気付いたら悪役令嬢に転生していたけれど、直後嫁いだ相手も気付いたら転生していた悪役令息でした。
「どうしよう…」
私は今、絶体絶命のピンチです。
「私、悪女に転生しちゃった…」
前世の記憶を、悪虐の限りを尽くした今思い出してしまいました。
私は病弱で、生まれてからほとんどの時間を病院で過ごしていました。そんな私の暇つぶしに最も適していたのが読書。色んな本を読みました。その中に今世の私の登場する恋愛小説もあったのです。
今世の私、ファビエンヌは『悪役令嬢』。聖女ミーナを虐めた悪者。罰として『悪役令息』であるエルヴェという男性と結婚させられる。エルヴェはエルヴェで、ミーナのお相手の男性であるギヨームをこれまた虐め倒していた。
見た目は最上、性格は最悪の二人はミーナとギヨームへの慰謝料一括払いのために作った借金でカツカツで、毎日罵り合い、それはもう最大級に不幸になる…はず。ちなみに慰謝料のために作った借金は、実家からの援助も受けてはいけないという制約付き。
そして私は、もうミーナを虐め倒していた。というか今、エルヴェとの結婚式前夜です。逃げられない。
「ど、どうしよう…」
心を入れ替えて、エルヴェに尽くすしかないけどエルヴェの方はどうだろう。性格は最悪なキャラだし、変な方向に行かないといいけど。
そして私は、エルヴェと結婚しました。
罰としての結婚だったので、結婚式は無し。そのままエルヴェの公爵家に嫁ぎます。私の実家の公爵家から、使用人を何人か連れて行きます。
「エルヴェ様。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。あの、使用人を一度部屋から出して二人きりで話せますか?」
「も、もちろんです」
何を言われるのかと身構える。使用人達を追い出した瞬間土下座された。
「え!?」
「ごめん!巻き込んで!でも僕は、これから善良な人間として生きていきたいと思ってる!協力してくれないか!」
…まさか。まさか!
「私もです!」
「え!?」
「前世の記憶を思い出したので善良な人間として生まれ変わるつもりです!」
「前世!?君も転生者!?」
「はい!」
話を聞けば同じ日本人で、同年代で、前世病弱だったのも同じ。共通点があり過ぎて気付いたら普通に打ち解けていた。
「まあ、誰に指さされようが善良な人間として生きるのは当たり前として」
「はい」
「借金、どうする?」
結婚生活はこの人とならとりあえずなんとかなりそう。善良な人間としてやり直すのもこの人がいればなんとかなりそう。後はエルヴェ様の言う通り、金策だ。どうしよう。
「…宝くじ、やってみます?」
「え、この世界宝くじあるの?」
「ないです。私達が主催側で、やってみませんか?」
「…ちょっと頑張ってみようか」
ということで、借金をさらに重ねて宝くじを運営してみる。宣伝すると思ったより売れて、結果的には一等の当選者が出てだいぶ持っていかれたけどそれでも充分有り余るほどの額を稼げた。
「これ、借金返済に全部あてる?それとも次の宝くじの開催に使う?」
「毎月分の借金返済はもちろんします。そして次の宝くじももちろんやります。平民が宝くじに当たったことで、宝くじへの信頼も得られましたからやらなきゃ損です。でも、残りは別のことに使いましょう」
「別のこと?」
「カジノを作りましょう」
「なるほど!」
ということで、カジノも作った。こっちも宣伝すると思った十倍客が集まったので、宝くじの収入と合わせて結構な額になった。
「宝くじとカジノをこの調子で回していければ、借金は返済できますね」
「よかったぁ。ありがとう、ファビエンヌ。君のおかげだよ」
「さて、本題はここからです。どうやって善良な人間として生きましょう?」
「…とりあえず、浮気はしない。子供が出来たら大切にする。領民たちも大切にする。ノブレスオブリージュ?とかもやる。…くらいかな」
「…では手始めに、浮気はしないと子供が出来たら大切にするから始めましょうか」
ちらりとエルヴェを見れば、顔が真っ赤。そんな彼を、ベッドに押し倒した。
「…おはよう、ファビエンヌ」
「おはようございます、旦那様」
「あのさ」
「はい」
「愛してるよ」
エルヴェの言葉に思わず振り向く。真っ赤になったエルヴェに、私はなんだかとても満たされる気持ちになった。
「私もです、旦那様」
「ありがとう。ファビエンヌとの子供が待ち遠しいな」
「生まれる頃には借金完済してるでしょうし、楽しみですね」
「ね」
子供が生まれたのは、この会話から一年後。その頃には借金を完済していたのでお互いの両親も素直に祝福してくれた。ちなみに元気な男の子である。
「ギュスターブは良い子ねー」
「あうー!」
「はぁ…ファビエンヌ、僕は今とっても幸せだよ」
「そこで私、幸せのおすそ分けを提案したいのですが」
「なに?」
私はエルヴェに言った。
「借金を完済してもカジノと宝くじの運営は続けていて、収入も安定してるでしょう?」
「うん」
「領民たちの税金を少し免除してあげられないです?」
「あの莫大な借金を一年で返せるくらい儲けているし、いつもの税収とか考えれば多分大丈夫だと思うけど」
「やりましょう。善良な人間として生きるために、領民たちを大切にするのでしょう?」
私の言葉に、エルヴェ様は頷いた。
「父上と母上も、許可してくれると思う。やろう!」
私とエルヴェは、税金の免除の政策によって領民たちから感謝を集めた。宝くじやカジノという娯楽を与えたのは賛否両論あったが、税金の免除は誰もが歓迎してくれた。そして、領民たちは私達夫婦を信頼してくれるようになった。
「うんうん、いい感じに善良な人間になってきましたね。私達」
「そうだね。ファビエンヌのおかげだよ。次は何する?」
「ノブレスオブリージュとして、孤児院や養老院に寄付と慰問をしましょう。そしてギュスターブに妹か弟を作りましょう」
「うんうん…え?」
「問答無用!」
私は夫をベッドに押し倒した。
一年後、子供が一人増えた。可愛い女の子である。名前はファイエット。そしてこの頃には、領内の孤児院と養老院に毎月多額の寄付をして慰問をするようになっていた。税金の免除に施設への寄付。周りの私達夫婦を見る目は段々と変わっていった。
『昔はやんちゃしてたけど、今は優しいいい人』
そんなポジションを確保したのだ。
ちなみにミーナとギヨームは小説の通りの人生を歩んだ後、ハッピーエンドの続きを謳歌している。聖女であるミーナは男性からちやほやされて、英雄であるギヨームは女性からちやほやされている。それでいて二人でいる時はかなりラブラブらしい。…ちょっと理解できないけど、幸せそうなら何よりです。
「ファビエンヌ、あのさ」
「なあに?旦那様」
「愛してるよ」
「ふふ、どうしたんですか?改まって。私もです」
「いや、なんか幸せだなあって思ってさ。言いたくなったの」
旦那様に抱きつく。
「私も今、すごく幸せです」
「それなら良かった」
「ずっと一緒にいてくださいね?」
「それはこっちのセリフだよ」
優しく抱きしめ返されて、キスをされる。私は今、すごく幸せです。