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前世がポッチャリな私は、今世でダイエット教室を開き美しくなります。

作者: Rio

初めまして、私はオレン。

男じゃありません。女です。

貴族じゃありません。平民です。いたって普通の。

まぁ、少し貧乏だけど、優しい両親に、厳しい兄がいるくらい。


ただ一つ、普通じゃなかったのは。

私、前世は"日本"という国にいたんです。


人生は普通でした。特段なにかに優れているわけでもなく、取り柄があるわけでもなく。

可愛い顔立ちでもなければ、痩せてるわけでもない。むしろ、ポッチャリしてた。


性格が特別良かったわけではない。

好きな人ができても、実ることもなかった。

むしろ、いつもバカにされて、悪口を言われて、否定をされてきた。


衣食住に困ることはなかったから、恵まれていたとは思う。ただ、毎日"楽しい"とか"嬉しい"という感情からは、離れた生活だった・・・・・


おぉっと!ついつい前世を思い出して、ネガティブになってしまった。



私は前世での経験を生かし、今世でがっぽり儲けたいんです!そして、楽しくウハウハした人生を送りたいんです!!!



まず整理すると・・・

前世の私は未成年までマジで肥太っていた。もうブクブク。

柔道をやっていたし、太っていることをバカにされても食べることをやめられなかったから。


好きな人ができて痩せたけど、それでもポッチャリ。そして、ダイエットの反動で皮膚が荒れに荒れた。

好きな人はドン引き。


そして、食べまくってリバウンド。


そしてまたダイエット。


なので、自分には根気がなくやりきれなかったが、無駄なほど"美"と"ダイエット"には知識があったりした。



なので、私はそれをネタにお金を儲けようと目論んだんです。





「サーシャ様!あともう少し!はい!5!4!3!2!1!さすがっ!終わりです!!本当にサーシャ様・・・尊敬します!素晴らしい!!」

オレンは嬉々とした雰囲気をだし、拍手喝采に褒め称えた。


目の前にいる汗だくで、息切れをしている美女に。


サーシャと呼ばれた美女は、近くにいた小間使いにタオルをもらい、汗を拭いている。


「オレン。お礼を言うわ。この間、私の客のなかでも最上位の公爵様が触り心地が良いと誉めてくださったの。」

サーシャが少し微笑んで言った。


「私を・・・水揚げしてくださるようよ。」

少し悲しげに見える。


オレンはマッサージオイルを手に塗り、ヨガで血行を良くしたサーシャの身体を揉みほぐしていく。


「・・・わかっているのよ。私は自ら娼婦の道を選んだ。今はこうして高級娼婦となれたわ。・・・愛による結婚なんて望んではいなかったけどね。」


「・・・愛しているかたがいるんですか?」

オレンが聞いた。


「・・・欲しかったわね。」

サーシャの笑顔がとても美しく、オレンはドキドキした。



最初は人にやる前に、自分を磨けば誰かが寄ってくるとにらんだ私は、きちんとした食事、適度な運動で、マジできれいになった。


皮膚も美しく、髪もキラキラ。

驚き。


この世界では女性はお淑やかさを求められる。

そして、痩せていることを求められる。

そして美しいことを求められる。


運動をしないため、痩せいてもスタイルが良いわけでもなく。

肌もガサガサだったり、髪の毛もパサパサだったり。

なにより、体力がない。



平民はどうしても生活上ある程度体力はあるが、貴族はほんの少し歩いただけで、息があがるし、年齢を重ねるだけで体型がAの形になってくし、皮膚のシミやたるみがかなり目立つ。


そのため貴族の婦人たちは、そういったものを隠すため、目から下をレースで隠す。



私と母がどんどん綺麗になっていくにつれ、周囲の人もこぞって理由を知りたがった。


そこで私は、教室を開いた。

平民でも簡単に手に入るようなもので、ビタミン豊富な食材を使った料理や、リンパマッサージとヨガの教室。


近所の人たちは、食べ物や自分たちの店の商品などを授業代として払ってくれた。


私が住んでいる町の女性たちが少しずつ美しくなっていく。


私も嬉しい。


すると、噂を聞き付けて訪ねてきたのがサーシャ様だった。


「私、そろそろ娼婦としての寿命が来ているの。だから、長く美しくありたいのよ。」

そう言って、金貨を5枚もくれた。

さすがに全部返した。


なにせ、日本円で大体金貨1枚100万くらいだ。


こわい。


なんとか説得して銀貨まで下げていただき、銀貨30枚にしてもらった。


ちなみに、銀貨は一枚1万くらい。


平民であれば三ヶ月は節約すれば暮らせる。


そうして私は、毎日マンツーマンでサーシャ様の専属トレーナーになった。


それまでサーシャ様は、娼館の32人中22位だったが、3ヶ月ほどで1位に躍り出たのだった。



そうなると、他の娼婦の皆さま方にも依頼されてしまい、結局娼館で教室を開くことになった。


娼館の女将さんと契約し、月額で銀貨30枚をもらうことになり、週に5日通って教室をやることになった。



そして1年後には、国一番の高級娼館になった。



兄さんは激怒してたけど、父さんと母さんは爆笑していた。


何せ家族になにも言わずにやっていたから。


というか、気付かない方にも問題はあると思うが。



ただ、前世に比べれば、達成感も喜びもはじめて感じて、"楽しい"と思える。


だから、調子にのっていたのだ。

こんなことになるなんて。

我を忘れてお金もうけをして、周囲が見えていなかった。








ある日、見知らぬ男性二人に話しかけられ、気づけば強引に連れ去られた。

しかし、待遇は悪くなかった。


何せ、今入れられている部屋は、超豪勢。

やばい。


税所は焦ったし、恐かったけど、この部屋についてから至れり尽くせりで、違う意味で恐い。


たぶん貴族の屋敷。


もしかして、私にそっくりのお嬢様がいて、その人の身代わりに恐い公爵に嫁げとか!?

そして、そこで溺愛されるとか!?

私美人だし!?


といった感じの漫画を読んだことがある。


ふー。ふー。

少し冷静になろう。

興奮しすぎて妄想がいたい。



さすがに3日目は叫んだ。

「ですからね!私にも生活があるんですよー!ここに閉じ込められて至れり尽くせりで感謝しろとでも?マジで早く家に返してよ!もー!!」


つい、日本での言葉がすらすら出てきてしまった。


「申し訳ありませんが、主がお忙しい身ですのでお待ち下さい。」

慇懃無礼な感じの執事風の人が言ってきた。




そして5日目。

ようやく私に用があるという人が現れた。


「わたくし、ホウジチャ公爵家が長女アップルともうします。」

まさかの少女が出てきた。


そしてホウジチャって・・・ぷっ・・・飲みたい・・・



「このような手荒な真似ごめんなさい。ですが、あなたにお願いしたいことがあったのよ。」


目の前のお嬢様はクリーミーな茶髪、そう、ほうじ茶ラテのような色の髪をしていて、瞳はエメラルドグリーン。


小顔。

輪郭事態は卵形。

鼻先が少しつんとあがっているが、形の良い鼻。

眉も目もつり上がってもなければ、垂れてもいない。


正直言って普通。

前髪がもっさりしているからか少し地味に見えるくらい。


物静かで物腰は柔らかい。

口許をすぼめほんの少し広角をあげる。

まさに淑女の微笑みってやつ。


はい。私とは似ていない。

私赤毛だし。

瞳は水色だし。

背が高いし。


「・・・あの・・・なぜ、私をここに?」

疑問を口にしてみた。


「・・・わたくし、生まれたときから王太子殿下の婚約者だったんですの。王太子妃として、未來の王妃として、相応しくあるよう研鑽をつんでまいりました。」


急になんの話だ。


「ですが、殿下は市井でたまたま会ったというという子爵令嬢と懇意になり、あまつさえ私と婚約破棄し彼女を王妃にするとおっしゃいましたの。」


おぉ!漫画でも小説でも読んだことある!


悪役令嬢のやつやん!

てことは、この公爵令嬢が悪役令嬢!?

ほぉ・・・


で、なぜそれをわたしに?


「子爵令嬢は、とても庇護欲をそそそられるらしいのですわ。」


も、もしや・・・ピンクのゆるふわパーマの髪とか?


「ピンクの髪の毛もとても、愛らしいのだそうです。」


まさかのだった。


「肉感的な体つきがとても気に入っているのだそうです。」


なるほど。

身体で王子を籠絡したのか!!


お嬢様の後ろにたっていた侍女が写真を見せてくれる。


本当にゆるふわパーマだった。

頭もゆるふわそうな・・・コホン。失礼・・・


肉付きはいいが、うーん・・・寄せてあげてる。

コルセットをうまく使っていそうだな。


可愛らしい顔立ちをしている。

ふむふむ。


「彼女・・・控えめに言ってあまり賢くないの。」


それは・・・控えめにですね?はいはい・・・


「それで、殿下が王妃は彼女で業務はわたくしに、と。しかも側室ではなく、愛娼にと。」


クズだ。クズ過ぎる。


この国で愛娼はいわば公娼。

不妊にされ、愛人とされ、主となる人が飽きたら捨てられる運命。


なぜ彼女が。


目の前に座る同年代のお嬢様は、表情を変えず淡々という。


彼女の話では、ホウジチャ公爵家は絶大な権力を持っており、反国王派筆頭なのだそうだ。


そのため、政略的に結ばれた婚約だった。


しかし、国王派筆頭のまさかのコシアン侯爵家が手柄を立て続けに立てて、その寄り子である子爵令嬢を王子に近づけさせたらしい。


コシアン・・・食べたい。



「わたくしを美しくして欲しいの。」


な、なるほど。

それで私をつれてきたのか。


「あなたのいる町での噂を聞いたわ。なんとか、あなたが元凶だということはわかったけれど・・・」


元凶て。


「美しくなる方法を全く調べられなかったの。男子禁制の上、皆口が固かった。」


それもそのはず。

この国どころか、この世界では絶対にしないであろう格好をする。(服装)


そして、女性としては恥ずかしい格好もする。(姿勢)


誰も内容を言えるはずない。

恥ずかしくて。

色々と。


「その・・・美しくなってどうなさるんですか?」


オレンが聞いた。


アップルは初めて一瞬だったが、淑女らしからぬニヒルな笑みを浮かべた。

一瞬だけ。


「殿下と子爵令嬢に、目にもの見せてやろうかと。」


決まりですね!

ギャフンですね!!



既に王命として出されてしまったらしく、断れば公爵家は王家と本当に敵対することになるらしい。


貴族って大変。









オレンは、住み込みでアップルのコーチになった。


家族には安心できるよう手紙を出して、両親からは了承の、兄からはお小言の手紙が届いた。


準備が整い、まず食事改善の指導から始まった。


メインとなるお肉とお魚は交互にするように。

脂身はなるべく取り除いて。


食べるときは野菜で胃をならしたあとに食べるように。


主食となる炭水化物はなるべくとらないように、とるなら半量にするなどの工夫を。


ビタミン豊富な食材を主に。



食生活は料理人のおじさんと協力した。

アップル様のことをとても大切に思っているらしく、とても協力的だった。

そして、すごく仲良くなって、賄いご飯を時々豪勢にしてくれた。


次はサウナマッサージ。

公爵家ですから。

サウナ作りをお願いしました。


檜に近い木で作った部屋に炭をおき、サウナもどき。

一酸化炭素にならないようにきちんとした部屋です。


暑すぎて、15分刻みでやっていたが、1週間、2週間と過ぎていくと、アップル様も慣れたらしく、1時間平気で入る。


私でも辛くなったが、アップル様の情熱は計り知れなかった。



「最近からだの調子がとても良いの。朝も気分良く目覚められるし、身体も軽くて。」

と、嬉しそうにおっしゃってくれた。




しかし、問題はヨガであった。

まず服装。


裾を踏んだりして危ないのでヒラヒラ厳禁。

なので、ピチッとしたシャツにパンツ。


生粋のお嬢様ですからね。

恥ずかしがっておりました。


「・・・これが、皆さんが頑なに口を閉ざした理由なのですね・・・」

顔が真っ赤。

かわいい。


二人きりで、扉の外に兵士が5人立ってる。

厳重。



まずは身体の力を抜き、身体の血行を良くさせる。

両足の裏を合わせ、腰から前傾へと頭を下ろす。

息を吐きながら。


30秒。


股関節を開くストレッチを続ける。


アップル様もうっすら汗が出ていた。

よし。


「では、本格的に入りますね。」


そのあとは阿鼻叫喚。

悲鳴を聞いて兵士たちが入ろうとするところを、すかさず「入ったらわたくしは死にますわ!!」と脅していた。


そんなこんなで4ヶ月が過ぎた。






「・・・兄さん?なんでいるの?」

オレンと同じ赤い髪に水色の瞳の青年。


メガネを掛け、厳しい視線を妹に投げつけていた。


ホウジチャ公爵邸で。


「お前な。最初の一通依頼、息災の連絡も寄越さず心配するだろうが!!」と。

目を細目、不機嫌な顔だ。


「アスラ。久しぶりに会った妹御に厳しくないか?」

兄の後ろから、青みがかった金髪にエメラルドグリーンの瞳をした、超絶イケメンが登場した。


めちゃくちゃキラキラしてる。

光かがやいてる。


何事・・・。


オレンがボーッとしていると、オレンの後ろからホールへとやってきたアップルが紹介してくれた。


「わたくしのお兄様、エイデンというの。お兄様はどうして?」


「お前の様子が変わったと聞いてね。確かに・・・とても美しくなった。それに明るくなったね。」

嬉しそうに微笑んでる。


アップルがうつむいて顔を赤くしながらお礼を言う。


か、かわいい・・・


ん?


オレンは左を見た。

兄がポーーーーーっとしたかおで立ち尽くしていた。


まるで、自分を見ているかのようだわ・・・


オレンはアスラをこづいた。

ビクッとしたアスラは慌てて居ずまいを整え、メガネを直した。


「あら。たしか、アスラ様では?」

アップルが不思議そうに聞く。


え?知り合いなの!?


オレンは驚いて、二人を交互に見る。


すると、いつの間にかオレンのとなりに来ていたエイデンがクスクス笑う。


「僕と同じクラスなんだよ。」


びっっっっっっくりした!

そして綺麗!まぶしい!!近寄らないで!!!ドキドキしちゃうっ!!!!!!!!


「ん?同じクラス?」

エイデンに見とれていたオレンはふと違和感に気づく。


アップル様は公爵令嬢。

エイデン様はアップル様のお兄様だから、公爵令息。

兄さんは・・・え?同じクラス?


「・・・あ!バイト?」


「「え?」」

「あ゛?」


上はホウジチャ兄妹。

下は兄。


「・・・おまえ。俺は王都中央アカデミーに通ってるぞ。」


「え?うん。知ってるよ・・・いでっ!!」

ゴンと頭をグーで叩かれた。


ガチで痛い。

涙でそう。


「あそこは貴族学院だぞ。」


・・・・・・・・・・え?


「お前。まさか・・・忘れてるのか?」


「何を?」


「うちの家。」


「だからなに?」


「うち、子爵家だぞ?」


まさかの。

え?嘘だよね?

あり得ないでしょ?

普通に平民と同じ住宅街に住んでたよ?


「オレン?・・・何となく変だとは思っていたけど、まさか自分が貴族だって知らなかったの?」


「・・・平民の住宅街に住んでおりますし。」


「いや、あれ・・・うちが貧乏で屋敷が小さいだけだ。そして、お前が近所だと思ってるのは使用人たちだ。」


「いやいや。近所でしょ!!」


「いいか?俺たちの家は庭があるだろ?そして、畑も。あの畑は我が家の持ち物で、働き手がない人を雇って働かせてる。遠いところに住んでいるものには、畑の周囲に建てた家に引っ越してもらってる。

うちに近い5件は、騎士とうちの執事と侍女の家だぞ」



驚きすぎてなにも言えないオレンに、アスラによる説教は延々と続いた。




1年後ー


アップル様はあり得ないくらい王太子に忘れられていた。

アップル様自身は夜会からも遠ざかっていたのでなおさらだったが。


でも、手紙や定期訪問くらいするべきだ。


アップル様はそれはもう、とてつもなく美しくなった。


ハリ艶の良い肌に、白く透き通るようなキメ細やかさ。

身体は痩せすぎず、太りすぎず。


ほっそりしているが華奢には見えない。

出るところは出て、肉感的に見えなくもないが、とても清楚に見える。


とうとう、王太子と子爵令嬢の結婚式記念パーティーが開かれることになり、さすがに行かなくてはいけなくなったアップル様。


な、な、な、なんと。

パートナーに選んだのは、我が兄アスラ。驚きすぎてついつい、必死で止めた。


そして何よりも解せないのは、私までそのパーティーに参加するとになった。


私のパートナーはエイデン様。

既に倒れそう。



そんなこんなでみんなで会場へと行った。



既に王太子の傍らに子爵令嬢が侍り、令嬢はどこか優越感に溢れる表情をしていた。


すると彼らにたかっていた人混みがなにかに気づき、モーゼの波よろしく道を開けた。

一同は呆気にとられていた。


青いドレスに、水色のレースがふんだんに使われているドレスを着た、アップルがたっていた。

ドレスの裾には本物のエメラルドの石がついていた。


しずしずと王太子の前へ進む。

カーテシーをし「ご機嫌麗しゅう王太子殿」と挨拶をした


ポーとしている王太子に向かって、アップルは首をかしげ、大丈夫かどうか聞いた。


「だ、だだ大丈夫だ。」


しどろもどろ。


「・・・その・・・アップルは美しくなったな・・・」

にやついているのか、頬を染めてはにかんでいるのか、もはやわからない状態であった。


王太子のとなりにいた子爵令嬢は、俯いて醜く顔を歪めていた。


アップルはそれを無視して、王太子の言葉に答えた。


子爵令嬢は、しがみついている王太子の腕にちからの限り胸を擦り付けた。


いつもの王太子なら、顔を赤くして、子爵令嬢にしか意識がいかなくなる。


しかし、今日は全く子爵令嬢へ意識が向いていなかった。

彼女に胸を擦り付けられながらも、目を向けるのはアップルであった。


王太子が手を伸ばしてきた。

「アップル。さぁ、踊ろうか?」

そう言って、彼女の手を掴む。


すかさず子爵令嬢が前へ出て手を引っ張る。

「殿下ぁ〜〜ファーストダンスはマルタと踊ってくださるって言ってたじゃないですかーー!」

身体を揺らして甘えている。


アップルが、美しい微笑みを浮かべていった。

「オリゴ子爵令嬢様。王太子妃、そして王妃になられる方でしょう。"言ってた"ではなく"おっしゃってた"です。そして、ご自身のことは"わたくし"ですわ。」


アップルの言葉に子爵令嬢はニヤリと笑ったあと、涙目になった。

「ひどいですぅ〜マルタ・・・マルタ・・・」


王太子に抱きつき泣き始めた。


「申し訳ありません。いくら内政はわたくしが処理するとしても、表に出るのはご令嬢ですわ。各国の要人にお会いしたり、お話ししたり、商談もいたしますわ。日頃から気を付けなくては・・・そう思ったのです。王太子殿下のご正妃様ですから、国の代表ですし、殿下に恥をかかせてしまうのは・・・」


アップルもしおらしく言う。


子爵令嬢は、わっと泣き出して悲劇のヒロインらしくナヨナヨし始めた。


「ひ、ひどい・・・そんな・・・私が相応しくないなんて・・・」


周囲がざわつく。

そのざわつきに子爵令嬢が自分に味方していると思い、言い募る。


「どうしてそこまで私を・・・?確かに殿下と愛し合ってしまいましたが、私がなにか悪いことを!?私と殿下の婚約が決まってからも、毎日嫌がらせをされて・・・殿下とわかれることも考えました・・・でも・・・でもっ・・・」



「え・・・?でも、最近はね・・・」

「そうよね?わたくしたちだってお会いしてなかったわ・・・」

「どう言うこと?」

「それにアップル様の言うことも最もだわ。」

「そうよね。いくら愛し合っても、あんな風な方を国の代表になんて・・・ねぇ?」

「国終わるんじゃないか?」



ざわざわと周囲の貴族たちが騒ぎ出す。

彼らの声が聞こえた子爵令嬢は、唇を噛み王太子に助けを求めた。


しかし王太子の表情は、険しいものであった。


「令嬢は体調が優れないようだ。休憩室へお連れしろ」

王太子の冷たい声が響いた。


抵抗する子爵令嬢をものともせず、侍女たちがつれていく。


その後は恙無くパーティーが再開された。


主役の片割れがいなく、まだ本決まりではない愛娼候補のアップルと共に挨拶回りをする王太子の姿が、人前に出る最後だったとは、このときこの場にいる人々は誰も想像していなかった。



数日後、ホウジチャ公爵と中立派筆頭のベジタブル侯爵が協力しあい、側室の子である第3王子を擁立。

王太子は廃太子された。


件の子爵令嬢は直ぐに第3王子に乗り換えようとしたが、ハニートラップに引っ掛かるほど頭の弱い王子ではなかった。


ベジタブル侯爵はなんと、あのサーシャ様を水揚げしたご仁だった。

驚き。


どうやらサーシャ様は、しゃしゃりでることなく侯爵の癒しとなり、上手く行っているようだ。


しかも、なんと、今回の件はサーシャ様のお陰らしい。

元々、私の教えたヨガに嵌まったらしく、継続の有無を確認されていたのだが、何せ住み込みで公爵家にいたので無理だったのだ。


あまりにも私に固執するサーシャ様を心配した侯爵が、色々と調べたことで今回の話になったらしい。


愛されてるじゃん!!




そんなこんなで・・・


数ヵ月の時が流れた



「本当に良いんですか?後悔しませんか?うち貧乏ですよ?」

オレンがしつこく何度も同じことを繰り返して、5回目の説得。


アップルは苦笑しながら鏡越しのオレンに言った。

「私はアスラ様を愛しているの。妻になりたいのよ。私が義姉では不満?」


「そんなことありませんよ!アップル様がお姉さまだなんて嬉しいです!!けれど、アップル様の夫が兄さんていうのに・・・ちょっと。」

オレンは最後の言葉を濁した。



なんと、あのあと兄がアップル様にプロポーズ。

そしてなぜかアップル様はOKされた。

「赤い薔薇を99本よ?ロマンチックでしょう?」

とか言い出されて、現実をぶつけられなかった。



でも・・・やはり。

「うち、あんまり実感はわいてませんけど高々子爵家ですよ?アップル様は公爵じゃないですか〜〜(T-T)もっと良いところいけますよぉー」


「・・オレン、またあなた話を聞いていなかったのね?」

アップル様が少し厳しい表情でいう。


「え?」


恐い。

顔は笑ってるのに。

恐い・・・・


「あなたのお父様、今回の件で伯爵へと陞爵されるのよ?あなた、伯爵令嬢になるのよ?全く、貴族としての自覚が低すぎるわ。良いでしょう。今日からわたくしはあなたの義姉。わたくしがみっちりと淑女教育して差し上げるわ。」


普通に恐い。

アップル様の怒った顔始めてみた。

笑ってるのに怒ってるとわかる。

恐い。



その日以来、アップルによるオレンの矯正が始まったのは、また別の話。









「ねぇ、オレン嬢?」

アップル様の結婚式なのに、お兄様のエイデン様が私のとなりに座っている。


「どうされました?」


「一目惚れって信じる?」


「一目惚れですか・・・」

じっとエイデンをみつめる。

「そうですね、信じます。」


「じゃあ、公爵夫人になってくれない?」


「・・・?ばいとですか?」

意味がわからない。


「私は君に一目惚れしたんだ。だから、私と結婚して。」


何を言う・・・


「いや・・・私はしがない子爵令嬢・・・伯爵になったけど、あなたに私はふさわしくありません。私にはもったいない。」


チュッ


リップ音がきこえたとおもったら、私はキスされていた。


呆然と目の前にいる男を見上げた。


「大丈夫。アップルが君を教育するって言ってたし、両親は君のことを心から尊敬してるし、感謝もしてる。真実の愛だろ?」

最後は笑っていった。


オレンは考える。


これからも自分磨きを続けよう。







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