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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その59 レイショウケイ

作者: 天城冴

真摯に議論をしていこうとする相手を屁理屈やデマで言い負かすのを見世物にしてきたピロユキは…

「はい、論破」

『は、何言ってんだ、お前、こじつけと屁理屈で、人をケムにまいてるだけじゃないか!まともに議論する気ないだろ。こっちの言ってないことも言ったように言い出すし』

「ずらそうが、何しようが、言うことなくなればこっちの勝ちなんですよ」

『勝ったんじゃない、真剣に議論して問題を解決しようとしてる人間をダシにして、自分が上に立ったような気分になりたいだけだろ!そうやって真面目な人をあざ笑って』

「どうアナタがいおうと、僕はアナタを言い負かしたんですよ、冷笑系でも、なんとでもいってくださいよ、どうせ負け犬の遠吠え…」

とピロユキがネットの回線を切ろうとすると

“いや、はや、今のやり方が勝ったというんですか、へえ”

「混線?この通信でこんなことは珍しい」

“いえ、そうではないですよ、さきほどからずっと聞いていましたので”

「まあ、この論戦は公開ですけどね、登録してる人だけ視聴だし、それに質問は受け付けてないんですよ、今は。あとでお願いしますよ」

“ああ、そうですねえ、アナタの屁理屈というかコジツケというか、ロクに筋の通らないことを言い続けて、真っ当な人を見世物するのを喜ぶっていう品性下劣な輩から金を取って生計を立ててるんでしたねえ、アナタ”

「いきなり、失礼ですね。僕はちゃんとしたテレビなどにも出演してますけど」

“視聴率欲しさに誰でもよびますからねえ近頃は。質が悪くなったものですよ、もっとも見るほうも嘘だろうがデマだろうが面白けりゃいいっていうんですからねえ、どっちもレベルが低くなったんでしょうかねえ”

「なんなんだ、さっきから、いったい」

不機嫌にパソコンの画面をみると、すでに“配信終了。十分後に受付”の文字が出ていた。

カチャカチャとマウスを動かし、パソコンの状態を調べる。

「今はどこにも…つながってない…、じゃ、あの声はどこから聞こえてるんだ!まさか、部屋のなかに…」

青くなるピロユキ。

この部屋は帰国して、ひそかに借りたものだ。まだ、ニホンではいろいろとうるさく言われるから、友人どころか家族にすら住所を知らせていないのだ。しかもセキュリティを売りにした高級マンション、赤の他人がやすやすと入れるはずは

“本当にわからなかったんですか、いい加減な人ですねえ、アナタ。やはり、歪んだことやってると、どんどんオカシクなっちゃうんですかねえ”

「ど、どうやって、この部屋に」

“さあてね、推理でもしてみたらどうです。どうせ、まともに考えられもしないでしょうけどね。前はもう少しましだったようですけどねえ、テレビだのなんだのにもてはやされ、自分を批判する人を貶めてマトモに相手にしないようになってから堕ちたもんだって言われてるそうですねえ”

「お前、いったい、何」

“マトモに人を相手にしないような人にきちんと答えなきゃならないんですか。そんな態度とってれば自分に跳ね返るって誰も教えてくれなかったなんて、本当にアナタのために親身になってくれる人がいなかったんですか、かわいそうに。それともちゃんといってくれる友人や彼女も面倒になったら、いい加減にあしらったんですか、ひどい人ですねえ”

「黙れ、勝手な事をいうな」

“おや、おや、私が何も知らないとお思いですか。実はよーく知ってるんですよ、だからここに来たんです。人を小ばかにするばかりで自分は何もしようとしない冷笑系の始まりというかトップみたいなものですよね、アナタ”

「ふん、リベラルだの論壇だの、回し者か」

“いやあ、そんな高尚な方々とは違いますよ、カエシといいますかねえ。冷笑系さんにはレイショウケイを与えなきゃならないですねえ”

「な、何?」

ふわっと黒い塊がピロユキの両耳を覆った。

重い空気のようなものが頭の両側から目に、鼻に口に、次第に顔全体に広がっていく。

“さてね、やりましょうか、レイショウケイ”

「うぐぐう」

耳から

目から

鼻から

何かが侵入してくる!

「い、いきなり、な」

“ああ、叫んでも無駄ですよ。アナタみたいな何の意味もないことを並べ立てて相手を翻弄するような質の悪い人に話し合いなんてやる必要がないってよくわかってますから。こっちのいうことに耳を傾けて、議論を深めるとか、自己研鑽するとか、やる気ないでしょ、アナタ”

「そ、そんな」

“つもりはないって、嘘をつきなさんな。アナタが議論と称するものをしたいのは、自分が優位に立ったと思いたいからでしょう?相手の言うことを聞いて、真偽を確かめるとか、自分の考えとのすり合わせをするとか、いわゆる弁証法っていうんですか、そういうふうに高みを目指してるんじゃないでしょう。相手を何とかして言い負かせばいい。偽物の新聞記事だの怪しげな論文だのをもとにしてもいい、いやエビデンスなんて必要ない、その場でさえ、勝ったように演出すればいいってんでしょう”

「た、たいだ」

“アナタの対談ですかあ、相手も同類さんでしょ。まあ、一時的に協調はしてるようですけどねえ、論文だの、学術書とか、縁遠い方々ですねえ。アカハラとかするつもりないですけどねえ、正直、海外のそういった場では全く取り上げられないんじゃないですか、アナタの発言なんか、だって論理矛盾ありまくりですし、この国で、アナタと同じ人にはウケるんでしょうけどねえ。だけど、本当に酷いですよねえ”

「ど、ど」

“どこがって、真面目に議論する人を茶化して、きちんと問題解決をさせない、あろうことか邪魔することですよ。いや、問題があることすら隠してしまう。それで、たくさんの人が苦しもうとおかまいなしですよねえ、ゲスなお仲間にウケればいいんですよね。相手を笑いものにして自分が上にたったように錯覚できればなおいいんでしょう?”

「ぼ、…う」

“自分が上に立つのは、当然?冗談じゃないですよ、あんないい加減な屁理屈、いや屁理屈になってすらない、言葉をまくしたてるだけ、問題をずらし相手に答えづらくさせるだけの単語の羅列しかできないような人が上なんかであるもんですか。一見、もっともらしく言ってるだけで中身ゼロ、言いっぱなしで生産性ゼロ。存在価値ないですねえ”

「こ…」

“殺すなんて野蛮なことはしませんよ、ただきちんと報いをうけていただこうとねえ。傷つけられた人、いやアナタが妙な風にこねまわしてくれたおかげで結果的に命を失った人もいますんでねえ。その報いというか刑があるんですよお”

「?」

“どうされるかわからない?その醜い歪んだ思考にふさわしいふるまいをさせてあげるんですよ、笑いものになるようにねえ”

「!」

“今の論戦、とやらでもう少し相手に礼儀や思いやりをもって接すれば、まだ治しようがあったんでしょうけどねえ。もうどうしようもないって判断させてもらいましたよ。大勢の命に係わる問題を解決しようとする人にアノ態度ではねえ。最終手段というか、アレをやるしかないんですよ”

「!!」

“アレってなんだ、どういうことか、ですか。神経回路をつなげなおすというか、腸にも影響を与えますがね。今後ありとあらゆる病を発症して、さらに記憶も途切れ、手や足の震えや意図しない動作もするようになりますよ。他人から見ればわけのわからない支離滅裂な言動に思えるでしょうね”

「!!!」

“ああ、そうですね、そんな異常なふるまいをしたら、笑いものになりますねえ、アナタ。ネットの配信でそんな姿みせたら、別の意味でウケまくり、アナタを馬鹿にして喜ぶ人は多いでしょうねえ。人が酷い目にあうのを観たがる人たちって案外多いんですね、アナタのお仲間には特に、いや、元お仲間かな。真面目な人ならそんな風になったアナタに同情して助けてくれるかもしれませんけどね、でも、そういうの嫌いなんでしょ、アナタ。そういう不幸な人を助けたり、理不尽なことを何とかしようとする人を馬鹿にしたいんでしょ。だから、助けようとする人を拒むように避けるようにしてあげますよ、ちゃんと”

「!!!!」

“助けてくれ、ですか。今頃反省ですか。遅いですよ、もう変えちゃったんで。さすがの私でも元に戻せないんです。まあ、戻してもアナタ、素直に反省なんかしないんでしょ、冷笑系ですから”

声が聞こえなくなると同時に、ピロユキは自分が口をだらしなく開けて、よだれを垂らしていることに気づいた。口を拭こうとするが、小刻みにふるえて、テッシュすらまともにつかめない。

「ら、らめら。ごの、ガオ…映ったら、ぱ、ぱずかじい…」

顔をゆがませながら、数分後に始まるネット配信を止めようとするが、手がうまく動かない。「は、ぱじまたら、見でる奴らに…笑わえ…アイヅら…ぼぐをバガに…」

羅列の回らない口で必死にカメラを切ろうとするピロユキの耳にどこからかあざ笑うような声が聞こえてくる気がした…


どこぞの国では無知を恥ともせず開き直おるわ、屁理屈で相手を言い負かしてマウントだのをとるのを議論だと勘違いする輩が増殖しているようですが、通貨価値は低くなるわ、技術者は他国に引き抜かれるわ、どんどん下がっていくようですなあ。まあ、元トップや現トップがそういう風潮を助長してるのだから仕方ないんですかねえ、巻き込まれたくはないものですが。

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