7、舞踏会のあと
ジュライの立場は舞踏会の後で、全く変わった。
ジュライは公爵令息から選ばれた令嬢であること、それから本人の美しさで、学園のうちで有名になり、一目置かれるようになった。
エドワードもジュライのことが気になって仕方がなくなったので、彼女のことを調べたりしはじめたが、その過程で彼女が学園でされていたことを知ったのだった。それを知ったエドワードの怒りは激しかった。
ジュライに謝罪を強要した教師と、彼女をいじめていた令嬢たちが、ジュライに謝罪をすることになった。
そしてその後、ジュライをいじめる人物は一人もいなくなった。
しかしジュライは複雑な気持ちだった。
誰の目にも、エドワードが公爵家の力を使って、教師やいじめっ子たちを抑えつけたことは明らかだった。
そのやり方は、ジュライの父親が没落させられたときにやられたことをそのままやりかえしたようなものだったから素直に喜べなかったのだ。
ジュライは父親のことがあってから、貴族が権力で物事を思い通りにするのが嫌いになっていた。
もしエドワードが、いじめをやめさせる以上のことをいじめっ子たちにしていたら、ジュライはエドワードに幻滅していただろう。
でもそれ以上のことをエドワードはしなかったので、ジュライはほっとした。
ジュライは自分の考えは貴族社会の中では奇麗事だと理解していたし、エドワードのしたことは貴族としては普通のこと、むしろ控えめであることもわかっていてそれには感謝したくらいだ。だからそれでエドワードを責めようという気持ちは起きなかった。
とにかくジュライは本来そうだったはずの、平和な学園生活が送れるようになった。
それからジュライはエドワードとたまに会って話したりするようになった。
ジュライとエドワードの仲はなかなかすぐには縮まらなかった。良い友人の距離感を保ちながら、徐々に仲よくなった。
ジュライはエドワードからの好意にまったく気づかず、ただ親切な人だと思っていたから尊敬の念以上の感情にならなかったし、エドワードはジュライに思いを寄せていたが、相変わらずどう接していいのかわからず、不器用に振る舞っていたので、なかなか距離が近づかなかったのだ。
でもどれだけ時間がかかったとしてもこの二人に関しては全く問題がなかった。
なにしろ二人とも他の異性にはまったく興味を持たなかったから。
それに、近づくことはあっても、距離が遠ざかるような出来事は二人の間にはほとんど起こらなかった。
二人の仲はじれったいほどにゆっくりと、しかし確実に深まり、当然の結末として結婚することになった。
それが表沙汰にならないうちに、ジュライがエドワードと一緒に自分の領地に帰ると、ジュライの両親はとても驚いた。
手紙でも、友人と書くだけで、エドワードの名前を出したことはほとんどなかったので寝耳に水だったのだ。
「これは驚いたな」
驚く父に対して、ジュライは、
「奇跡が起きたんですよ」
とほほ笑んだ。
「そうか、奇跡か」
父親は面白そうに笑って簡単に納得した。
「ほうら、私のいった通りだろう」
と父親は得意げに言う。それにジュライはおっしゃる通りですというように頷いた。
「学園では、ジュライらしく真面目にやっていたんだな。正しい行いを積み重ねてきたんだって今のジュライを見るとよくわかるよ」
病弱な母親も最近は体調がいいらしく、着飾ってジュライとエドワードを迎えた。
「私の体調のせいで私たち王都に行くことができなくて、心配もつきなかったのだけれど、こんな素敵な方がついてくださっていれば安心ね」
ジュライの母親も父親もエドワードのことは気に入って、快く迎えたのだった。
それからのことで、特別なことはあまりない。
ジュライの家は、公爵家の援助を受けて、没落していた家を建て直すことができた。
二人は王都に新たに家を買ってそこで暮らし、定期的にお互いの家の領地に滞在した。
その後、二人はそれぞれの才能を開花させて世間に名高い人物になったが、それは特に驚くことでもないだろう。
もう二人に奇跡は必要なかった。ただあたり前の日々を二人は幸せに暮らしたのだった。