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6、舞踏会

 舞踏会当日、会場にジュライが現れたとき、その場にいた令嬢や令息たちの間に驚きのざわめきが広がった。

 ジュライが来るなんて、だれも予想していなかったことだったのだ。でもそれは当然である。前日まではジュライも想像していなかったことだったし。

 しかし次に起こったことに比べれば、それも大したことではなかったと言える。

 会場に足を踏み入れたジュライに近寄って腕を取った人物、それが公爵令息のエドワードだったこと、その驚きに比べれば。

 それを目にしたみなの顔といったら。驚きのあまりその場に倒れそうになる令嬢もいた。

 サラたち、いじめっ子の令嬢たちも、二人を見て言葉を失っていた。


 ジュライはそんな周囲の動揺を一切気にしない様子で、エドワードと歩いていた。

 実際のところ、ジュライはエドワードの相手として恥ずかしくないように振る舞うことに一生懸命で、エドワード以外の人物を見る余裕がなかったのだった。


 エドワードはエドワードでとても緊張していた。

 彼の前に現れたジュライは華麗に着飾っていて、あの公爵家のパーティの時に見た地味な令嬢とはまったくの別人、学園で並ぶもののない美しい令嬢だったからだ。

 驚きのあまり水を打ったようにしんとした会場の中を、ジュライたちだけが音を立てて歩いている。それが彼女の美しさを一層引き立てていた。

 

 ジュライはいつも心がけていた地味な装いを今日はやめていた。

 前日に公爵令息のパートナーとしてふさわしいあり方を考えた結果、地味な装いは失礼だと考えたのだ。

 ジュライとしてではなく、第一にエドワードのパートナーとして参加するのだ。たとえ私にできることなんて限られているとしても、できるだけ立派な装いで行くべきだ。

 ジュライが、いじめっ子よりエドワードの方を優先した結果だった。

 こうして学園に入学して初めて、ジュライが本当の姿を現したのだった。


 舞踏会の会場は少しすると、目の前の状況を理解しはじめ、令息たちがため息をついたりするのが聞こえた。それは今まで、なぜこんなに美しい令嬢の存在に気づかなかったのだろうというため息だった。


 ジュライはそんな視線を気にすることもなく、舞踏会の場を楽しむような表情で立っていた。

 彼女は、母親からもらったあのドレスを身に付けていた。それを着て舞踏会に参加できるのが嬉しいのだった。

 ジュライは隣にいるエドワードに感謝の気持ちで一杯だった。

 エドワードが声を掛けてくれたお陰で、かつて夢見ていた母親のドレスを着て舞踏会に出るということが実現できたのだ。

 まあ思いを寄せられた相手である父親と参加した母親とは違って、私はただの代理だけど。

 エドワードは、私が相手で残念に思っているのかもしれない。あんなに強張った表情をしているし。でもそれを隠すように、時折こちらにほほ笑んでくれる。どこまでも優しい人だ。別に私は誰かの代わりで構わない。そこまで高望みをしていないし。こうやってこのドレスを着て、憧れの場所に立っていられるだけで満足なのだ。

 エドワードはジュライの並外れた可憐さに緊張した表情をしていたのだが、相変わらずジュライにそれは伝わっていなかった。


 学園にも外見の美しさという点では優れた令嬢がたくさんいた。でも今のジュライの美しさはそれとは全然違ったものに見えた。それはなぜだろう。

 それはジュライの自然な美しさのためだった。まるで自分が美しいことに気づいていないような(実際にそうだったのだが)自然な表情が、その美しさを輝かせていた。

 他人を押しのけて自分が輝こうとする令嬢たちとは全く違う。自然に笑い、真っすぐに自分を見るその瞳にエドワードはどきどきしていた。


 そんな自然な美しさなど、おとぎ話みたいなもの。現実には滅多にないものだ。

 でも家族から離れて同年代の子供たちの中で生活しだした、その始めからずっといじめられて孤立させられていたら? そんな令嬢には、自分の美しさに気づく機会がない。

 その彼女にとっては暗い日々も、むしろそれのために、彼女の美しさが奇跡のように純化していたのだった。


 舞踏会の主役は完全に、この二人だった。

 踊りも息があっているように見えた。二人で踊るのは二回目だ。あの公爵邸でのパーティで踊った楽しい記憶が二人に自信を与えていた。二人はリラックスして、楽しんで踊った。


 周囲の人の目にも、とてもお似合いの二人に見えた。

 会場全体が、公爵令息が今まで数々の女性の誘いを断っていたのはそういうことだったのか、と理解した。

 実際には二人が出会ったのは最近だったが、結果としてはそれほど変わらない。

 エドワードの相手はジュライしかありえなかった。それは出会う前から決まっていたのだ。

 それを会場の誰しもが納得してしまっていた。

 サラたちジュライをいじめていた令嬢たちも、その雰囲気のなかでは何もできそうになく、黙って苦々しい表情をしているしかなかった。

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