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3、公爵家でのパーティ(1)

 確かに、公爵令息はジュライの推測通り、彼女が恥をかかないようにと考えて家の中に招いたのだった。

 それは公爵令息にふさわしい高貴な配慮である。

 しかし、実のところそれだけではなかった。公爵令息自身はそれを認めたがらなかっただろうが、ジュライのことが心の奥底で気になっていたのだ。といってもそれはまだ、どうして自分がこの女性を気になっているのだろう、という疑問に対する好奇心にすぎなかったが。


 他方、ジュライは、公爵令息が自分に興味を持っているだなんて微塵も考えなかった。

 それもそのはずだ。

 この公爵令息は、ジュライが通う学園でも絶大な人気で、常に誰か女性に声を掛けられていた。

 しかし、この令息が特定の令嬢と懇意になることはなかった。そのため、自分に自信のある令嬢たちはチャンスがあると思って、この令息の気を引こうと様々手を尽くしていた。ジュライを彼の家に行かせたのも、いじめっ子たちが令息と会話やお近づきになるきっかけにしようという狙いが含まれていたのだった。

 ジュライみたいな弱小貴族に迷惑をかけられてさぞ迷惑だったでしょう、とか話しかけようといじめっ子たちは考えていたのだ。

 今のところその狙いはどう考えてもうまくいっていなかったが。

 とにかくそんな令嬢たち全員の憧れの的である令息が、自分なんかに興味をもつはずがない。ジュライがそう考えたのも自然なことだ。


 令息は客間に紅茶の用意をさせると、二人はそれを飲んで少し話をした。

「私の自己紹介がまだでしたね。僕はエドワードと言います」

「ええ、存じ上げています」

 エドワードは名乗りを必要としないほど学園内に知られている人物だ。


 その日のジュライは、できるだけ目立たないような化粧や服装で身を包んでいた。彼女が何か目立つことをするたびに嫌味を言われるので、ジュライは常にそういう地味な装いをするようにしていたのである。

 しかし皮肉にも、その地味な外見がかえってエドワードの興味を惹いていた。

 目立たない印象の外見の奥に何か光り輝くようなものがあるような、そんな感覚をエドワードに与えていた。

 一目見て分かる美しさ、むしろ見せつけるようなはっきりとした美しさに、エドワードは慣れきっていたし、彼はもともと性格的にそういうものがあまり好きではなかった。学園の女性たちはあからさまに彼にアピールしながら近づいてくるので、エドワードは彼女たちに何の興味も感じなかった。だからエドワードは、自分は女性への興味が持てない人間なのではないかと思っていたほどである。

 だが急に目の前に、巧妙に隠された美しさが現れた。するとどうだろうエドワードは強い興味を掻き立てられたのだった。

 それは彼にとって初めての感情だった。


 ジュライの装った地味さは実に見事で、彼女自身、それを自分そのものだと思い込んでいたほどである。

 しかし、実はその奥に秘められた美しさがあることは学園の誰一人として、本人も含めて知らなかった。

 入学してすぐいじめられるようになったので、それを表に出す機会が一度もなかったのだ。

 エドワードもそれをはっきり見抜いたわけではなかった。しかし彼だけがそこに何か隠されたものがあると直感的に感じて、強く惹かれていたのだった。


 ジュライは、すぐに帰ることになるだろうと思ったのに、エドワードが話を切り上げようとしないので不思議に思っていた。

 自分なんかのために時間を割くなんて無駄なことだと思うのだけれど。あるいはこの人は暇なのだろうか、なんて失礼なことを考える始末であった。


 ジュライは、エドワードと話をしながら、こんなに優しくされたのはいつぶりだろうと思った。

 王都の学園に通いはじめて、ずっと一人だったし、嫌がらせされるのに慣れきっていたから、こんな風に優しくされると、ちょっと不安になるくらいだ。

 きっと家に招いたからにはきちんともてなさないと失礼だと考えて、すぐに帰さないのだろう。それは彼が公爵家の人間としてあたり前の配慮なのだろう。それは私だからというわけではない、誰が相手でもそうなのだろう。

 彼にとっては大したことではない些細なことだとしても、ジュライにとってはもったいないと思うくらいありがたいことだった。

 ジュライは涙が込み上げてくるのを感じて、必死にこらえた。

 多分、普段引き締めている心が、不意に触れた温かさに緩んでしまって、溜まっていた感情が湧き出てきたのだろう。


「食事の用意ができたようです。行きましょうか」

 ジュライは、驚いてきょとんとした顔をした。

「食事までいただけるのですか?」

「もちろんです。パーティですから」

 エドワードはほほ笑んでそう言うと、紳士的な振るまいでジュライを案内したのだった。

 ジュライがそれを断れるはずはないし、断る理由もなかった。

 私なんかがこんな良い思いをしていいのだろうか。もし知られたら学園中の令嬢を敵に回してますますひどい目に合わされそうだ。しかし、これはジュライが自ら望んで起こったことではない。彼女はただ騙されて行かされた場所で、成り行きに任せたら、自分の意志とは関係なくこうなっていたのだ。

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