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社畜ちゃんは復讐がしたいようです。  作者: ハシダスガヲ
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第2話 邂逅

小鳥のさえずりが聞こえる。

そして朝食のいい香りが私の嗅覚を刺激し、疲れ切った私の体は、柔らかいものに包まれている。

私はとても穏やかな気持ちになっていた。

そうか、天国とはこうも心地がいいところなのだなと私は思った。

瞼を開きたくない。

このままずっとこうしていたいと思った。


「起きてください。朝ごはんの準備ができましたよ」

知らない女性の声が聞こえる。

誰かに体をゆすられ、私はしぶしぶ瞼を開けた。

声のする方を見ると、知らない女性が立っていた。

女性は、額から鼻までを覆うキツネの仮面をつけ、白髪に黒のワンピースと腰にひらひらしたショートエプロンをしていた。

私は突然現れたお面の女性に驚き、飛び上がって距離を取った。

女性は不思議そうなに首をかしげる。


この人はいったい誰なのだろうか?

そしてここはどこなのだろうか?

なぜこの人は朝食を作ってくれているのだろうか?

疑問が頭の中を駆け巡る。

それを察したのか、女性が話し出す。


「そんなにおびえなくても大丈夫。私はボッカサラ=リーテ、この屋敷の主よ。あなたが屋敷の前で倒れていたのを見つけて家に運んだの。あなたをここに寝かせたから約2日が経つわ。そろそろ起きるころだと思って朝食の準備をしていたの」

突然のことで状況がまだ呑み込めていないが、とにかく悪い人ではなさそうだ。

「……ありがとうございます。助けていただいたんですね」

彼女は口元に笑みを見せると、

「お腹が空いたでしょ?朝ごはんにしましょう。ついてきてちょうだい」

と私を誘った。

私は彼女に言われるがまま、ベッドから降り彼女の後を追った。


部屋を出てから少し歩き、食堂へと通された。

大きなダイニングテーブルの上にはずいぶん和風な朝食が用意されていて、私は彼女に促されるまま席に着いた。

「……おいしそう」

おいしそうな朝食を前に思わず私はつぶやいた。

私の向いに座った彼女はそれを聞き、口元に笑みを浮かべる。

「よかったわ。さあ、食べましょう」

私と彼女は食事を始めた。

それにしてもおいしい。というか、私の好きなものが並べてある。

私は母親の作るだし巻き卵が大好きだった。

テーブルに置かれただし巻き卵は、その味をほうふつとさせる味付けだった。

私は懐かしい気持ちになった。

仕事をしていた時は、3食食べる余裕などもちろん無く、昼食と夕食はコンビニで済ませていた。

こんなに穏やかな朝食はいったいいつぶりだろうか。

思わず涙が込み上げてくる。


それを見た彼女は、

「大丈夫?お口に合わなかったかしら?」と心配そうに尋ねてくる。

「……いえ。とても……とてもおいしいです」私は泣きながらそう言った。

彼女が醸し出すやわらかい雰囲気はまるで母親のようで、とても穏やかな気持ちになる。

そんな私を見た彼女の口元は微笑んでいた。


私たちは食事を終えると、2人で後片付けをした。

その後、彼女の書斎へ誘われた私は、言われるがまま彼女についていった。

彼女の書斎には、書斎というだけあって壁の一面は天井まで本が敷き詰められている。

大きめのL字テーブルと木製のロッキングチェアが置かれ、テーブルの向かいに木製のイスが一つ置いてあった。

彼女はロッキングチェアに座り、私は木製の椅子に腰かけた。


「あの……こんなに良くしていただいてありがとうございます」

「気にしなくていいのよ。どうせ私一人しかこの屋敷にはいないから、自分の家だと思って好きにしてちょうだい」

彼女は微笑みながら言った。

しかし、いったいここはどこなのだろうか?

私は単刀直入に聞いてみることにした。

「あの、ここはいったいどこなのでしょうか?私の最後の記憶は……」

そこまで言って頭の中にあの出来事がよみがえる。

「えっと……全く違うところにいて。それで気が付いたらこのお屋敷だったので……」

「あなたの服装、この世界のものではないわ。おそらくあなたは、別の世界から来たのよ」

理解が追い付かない。ん?ここは日本ではないのか?

「えっと……ここは日本ではないのですか?」

彼女は首をかしげる。

「ニホン?……違うわ、ここはリンク王国とレイテ帝国の国境付近にある森よ。近くの村までもかなり距離があるから、ほとんど人は来ないんだけどね」

まるでRPGの世界に紛れ込んでしまったような感覚がした。

「……そうなんですね」

状況がのみ込めず、私は黙ってしまった。

彼女はそんな私を見て話し始めた。

「そういえば、あなたのお名前は?」

「あ、自己紹介がまだでしたね。すみません。私は和田沙羅です。日本という国から来て、気が付いたらここに来ました」

「沙羅ね。私の名前と少し似ているわ」

そう言って彼女は微笑んだ。

「さっきも少し自己紹介したけど、改めてするわ。私の名前はボッカサラ=リーテ。この屋敷の主人で、周りからは【口撃の魔女】と呼ばれているわ」

「コウゲキの魔女?」

私の頭の中には、ファイヤーボールを飛ばす彼女の姿が浮かんだ。

「コウゲキといっても、物理的な攻撃じゃなくて、言葉で攻撃する口撃の方なの」

「……そうなんですね」

理解が追い付かないが、ひとまず相槌を打っておく。


いったん状況を整理しよう。

私は、ビルから飛び降りたのちこの屋敷の前で倒れていたところをこの【口撃の魔女】に助けられた。

そしてここは、日本ではなく異世界ということだ。

自分でも何が何やらわからないが、ひとまずこれで納得しようと思う。

これは、最近はやりの異世界転生というやつかな?

私はそう思ったのであった。

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