意を削がれる。


誠は叫ぶ。

「包囲せよ! 逃げ場を与えるな!」


だが殺しは最小限に抑え、降伏者は縄で縛って後方へ送った。

短時間で砦は奪回された。


戦後、ランスロットが誠の肩を叩く。

「やるじゃないか、軍師。だが次は崖登りも覚えろよ」


ケイ卿は呟いた。

「……策の中で戦っていたのは、我々の方だったのかもしれん」


カメロットに戻ると、アーサーが玉座から静かに言った。

「これから先、お前の戦はさらに血に染まるだろう。それでも進むか」


誠は拳を握り、黙って頷いた。

――“守るための戦”は、本当に守り切れるのか。

その問いだけが胸に残った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ