王太子に婚約破棄されたので他国の工作員となって革命起こします。いまやチェックメイト状態な元婚約者の生殺与奪権はわたしのもの。
革命派の武装勢力に包囲された宮殿。
相手の突入を許したか、護衛騎士団と革命派の衝突による喧騒が次第に近付いて来る。
間も無く王政は倒れるだろう。
家族と近習を奥の部屋へと下がらせ、王はひとり来たるべき時を待った。
壮麗な扉が乱暴に開かれる。革命派の民兵が三名、部屋へ押し入ってきた。
先頭の男が王を視界に捉え、目を見開く。
「いた……」
男は友軍に伝えようと、背後を振り返り声を張る。
「い、いたぞ! こっち――」
その喉笛を鋭い剣閃が斬り裂き、声を最後まで発することができないまま男は倒れ伏した。
民兵のひとりが振るった剣だ。
「な、何だお前!」
うろたえるもう一人の民兵の胸を剣で刺し貫いて黙らせると、その民兵は扉を閉め直した。
赤い帽子にボディスとショートスカートを纏った女性だ。
「いかにもチェックメイト、といったご様子ですわね、陛下」
革命派の女性は扉を背にして言った。
「……何だって?」
仲間割れか? 突然起こった目の前の惨劇に、王は呆気にとられつつも応じた。
「詰み、ということですわ」
「……海峡の向こう側の言葉だな。この革命は、そなたら帝国の仕込みか」
「ある程度は。我々は陛下を戴く立憲君主制の成立を支持していましたわ。けれど革命がここまで急進的かつ暴力的に進むと話は違ってくる。恐らく大量の血を流しながらこの狂奔は続く――仕切り直しですわ」
女性革命家は帽子を取った。
その下の素顔に、王は思わず叫ぶ。
「マリ……マリなのか!」
「今はマリアと名乗っていますの」
マリアは静かに告げた。
「陛下に秘密裡に婚約破棄されて、母国にも帰ることができなかった十四歳の少女の……なれの果てですわ」
時を隔ててなお、マリアにはかつての面影があった。
「そなたには……しきたりに縛られた王室という鳥かごは似合わないと思った。自由な大空こそが、そなたに似合うと」
「それはひとりよがりというもの。見くびられたものですわ、このわたくしであれば、例え鳥かごの中でも見事にさえずって見せましたのに」
「……そうであろうな。許せ、余も十六の少年であった」
マリアは帽子を被り直す。
「どうぞこちらへ。このまま革命派の手に落ちれば陛下の命は無い」
「……救ってくれるというのか」
「たとえ見当外れでも――当時の好意には報いて差し上げますわ。お腹は空いてらっしゃらない?」
帽子の下でマリアは凄然と微笑を浮かべる。
「パンは無いけれど、ブリオッシュならありますわ」
なろうラジオ大賞4 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:チェックメイト
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