4、公爵家でのパーティ(2)
二人は貴族のパーティでよくあるように食事をしたり、音楽の演奏を聴いたり、踊ったりした。
たった二人でのパーティだったが、それがかえって特別で二人にとって心に残るものとなった。
ジュライは王都に来てから初めての経験に、まるで夢の中にいるみたいに感じた。このようなパーティがあっても、今までは目立たないように部屋の隅の方で大人しくしていることしかなかったのだ。それが今は、観客で見ていた舞台の上にいきなり引き上げられ、突然スポットライトの下に立たされたような不思議な気分だった。何年分かの幸運を前借りしてしまったのではないか、と不安になるほどだった。
音楽はエドワードが自ら弦楽器を手に取って演奏した。
「いつもは知り合いの室内楽団を呼ぶんだけど、今日は不運にも呼べなかったんだ。彼らも忙しいらしい。だから代わりに僕の拙い演奏になってしまうけれど」
エドワードはそう言うと、自虐的にほほ笑んだ。
ジュライは首を振った。
もともとパーティなんてなかったのだから、急に室内楽団が呼べないのはあたり前だ。それを気の利いた言い方をしてくれているのだ。
エドワードの演奏は、素人とは思えない立派な演奏で、いつも練習しているのがうかがえた。それに一生懸命な表情で腕を動かしているのを見ると、ジュライは好感をもった。彼女は真面目に努力をしている人間が好きだった。
演奏が終わるとジュライは感動して力強く拍手をした。
エドワードは拍手にお辞儀をすると、ジュライの反応が良いのを見て、照れくさそうにほほ笑んだ。
楽しい時間を過ごしながらジュライは父親の言葉を思い出していた。自分が正しいと思う行動を積み重ねればいつか奇跡が起こる、なんて今まで信じていなかったけれど、今夜だけは少し信じてもいい気分だった。
たった一日こんな日があったというだけでも、学園の残りの生活を送る心の支えになりそうだ。
パーティは終わってジュライが帰ろうとすると、公爵家の執事から感謝されたのだった。
「エドワード様がご学友とこんなにも楽しそうに過ごされるのは初めて見ました」と執事は嬉しそうな表情で言った。それから、
「同年代の女性を家にお招きするのは初めてのことだったのでびっくりしましたが」と付け加えた。
それを聞いてジュライは申し訳ない気持ちになった。私が家に招かれたのは事故のようなものなのだ。門の前で困っている私を見かねて入れてもらっただけ、単なる親切に過ぎないのだ。ジュライは気まずくて何も言えないでいた。
しかし執事は気にすることなく、ジュライに笑顔で、
「でもきちんとした方で安心しました。また是非いらしてください」と言ったのだった。
門の前に止まった馬車に乗り込もうとするジュライにエドワードは何かを言おうとしたが、やめてそのまま見送ったのだった。
エドワードは「また来てください」と言おうとしたが、その勇気が出なかったのだ。
ジュライも、エドワードの家での出来事はたまたま一回限りの幸運な出来事だとしか思わなかった。エドワードにとって自分が特別であるという考えは微塵も浮かばなかった。
エドワードは私に対してだけでなく、誰に対しても親切に違いない。あの日は、偶然目の前にいたのが私だっただけのこと。
私みたいな没落貴族の令嬢に対しても、あんなに真摯な態度で接してくれるなんて、立派な公爵の令息だなとジュライはエドワードに対して尊敬の念を持ったのだった。
でも、住む世界も違うし、エドワードとはもう二度と関わりになることはないだろうなとジュライは思っていた。