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第7話:ドラコ姉は懐が深い


「学生寮に女性を連れ込んでいるみたいだぞ?」


 うぐ。


 それを言われると辛かった。俺が普段住んでいるのは普遍的な学生寮。そこにもう一人居住者がいるというのはルール違反。俺は鬼灯ドラコの部屋で紅茶を飲みながら、さてどう釈明すべきか悩んでいた。


「お姉さんは別にどうでもいいんだけど。学校側はそうもいかないんじゃない?」


「わかってるが。じゃあどうすればいいんだよ」


 俺が追い出したらアイツは行くところを無くす。そもそもの浪費癖が最大の問題だということは俺も認識しているが。アイツの廃課金はもはや魂に刻まれたゲッシュだ。ギアスだ。


「丙級ハンターを身内にするっていうのは、まぁわかるんだけど」


 それな。丁級ハンターにとって丙級以上のハンターと仲良くなるのはコネになる。


「あのアルテミストが今更丙級に頼らなくてもいいんじゃない?」


「ドラコ姉がダンジョンに連れて行ってくれるなら、俺としても安心してリインを廃棄できるんだが」


「今はお金に困ってないかなー」


 丙級よりさらに上。乙級ハンターライセンスを持っているのがドラコ姉だ。条件はシンプル。一人でダンジョンに潜って必ず生きて帰ってこれるハンターに与えられる階級。


 この上に甲級と呼ばれるランクが存在する。


 甲乙丙丁の順でランクが設定されている。


 ちなみに俺は丁級。


 チラリとドラコ姉の部屋を見る。窓から眺めの良い俯瞰が見えて。家具は最高級。埃の一つも落ちておらず。ついでにオーダーをするとコーヒーでも食事でもスタッフが持ってきてくれる。


 いわゆる一つの高級ホテル。ここに年契約で住んでいるというのだから、彼女の経済観念が推し測れる。


「ま、丙級とは言え問題は多々あるが」


「マジナってたまによくわからないぞ。お金渡したりしてないよね?」


「飯奢ってる程度だな。金渡すと課金するから。アイツ」


 あそこまで行くと病気だ。俺としても財布のヒモは固くなる。


「お金に困っている……ってわけでもないんだよね? 天寺さん」


 いや。お金には困ってるだろ。


「そのぅ。例えば借金が有るとか」


「どうだろ。そんなイメージは抱いてないが。借金かぁ」


 それだったら廃課金じゃなくて、借金の返済に利益を充てている?


「しかし魔法のカードを買っているのも事実だしな」


「とにかく。きっと何かあるんだよ」


 何も考えていないに一票。


「同居についてはお姉さんから学校側に説明するので、そこは安心して」


「それより俺の事故を心配してくれ」


「あれ? 天寺さんに手でも出す?」


「自重はしているが絶対とは言えない」


「避妊だけはしてね」


「多分大丈夫だが……」


 俺としても我が心明鏡止水とは言えないのも事実で。

 されどこの股間は烈火のごとく。


「ライブ配信、見たぞ。まさか神雷まで使うなんて」


「仕方なかったんだよ。リインにドラゴニックバレル使わせるわけにもいかんし」


 よりリーズナブルな方を選んだだけだ。結果、経費が大変なことになったが。


「プロキッシャーとしては、公開しないの?」


「俺の魔術を使われるなんてたまったものじゃない」


「使い手次第だけど……危惧することは分かるぞ」


「なわけで、俺としてはリインに振り回されております」


「天寺さん可愛いじゃん。振り回されるのは男の冥利じゃない?」


「否定はせんが。あの廃課金はどうにかならんのか」


 そうしてドラコ姉の部屋を辞する。








 家に帰ると、グギュルルゥと腹を鳴らしているリインがいた。コイツは…………。


 寮部屋はシンプルな構成をしており、リインがいなければ無趣味な男子の部屋としか見えない風景だ。まぁ実際そんなに趣味があるわけでもないのだが。


「腹減ってんのか?」


「イエスアイドゥー」


「金は?」


「マジナ先輩がくれにゃいじゃん」


 浪費されるとわかって誰が渡すか。


「じゃ、飯に食いに行くか」


「イエーイ」


 ていうか、ドラコ姉に奢ってもらえばよかったな。あの人なら涼しい顔で奢ってくれただろうに。


「何食いたいとかあるか?」


「肉」


「じゃあ定食屋にでも行くか」


 唐揚げ定食でも頼めばいい。


「唐揚げ定食! 焼き鯖定食! ロースかつ定食とヒレカツ定食とメンチカツ定食と肉うどんとピリ辛蕎麦と――」


 で、あっさりと肉を頼んだリイン。丙級だったら普通に百回でも二百回でも頼める良心的な値段なのだが、今のコイツには金が無い。


「うどん定食」


 で、俺はうどんとカツ丼の定食を頼む。


「それで同居についてはどうなったにゃー?」


「多分だが。ドラコ姉が何とかしてくれる」


「鬼灯ドラコ……」


「知ってるのか」


「ハンターでもほぼ最高位だよ? 乙級ハンター鬼灯ドラコ。知らにゃい方がどうかしてるって」


 まぁそりゃそうか。


「マジナ先輩はドラコ先輩と仲いいの?」


「そこそこな」


 運ばれてきたうどん定食に箸をつけながら俺はそう言う。リインは唐揚げ定食をスマホで撮影していた。おそらく飯テロだろう。そうまでしてSNSで活動するというのが俺にはよくわからんのだが。


「で、結局リインってなんで廃課金してんだ?」


「別に理由はにゃいよ。っていうか課金に理由っている?」


 いるんじゃないか?


「私は別に大仰な目的とかにゃいし」


「だからって自分を追い込むほど課金せんでも……とは思うが」


「お金が欲しいの。そのためならハンターだってするよ」


「ていうか、魔術を使うために課金してんだろ」


「イエスアイドゥー」


 それを止めることができないのかっていうのが、俺の議論なんだが。


 はぐはぐと唐揚げ定食を食べているリインはそれだけで嬉しそうだった。


 この廃課金をどうやったら止められるのか。そこを考えて、まぁ無理かと俺は思う。リインの課金癖は説得して解決するレベルを超えている。それこそ脳を弄って人格を調整しないとどうにもできないレベルだろう。


「何か失礼にゃこと考えてるにゃん?」


「思いっきりな」


「別に課金したって誰にも迷惑かけてにゃいよね」


「お前……それを俺に向かって言うか?」


 すでに俺が迷惑をかけられているのだが


「まぁそれはそれとして」


 おい。そんなあっさりとした意見で流されると思うなよ。


「マジないわ」


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