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第12話「偽りの王命」

カメロットの朝は、静かすぎた。

 鐘は鳴っている。人も動いている。

 だが、城全体が息を潜めているようだった。

 誠は、窓辺に立ち、王都を見下ろしていた。

 石畳を行き交う兵、商人、使者。

 その動線を、彼は“流れ”として見ている。

 (……見張られているな)

 視線ではない。

 情報の反応だ。

 彼が城内で何かを調べるたび、必ず半日遅れて噂が広がる。

 それは偶然ではない。

 誠は背後を振り返った。

 「準備は?」

 ベディヴィアが静かに頷く。

 「王命として通す文面は整った。だが……本当に偽情報を流すのだな」

 「ええ。王を守るために」

 ケイが腕を組み、低く唸る。

 「王命を餌にするとは、ずいぶん危ない賭けだな」

 誠は否定しなかった。

 「だからこそ、影は必ず食いつきます。   彼らは“王の決断”に寄生している」

 誠が差し出した羊皮紙には、王璽こそ押されていないが、

 王の意志を示すに足る文言が並んでいた。

 ――《王都南区の兵配置を三日後に再編する》

 内容は些細だ。

 だが“城内の動線を知る者”にとっては、致命的な情報だった。

 「これは罠だ」  ケイが言う。

 「ええ。ですが、“正しい罠”です」

 偽りの王命は、三つの経路で流された。

 一つは正規の書記官。  一つは給仕長の下役。  もう一つは、誠自身が“わざと”聞かせた噂話。

 誠は、誰が、どの速度で、どの形に歪めて情報を運ぶかを見ていた。

 (……来る)

 その日の夜。

 城の西塔で、見張り兵が倒れているのが発見された。

 血は少ない。即死でもない。

 ただ――

 王命に記されたはずの配置図だけが、正確に持ち去られていた。

 「配置は偽だ」  誠は即座に断じた。

 アーサーの前で、羊皮紙を広げる。

 「ですが、盗んだ者は“本物だと信じている”。   つまり、彼らは兵ではない。   “配置を使う立場”の人間です」

 アーサーの指が、机を叩いた。

 「……つまり?」

 「王命が動いた瞬間に動ける者。   しかも、城の外に命令を出せる者です」

 沈黙。

 誠は続けた。

 「影の王は、一人の黒幕ではありません。   王の決断を利用する“座”です」

 「座……?」

 「王が決断すればするほど力を持つ。   命令が出れば出るほど、存在感を増す。   つまり――」

 誠は、はっきりと言った。

 「影の王は“王権の裏側に寄生する仕組み”です」

 その夜、誠の部屋に再び“黒い羽根”が落ちていた。

 だが、今回は札はない。

 代わりに、床に刻まれていた文字があった。

 《王を疑え》

 誠は、ゆっくりと笑った。

 「……遅いな」

 ケイが目を見開く。

 「何だと?」

 「もう疑ってますよ。   だからこそ――」

 誠は羽根を踏み砕いた。

 「次は、“王の名を使わない罠”を張る」

 ベディヴィアが静かに息を呑む。

 「それは……」

 「ええ。   影の王にとって、最も都合の悪い一手です」

 誠は窓の外を見た。

 城は、静かだ。

 だがその静けさは、嵐の前兆だった。

 (もう“誰が敵か”を探す段階じゃない)

 (敵が動かざるを得ない状況を作る)

 導かれし軍師は、ついに盤面をひっくり返す側へ回った。

 ――影は、もう逃げられない。

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